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第二〇二話 それぞれの思惑

サトルの話が続いております。

 サトルの正面にガルーダが踊り出て、その巨大な翼を大仰に、そして力強くサトルに向け羽撃かせる。翼の動きに連動して突風が生み出されサトルの身を大きく仰いだ。


 この羽撃き一つで家屋の数軒は余裕で吹っ飛んでいきそうな程の狂風。サトルが思わず腕で庇うが、そこへ更にガルーダの羽が飛散し風にのってサトルに襲いかかる。


 ガルーダの羽は一枚一枚が鋼鉄のように硬く更に鋭利な刃物のように鋭い。当然これだけの風に乗って迫る羽は十分な脅威となり得る。


 だが――その羽を持ってしてもサトルの鎧には一切に傷をつける事が叶わない。


「ちっ、随分と頑丈な鎧だな」

「それだけだと思うなよ」


 サトルが黒兜の奥から声を発し、そしてサトルの背中に装着されていた翼が形状を変えガルーダに迫る。風の抵抗を少しでも受けないように徹底的に細く、それでいて鋭くさせた翼だ。


 それがガルーダの身を貫こうと伸びる、が、どうやら感づかれたのか羽撃き方を変え、ガルーダが上空へ退避した。


 かと思えば今度は勢い良く急降下、その鋭い鉤爪でサトルを地面に押し付け、めり込ませた状態で引きずっていく。


「いいぞガルーダ!」

 

 歓喜の声を上げるカラス。その時一つの影がガルーダに向けて体当たりをした。鳴き声を上げガルーダが一旦サトルから離れる。


「な、なんだそいつは、ユニコーン?」


 思わず目を丸くさせ問うように言うカラスである。そんなカラスと睨めつけるようにしながらブルルッ、と一角の白馬が唸り声を上げる。


「……助かった、ありがとうよユニー。だけど危険だから離れてろ」


 サトルはユニコーンの頭を一撫でし、そして白馬を気にかけるように述べると、ユニコーンもブルルッ、と鳴き言われたとおりに離れていった。


「おいおいどうなってんだ? 今のユニコーンだろ? なんでユニコーンが男のお前に懐いてるんだ?」

「知らないのか? 俺はこうみえて動物に好かれるんだ」

「はん、そうかよ。なるほどなあのユニコーンにテメェの尻を差し出したってわけか。全くいい趣味してやがるぜ」

「お前はどこまでも下品で下劣で下衆な屑だけどな」


 言ってろ! とカラスは再度ガルーダに命じる。ユニコーンの角の一撃がカウンター気味にヒットし、その所為で押し戻されたが硬い羽毛に守られていたおかげでほとんどダメージはないのである。


 だが、サトルはサトルで今度はガルーダに近づかれないよう移動を始める。だが、ガルーダの速度には遠く及ばず、まさにいま再びガルーダの鉤爪がサトルを捉えようとした――その時であった。


「キュエェエエェエェエエ!」


 再び怪鳥の鳴き声を上げ、ガルーダの身体が強制的に地面に磔にされた。その翼も緑色の縄によって折りたたまれ完全に縛められている。


「これは、蔦か! てめぇそんな罠を仕掛けてやがるなんてな……」


 悔しそうにカラスが言う。罠に関して言えばカラスとて知識があり得意分野の一つでもある。それが見破れなかったことに悔しさを覚えたのだろう。


「その植物の蔦はそう簡単に解けやしない。暴れれば暴れるほど茨が食い込むだけだ」


 実際茨の棘は暴れるほどにぎりぎりとガルーダの身体に食い込んでいく。羽毛のおかげでダメージこそなさそうだが、強く縛められ地に落ちたガルーダには既に為す術がない。


「悪いがトドメは刺させてもらうぞ」


 そして暴れるガルーダの首へ向けてサトルが思いっきり剣を振り切った。鋼鉄以上の強度を持つガルーダの羽毛も、密かに首の部分も守りは全身より薄い。飛び回っているガルーダの首を狙うのは至難の業だが、動きが止まってしまえば存外あっさりとしたものであった。


「ちっ、酷いことしやがる。そいつを捕らえるのは結構苦労したんだぜ」

「そうか、それは悪かったな。安心しろ直に後は追わせてやる。尤もお前の行先は地獄以外ありえないから向こうでも会えやしないだろうけどな」


 カラスに向けて死の宣告を届けながら、サトルが身体をカラスへと向けた。

 構えた剣に怨嗟と殺気が込められていくのがよく判る。


 だが――


「悪いが地獄へ行くのは俺じゃない、テメェだ。こうなったら俺っちのとっておきを見せてやるよ」

「取っておきだと?」

「あぁそうさ。お前にこれが、見きれるかな!」


 カラスが鳴き声を上げ、そして開いた右手をサトルに向けて突き出した。


「――ぐっ!?」


 その瞬間、鎧の中からどこか鈍い声。それを耳にし、ニヤリとカラスが不敵に笑う。


「はは、やっぱ俺っちの取っておきはお前に効果覿面なようだな! さぁどんどん行くぜ!」


 すると、今度は続けざまに、そうまるでカラスが獲物を弄び喜んでいるように、狂気の笑顔を貼り付け、黒い羽を羽撃かせ続けるがごとく、カラスはその両腕を左右に振り続けた。


 その動きに合わせるように、サトルの身体が右へ左へと流される。

 

「くっ、調子に、乗るな!」


 するとサトルは翼を広げ地面を蹴り上空へと一旦その身を移した。

 だが、あめぇよ! とカラスが叫び、空中にいるサトルに対しても両腕を振る動作を続けていく。

 するとやはりサトルから苦痛を感じさせる呻き声がカラスへと降り注がれる。


 カラスは明らかに勝ちを確信している様で、連続で見えない攻撃を続けて行く。

 しかしサトルも棒立ちというわけでもなく、空中で翼を畳み、全身を包み込んだ。

 どうやら翼で守りを固め、攻撃を凌ごうという考えなようだが――


「無駄だ! そんなものじゃ俺っちの攻撃は防げねぇ!」


 カラスの宣言通り、翼の中からサトルの痛みに耐える声が漏れ、その形状も戻り、そして地面に向けて頭から落下した。


「ふぅ、ふぅ、ぐはっ!」


 鎧に包まれている為、中の様子ははっきりとは判らないが、声からは演技は感じられず、かなりのダメージを負っているのは間違いなさそうである。


『キヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ』


 カラスの肩に乗っている黒猫が再び不気味な声を上げる。だが、既にカラスには気にしている様子は感じられず、それどころか――


「ふん、この声も今となっちゃ逆に心地よいぜ。お前がやられているのを喜んでいるようでな」

「はぁ、はぁ……」

「随分としんどそうだなサトル。だがな、テメェが俺っちに何を言ったか覚えているか? 何万倍にもして苦しみを返すってな。楽に死なせはしないってな。その言葉、そっくりそのままお前に返すぜ。俺がお前を――」

「正体は鳥、か……」


 サトルに向けて卑下するような視線で、カラスは虐めていたあの日々を思い出すようにサトルにいい連ねていくが、その途中に割り込まれた声に眉を寄せ、何? と言葉を返した。


「この翼は、触覚に優れていてな――おかげで何が触れていったかよくわかるのさ。その情報で掴んだ、肉眼じゃ確認できないほどの小さな鳥――それがこの攻撃の正体なんだろ?」


 片膝をつきながら答えるサトルに、ふんっ、とカラスが鼻を鳴らし憎々しげにサトルを見下ろした。


「あぁそのとおりだ。こいつはミクロンバードと言ってな、微生物並みに小さい鳥なのさ。驚きだろ? それだけ小さくても魔法の力で上手く飛び回る事が出来るんだぜ? まあこんな小さな鳥が武器になるのも、俺の鳥強化のスキルのおかげだけどな」

「……そんなスキルがあるのに勿体ぶるとはな、やはりお前は俺を舐めてるだろ?」

「言ったろ? 取っておきだとな。まあだけどな、それに関しちゃお前に感謝してるよ。全くくだらない話を長々と続けてくれるから、こいつを準備する時間が稼げた」


 ミクロンバードは非常に小さな鳥である。故にいくら鳥強化があったとしても数匹程度の数では武器には成り得ない。当然それなりの数が必要となるわけであり、カラスの鳥寄せスキルでもそれだけの数を集めるにはそれなりの時間が必要だったわけであり――


「時間稼ぎだ、と?」

「あぁそうだよ。戦いが始まる前からテメェとは随分話したが、まさかあれが伊達や酔狂で聞いてやってるとでも思っていたのか? そんな筈がねぇだろがボケが! まあ、仕掛けは見破られちまったけど、正直だからどうしたって話よ。俺っちにはなんとなくテメェの弱点が見えてたしな」

「弱点だと?」

「あぁそうだ。テメェの強さの秘密はその装備品にあるんだろ? 翼付きの硬い鎧と切れ味の鋭い剣だ。後は、まあこのくだらない人形もか? 正直こんなものでステータス下げられても俺っちは強化できるすべがあるから意味ねぇけどな。後は、ついでにさっきの植物をトラップにしたようなことが出来る効果も付与されているのかもしれない。どちらにせよ――その鎧も一皮むけば中身はただのサトルだ」

「……それで小さな鳥ってわけか」


 サトルの言葉に、カラスがにやりと口角を吊り上げる。


「小は大を兼ねるってとこか? これだけ微小な鳥ならその硬い鎧の隙間にもなんなく入り込めるからなぁ、そして今のお前の様子を見るに俺の考えが正しかったことは証明された」


 黙ってカラスの言葉に耳を傾けるサトルに更に彼は続ける。


「それにしてもテメェは本当にそれで俺達に復讐出来るつもりだったのか? 剣の腕も多少は鍛えたのかも知れないが、正直アケチやシシオに比べたらてんでだしな。その程度の力で俺たちを殺そうなんぜ、本当にへそで茶を沸かすってレベルの話だぜ! ぎゃははは――」

『シシシシシシシシシシシシシシシシシシシシシッ!』


 サトルに指をさし、愉悦に浸り笑い声を上げるカラスであったが、その時発せられた黒猫の笑い声に一瞬ぎょっとした顔を見せる。


「チッ、またこいつか。まあいい、どうせこれもお前さえ殺せば」

「くくくっ、ようやくか」


 顔を歪め忌々しげに語るカラスであったが、突如サトルが含み笑いを見せ、そして一つ呟いた。

 それに何を言っているんだこいつ? といった表情を見せるカラスであったが――


『シシシシシシイイッィイイ! 呪っちゃうよ~お前の全てを~僕が呪っちゃうよ~』


 黒猫がカラスに顔を近づけ、その大きくて不気味な瞳を向けながら、不吉な言葉をばら撒いた。


 それに目を向け、は? 呪い? 何を言って――と口にしたカラスであったが、その瞬間……。


「ぎ、が、ぁあああぁああぁああ、いでぇいでぇいでぇいでぇ、いでぃ、ち、畜生! 全身がイテェええぇぇえ! なんなんだ、なんなんだこれはよぉ!」


 叫び地面を転がるカラスに今度はサトルが愉悦感に浸った笑みを浮かべこう言った。


「ありがとうよ、お前の方こそ、長々と俺の話に付き合ってくれて――」

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