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第二〇〇話 カラスとサトル

閑話から続くサトル関係の話となっております。

 古代迷宮に向かうアケチ達を見送った後は、メグミやカラス、アイカ、そして残った護衛の騎士たちは迷宮周辺を警護していた。

 

 だが、そこへ突如カラスが息せき切ってやってきて、慌てた様子で述べる。


「大変だ! 魔物がこっちに攻めてきてると鳥達から報告が来てる!」

「はい? え、魔物って迷宮付近までやってくるの?」


 唐突にカラスが声を張り上げ、メグミと護衛の騎士たちに訴えたのだ。

 それに怪訝な顔を見せるメグミであったがカラスは本当だと言い続ける。


 正直こんなくだらない嘘なんてついても仕方ないと思えそうだが、だが相手はカラスである。口八丁手八丁で上手いことシシオやサメジに取り入っている部分もあるので油断はならないと、メグミは眉を顰めるが。


「カラス様の言っていることは本当だ! 確かに魔物がこちらに向けてやってきてるぞ!」


 だが、続いて報告に来た騎士の話に、周囲に緊張が走った。


「むぅ、魔物が古代迷宮近くまでわざわざやってくるなどあまり聞いたことがないが――」

 

 何もないところに突然あらわれる核迷宮と違い古代迷宮に関してはどこか神聖視されている一面もある。その理由の一つとしては古代迷宮の周囲には魔物が寄りつきにくいといったことも関係しているのだろう。


 尤もそれはあくまで迷宮の周辺だけの話であり、一度古代迷宮の中に足を踏み入れれば強力な魔物、場合によっては魔獣や竜種が現れることも珍しくないが。


 どちらにしてもそういった理由がある為、古代迷宮の近くにいる分には謎の敵対者はともかくとして、魔物に襲われる心配はそれほどないと考えていただけに、騎士たちには若干の焦りも感じられた。


「これはもしかしたら、その何者かがやってきてる可能性もあるかもな」

「え? なんで? 近づいてきているのは魔物なんでしょ?」


 カラスの考えを疑問視するメグミ。確かに魔物がやってきているからといって、その何者かが現れたとは言えない。


「お前忘れたのかよ。この世界には魔物使いっていう称号もあるんだぜ。つまりだ、相手は魔物を自由に使役出来る野郎かもしれないだろ?」


 カラスの発言に、メグミは、あ――と小さな声を漏らした。確かにそれであれば魔物が自ら近づいてきている理由も説明がつく。


「理解したか? ここは確かに魔物は寄りつきにくいが絶対じゃないんだぜ。別に魔物が来たら弾くとかそういった結界が貼ってあるわけでもないんだしよ。もし相手が魔物使いなら問答無用で大量の魔物を送ってくるかも知れねぇ。とにかく何人かで組み合って、手分けして排除していこうぜ」

「え? あ、うん、そうだね。あんたが指揮取ってるのがちょっとアレだけど……」

「ですが、確かにそれであれば先の報告にも得心がいきます。相手は一人ではなく魔物も操り襲ってきたならば、認めたくはありませんが、その実力によっては我らの仲間が倒されてしまったのも判らなくもありません」


 確かに魔物使いの腕次第では数多の魔物を率いてやってくることもあるだろう。

 そうなると魔物の種類や実力次第では帝国の黒騎士といえど劣勢に立たされる可能性はゼロとは言えない。


「とにかくここはカラス様の言われたように、先ずやってくる魔物から退治して行きましょう!」

「え、あぁ、うん、そうね……て? あれ? カラスは?」

「カラス様なら今、『俺っちが先ず先に攻撃をしかけるぜ! 任せときな!』と言い残してアイカ様と一緒に行ってしまわれましたが――」

「は? そんな、あいつ何を勝手な……」

「来ましたぞ! 全員気を引き締めて参りますぞ!」


 眉間に皺を寄せ、文句を述べるメグミであったが、騎士が注意を呼びかけるのと魔物の群れが迫ってきたのはほぼ同時であった。

 その結果、メグミもカラスとアイカどころではなくなってしまう。


(アイカのことは心配だけど……でもこの状況じゃあいつでもバカな真似は出来ないか――それより)

 

 もしこれが本当に例の敵対者の仕業であるなら確かに気をしっかり引き締めないと、と真面目に考えるメグミであった。





「ヒャッハー! 上手くいったぜ!」


 カラスはしめしめといった表情でアイカを連れ古代迷宮とは全くの逆方向へ向け疾駆していた。それに怪訝な顔を見せるアイカであるが。


「あ、あの、迷宮から離れてますよ、魔物を何とかしないと、こんな勝手な……」

「ば~か、お前は本当に馬鹿だな! あれは俺が仕掛けたんだよ! テメェを連れて離れるためにな!」

「え? そ、そんな――」


 カラスから得られた回答にアイカは狼狽した表情を見せ、それでも抵抗出来ずそのままカラスに連れて行かれた。

 そうカラスは最初からそれが目的であった。だからこそ鳥使いの能力を駆使し、集めた鳥に密かに隠し持っていた魔物を誘き寄せる効果のある香水を振りまいた。


 当然魔物使いなどというものはただのこじつけである。なんてことはない、そうして香りのついた鳥を魔物の前で彷徨かせ迷宮にまで誘き寄せたのだ。


 確かに古代迷宮は通常魔物は自分からは寄り付かない。だが、それも絶対ではなく、このような形で上手く誘い出せば迷宮周辺に出現させるのも容易い。


 こうしてカラスはまんまとメグミや騎士たちを出し抜き、そしてパーフェクトテイカーのスキルで奪っていた強化系魔法の力も駆使し、通常であればメグミ達の足で一日以上は掛かる距離を数時間で踏破し、森の中にある適当な開けた場所をみつけた。


 そしてその後は嫌がるアイカを無理やり犯しつくし、首を絞め、気絶してしまったアイカからようやく離れたわけだが――


「まさかサトル、テメェがこんなところにいるなんてな――」


 アイカとの情事(無理やりだが)後、突如姿を見せた黒騎士に尖った目を向けカラスが言う。顔から足先まで漆黒の鎧に覆われている所為で、声も少しくぐもって聞こえるが、それでも彼ははっきりとサトルだと認識したようだ。


「へえ、俺のこの姿をみて一発で正体に気がついたのはお前が初めてだぞ。褒めてやる」

「ふん、俺っちは目も耳もいいんだよ。それにしてもテメェだったとはな――アケチの言っていた俺たちを狙ってる奴ってのはお前のことなんだろ? それなら合点がいくぜ。ナノカやスギル、そしてルノも殺したのもお前なんだろ? たく、三人ともいい女だったのにヒデェ事しやがるぜ」

「……そこまでは知れてたか。まあそろそろかなとはこっちも思っていたけどな」


 サトルの発言にカラスが眉を顰める。その表情には気に入らないといった感情が滲んでいた。


「サトルの癖に……生意気だぜ。それで、今度は俺に復讐ってか? 全く嫌だ嫌だ、これだから虐められるようなクズは根暗で仕方がない。大したこともされてないのに勝手によぉ、お前知ってるか? そういうの逆恨みって言うんだぜ?」


 カラスは、くくっ、と忍び笑いを見せ、蔑むような瞳で述べる。

 しかし鎧に包まれている為サトルの顔は見えず、ただ一拍ほどあけて恨み篭った声が発せられた。


「お前にとって妹の事がそんなに大したことがないことなのか?」

「ははっ! こいつはお笑いだ! 全くとんだシスコンだなテメェは。妹がなんだってんだ。あんな腐れ雌豚、俺っちに最後に抱かれただけでもありがたいと思ってほしいね。あぁそうだ、あの妹俺らに犯されてる間も言ってたなぁ、助けてぇ、お兄ちゃん助けてぇ、ってな。ぎゃははははははは! 馬鹿かあいつ! テメェの兄貴は俺らに虐められ続けても何も出来なかったフニャチン野郎だってのによ! あ、さてはお前、あれか? 俺達に虐められた夜は毎晩妹に慰めてもらっていたのか? あぁでも両方とも処女だったから、口か? 口でご奉仕してもらってたのか? 勘弁してくれよ俺も口は試したんだからよ。お前の後なんてばっちくてしかた――」

「お前はもう黙れ!」


 サトルが肉薄し、その手に持たれた剣を横に振るう。だがカラスは信じられないような身体能力で斬撃を躱し続け、サトルも攻撃を休むことなく逃げるカラスを追いかけながら攻撃を繰り返す。

 しかし最後の一発を地面を蹴り上げ大跳躍で躱した後、空中を漂いながら両手を広げサトルを見下ろした。


「おら! 俺が盗った魔法をたっぷり喰らわせてやるよ!」


 直後、おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらぁ! と両手を連続で突き出し、炎の弾丸から、雷槌、風の槍に氷の散弾、更に岩でできた槌を降らせていく。


 その数たるや一〇や二〇では効かない。基本彼がパーフェクトテイカーで盗った魔法やスキルは一回につき一発の使い捨てだがストックは可能。

 

 そして盗った魔法やスキルは予備動作無しで放つことがかのうなので、ストックさえあればいくらでも連射が可能だ。


 人間機関砲とでも言えそうなカラスの連続攻撃は容赦なくサトルに降り注ぎ続ける。そして最後は派手な爆発で締めた。


「へっ、ざっとこんなもんさ」


 森の一部がその余波で随分と荒廃した景色に変化してしまったが、カラスは着地後、随分と耿然とした表情で言い放つ。


 そして一顧し、アイカが無事であることも確認した。勿論それは己の性欲を満たすための道具としての心配であろうが。


 カラスの放った無数の攻撃魔法による影響で、周囲はもうもうと立ち込める土煙に支配されていた。


 かなり視界が悪い。だが、直後何かが激しく振られる音。突風が吹き荒れ煙が完全に霧散した。

 そこに現れたのは漆黒の鎧に包まれたサトルであり、全くダメージを受けた様子がない。

 

「……チッ、しぶとい奴だな」

「当然だ、お前にだけは絶対に俺はやられない。そしてお前への復讐も忘れない。そうだ、お前たちだけは、お前たちだけは――」

 

 空いている拳を強く強く握りしめる。例え全身を黒い鎧に包まれていようと、その吹き出さんばかりの怨嗟はカラスにも察することが出来たことだろう――

 

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