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第二一八話 いざ! 魔獣の森へ!

「何? これから魔獣の森へ?」


 晩餐会後、ナガレが察した危機をピーチがエルガに伝え、ルルーシを通して改めてアクドルクと謁見に向かう一行。


 そして今から魔獣の森へ向かわせて欲しいと願い出た。何せすでに夜も深く街門はとっくにしまっている。警戒が厳重なこの街では一度門が閉まると特別な理由でもない限りもう開けては貰えない。


 勿論ナガレであれば門が閉まっていてもどうとでもなるが、後の事を考えれば先ずは領主であるアクドルクに話を通しておくのが筋と考えたわけだ。


「ふむ、それで門を開けて欲しいというわけか――」

「はい。最初は中々信じられないようなお話と思うかもしれませんが、ナガレの勘は鋭く、そのおかげでこれまでも多くの危機を救ってまいりました。ですからどうかご許可の程宜しくお願いいたします」


 ここはピーチが前に出て進言してくれた。ハキハキとした口調で淀みなく言葉を紡ぐピーチの様子にフレムも目を丸くさせている。


「ルプホール卿、私からもお願い致します。ピーチの言うように、ナガレは危険を察する力に長けており、そのおかげでハンマの街も救われました」

「うちのジュエリーの街もどす。ナガレはんがおらんかったら、今頃どうなっていたかわかならいないどす」

「お、お義兄様! ナガレには私も過去にデスクィーンキラーホーネットという恐ろしい化け物から命を救って貰っています! そのナガレが危険を察したというなら間違いありません。どうかご許可を――」


 そしてピーチに追従するようにエルガやオパールが、そしてルルーシもナガレの実力を認め、願い出てくれた。ルルーシに関してはアクドルクを言い慣れていない呼び方に変えてまでである。


「……ふむ、ナガレ殿、今一度問うが、森で何かが起ころうとしている、それは間違いのないことなのだね?」


 アクドルクに問われ、今度はナガレが一歩前に出て口を開く。


「はい、そしていまこの間にも刻一刻と危険が迫り数多くの命が奪われそうになっております」

「それはこの領地にも及ぶ危険なのかね?」

「それに関して言えば、すぐに領地やこの街に関係してくることではないのかもしれません」

「え? ちょ、ナガレ!?」

 

 ピーチが慌てたように声を上げる。そこは嘘でも危険が迫っていると言ったほうがいいのではないか? と心配になったのかも知れない。


「ですが、救える命を救えなかったとなれば、ルプホール卿の名声に傷が付くかもしれません――」


 そこまで語り、すっとアクドルクの目を見やるナガレである。エルガ、オパール、ルルーシの見ている前でここまで告げて何も動かなければ、ナガレの言っていることが本当に起きた時、言い訳はできない。


「……貴方――」


 すると正妻であるリリースが縋るような目をアクドルクに向けた。

 

「……ふふっ、ナガレ殿も中々やりますね。そう言われては、それに妻にこんな目で見られて、義妹にまで頼まれてはとても駄目とは言えないではありませんか」

「え、それでは」

「はい。衛兵にはすぐにでも使いを走らせ、門を開けてもらうよう指示を出しておきます。勿論お戻りの際は速やかに門を開けるようにもね」


 ありがとうございます! とピーチがお礼を述べ、ナガレもお心遣い感謝いたします、とお礼を述べる。


 こうして部屋を辞去した一行であったが、問題はどのメンバーでいくかという話となり。


「私はリーダーだから当然行くわよ!」

「そうですね。後は出来るだけ急ぐ必要があるので、そのあたりを考慮する必要があると思いますよ」

「う~ん、それに危険があるなら怪我してる人の可能性もあるし――治療員としてローザも同行をお願いしたいわね」

「勿論! 私でお役に立てるなら」

「あら、それなら私も付き合うわよ~」

「ダンショクはやめておいたほうがいいですね。貴方は足が遅いですし、ローザなら小柄ですから何とかなるでしょうが、ともかく貴方は見た目通り重いですから」

「酷いわニューハ!?」


 抗議するダンショクだが、しかしこれはピーチにしても同じ考えである上、何より助けるのが男性であっても女性であってもダンショクでは色々大変である。いや聖魔法の腕は確かではあるのだが――


「とにかく! 急いで森に向かうとなるとメンバーは、ナガレと私は外せないとして、フレム、そして出来ればローズね」

「え? 私か? しかし護衛の任務が――」

「ローズ、私は城に残りますし他にも騎士の方がついてますから大丈夫ですよ。どうか皆様に協力してあげてください」

「え、エルガ様とナガレがそう言われるなら」

「いや、言ったの私なんだけど……」


 なんでそこでナガレの名前が出てくるのかと目を細めるピーチである。


「ピーチ、ナガレ、よければナリヤも同行させては貰えぬか?」


 ピーチが森へ向かうメンバーを選抜していると、ルルーシが前に出てナリヤを推薦してきた。


「A級冒険者の姉ちゃんか、でも護衛の方はいいのか?」

「それは私の方が引き続き努めますので。それに今宵のナリヤ様は間違いなく強力な助っ人になりますぞ」

「ナリヤも勝手に推薦しちゃったけど大丈夫?」

「私はルルーシ様がそう言われるなら、ですが宜しいのですか? 今宵は折角の――」

「それは仕方ないわよ。事情が事情だしね。それに一緒にいればいくらでも機会はあるし。だから宜しく言っておいて」

「判りました。恐らく聞いているとは思いますが、伝えておきます」


 そういって頭を下げ、そしてナガレ達を振り返る。


「ルルーシ様もこう言われてますし、私も同行させて頂いて宜しいでしょうか?」

「勿論、心強いですよ」

「う~ん、でも何か意味深な会話だったわね」


 ピーチが小首を傾げながら言うと、ふふっ、とナリヤが微笑を見せる。


「カイルはどうする?」

「う~ん、おいらは遠慮しておくよ~皆の足の速さには流石についていけそうにないしね。皆の帰りを待ちながら何かあったときのために警戒しておくね」

「そうか、だったら街の方は頼んだぞ」


 了解、と笑顔で手を挙げるカイルである。メンバーに選ばなかったピーチが少し申し訳無さそうな顔を見せるが。


「適材適所というものがありますし、ピーチの判断は間違いではありませんよ」


 ナガレにそう言われ安堵するピーチでもある。


「私もついていきたいところですが、仕方ありませんわね――で、ですがフレム!」

「ん? なんだよ?」

「……その、き、きをつ、あ、貴方ちょっと調子に乗りすぎるところがありますから、油断して皆様に迷惑を掛けないように気をつけなさい!」

「なんでお前にそこまで言われなきゃいけないんだよ!」


 ツンっとした態度のクリスティーナに言われ、言下に吠えるフレムである。


「……素直じゃないんですよねクリスティーナ――」

「ははっ」

 

 ふたりの様子を眺めていたへルーパがボソリとつぶやき、中々大変そうだなとピーチも苦笑する。


「……うぅ、でも私も本当ならお姉さまについていきたいです」

「ご、ごめんね。あ、でもへルーパには重要な役目をお願いしたいの。出る前に皆に身体強化の魔法をね」

「は、はい! 勿論です! 愛をこめて全力で掛けさせて頂きます!」

「へ? あ、愛? ま、まあとにかくお願いね!」


 こうしてへルーパに身体強化の魔法を施してもらい、その間に衛兵にも伝令がなされ、急遽結成された魔獣の森調査隊が北の森へと向かう。


「それでは皆様、少々急ぐ必要もありますので、私が先頭を行きます。私の後ろにぴったりとくっついてきて下さい」

「判った! 先頭はナガレに任せるわ! 後フレム、ローザをよろしくね」

「おうよ!」

「きゃっ!」


 フレムにお姫様抱っこされ、思わず悲鳴を上げるローザである。


「なんだよ、妙な声上げるなよ。今更こんなことで驚くようなもんでもないだろ」

「そ、そんなこと言われたって、その、クリスティーナに悪いし……」

「は? なんであいつの名前が出てくるんだ?」

「……貴方本当鈍いわね。そんなところまで先生(・・)に似なくていいのに」


 ジト目で訴えるピーチである。そしてついでに言えば見送りに来ていたクリスティーナが顔を険しくさせていた。


「とにかく急ぎましょう」

「はい! 先生!」

「私もしっかりついていくわ」

「ぴったりとくっついていけばいいのですね」

「それにしても、馬車まで断るなんてな――」


 殿のローズが言うように、アクドルクは馬車も用意しようか? と言ってくれたがそれはナガレとピーチが断った。

 理由は勿論馬車よりナガレの場合は徒歩の方が、他の皆にしても走ったほうが速いからだ。ピーチにしても魔力の操作で身体能力を向上することが出来る。


「それではいきます」


 ナガレが先頭を高速で歩き始めた。勿論他の皆がついてこれるよう速度は合わせているが。

 そしてその後ろにピーチがぴったりとくっつき、ローザを抱えたフレム、ナリヤ、ローズと続く。


「うわ! なにこれ、凄い速い!」

「先生は勿論だけど、何か俺たちまで一緒に吸い寄せられてるような――」

「確かに私達の速度も底上げされているような感覚ですね」

「た、確かにこれなら馬車は……ふ、ふん! 中々やるじゃない!」


 ナガレが先頭を歩くことによって、全員の速度は通常の数十倍にまで引き上げられていた。ナガレの後ろに数珠繋ぎになることで、まるで列車のような隊列で移動しているわけだが――勿論速度向上の秘密はこれにある。


 ナガレは自分を先頭に、そしてピタリと他の面々を背後から付いてこさせることによって気流の流れを操作し、いわゆるスリップストリーム現象を引き起こしたのである。

 

 しかもナガレの場合はそれに加え合気の干渉も加わり、正にこれはナガレ式トレイン走行といってよいほどの技術にまで昇華してしまっていた。


 特に重要なのはナガレの正面は常に絶対真空であるということである。つまりナガレの正面にはあらゆる分子が存在しない。こうすることで当然周囲の大気は常にナガレの正面に向けて流入し続けるため、いわゆる超強力な吸引状態が合気によって引き起こされ続けることとなる。


 それが結果的に全員の速度アップにつながっているわけだ。そして当然だがナガレは真空箇所を抜き去るごとに瞬時に空気の流れも変化させ、後ろからついてきている仲間が窒息しないように、声も発することが可能なようにしっかり調整している。


 ただ、ナガレの正面は常に真空である。そうなるとナガレ自身は呼吸をどうしているのか? という疑問が出るが――しかしそんな心配は無用である。


 なぜならナガレは例え無呼吸状態に陥っても、状態を維持するために必要な元素は体内で常に受け流し、循環させることが可能なのである。


 そう、これによってナガレは例え大気の一切ない空間に放置されたとしても半永久的に生き続けることが可能だ。


 何よりも実際にナガレは過去に一度とある猛者と大気圏を突破し、宇宙空間で戦いを演じた事がある。


 ちなみに余談ではあるが、その相手は拳の一突きで幾重もの時空を破壊し数万を超える宇宙を消滅させる程の力を持った達人であったのだが――とにかくそんなナガレに掛かればこれぐらいの芸当は軽々とやってのけることが可能であり……。


 そして出発からそれほどの時間も掛かっていないにも関わらず、すでに一行の視界に魔獣の森が映り始めていた――

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