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第一九一話 オパール・ザ・マウントストム・ジュエリーストーン伯爵

 冒険者ギルドでの話を終えた後、施設を出てすぐにナガレ達はエルガやローズと合流した。

 そしてその直後、ドッグの言っていたとおり領主であるオパール・ザ・マウントストム・ジュエリーストーンがナガレとも話してみたいと招待を受けているという話を受け、一旦ピーチ達とも別れ、エルガ、ローズと共に領主の屋敷へ赴いた。


 屋敷は他の建物と同じように赤煉瓦造りのものであったが、やはり領主というだけあって中々厳かな作りではある。それでいてアクセントとして所々に輝石も散りばめられていた。ただ金持ちが見えを張るようなゴテゴテしたようなものではなく、外観は煉瓦の良さを引き立てるようなものである。


 そして家政婦に案内され、領主の待っている部屋に向かったわけだが――


「ようこそおいでやす。うちがこの領地を治めさせてもろうとる、オパール・ザ・マウントストム・ジュエリーストーンどす」


 部屋についた一行を出迎えたのは、顔を隠せるぐらいの薄紅色の扇を右手にもった女の領主であった。


 その名を示すように、良質なオパールのような七色に輝く髪を上部で纏めた盛り髪にしており、この地方の特産物である宝石をふんだんに使用した豪華絢爛なドレスを身に纏っている。

 

 ただ屋敷の外観と同じように宝石を多用しているからと言って下品な感じは全くしない。

 ただし、肩とかなり大きめな胸を惜しげも無く露わにしており、体系的にもかなりグラマラスなせいもあってか、妙に扇情的でもある。


 そんな彼女は、見るものが吸い込まれそうな緋色の瞳で全員を眺めながら、優雅な佇まいで挨拶をする。


「は、はじめまして。私、グリンウッド領を任されております、エルガ・グリンウッド・レイオン――」


 するとエルガが、相変わらずのどこかぎこちない喋り方で、返礼しようとする。

 しかしオパールは一つ肩を竦めエルガの挨拶を静止した。


「いややわ、そないな堅苦しい挨拶はうちよう好かんどす。ええさかい、腰でも掛けて楽にしておくれやす」

「は、はぁ……」


 そしてオパールが奥に向かい、革製のソファに座るよう勧めてきたので、エルガと共にナガレとローズも席についた。


「……あんさんら、うちの口調、随分と変わっとるどすやろ?」

 

 すると、席に着くなりオパールは特に怪訝な表情を浮かべるローズを指摘するように問いかける。それを察したローズは、慌て眼で、そ、そんなことは――と弁解しようとするが。


「まあ、別に構いまへん。こん口調は親の代からのこちやし、うちもよう慣れっこどすから」

「は、はぁ……」


 どこか気のないような返事をするローズである。ただこの口調はナガレからすれば知らないものでもない。異世界でもこのようなものがあるんだなと思わなくもないが、似非とはいえ関西弁を喋るエルフがいるのだしおかしな話でもないだろう。


 ただエルガは若干戸惑っているようにも思えるが、ただオパールはそんなエルガからは視線を外し、そしてナガレに顔を向け尋ねた。


「ところで、あんはんがナガレはんどすか?」

「はい、ご挨拶が遅れましたがお初にお目にかかります。私はナガレ カミナギと申します。今は主にグリンウッド領内で冒険者として活動しております」

「そうどすか。ふ~ん、せやてあんた、まや若いいうのに、ええおとこやんなぁ。そや、今も言うたけど、うちの前でしんどいんは抜きで、うちのことも気軽にオパールと呼んでくれてええんどすえ」

「いえ、流石にそういうわけにもいきませんので、そうですね、ではオパール様と呼ばせて頂きます」

「あんはん、なんやつれへんな~」

 

 そう言いつつ、自然にナガレの隣に席を移動し、形の良い彼の顎に手を添えつつ、流し目で訴える。

 するとローズの顔が紅く染まり、

「ジュエリーストーン卿! さ、流石におふざけが過ぎるかと思いますぞ!」

とどこかムキになって訴える。


「うん? なんや、やっぱあんはん、随分とおもてになるんどすなぁ。こないな男も知らなそなおなごたらしこんで、ほんに罪な御方どすえ」

「だ、誰が誑し込まれていると!」

「お、落ち着いて、いや、落ち着けローザ!」


 立場も忘れて怒鳴り散らすローズを、エルガが宥めて止めに掛かる。その様子を愉しそうに見ているオパールに、人の悪い方だ、とナガレを微笑を浮かべた。


「正直そう言われても、どうにも私はそのあたりのことには疎く、よく鈍感とも言われるものでどう答えて良いのか」

「――ふふっ、否定も肯定もせんちゅうことどすか。そないなところも罪深いと思うどすえ。そやけど、そないところも嫌いじゃおまへん」

「ありがとうございます」

「せやけど――そろそろ本題に入らせてもらいまひょか。先ずナガレはん、宝石竜様のお怒りを話し合いで鎮めてくれたときいております。そん事に関しいは領地を預かる身として、お礼を言わさせて頂きます。ほんまおおきにどすえ」


 オパール自らナガレにお礼を述べる。それにローズは驚いていたが、宝石竜の怒りを鎮めたということはそれだけの功績なのだろう、とそう思えたのだが――


「いえ、私は自分に出来ることをしたまでですので」

「また謙遜を――そやけど、一つだけ言わせてもろうとするなら、少々勝手が過ぎたかと思いまふ」

「……勝手ですか?」


 これまでのどこか小悪魔的な雰囲気は一変、目つきを鋭くさせ、ナガレ非難するような言葉をぶつけてきた。それに表情を変えず問い返すナガレであるが。


「そうどす。何せナガレはんが宝石竜様と約束しいはった量は、そない簡単にこしらえでけるもんやおまへん。それをうちの許可ものうて、独断で決めはったのは少々やり過ぎかと思う取るのどすえ。そやから、どうしても言うなら、そちらはんで融通してくれはんと、あんさんが無理や言うなら、責任者であるレイオン伯爵に責任とって用立てしてもらわへんとかないまへんなあ」

「ちょ! ちょっと待て! 流石にそれは無茶苦茶ではないか! 大体――」

「黙りよし! 今うちはナガレはんと話してはるんどす。確かに堅苦しいんは抜きと言わせてもらいました。そやけどな、途中で横入りしはるんは、流石に礼儀に欠けてるんさかいはらしまへんか?」

「そ、それは――」


 話を聞いていたローズが納得いかないと口を挟もうとするが、オパールに叱咤され言い返す言葉も見つからず口を噤む。


「とにかく、うちは今、ナガレはんと話しとるんどす。終わるまでお待ちおくれやす」


 悔しそうな顔をローズが見せるが、オパールは改めてナガレに顔を向け、

「さて、話の腰を折られてしもうたどすが、ナガレはん、何やゆうことはおまっか?」

「……中々意地悪な方なようですね貴方は」


 オパールの問いかけを受け、ナガレは瞑目しつつどこか含みのある言葉を返す。


「――うちの性格が悪い言うてはるんやろか?」


 すると眉根を寄せ、オパールがナガレへと問い返した。


「そういうわけではないのですが――そうですね。もしそれを本気で言っているのでしたら、私としては後はどうぞお好きにとしかいいようがありませんね。少なくともこちらにも、レイオン卿にも、肩代わりをさせられるような謂れはありませんので、宝石を献納するのが嫌であれば後は好きに交渉して貰う他ありません」


 ナガレの回答に、目をパチクリさせるが、すぐに表情を切り替えオパールが更に言葉を返していく。


「そない言うても、あんさんが勝手にしたことなのは確かやろ? その責任を放棄する言うてはるんどすか?」

「確かにあの場で、私は特に誰の許可を取ることもなく行動致しました。ですが、ジュエルドラゴンが目の前まで迫っているあの状況では、許可などとっている隙がないことは誰が見ても明らかでしょう。あの時既に宝石竜はブレスを吐く直前でした。それを食い止めなければ私は大切な仲間たちを失っていたかもしれません。ですから私は自分のやった行動が間違いだったとは思いません」

「……随分とはっきり言いなはるんどすなぁ」

「事実ですからね。それと献納する量についてもジュエルドラゴンの大きさと休眠期間とを考えれば少ない量ではないかもしれませんが、無茶ではないはずです」


 ナガレがきっぱりと言い切るが、オパールは不満そうに片眉を吊り上げた。


「……そないなこというても、あんさんとてつもなく強いのやろ? マサルいう悪ガキもあっさりとのしたきいとりますえ。それだけの実力があるんやったら、倒してしまうことも可能でしたやろ。なぜそれをしんかったんどす?」

「今回の件は宝石竜には何の罪もないからです。そもそもこの土地で最初に暮らしていたのは宝石竜の方であり、それは人間も認め宝石竜が目覚めた時には必要な栄養分の宝石を差し出すという約束で自由を許されている。そうである以上竜と人間は共存して行く以外道はない筈です。安易に倒せば解決という話ではありません」

「……あんはんの言いたいことはよう判りました。そやけど、その上でうちが宝石を差し出さない言うたらどうするんどす?」


 更に続く問いかけに、一泊置いた後ナガレが遠慮無くはっきりと答える。


「……そうですね。私はまずレイオン卿にすぐに街に出るよう進言いたします。もしもそのような決断を下す暗愚な君主であるならば、こちらも付き合いきれない故、ただその場合は街で暮らす人々を出来るだけ早く街から離れさせるよう警告だけはさせて頂きますが。何せジュエルドラゴンを再度怒らせたともなれば、この街の冒険者や騎士では束になっても勝てない、いえ瞬殺されるでしょうからね」

「……お、おいナガレ、流石にそれは言い過ぎでは――」


 ナガレの話を聞いていたローズが、慌てたように口を挟む。不敬にあたるとでも思ったのかもしれないが――


「……ふふっ、ほほ、お~ほっほっほっほ! いやはやほんま、あんさんはほんにえぇ男やなぁ。うちを前にしてそこまではっきりと言いはるのも気に入りましたどす。そやけど、うちも少々意地悪が過ぎたかも知れへんなあ」

「……は? 意地悪?」


 オパールの言葉に怪訝そうにローズが眉を顰める。するとナガレも微小を浮かべながら口を開く。


「えぇ、どうやら私は少々試されていたようです」


 そう言ったナガレに、どことなく熱い視線を送るオパールであった。


 

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