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レベル0で最強の合気道家、いざ、異世界へ参る!  作者: 空地 大乃
第五章 ナガレとサトル編

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第二一六話 叱責

 ハラグライはまるでそうすることが当たり前のような素振りであり、謝罪する様子など全く見せる気配がなかった。

 ナガレはじっと彼を見据える。その双眸にナガレも思うところがあったが、とは言え当然この男の言うとおりに従うわけにもいかず、同時に謝罪の一つもなければ皆(特にフレムが)納得しないだろう。


「おい、いい加減にしろよ! 何が区別だ! テメェがさっき言った事を忘れたとは言わせねぇぞ! 一度吐いた唾はのめねぇんだからな!」


 やはりフレムの怒りは大きいようで、興奮している様子も感じられる。


「口にした言葉を取り消すつもりなどない。貴様らが何を思おうが勝手だが、所詮一介の冒険者に過ぎないお前たちに何を言われようと痛くも痒くもないのでな。まあどうしても嫌だというのならそこの獣人には自室に篭っていて貰おうか」

「そんなの横暴よ! 許されるわけがないわ!」


 言下にピーチが叫んだ。ローザも珍しく力の篭った抗議する視線をハラグライに送っている。


「さっきから聞いていれば本当に耳を洗いたくなるような発言ばかりですわね。大体貴方、自分が何を言っているか判ってますの? ナガレの言っていた通り明らかな差別発言、許されることではありませんわ! 区別だなどとごまかしたところで無駄ですわよ」

「わ、私達も聞いていたのですから、ここの、ぜ、全員が証人です!」


 そしてクリスティーナとへルーパも抗議に加わる。その周辺では何事かと使用人たちが顔を見せ始め、案内役のメイドなどはおろおろしっぱなしである。


「……馬鹿らしい話だな。何を言ったところで所詮は冒険者などという信用の低い集団の集まり。そんな連中が何を語ったところで誰も耳を貸さないだろう」

「そうか、ならば私の言葉ならどうかな?」


 少し離れた位置から声がかかり、ハラグライが顔を巡らす。ナガレ達もそれに倣うが、声の雰囲気で誰が発した声なのかは皆察したようだ。


「……ローズマリ卿――」


 呟くようにハラグライが述べる。そして姿勢を正し、これはこれは、と頭を下げた。


「先に広間へ案内させていたかと思いましたが、使用人に何か不手際がありましたでしょうか?」

「お前もこの状況でよくそのようなことが言えたものだな。使用人に失礼などない、皆がなかなかやってこないのでちょっと様子を見に来たのだ。勿論話の方も聞かせてもらったぞ。正直この状況で不手際があるとしたらハラグライ、お主の方だろう」


 厳しい目つきで叱責の言葉を述べる。そのすぐ後ろにはエルガとオパール、それにセワスールにナリヤ、ローズ、ニューハ、ダンショクの姿もあった。


 どうやらナガレ達よりひと足早く食堂へと案内されていたようだ。


「それはおそらく齟齬があるかと。私は皆様へ円滑に上質な晩餐の場をご提供できればと口を出させて頂いたまでです」

「そうか、だがそれなら見事に失敗しているぞ。お主の話を耳にしたおかげで私はとても気分が悪い。これではその上質な晩餐とやらはとても期待できそうにないぞ」

「…………」


 どうやら先程の話はすっかりルルーシに聞かれていたようだ。ただ、だからといってハラグライに取り乱す様子は感じられないが。


「それとお前は先程差別ではないなどと言っていたが、私にはカイルを差別しているようにしか聞こえなかったが? レイオン卿とジュエリーストーン卿も一緒であると思うぞ。お主は今冒険者ごときがと言っていたが、ならば我らに対してはどうする? ここにいる全員もナガレの意見に同意であるぞ」

「……左様でございますか。しかし、私も意志は変わりません。獣人が人と同席するというのであればそれを付けて頂きますし、納得出来ないというのであれば私の権限で食事の席に立ち入ることを禁じさせて頂きます」

「こ、こいつまだ言うか……」


 頑ななハラグライの様子に、怒りを通り越して呆れる様子を見せるフレム。

 皆からしてもまさかこの状況でまで意思を曲げないとは意外であったことだろう。


「……何やようわからんけども、そこまでいうどすなら、うちらにも考えがありまふ。エルガはんとも話したんやけど、そういうことならうちらは晩餐会への参加は見送らせて頂くどすえ」

「はい、カイル様も護衛に尽力して頂けた大切な御方です。そのような方を蔑ろにされるような場にはとても参加できません」

「勿論、エルガ様がこう申される以上、このローズも辞退させて頂きます」

「私達も同じ気持ちです」

「そうなのよ~貴方、見た目だけならタイプなんだけど、性格は全然駄目~だからニューハに私も合わせるなのよ~」


 どうやらハラグライがその考えを改めない限り、エルガを含めた面々とオパールは晩餐会に出席する気はないようだ。


 そしてこれに関してはフレム達やピーチ、クリスティーナやへルーパも同調する。


「そういうことなら、私も参加を見送らせて貰うわね。正直お姉様には申し訳なくもあるけど、こんな状況じゃ晩餐も楽しめそうにないし」

「……全員の意見は一致したようですね。招待された晩餐への出席を全員が辞退する、これがどういう事か、貴方であればご理解頂けると思いますが」


 ナガレが締めの言葉をハラグライに送る。それでも動揺は全く見られないが――ただそれがどれだけ大変なことかは理解していないはずがない。


 既に料理の支度も整い、後は一同が食事の席につけばいい、と、そのような状況に於いて全員が、しかもエルガやオパール、その上ルルーシまでもが出席を取りやめるとなれば当然領主たるアクドルクの顔に泥を塗る事になる。


 勿論これが何の理由もなく、ただ出席をやめるという話であれば責められるは直前にキャンセルをした側であろうが、今回に関しては理由はハラグライにあり、それは周囲の使用人たちにも知られている。これではアクドルクの面目も丸つぶれであろう。


「これは一体どういう事だ!」


 しかし、突如声を荒げ話の場にアクドルクが割り込んできた。

 そしてハラグライの前に立ち、かと思えば平手で強く殴りつけた。

 

「話は聞いたぞ! ハラグライ! お前は賓客としてもてなさなければ行けないこの者たちに随分と失礼な事を口にしたようだな! 貴様この私の顔に泥を塗る気か!」

「……申し訳ありません」

「謝るべき相手が違うであろう! 謝罪なら私ではなく非礼を働いた彼らにだ!」


 アクドルクが強い口調で叱責すると、頑なに態度を改めなかったハラグライがカイルの前に立ち、そして大きく頭を下げた。


「誠に申し訳ない、ですが私が勝手にしたことです。どうか晩餐会には――」


 更に他の皆に向けても深く頭を下げ、晩餐の席には着いてほしいと懇願もされた。

 

「もういい、ハラグライ、お前は私がいいというまで部屋から出るのを禁ずる! 判ったな!」

「……承知致しました」


 そしてアクドルクに言われるがまま、ハラグライは部屋へと戻っていった。

 つまりアクドルクはハラグライに謹慎処分を言い渡し、それで何とかこの場を収めたいと考えたのであろう。


「皆様には大変不愉快な思いをさせてしまった。彼は本来優秀な男なのだが、全くどうしてしまったのか。本当に申し訳ない」

「もうええどす。謝って頂ければこれ以上皆も何も言うことはおまへんやろ?」

「おいらは全然気にしてないよ。むしろ何か申し訳ないぐらいかな」

「は? 全くカイルはこういう時に人が良すぎだぜ」

「まあまあ、カイルがこう言ってるんだし。謝罪の言葉も頂いたわけですし、これ以上蒸し返しても雰囲気が悪くなるだけだと思いますから」


 カイルはいつも通りのにこやかな表情に戻り、寛大な意を示した。フレムはいまいち納得していないようだが、ローザが窘める。


「まあ、確かにカイルにこう言われたらね」


 ピーチもため息混じりに納得を示した。当事者であるカイルが気にしていないというならこれ以上追求しても仕方のないことであろう。


「そうですか。ふぅ、そう言って頂けたならこんな嬉しいことはありません。いや、本当に出席を断られたらどうしようかと思いましたよ。さぁもう既に食事の準備も整い始めておりますので、皆様どうぞ広間へ」


 胸をなでおろし安堵の表情を浮かべた後、アクドルクが皆を促し先に進む。

 その姿を認め、一行も改めて食堂へ赴こうとするが。


「ところでセワスール様、先程から難しい顔をされてますが何かありましたか?」

 

 すると、ふとナリヤがセワスールに向けて心配そうに尋ねる。

 確かに先程からセワスールはあのハラグライに目を向けたまま言葉も発さず、しかしどこか納得のいかないといった表情を見せ続けていた。

 

「……いや、実は私、ハラグライ殿とは前に一度お会いしたことがあり、とはいえ二〇年は前の話ですが、実はあの方は以前王国騎士団に所属し団長にも任命されていたことがあるほどの御方なのですが――」

 

 その話にナリヤだけではなく、ルルーシも驚いたように目を見開いた。


「え? でもどうしてそんな元騎士がここで側近なんて?」

「はい、実はあの御方、騎士時代は槍の名手とまで言われ、槍を持たせれば右に出るもの無しとまで称された騎士だったのですが、戦で腕を負傷してしまいそれからは以前のような槍さばきも見せられなくなってしまい、結局そのまま退役されてしまったのです。ですが、その経歴を買われこの地の領主に誘われ働くようになったと――」


 セワスールの話では最初は執事を任されていたようだが、その真面目な性格や仕事ぶりが先代に認められ側近として傍に仕えるようになったようだ。


「……私は騎士時代のハラグライ殿しか知りませんが、ただ少なくともその時はあのような言動をされる御方ではなく、騎士の見本とも言える気高き男だった筈なのですが……」

「なかなか興味深い話どすなあ」


 歩きながらも耳を傾けていたらしいオパールが、その話に乗ってくる。


「せやけど時は人を変えるゆいまふ。うちは先程もアクドルク卿に招かれその時にあのハラグライという御方とも話したどすが、正直気分のいいものではなかったどすえ」

「え? 他にも何かあったの?」


 ルルーシが尋ねるが、オパールは扇を口元に当て。


「流石にいくらローズマリ卿とはゆえ、全ては話せないどすが、せやね――」


 そしてオパールはハラグライが現在の奴隷制度に不満を持っているという部分だけを掻い摘んでルルーシに伝えた。


「は? 何よそれ。全くやっぱりあの男はとんでもないやつね! セワスール、やっぱり過去は過去よ。何があったかは知らないけどすっかり人が変わって嫌なやつになったのよ」

「……はぁ」


 セワスールは気のない返事を見せ、そしてやはり得心がいっていない様子。

 そして――


「う~ん、ナガレも何か気になる事があるの?」

「おや? 判りますか?」

「そりゃ、まあ、わ、私だって結構ナガレとつ、付き合い長いし!」

 

 何故か顔を赤くしてそんな台詞を吐くピーチである。


「ちょ、ちょっと待って下さい! 先生のことなら当然このフレムもよく判りますよ! あれですよね! これからどんな料理が出るか気にされてるのですね!」


『…………』


 流石にそれは違うだろ、と周囲の者たちが冷ややかな視線を送るが。


「えぇ、そうかもしれませんね」

「ほら見ろ! やはり先生のことはこの俺が一番判ってるだろ?」


 ニッコリと微笑んで返すナガレを認め、更に得意がるフレムなのであった――

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