第二二一話 魔獣の森での戦い~フレム&ローズ~
雄叫びを雄叫びで返すという異色の方法で反撃に移るフレムであったが、その直後ヘルハウンドは瞬時に戦法を切り替え、全身から黒い触手のようなものを伸ばしてきた。
「な、なんだありゃ、ウネウネして気持ちワリィな……」
思わずそんな感想を漏らすフレムであったが、ヘルハウンドが行ってきたのは闇魔法の行使。第四門のシャドウハンティングである。
この魔法の特徴は込める魔力によって触手の数が増えていく事だろう。ヘルハウンドは一匹につきそれを八本操り、合計一六本の黒色の触手がフレムに狙いを定め襲いかかった。
しかもその動きは繊細。頭が二つあるヘルハウンドはその分思考能力も倍加する。おまけに双頭分の視界も共有されている為、異様に視野が広い。
正確な動きでまさにハンターと化した触手に流石のフレムも危機に瀕するか、と思われたが――
「この程度でやられる俺じゃないぜ! いくぜ先生直伝! 神薙流見よう見まね!【奥義回転連舞】!」
声を張り上げ、自信満々に飛び上がり、迫る触手に合わせその場で竜巻のような猛回転。そしてその回転力を乗せた剣戟を触手に見えた目に向けて叩き込んだ。
つまりこの技には目切りの効果も乗せられてるわけだが――ただ、本人曰く先生直伝と誇示しているが、実際にナガレがこの技を教えたという事実はなく、故の見よう見まねともいえるか。
ちなみにその見よう見まねの部分はナガレの円の動きをみてのことである。これはこれでフレムなりに研究に研究を重ね鍛錬を積んだ結果なのだろう。
どちらにしろ――フレムの双剣は見事伸びてきた触手を全て切り裂いた。本来魔法を斬るなんて真似は特殊なスキルでもないと難しいことなのだが、目が見えるフレムであればそれも可能だったのだろう。
そして、まさか放った触手が全て排除されてしまうとは思わなかったのか、ヘルハウンドにも一瞬の戸惑い。だが、それを見逃すフレムではない。瞬時に間合いを詰め、すれ違いざまの目切りでその生命を刈り取った。
「よっしゃ! 先生の教えのおかげで勝てましたよ! 俺はやりましたよーーーー!」
そして両手を広げて雄叫びを上げるフレムであった。
「ちょ! なんなのよ! このウネウネしたの気持ち悪い!」
迫る触手に思わずローズが顔を顰め悲鳴を上げた。その顔には嫌悪感が滲み出ている。
「それにしてもよく考えたら魔獣が二匹とか……騎士団が出て対処するような案件じゃない!」
その場のノリに合わせてつい作戦に乗っかったローズであったが、よく考えてみれば結構無茶ではないかと気がついた。
ヘルハウンドは群れで行動する分、大型種に比べるとレベルは低めだが、それでも彼女の記憶ではレベル70以上はあった筈だ。ちなみにローズのレベルは現在35であり最低でも倍は離れていることになる。
そんなのが二体もである、冷静に考えればこのレベル差は無茶もいいところであり、他の騎士に話せばなぜそんな相手に一人で、死に急ぐようなものだ、と叱咤されることだろう。
しかし――何故か思ったよりもローズの気持ちは落ち着いていた。森に向かう直前へルーパという支援魔術師の魔法によって精神を落ち着ける魔法と、身体能力を高める魔法を施して貰った影響もあるのかもだが――それ以上にナガレの影響が大きいかもしれないと思うローズでもある。
何せ自分より遥かに若く、正直ローズからすれば見た目には子供とそうかわらない彼が、旅の途中襲い掛かってくる魔物たちをあっさりと返り討ちにしていった。
そしてローズ自身もナガレに助けてもらった。それだけの実力者を間近で見てきた為か、レベルが遥かに上なヘルハウンドがそこまで脅威にも思えなくなっていたのである。
そして同時に冷静な目で相手と自分の能力の違いを見極め、対応策を頭で組み立てられるようになっていた。
今ローズはヘルハウンドに背を向ける形で森を疾駆している。それをヘルハウンドが追いかけながら執拗に触手を伸ばしてきている状況だ。
だが、ローズはそれを上手いこと避けながら移動を続け、その間も思考を続けていた。
ヘルハウンドのレベルは確かに高い。だが能力的には全体的に高めである分、これといった特徴がないようにも思える。勿論動きもかなり早く、それでいて闇と同化し移動できるスキルなど厄介な能力を持ち、更にこの触手のようなものも動きが嫌らしく気持ちも悪い。
だが、今ローズが戦闘を演じる位置は木々の密も濃い森の中だ。一見住み慣れた魔獣の方に分がありそうだが二匹が同時にやってきているのが逆に有利に働いていた。
ローズは攻撃にしても一発一発の威力に長けた騎士ではない。むしろ持ち前の素早さを活かした連続攻撃が得意なタイプであり、それ故得物も持ち前の動きを活かせるレイピアに携えている。
しかしだからこそ、手持ちの武器が邪魔をするようなこともなく、木々を縫うような動きもそつなくこなせる。
ヘルハウンドは双頭で考える分触手を操る能力も高く、同時に二つの頭で見た視界も共有している為視界も広い。
だが、その意識を全て獲物に注いてしまう性質があり、故に視界が広いにも関わらず狭いという状況に陥りやすい。
つまり――
「よっし!」
ローズが思わず拳を握りしめたといった声を上げる。その背後では左右から迫った互いの触手同士がぶつかりまた絡み合う無様な様相。
そう、一見すると相手に恐れをなし逃げ惑っているような動きを見せていたローズであり、ヘルハウンドもその名に恥じない狩猟者になったつもりで追いかけてきていたのであろうが、それもローズの作戦の内だった。
ヘルハウンドは獲物にばかり気を取られすぎた、故に二匹のヘルハウンドが放った触手が彼女の誘導にも気が付かず衝突し合ったのである。触手に頼りすぎたのも大きかっただろう。ヘルハウンドは闇と同化して移動するのが厄介な相手だが、それも触手を伸ばしている間は行使出来ない。
だから触手をある程度伸ばしきっている間はその厄介な移動もないとローズは踏み、見事その作戦がはまってくれた。
魔法を物理的に排除するには特殊なスキルや装備が必要である。しかし魔法と魔法に関して言えば互いの判定が影響し合う。ローズは見事にこれを利用してみせた。
そしてこのことが二匹のヘルハウンドにパニックを起こさせ、その隙に方向転換し一気にヘルハウンドに肉薄したローズがその攻撃を一心不乱に叩き込んだ。
その結果、ローズは見事ヘルハウンドを各個撃破することに成功したのである。
「……まさか一人で魔獣を二匹も倒せちゃうなんてね――」
感慨深くなり、一人呟くローズ。勿論事前に受けていた支援魔法の効果も馬鹿に出来ないが、それでもレベルが倍は離れている相手を倒すなど普通であれば考えられないことだ。
「今までの私だったら、やる前から無理だと諦めていただろうな――全く、あいつのせいで、いや、おかげ、か……」
噛みしめるように言葉を紡ぎ、そして改めてヘルハウンドの死体を認めた後、ローズは皆の下へ戻ろうと踵を返した。
「――わ! レベルが一〇も上がっている!?」
そして、ステータスをみて驚くローズでもあり、その後は少し頬が緩んだ彼女でもある。




