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第一九三話 孤児院の子供達

 領主であるオパールと話をした後は、一応は賓客として扱うのでということもあり、屋敷に寝る場所を用意してもらう手筈となった。


 ちなみにナガレに関しては普通にもてなしの気持ちが強いようだが、どちらにしても街に残している護衛達のこともあるので一旦屋敷を後にし――


 その後、ナガレは皆と合流した後、まだ時間もあるということで孤児院へ顔を出す事になった。翌日出発になるのでその前に子供達とお別れをしておきたいという思いもある。

 

 ナガレはエルガとローズも一緒にどうですか? と誘いをかけた。ふたりは少し迷っていたようだが、

「子供達の顔を見るのもいいものですよ」

というナガレの話もあり孤児院へ同行することとなり――





「お姉ちゃん、杖を持ってるということはもしかして魔法使いなの?」

「そうよ、私は将来大魔導師になる予定なんだからね!」

「……お姉さま、夢が大きくて素敵です――」


 孤児院に着いた後、彼らは庭に出て子供達の遊び相手をしていた。

 ピーチの近くには魔法に興味がある子供達とヘルーパがいる。

 そして何故かうっとりとした目でピーチを見ているヘルーパを他所に、胸をたたき得意がるピーチである。

 その衝撃でポヨンと揺れる豊かな果実に、一部の子供達(勿論男児)が釘付けになっていたりもするが、とにかくピーチが魔法使いだと知ったことで、魔法を見せて~見せて~と子供達が騒ぎ出す。


「ふっ、仕方ないわね。判った見せてあげるわよ! 私の華麗な魔法をね!」


 するとピーチが子供達のリクエストに応えようと、張り切り勇んで杖を構える。それに子供達のわくわくとした目が集中するが。


「えい! やぁ! はぁああぁあああぁ!」

『…………』


 杖をその場で振り回し頭上で回転させ、更にナガレから教わった杖術の型を得意げに披露するピーチなのだが、子供達の目と温度は唐突に冷え零下の如く。それを見てキャッキャッと喜んでいるのはヘルーパぐらいである。


「……お姉ちゃんそれ何~?」

「え? だから魔法よ!」

「杖を振り回してるだけじゃ~ん」

「な、何を言ってるのよ! この杖に魔力を込めて威力を上げてるのよ! 立派な魔法じゃない!」

「つまんな~い」

「そんなの魔法じゃないし~」

 

 子供達にぶ~ぶ~と文句を言われてたじろぐピーチである。彼女はそろそろ自分が今使っている魔法とやらが一般的なものとは違うということに気がつくべきだろう。


(お姉さま! 私はしっかり判ってますからね!)

  

 ただ、一人キノコカットの彼女だけはピーチの事を判ってくれているようである。


「そんなの魔法じゃないなの!」


 すると、追い打ちをかけるようにナガレに助けられマサルの毒牙にかからずに済んだキューティーがピーチに異を唱えた。


「魔法は! こうなの! 開け魔導第九門の扉、発動せよ雷術式【ショックウェイブ】!」

「ええええぇえええええぇえええぇえ!?」


 ピーチが驚嘆した。そしてキューティーの魔法は見事に発動しバチバチとした派手な雷が迸り子供達は大喜びだ。ちなみにピーチはこの手の魔法に関しては第一〇門までしか開けない。


「うぅうぅ、こんなお子様なのに第九門なんて……」

「よしよし」

「お姉ちゃんも頑張ればきっと夢は叶うよ!」


 項垂れるピーチの頭をなでたりキラキラした目で励ます子供達なのである。


「……一体あの方は何をしてらっしゃいますの」


 そんなピーチを眺めながら、半眼で呆れたように口にするクリスティーナであった。


「――でもあの子、雷術式を使用できるなんて、ふふっ、中々判ってますわ!」

「何一人でぶつぶつ言ってんだお前?」


 するとフレムに後ろから声を掛けられ、ビクンッと背中を跳ねさせるクリスティーナであり。


「べ、別になんでもありませんわ!」


 振り返ると同時にツンっと顔を背けるクリスティーナである。しかし最近は事あるごとにフレムの近くにいる彼女だったりするが。


「お兄ちゃん、ねぇあそぼ~よ~」

「あん? あひょぶってにゃにぉ」

「きゃはは! お兄ちゃん顔おもしろ~い!」

 

 子供達がフレムの背中におんぶ状態で乗っかり顔を引っ張り遊びだす。その表情に喜ぶ子供達であり、クリスティーナも、ぷっ、と吹き出した。


「何か意外ですわ。貴方、子供に好かれるのですわね」

「……よくわかんねぇけどな。でも俺だって本当は先生に修行つけてもらいたいんだけど、子供達と遊ぶのもいい勉強ですよって先生がって、イテッ! おい! 髪引っ張るなって!」

 

 そう言いながらも子供達の相手をするのを結構楽しんでいる様子のフレムであり、その様子を見ながら、子供……もし私が――と、そんなことを呟きつつ茹でダコのように真っ赤になるクリスティーナであった。


「フレムっちも結構面倒見がいいよね~」

「……うん、そうだね。何かフレムのお父さんを思い出すかも――」


 カイルとローザがフレムの様子を眺めながらそんなことを口にする。カイルは悪戯っ子のような笑みを浮かべながら、そしてローザに関しては何かを懐かしむようにだ。


「あ、そこはこうやって持たないと怪我をするかもだからね」

「あ、はい」

「後は的をよく狙ってね。最初はゆっくりでいいからね~」

「はい! ありがとうございます!」

「うん、結構センスあると思うから一生懸命練習すれば狩りにもいけるようになると思うよ」

「あ、あの! 耳を触っていいですか?」

「勿論! 君みたいなかわいこちゃんならいつだって大歓迎さ!」


 そしてカイルは弓に興味を持った子供達に扱い方を教えながら、耳を触りたいと言ってきた女の子には愛想よく応対した。

 相変わらず女の子に対しては例え子供であろうとのりは軽いが、しかし頼んでくるのが男の子であったとしてもマサルと違って邪険にはしない。


「う~ん、でもお兄ちゃんは尻尾がないんだね~ペルシアちゃんにはあるのに~」


 すると、一人の子供がカイルの違いに気が付き声を上げた。幼いうちは悪気はなくても心に思ったことをつい口にしてしまうことがある。

 それを聞き一瞬普段は明るいカイルの表情に影が落ちた気もしたが――しかしすぐに笑顔を取り戻しこう答えた。


「そうなんだよね~おいらハーフみたいだからね」


 そんなカイルにローザが大丈夫? という目を向けたが、彼は笑顔で頷いた。


「がお~~~~食べちゃわよ~~ん」

『きゃはははは~こわ~い』

『逃げろ~~』


 ローザが子供達に聖魔導師らしい教義を行っている横で、ダンショクが子供達(主に男児)を追い掛け回していた。子供達はこの鬼ごっこを楽しんでいるようであり、一見すると微笑ましくも思えるのだが――


「ぐふふふぅ~さぁ~さぁ~捕まえたら食べてあげるわよ~ん、ぐふふふふふふうううぅうう――」

「――ソニックボルト!」

「ぎゃぁああぁああぁあ!」


 ニューハの風魔法がダンショクの身体に命中した。フリルをひらひらとはためかせ、その中身を披露しそうになるが、それもニューハの魔法による気遣いで子供には見せないようにし。


「……はい、今のが風術式の魔法ですね。ポイントは――」


 何事もなかったようにニコリとほほ笑み、ピーチからニューハの魔法に興味が移った子供達に教えを再開する彼(?)である。ちなみにダンショクとは違い彼に関しては子供達は完全に女性だと思っているようだが。


「いいか剣を握るときはこう、そして振るときは出来るだけ体の軸をずらさずに――」

「き、騎士様かっこいい……」

「女なのに、あ、憧れちゃうぜ」

「え? そ、そうか? うむ、中々見どころがあるではないか。今からちゃんと訓練を詰めば立派な騎士になれるかもしれないぞ!」


 ローズはローズで、子供達に剣術を教えながら中々ご満悦な様子である。憧れの騎士を目にした子供達の尊敬の眼差しが心地良いのだろう。その為か、最初は乗り気ではなかったようだが今はすっかりその気になって子供達に指導している。


「お兄ちゃん何か暗いね~」

「え? 私がです、いや、私がか?」


 そんなローズと子供達の様子を、どこか心ここにあらずといった表情で眺めていたエルガに子供達の声が突き刺さる。


 確かにエルガはオパールに言われたことが未だその胸にしこりとして残っていた。それだけに邪気のない無垢な子供の視線が妙に痛い。


「……子供達に心配されるなんて私は駄目ね、あ、いや! 駄目だな私は!」


 だが、このままではいけないと無理やり元気を出そうと試みるエルガであったが――その途端子供達が大声で笑い出した。


「ん? な、何がおかしい、の、だ?」

「え~だって~何かお兄ちゃん変なんだも~ん」

「へ、へん?」

「うん、何かね、う~ん、あ、そうだ! 何かお兄ちゃん男の子の振りしてるみたい~それが何かおかしいの~」

「ふ、振り――」

 

 子供達の素直な意見に、真剣な顔で悩むエルガであった――


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