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第二二九話 魔獣を倒した翌日の事

 最終的に子供たちのこれからについては、それぞれと相談する必要もあるものの、基本的にはオパールもある程度援助する形でマリアが院長を務める孤児院に身を寄せてもらう方向で進めていこうということとなった。


 勿論もと帝国の子供たちである以上、王国で暮らしていくにはそれ相応の手続きも必要となるのだが、それについてもマリアには経験があり、またオパールも全面的に協力すると言ってくれた。


 その理由については――


「勿論成長した後の事を考えての先行投資みたいなもんどす。うちはお金にならんことには手を出しまへんからなあ」


 なんてことを言ってはくれたが、領主が孤児院に目をかけてくれるのはマリアにとっても孤児院にとっても悪いことではないだろう。

 

 そしてある程度話がまとまったところでその場はお開きとなり、一旦解散となったわけだが――


「エルガ様、オパール様、少々宜しいでしょうか?」


 ナガレは部屋に戻ろうとするふたりを引き止め、そしてあることを伝える。

 するとふたりの瞳が一旦見開かれるも、ナガレの話に得心を示すように顎を引いた。


「……それにしても、ほんに厄介な話どすなぁ」

「はい、ですがナガレ様がそういうのであれば――」


 ふたりは真剣な顔でナガレの話に耳を傾けてくれた。そしてナガレも最後に、よろしくお願い致します、と告げ、そして用意されていた部屋へと戻っていった。





――深夜……ナガレの部屋に入り込む妖しい人影があった。そしてナガレが眠っていると思われるベッドを見下ろし、その研ぎ澄まされた双眸でマジマジと眺め――そしてシーツをガバリと捲った。そう、その手を妖しく蠢かしながら――





 翌朝、顔を洗うナガレへ不満そうにビッチェが口にする。


「……ナガレ、昨晩部屋にいなかった――」

「え? ああ、許可を頂きまして少々身体を動かしていたもので」

「……身体動かすならいくらでも、付き合うのに――」


 何故か自らの褐色の胸を押し上げながら訴えるビッチェである。  

 それでもナガレは特にこれといった反応を見せないが、通りがかった兵士は鼻血を噴水のごとく吹き上がらせ気を失ってしまった。


「ビッチェちゃんってば朝からだいた~ぶへっ!」


 そして谷間を覗き込もうとしたカイルに容赦ない一撃を叩き込むビッチェでもある。


「いや、それよりなんでビッチェ、ナガレが部屋にいなかったって知ってるのよ!」

「……夜這いしたから」

「よ、よば、よば、よばっふぃ!?」


 あっさりいいのけるビッチェに顔を真っ赤にさせるローザである。そして憤慨するピーチの姿を微笑ましげに眺めるナガレでもあった。


「…カイル、お前こんなところで何してんだ?」

「あ、フレムっちおはよう~う~んビッチェちゃんの身体をね、眺めて元気を貰ってたんだよ~」

「最低ですわ! フレムも少し付き合い考えたほうが良いのではなくって!」

 

 フレムの横を一緒に歩いていたクリスティーナが眦を尖らせてそんな事を言う。軽蔑という二文字が顔に張り付いているようですらあった。


「……否定出来ないのが悲しいぞカイル」

「ふぇ~ん、酷いよフレムっち~」


 両手を瞳に当てるカイルだが嘘泣きはバレバレであり。呆れ顔のフレムでもある。


「カイルちゃ~~ん! そんな時は私が慰めてあげるのよ~~!」

「立ち直りました! はい、すっかり立ち直ったから~!」

「あらあら、ダンショクも朝から仕方ないわね」


 しかし、カイルを追いかけ回すダンショクをニューハは止めようとしない。


「お、おい、あれが?」

「ああ、魔獣の森で数多の魔獣を退治したという最強のレベル0冒険者ナガレと――」

「魔術師なのに何故か魔法を使わず、杖で敵を滅殺する狂杖のピーチ……」

「そしてその馬のフレム――」

「誰が馬だこらぁああぁああぁ!」


 昨晩のナガレ達の活躍はどうやら既に城中に知れ渡っているようだが、しかし結局馬としての印象が強くなってしまったフレムであった――


 




◇◆◇


 朝食を振る舞って頂いた後、当初の予定通りナガレ達は冒険者ギルドのあく時間を見計らってギルドの建物まで赴いた。


 相変わらず受付嬢はおらず、筋肉むきむきの中年職員が応対してくれたのだが――。


「ちょ、ちょ、ちょっと待て! おいおい冗談だろ!」


 ナガレが魔法の袋からチラリと魔獣の遺体を見せ、しかもそれがオルトロスやマンティコア、更にブラックドッグや魔物と一〇〇を超す量があると伝えたものだから受付が悲鳴を上げ、必要最低限の職員だけを残し、それ以外が全員で対応に回ることとなってしまった。


 幸いなことにこのギルドには解体専用の大きな倉庫があるということで、そこまで案内されナガレは魔法の袋の中身を取り出したわけだが――


「……見事に解体されとる。処理も完璧じゃな、いやはや、これだけの量をあんた一体何者だ?」


 解体と倉庫の整理を専門としている職員たちが目を丸くさせ口々に述べる。


「ふっ、当然だ! 何せナガレ先生はSランクのお墨付きを貰うほどの!」

「フレム、それはいいですから」


 ついつい自分の事のように自慢しそうになるフレムを制しつつ、ナガレは、しがない冒険者ですよ、などとごまかした。


 勿論それで納得されるわけでもないが、冒険者は基本そこまで詮索されない職業でもある。故にとりあえず凄い冒険者だということで納得してくれたようだ。


「それにしても魔獣の素材なんて久しぶりだぜ。本当最近の連中は臆病でな、迷宮にばっか潜っててさっぱり狩りにいかねぇ。だけどこれで市場も盛り上がるってもんさ。ただ、あまりに量が多いからな、買取金額が出るまでちょっと時間を貰っていいかい?」


 これに関しては異を唱えるものはいなかった。なにせこれだけの量だ、ナガレならともかく普通はそう簡単に作業は終わらないだろう。


「あ、あとなんだ、そっちの褐色の姉ちゃん、その格好でうろつくのはちょっとな……こいつら、というか俺もだけど、刺激が強すぎんだよ……」


 倉庫の番長を務める男が頬を紅潮させながら言う。その原因は当然ビッチェであり、倉庫に集まってる職員の中には股間を押さえて息遣いを荒くしているのも多くいた。確かにこれでは仕事にならない。


 なにせただでさえこのギルドには受付嬢もおらず、冒険者も圧倒的に男が多い。働いている職員たちは女日照りの中忙しい毎日を送っている。


 そんな状況でビッチェのようなたわわに実った果実を持参し、女の色気をこれでもかと振りまいた艶女がいては辛抱たまらんと思うのも仕方のないことかもしれない。


 とはいえ、このままではあまりに目に毒なので素材を預かってもらい大人しく辞去した。

 ちなみにギルドの話では概算ではあるが討伐報酬も含めて間違いなく数億ジェリーは超えるとのことであった。


 この報酬に関しては事前の話し合いで全員で山分けという形で話はついている。ただローズに関しては騎士としてやるべきことをしたまでと報酬を受け取るのを固辞した為、ハンマの騎士団に寄付という形で収まりそうではある。


 そしてナリアに関しては折角だから孤児院の為に何か役に立てることが出来ればと考えているようだ。


「……ところでナガレ、可能なら、子供たちから話を聞きたい」


 そしてギルドを後にして道すがら、ビッチェがそのようなことを言ってきた。

 ビッチェが何を聞きたいかはナガレも判っていた。帝国のことであろう。ただビッチェは奴隷の件についてよりは、彼女たちに、変わった容姿や名前の者がいなかったかを聞き出したいようでもある。

 

 それはつまり、帝国が召喚したと思われるナガレと同じ地球人の存在を知らないかどうか? ということなのだろう。


 時間的にも色々と雑事をこなしている間に既にお昼を回っている。

 子供たちもきっと目覚めている頃だろう。なので一行は再び城へと足を向けたのだった――

 


 

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