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第二〇六話 あの獲物たちの末路

ここまでサトル関係の話となっております。

次回より再びナガレの話に戻ります。

「それにしても主様は流石ですわ。これでほぼ全ての悪魔を呼び出せるようになりましたのですから」


 夜も更けてきたのでサトルは使役しているヘラドンナやユニコーンのユニーを連れ場所を移動し、そこでとりあえず夕食を摂る事となった。


 本当は別に移動する必要もなかったのかもしれないが、妙にあの場所に居続ける気にはなれなかったのである。


 なので別の開けた場所を探しだし、そこでヘラドンナの用意してくれた夕食と、テスタメントの拷問ショーを眺めながら飢えを満たす。


 当然だが、カラスはまだ解放(殺害するという意味で)していない。少なくとも夜が明けて移動を開始するギリギリまでは痛みと苦しみを味あわせ続けるつもりだ。ちなみにテスタメントの所為で、カラスの時の感覚は一分が一日に感じられるほどに調整されている。


 おかげで素晴らしい悲鳴が奏でられ続けるが、流石に次の目的地への移動が始まればずっと拷問させておくわけにもいかない。テスタメントは序列二位の悪魔だけあって消費魔力もかなり大きく、悲鳴を上げさせたまま移動するのは流石に悪目立ちが過ぎる。


「……でも、一位の解放は流石にそう簡単にはいかないか――」

 

 とは言え、既にサトルの心はカラスよりも次の獲物に傾き始めている。正直薄汚いカラスなど、連中の中で言えば前菜みたいなものだ。


 ただ――メインであるアケチに関しては称号に勇者とつくという話もあり、決して油断はできないと考えてはいる。そもそもこのカラスにしてもやり方を一つ間違えただけでピンチに陥りかねなかった。色々と反省点もある。


 故に出来れば一位の悪魔も使役できるようにしておきたいと考えるサトルであるが。


『一位のオーディウムはかなり強力な悪魔であるぞ。それ故にやはり呼び出せるようになるには時間も必要であろうな。だが、その分奴は強力無比であるがな。条件次第(・・・・)では一位以外の全ての悪魔を合わせてもまだ足りぬほどの力を発揮する』

「……正直もうそこまでの時間はないんだがな。カラスの記憶だと既に古代迷宮の攻略も始まってるようだし」

「ですが主様、連中が挑んでいるのはあの英雄の城塁(キャッスルヒロイック)。そう安々と攻略できるほど楽ではありません。復讐の機会は十二分にあるかと――」


 お手製の豆スープのおかわりを、彼女手作りの木製皿によそいながらヘラドンナが言った。

 この悪魔は悪魔でありながら実に甲斐甲斐しくサトルを世話してくれる。


 体色が緑であったりと人との違いは当然あるが、見目も麗しく、正直悪魔でなければ結婚していい奥さんにもなれることだろうな等と考えてしまうほどだ。


「四大迷宮というぐらいだから、確かに簡単ではないのだろうけどな。とは言え着いたら誰もいなかったは流石に間抜けすぎるし、とにかく早いところ現地に乗り込んで様子をみておきたいところだな」


 この辺りは斥候を悪魔に任せるという手もあるが、カラスの記憶を見るにメグミや騎士が周囲を守り警戒している。


 黒騎士を殺してしまったことも既に知られており、どうやらそれがサトルだとはカラスも目にするまでは知らなかったようだが、何者かが召喚された皆を狙っているという考えには行き着いているようだ。


 そうなるとサトル側も迂闊に悪魔だけを向かわせるわけにも行かない。


「しかしメイン料理が軒並み迷宮攻略に出向いてしまったとはな」


 メインというのはアケチ、サメジ、シシオ、そしてつい先程メインへと昇格したマイのことだ。

 ただ、カラスの記憶だと直前までマイとアケチの間で一悶着あったようだが――しかしアケチが何かをマイに耳打ちした途端顔色が変わりついて行くことに決めたようだ。

 

 カラスの記憶では何を耳打ちしたかまでは判らないが、それに関してはカラスから聞かされた真実もあってサトルにも察しがついた。


『それにしてもサトルよ。そこで悲鳴を上げ続けている男との戦いは中々面白かったぞ。六六位のキャスパリーグも上手く使えていたではないか』


 あれか、とサトルが一つ呟く。ただ悪魔の書は気楽に言うが、サトルからしてみると中々しんどい戦いでもあった。カラスの能力を警戒して悪魔の使用にも制限を設ける必要があったというのが先ず大きいか。


 そんな中、カラスの目をごまかして発動したキャスパリーグだが、これに関しては一度発動すれば強力だが実は中々扱いの難しい悪魔でもある。まず悪魔を召喚しようにも取り憑かせることの出来る位置、つまり相手に肉薄出来るぐらいまでは近づく必要があるし、かといって取り憑いてすぐに効果が発揮されるわけでもないのはカラス戦でも試したとおりだ。相手の実力次第では呪いの発動まではかなり時間がかかってしまう。


 それに何よりこの悪魔は取り憑かせた後、呪いの発動まで使役者は取り憑かせた相手に触れられてはいけないという条件もある。

 

 この触れられてというのは肉体にという意味である。それ故にサトルは呪い発動まで悪魔の装備で身を固め、顔も晒すことをしなかったわけだが――とにかくそういった扱いづらさもあってか、発動すれば強力でありながらも序列は六六位に落ち着いている形だ。


 そして、今回の戦いを通じてやはり自分は悪魔を使役してこそだなと思い知った。


 一応はデスナイト相手に剣術の特訓も続けているサトルだが、それでもまだまだ玄人級だ。シシオは武器に長けたステータス持ちであるし、アケチは地球でも剣の腕は達人級とさえ言われていた程なようだ。


 そんな相手にいくら悪魔の装備品の効果があるとはいえ、自分の力だけでなんとかなると思えるほど思い上がってはいない。


 やはり今後も悪魔との連携を踏まえての戦いを模索した方がいいだろう。


「ま、折角ここまでお前の力を引き出せるようになったわけだしな。有効活用はさせてもらうよ」

『ふむ、我も期待しておるぞ。お主の復讐が無事成就されることをな』

「当然だ。そしてその後は――そうさ、こっちは死後の苦しみさえも約束してるのだからな」

『……そうであるな』

「なんだ? もしかしてお前、俺に同情してくれているのか?」

『ふむ、同情して欲しいのか? それならいくらでも同情してやるぞ』


 言ってろ、とサトルは軽口を叩いてみせる。

 それを見ていたヘラドンナが、

「慰めでよろしければ、私がいくらでも――」

ということを大きめの胸を強調しながら言ってくるので少しだけ戸惑いを覚えるサトルでもある。


 こうしていつまでも続く拷問を肴に食事を摂り、話し合っている最中、サトルにとって懐かしい顔ぶれが夜空をバックに舞い戻ってきた。


「お前たちか……何か随分と久しぶりな気もしないでもないな」

『――俺たち、任務完了した』


 サトルの前に着地し顔を並べたのは、以前召喚し待機組の件を任せていた悪魔たちであった。

 リーダーとして指揮権を与えたグレーターデーモンを筆頭にレッサーデーモンからガーゴイル、リトルデビルにインプなどかなりの数を辺境領の街に赴かせていたのだ。


 勿論それは待機組とされている連中も全て駆除するためだ。待機組に割り振られた連中はサトルの虐めに対し直接何かをすることはなかったが、アイカのように傍観を決め込んだり、何もしないまでも指差して笑っていたりといった所為を行っていた連中だ。当然そいつらもサトルにとっては復讐すべき相手なのである。


 故に、カラスとは別に食後のデザート感覚で悪魔たちの報告を見てみることとする。カラスにも使った手だが、ブレインジャッカーとデビルミラーを組み合わせれば対象の記憶を映像で見ることが出来るのだ。


 故にサトルはリーダーとして指揮権を与えたグレーターデーモンの記憶を探るわけだが――


『う、うわぁああぁあ! 化物だ! 化物がやってきてるぞ!』

『な、なんだアレは! 魔物か?』

『あんな魔物は初めて見るぞ、こっちにどんどん近づいて、ひぃいいいぃいい!』


 な、なんだこれは? と思わずサトルは目を見開き呟いた。映像の中ではサトルが送った悪魔達が街を襲い、次々と衛兵や住人を襲っている様子が映し出されている。

 

 騎士の姿もあり、必死に抗おうとするが、悪魔の力は強大な上数も多い。あっという間に街は火の海に包まれ瓦礫の山が気づかれ、死体が積み重なっていった。正に阿鼻叫喚といった様相。


 それに思わずサトルはグレーターデーモンを振り返り、どういうことなんだこれは! と声を上げた。


 しかし――


『何を言っておるのだサトルよ。お主が言ったのではないか、邪魔なようであれば排除せよと』

「は? いや、確かに言ったが、それはあくまであいつらを殺す上で必要であればという話だぞ!」

『だからであろう? サトルよ、悪魔のことはもう少し理解したほうがよい。悪魔にとってその命令から考えられる最も合意的な手段は街の破壊だ。その方が、いちいち探す手間も省けるではないか』

「……いや、だけど」

『サトルよ、何をそんなに気にすることがある? 帝国の人間など死んでも仕方のないような連中ばかりぞ。既に何人も殺害しているだろうに今更であろう』

「……確かに、そうかもしれないが――」


 悪魔の書の言っていることも判る。それにサトルとて悪魔に任せた時点でこうなることぐらいは予測してしかるべきであったのだ。

 それに、この程度のことで悔やむようでは復讐などとても成就出来ぬであろう。


『それよりもほれ、見てみるが良い、お主の復讐相手を見つけ、悪魔達が連れ去っていくぞ』


 え? とサトルが改めて鏡を見ると、確かに他の人々とは様相の異なった連中が悪魔に抱えられどこかえと連れて行かれる途中であった。


 全員が泣き、喚き、中には抵抗しようとジタバタと暴れているのもいるが、それも悪魔の腕で殴られすぐに大人しくなった。

 

 その顔は確かに待機組とされたサトルのクラスメートであった。

 

 そして悪魔達はサトルの復讐相手だけはすぐには殺さず、どこかの山に出来た洞窟へ連れて行き――そして。


『い、嫌だぁああ! やめてくれよぉ、俺が何をしたって言うんだよぉ、ひっ、アヅイ"アヅイ"ーーーー!』

『こ、こんなの、あたしは食べる専門なのにぃ、嫌だ、こんな悪魔みたいなのに、食べられるなんて、うわぁああそれはあだじの肉ぅ、かえじで、かえじでよぉ――』

『喉が、喉がやげるようにいだい、イダぃよぉ、こんなのもう。のみだぐなぃぃ、いやぁぁあ喉いだい、お腹いだい、いだいいだいだいいだいだいぃいい……』

『だずげでがあじゃーーーーん! どうして、あぁああ腕が足が、耳が、なくなっていく、なくなっていく……』

『いやだいやだいやだ! こんなの嘘、聞いてないよ! どうしてよアケチ様ぁ、待機組は安心だって、安心だって言ってたのに、ひっく、こんなの、こんなの嫌だぁああぁあ! いやぁああやめてぇぇ! そんなものいれないでぇえぇ!』

『パパぁ、ママぁ、もうお家に返してよぉ、ぐぶぅ! あ、ごめんなざ、いや、お願い、もう殴らないで、何でもしますから、何でもしますから……』

『あ、が、お、おどごのおれが、ごんな、そんな、尻が、うわぁあああぁ! 尻がいたい、いだいいだいいだい! 畜生! 俺はやるほうが好きなのになんでだぁああぁ! もうやべでぐれぇええぇ!』

『ヒック、ヒック、こんなの、初めてはアケチ様にと決めてたのに、こんな化物となんて、もうやめて、いや、こないで、もうこないでーーーー!』


 鏡の中で、待機組とされた生徒たちが、悪魔に甚振られ、嬲られ、穢され、そして――朽ちていく。


 その様子を眺めていたサトルの表情は、狂気じみた笑顔で満たされていた。

 

「……ははっ、そうだ、そうだよ。もう迷うことなんて何もないんだ。俺は決めたのだからな、こいつらへの復讐を、凄惨な罰を――だから……」





 翌朝、サトルの視界には既に元がなんだったかも判らない肉塊が転がっていた。ただ、流石は拷問のプロだけに、この状態でもまだ息はあるし、意識も残っている。


「喜べカラス。俺たちはもう行く、だからテスタメントの拷問もこれで終了だ」


 そしてサトルは悪魔の書にテスタメントを戻す。カラスの顔は既に目も耳もなく、声だってまともには発せられない状態にまで傷めつけられているが、それでもサトルの言っていた意味がかろうじて理解できたのが、安堵のような雰囲気を醸し出していた。


「だから、やれヘラドンナ」

「はい、お任せ下さい主様」


 しかし、サトルに命じられ、ヘラドンナの撒いた種から悪魔の植物が生まれ、そしてその異様なまでに大きな口のような花弁でカラスを飲み込んだ。


「この植物はお前への最後のプレゼントだ。かなり効率的な植物でな。一匹の獲物を少しずつ溶かしながら何ヶ月も生き続けるのさ。しかも生きた餌が好きだから、出来るだけ殺さないように、外側から少しずつ溶解し、意識を残したまま捕食していく。良かったなカラス、これでお前はまだもう暫く生き続ける事が出来るぞ」


 耳も無いため普通ならば聞こえないが、悪魔の植物の力でサトルの声はカラスの脳に直接伝えられた。きっと今頃は喜びのあまり咽び泣いていることだろう。


「じゃあなカラス。最後まで見届けられないのは残念だが――後からお前の仲間もしっかり同じ場所へ送ってやるよ」


 吐き捨てるように言い残し、そしてサトルは最後の獲物たちの待つ目的地へと向かい足を向ける。


 残る獲物は――後六人……。

さていよいよ本命の獲物めがけて出発!

次回からは再びナガレ側の話に戻ります。

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