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第二三〇話 帝国の地球人達

 城についてから、ナガレ達は既に子供たちも目をさましている事を聞き、用意された昼食も全員が残さず食べていたという話も確認したあとでその子供たちの部屋へと向かった。


 あまりぞろぞろいっても戸惑うかもしれないということで、これに関してはピーチ、ナガレ、ビッチェの三人で顔を出す。


 部屋は子供たち全員が過ごすにしても十分な広さを誇る程であり、ゆったりとした空間で子供たちも存外元気そうにしていた。昨晩しっかりと睡眠を取り、昼食も食べたことで大分落ち着いているようでもある。


 なのでビッチェは広い部屋の一部を利用し、椅子と机を寄せて即席の面談スペースを作り上げた。

 ここで一人ずつ話を聞いていくつもりのようだ。


 役割としては面談にはビッチェとナガレが、その間の子供達の相手はピーチが務める。


「子供達のことなら任せてよ!」


 それを聞いてピーチが自らの胸を叩き得意がある。ビッチェ程ではないにしても普通に考えれば十分すぎるほどの大きさを誇る果実が上下に揺れた。


「おまかせしますよ。ピーチは子供たちにも好かれやすいですからね」

「ふふっ、お姉さん気質というのかしら? そういうのが黙っていても滲み出ちゃうのよね~あ、あとほら、子供たちって魔法使いに憧れを持ちやすいし~」

「…………そうですね」

「え!? ナガレ今の間は何!?」

「……お姉さんというか、子供と同レベル?」

「どさくさに紛れてビッチェまで何失礼なこと言ってるのよ! もう! もう!」


 ピーチが杖を上下に振りながら文句を言った。しかし仕方がないだろう。お姉さん、というか正真正銘のお姉様気質の女性が今目の前に立っているのだ。彼女のピーチとの差はあまりに大きい。

 そしてピーチを魔法使いとしてみているものは実は子供たちの中にも一人としていない。


 何はともあれ、ビッチェに尊敬の眼差しを向けていた子供たちから先ずアンを呼び、席についてもらう。その間ビッチェと随分とギャップがあり、憧れというよりは同年代の友達感覚で子供たちにもみくちゃにされているピーチを横目に面談が始まる。


 とは言え、中々デリケートな話である。ビッチェとしてもすぐに情報が集まるとは思っていない。恐らく長丁場になるだろうと気を引き締めるビッチェある。


「は、はう、お姉様がこの私に、し、質問、はわわ! はわわ!」


 そして、席の前まできたアンは席に座ることすら忘れ、ビッチェを目の前にして妙なことを口走りながらパタパタと右往左往を始めた。その動きに合わせて犬耳も小刻みに揺れている。


「……可愛い」

「はぅあん!?」

「ビッチェ、本来の目的をお忘れずに」


 ギュッとアンを抱きしめ頭を撫でるビッチェ、そしてその行為によって顔を真っ赤にさせて思考をショートさせるアンである。


 だが、ナガレに指摘されたことでビッチェも一旦アンから身体を離した。頭から湯気が出ながらも、ふたりに促されアンが椅子に腰を掛ける。


「……それでアンには帝国でのことを質問したい。でも、つらいなら無理にとは言わない」

「い、いえ! 私にも何かお役に立てるなら!」


 グッと両手を握りしめ健気に答えるアン。その姿に優しく微笑むビッチェからは、どことなく子供を愛でる母性が感じらせた。


「……ありがとう。では早速質問、帝国でのことだけれど――変わった名前の人物を見たことはある?」

「え? 変わった名前ですか?」

「そう、もしくはこのナガレのように黒髪で黒目の人物とか、どこかで見ていないか確認したかった」


 ビッチェが知りたかったのは、ナガレのように地球からこの世界にやってきたものはいないかどうかだ。勿論これが転生者などであれば見た目などはこの世界の住人と殆ど変わらない事が殆どなのだが、帝国が行ったのは大規模な地球からの召喚だ。


 故にその場合の多くはナガレのような黒髪黒目であり(過去の血統など例外もあるにはあるが)それはこの世界の人間にとって地球からやってきた者かどうかを判断する大きな材料となっている。


 だが――とは言え、やはりビッチェもそう簡単に情報が集まるとは思っていなかった。そもそも子供たちが必ずしも見ているとは限らない。まして彼女たちは盗賊に攫われ奴隷商人に捕まり、そんな目に会い続けていたのだから自分たちのことで精一杯であり、他の人間に目を向けている暇など――


「はい見ました! 黒髪黒目の人、私、見ました!」

「…………」


 ビッチェがナガレを振り返り、ちょっと困った様子で銀色の眉を落とした。

 まさか最初の一人目から目的の情報が掴めるとは思わず、ビッチェですらちょっぴり戸惑ってしまったのだろう。


「ビッチェ、とにかく話を聞きましょう」

「……うん、そう。ちょっと驚いたけど」

 

 改めてビッチェはアンに顔を向け直し、その人物について話を聞くが――その情報はまだ小さく幼いアンが味わうにはあまりに酷な内容であった。


 アンは帝国にて一度は奴隷商人の手から逃げおおせたのだが、その結果逃亡奴隷として追われる身となり、そして逃亡中に森のなかで黒髪黒目の三人と遭遇したという。


 どうやら彼らは帝国から命を受け逃亡奴隷と認定されたアンやその父と母を追ってきたらしい。三人はアキバ、ナカノ、オオミヤと呼び合っていたらしくそれでアンも名前として認識していた。


 そして当然この世界においては先ず付けられることのない名称であり、逆にナガレのいた地球では一般的な名字である為、この時点で三人が地球からやってきたものであることは理解が出来た。


 同時にナガレは年齢的には一七歳で、きっと高校生であろうことも察する。


「……その三人は、私のパパとママを――」


 そしてそこまで話したところでアンは目に涙を貯め、ヒックヒックとしゃくりあげ始めた。 

 当時の事を思い出してしまったのだろう。


「……ごめんね」

 

 ピーチもその様子を心配そうに覗き見ていたが、するとビッチェが今度はアンを優しく抱きしめ胸元に抱き寄せた。


 先ほどとは違い、ビッチェを見た目どおりの女性と判断しているものがいたならきっと驚いて、そして見惚れて言葉を失ってしまうであろう慈愛に満ちた表情を見せ、そしてアンの頭を優しく撫でてあげる。


 それに甘えるように、そして悲しみを全て吐き出すように涙を流したアンであったが、暫くして落ち着きを取り戻したようだ。


「あ、ありがとうございますビッチェさん」

「……ん、でも無理はしなくていい」

「いえ、大丈夫です! それに、どうしてもこれは話しておきたいんです……」


 そして話を再開させるアン。


「辛いことは無理して話さなくていいですからね。話せる範囲で、それでも十分助かります」


 更にナガレがそう告げたことで、アンもどこか安心したような表情を見せつつその時の事を話してくれた。


 ナガレに言われたことで、一体彼らに何をされたのか? に関してはそこまで詳細に話させることもなかったが、しかしそれでもその三人が行った鬼畜な所業ははっきりと理解できた。そしてアンの両親が三人の手で帰らぬ人になったことも――


「……私すごく不安だったんです。パパもママもあんな目にあって、そして私だけが残されて、捕まって、乱暴されそうになって……でも、その時、もう一人黒髪黒目の人がやってきて、私を助けてくれたんです」

「……もう一人? それが助けた?」

「あ、はい、その助けたというのと、もしかしたら違うのかもしれません……その人は、でも! でも結果的には私、助けてもらったんです!」


 アンは、何故かそのもう一人現れた人物に関しては助けてもらったという事を強調した。ただ、その話だけではビッチェもいまいち状況が掴みきれないようだ。


「アン、もしかしてですが、その助けてくれた方はどちらかというと、その三人にこそ用があったのではないですか?」


 するとナガレにそう問われ、一瞬戸惑った表情を見せるアンであったが、少しの間を置いてコクリと首肯した。


「……三人に用があったのに、アンを助けた?」

「え、えと、その、あの人、三人のことを恨んでいたみたいで、その――」

「……なるほど」

 

 そこまで話を聞き、ビッチェも状況を理解したようだ。もう一人の人物がアン達を追ってきていた三人を狙っていて(・・・・・)、その結果アンが助かったと言うなら、三人がどうなったかなどは容易に想像もつく。


「あ、あの、でも結果的に私は助けて貰ったんです! それにあいつらは、あいつらは――」


 そこで目を伏せ、アンが歯を食いしばる。どうやらアンは助けてくれたその人物を擁護している様子。


 ビッチェの様子から三人がどうなったかを知られたと判断したのだろう。そしてそのことで結果的にとは言えアンを助けてくれた人物が何かしらの罪にとわれるのではないかと心配しているのかもしれない。


「……アンは心優しいのですね。ですが、心配しなくても大丈夫ですよ。少なくとも今のお話を聞いている限り悪いようにはならないでしょう」

「……ん、三人がゲス、何があったとしても自業自得」


 ビッチェの言葉にホッと胸を撫で下ろすアンである。ただ、敢えては言わないが、これはあくまでビッチェの立場での話であり、帝国がどういう判断をするかは別問題となる。


「……そのもう一人、もう少し詳しく判る? 名前とか雰囲気とか」


「あ、はい! 名前は判ります。あいつらにサトルと呼ばれていましたから――」

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