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第一九七話 完璧な勇者~密会~

第一九六話にて少々加筆致しました。

内容に関してはアレスについて少し触れた形です。

※この話はサトルが主となる閑話から続いている話です。なのでサトル関係の閑話を読んいない方は飛ばして頂いても問題ないです。

「アケチ様、お気をつけ下さい。あれは魔獣サンダブランカ、体中から放電し、雷の魔法も自由に操ります」

「ふ~ん、それはレッサードラゴンより強いの?」

「え? あ、いえ、レッサードラゴン程では――」


 黒い鎧を身にまとった女騎士が口籠る。その様子にすっかりアケチの興味はなくなってしまった。シシオに目配せし、後は任せたと言わんばかりに後方に控える。


 すると待ってました! とばかりにシシオが百獣変化で獅子型に変化しサンダブランカに向かっていった。


 もとが脳筋で筋肉に自信があるような男である。それに単純だ。マイの前で少しでもいいところを見せようとするきらいがある。


 故に少しでも出番を与えてやると喜び勇んで向かっていってくれる。自分の強さを誇示したい思いが強いのだろう。


 正直飛竜の渓谷を過ぎてからは敵も大したことがなく、シシオも力が有り余っていたようだから丁度いいとアケチも考えている。


 本来は自分の見せ場としてもいいが、一度ドラゴンを倒したことで強さはこの場の全員が既に認めている。ここであまりでしゃばっても仕方がないし、陸海空が活躍できる場も用意したほうがいい。


「ちっ! こいつ放電しやがった!」


 だが――やはりシシオは脳筋だ。事前に女騎士が相手の攻撃手段を口にしていた筈だが、全く聞いていなかったのであろう。


 サンダブランカはデンキウナギのように自らが放電する。自衛手段としてだ。勿論電圧はデンキウナギの比ではなく、Aランクの冒険者でも一撃で死ぬことがあるほどのものだが――頑丈なのも数少ない取り柄の一つであるシシオは少し痺れただけで済んでいるようだ。


 ただ、その隙に魔獣は距離をとり、更に口に魔力を巡らせた。サンダブランカは体内で術式を刻み、口から雷の魔法を放出する。


 雷声と共に放たれし雷光。電撃を迸らせながらシシオに向けて直線上の帯を残す。

 そして今まさに雷槌がシシオに命中しようとしたその時、水のカーテンが迫る雷光を遮った。


「あ、あの雷槌を防いだというのか? しかも水で……」


 女騎士は信じられないといった顔で声を発す。本来水は雷と相性が悪い。下手すれば逆に雷の威力を上げてしまう結果になりかねないのだが――


「サメジが使ったあれは純水のカーテンだね。不純物を極限まで取り除いてるから、電気は通らないんだよ」


 驚く女騎士にアケチが説明する。実際にはサメジが生み出したのは純水よりも更に澄んだ超純粋であるが、これにより魔獣の砲撃も完全に遮ることが出来た。


「おいサメジ! 余計な邪魔すんなよ! あんなの喰らっても別に平気だっつの」

「それはすまなかったな。だけど少々見苦しくてね。それにあれなら俺の方が相性がいい」


 そこまで言うとサメジは再び無詠唱で頭上に大きな泡を現出させ、サンダブランカに向けて投げつけた。


 サンダブランカは警戒しながら泡を避けようとしたが、サメジの作った水泡は逃げるサンダブランカを追尾し破裂。派手な水しぶきが魔獣の身体を包み込んだ。


「うん? なんだお前、あの魔獣、ただ水に濡れただけじゃねぇか」

「ああ、そうだな。トドメはお前に任せてやるから、さっさと片付けてこい」


 眼鏡を外しレンズを吹きながら述べるサメジに、ケッ、と吐き出すように言い、

「水に濡らしたぐらいでカッコつけてんじゃねぇよ!」

と返しつつ、やはり両手に斧を構えたまま考えなしに突っ込んだ。


「少しは頭を使うということが出来ないものかな陸は」

「ふっ、だけどこれも予想通りさ」


 にこにこと笑みをこぼしながらも(そし)るアケチだが、サメジも何か悪巧みを考えてそうな様相で口角を吊り上げつつ、シシオと魔獣サンダブランカの戦いに目を向ける。


 すると予想通り、近づくシシオを認め魔獣の放電――が、その瞬間叫び声を上げたのはスキルを使用した魔獣の方であった。


 その身があっという間に焦げ付き、プスプスと煙を上げる。その時点で既に絶命はしていたが、勢いの付いたシシオの攻撃は途中で止まらず、いや、そもそも止める気もなかったのかもだが、シシオの斧はそのまま魔獣サンダブランカの身体を切り裂いた。


「うぉおぉぉぉおぉ! どうだ! やったぞ~~~~! みてたかいマイちゃん?」


 振り返りマイに勝利の報告をするシシオであったが、肝心のマイはアイカやメグミと話をしていてさっぱりみていなかった様子。


「……ふっ、照れやがって可愛い女だぜ」

「いやいや、どう考えても見てないし、それにそもそも今のはどう考えてもサメジの魔法の影響でしょ、トドメさせたの」

「あん? なんだカラス、お、俺に逆らうのか?」

「へ? い、いやいや、違うって、俺っちがそんな。うん、そうそう、今のはシシオが偉い! 流石シシオ!」

「ふん、当然だぜ」


 腕を組みうんうんっと顎を上下させるシシオ。その単純さにホッと胸をなでおろすカラスでもある。


「でも、確かに今のはサメジ様の魔法による効果――しかし一体どうやって」

「特に難しいことでもないさ。サメジはさっきとは逆のことをやったまで、つまりあの水泡は純水の時とは逆に大量のイオンを含ませたのさ。しかもあの水は浸透性も抜群だったから魔獣の毛穴から体内にも吸収された。だから自分の放電で自らにトドメを刺すことになったってわけだよ」

「い? イオン? 何やら難しい言葉を知っているのですねアケチ様は……」


 女騎士は小首を傾げながらそんな感想を述べた。元が良いだけに悩む姿もどこか男心を擽るものがある。


「ま、とにかく魔獣も倒したし、ああ、でもそろそろいい時間だね。今日はここで野宿ってとこかな~」

「んだよ、また野宿か。たまにはベッドの上でゆっくり休みたいものだぜ」

「申し訳ありません。目的の古代迷宮までの途中には殆ど村や宿場などがないため、どうしてもこのような形に、ですが道程は順調ですので、このまま進めばキャッスルヒロイックはもう半分です」


 まだ半分かよ、とシシオが愚痴をこぼす。とは言え飛竜の渓谷を過ぎてまだそれほど経っていないので仕方がないだろう。


 そしてその日は夜営を兼ねての野宿となる。本来であれば少ないとはいえ宿場が全くないわけでもないので寄れないこともないのだが、それに関してはアケチの提案で野宿がメインとなっている。


 名目上は宿場に立ち寄るルートだと少々迂回する必要が有るため。だが実際はシシオとカラスが勝手な真似をしないようにだ。

 野宿であればある程度自由は制限されるが、村での宿泊となれば村の中や周辺で出歩くことができるようになる。サメジはある程度分別があるが、このふたりには全くと言っていいほどそれがない。


 旅の途中では、マイに聞こえないところで露骨に欲求不満なことをアピールしているふたりだ。村に立ち寄ってそこに若い娘でもいれば間違いなく村から行方不明者が出る事となる。


 選ばれてやってきてるわけだから何をやったところで咎めがないと高をくくってる奴らだ。アケチとしては別に村娘の一人や二人が消えたところで何も思うことはないが、行く先々でそんな事をさせていては流石に色々と面倒だろう。


 それに中途半端にすっきりされても困る。カラスはともかくシシオは滾ってるぐらいのほうが実力が発揮できるタイプだ。そういう意味では野宿という選択は丁度いい。周りの目があるしシシオはマイを振り向かせようと必死だ(一体何故そこまで自信があるのか理解に苦しむところでもあるが)。流石にそのような状況では無理やりことに及ぶことはない。マイに関してはいえば強引にやると色々と面倒なことになることは城にいたころに既に伝えているので、余程のことがない限り馬鹿な真似はしないだろう。


 そんなことを考えながらもアケチはやはり今夜も夜食は自分が調理し振る舞った。この旅では既にアケチの料理が皆にとっての唯一の清涼剤となりつつある。


 不便な野宿が続いているなかせめて料理だけでもまともに楽しめるのは嬉しいとマイも言っているほどだ。


 そして夜食も食べ終え、夜も更け、皆も眠りにつくが――





「随分と久しぶりだね。でも皆と行動を共にしている間は出来れば顔を出すのは遠慮して欲しいところだったけどね」

「……主様の命でな。少々急を要する話があるのだ」


 アケチの目の前に立つは、黒いローブを羽織り、フードを目深に被った人物である。ただ声の感じから若い女性であることは理解できた。


「ふ~ん、それでその話っていうのは?」

「それはだな――」


 そしてフードの奥の紫瞳を光らせ、女がアケチへと説明する。


「……ふ~ん、それはまた随分と変わったのが動き回っているんだね」

「――ああ、それでなんとかなりそうか?」

「はは、誰に物言ってるの? 舐めてると殺すよ?」

「……随分な自信だな。だが今の力があるのは主様のおかげであること、よもや忘れているわけではあるまいな?」

「ははっ、それは判ってるけどね。でも、目覚める力が何かは資質に寄るんだろ? 僕の資質は君ごときが口答えしていいようなものではないと思うけどな」


 にこにこと相変わらずの作り上げた笑みを浮かべつつ、しかし語気には相手を圧するような力を込める。ローブの女がその肩をビクリと震わせた。


「……別に私はお前と敵対する為にきたわけじゃない。お前だって折角順調に進んでる計画が頓挫するのは嫌であろう? ならば対策は練っておいた方がいいであろう」

「……ま、そうだね。判ったよ、だったら丁度いい案件がある。それを利用すればいい。傀儡の皇帝にもちょっと動いてもらおうか……うん、これはこれで、上手くやればちょっとおもしろいことが出来そうだよ」


 まるでオモチャを与えられて喜ぶ子供のような喜色をその顔に貼り付ける。


「ま、じゃあ後はこっちで上手くやっておくから、君の主にはよろしく言っておいてよ」

「……判った任せたぞ――」


 ローブの女はそう言ってその場から一瞬にして消え失せた。それを見送った後、さて、とアケチは口にし。


「これはサメジにも伝えておくかなっと――」


 そう言いつつ、陣地へと戻っていくアケチであった――

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