表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベル0で最強の合気道家、いざ、異世界へ参る!  作者: 空地 大乃
第五章 ナガレとサトル編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

228/565

第一九〇話 マサルのその後は?

「それで今マサルは逆に地下牢に閉じ込められているってわけね」


 厳つい顔をした中年の男へ向けてピーチが言った。筋骨隆々の逞しい男で貫禄もあり腕っ節も強そうだ。なんとなく巨大な斧を肩で担いでそうなイメージもある。


 この男の名前はドッグ。マサルによって一時的にギルドマスターの任に就かされていたが、実際はこのジュエリーの街周辺の冒険者を管理するギルド長である。


 そしてナガレ達はマサルとジュエルドラゴンの件が片付いた翌日の昼過ぎ、冒険者ギルドに再び赴いていた。昨日一度訪れ事の顛末を伝えているが、その後の対応や結果を話したいから後日のこの時間にまた来て欲しいと頼まれていたのである。


「う~んそれにしても少し同情しちゃうかもね~ボコボコにされた上、あれ(・・)の回復を受けるなんて……」

「ですが、それだけの罪を犯してしまったのも事実です」

「そっちの聖魔導師の姉ちゃんの言うとおりだ。第一どんな形であれ回復してもらえるだけありがたいと思って欲しいもんだぜ。何せこちとら犬の真似事までさせられたんだからな」


 逞しい腕を組み、ムスッとした顔でギルド長のドッグが述べた。やはりシナリオメーカーの所為とは言え、記憶はしっかり残っているためマサルにやらされたことには腹が立って仕方ないようだ。


「それで、あのマサルはこの後どうなるんだ?」


 フレムがドッグに質問すると、あぁ、と片眉を押し上げた後、教えてくれた。


「領主様の判断になるが、一応こっちからは騎士団に罪状と適当と思える刑を求めておいたがな。まぁでもほぼ間違いなくそれは通るだろ。丁度この辺りの鉱山には強制労働専用に定められてるのもあるしな」

「つまり、あのマサルは強制労働送りになるというわけですわね」

「あぁ、何せ宝石竜を無理やり起こして怒りを買いヘタしたら街が壊滅されかけたわけだし。そこのあんちゃんのおかげで事なきを得たが、それにしたって賠償金みたいなもんを用意しないといけないわけだから、当然その分の責任はあのマサルにとってもらわないとな」

「確かに少なくとも宝石竜が目覚めた原因は彼にもありますからね。ところで宝石の方は如何でしょうか?」


 ナガレが尋ねると、あぁ、とドッグは大きく頷き。


「当然言われた通りの量を用意するさ。結構脚は出るようだが、宝石竜を怒らせたら俺達が束になろうが、騎士団が出てこようが勝ち目なんてないしな。そういう意味では本当あんたは凄いぜ。竜の言葉を喋れるだけでも凄いが、上手いこと説得してくれたからな」

「当然! 何せ先生だからな!」


 ドッグの賞賛に対してフレムのほうが誇らしげに回答する。しかしナガレは褒められたからといって浮かれたりせず会話を続ける。

 

「孤児院のこともありますし、平和に解決できて良かったです」

「はい、孤児院の子供達は操られてさえいなければ皆いい子ばかりですからね」

「マリアもちょっと変わってるけど、いい人だったわよね」


 ピーチが昨晩の事を思い出しながら口にする。街の脅威がナガレの手で去った後、一行はマリアを迎えに行き孤児院へと戻った。

 

 その時マリアは勿論だが、子供達にも随分と感謝され、孤児院でちょっとした歓迎も受けたりした。その時の子供達の無邪気な笑顔が忘れられないようである。


「それにしても宝石五〇トン分の責任って、何かものすごそうだよね~」

「そりゃそうだ。ほぼ間違いなく一生をそこで費やすことになるだろう。あの野郎は働くのが相当嫌いだったそうだけどな、あの現場にいきゃそんな甘いことは言ってられないぜ。あそこは元々は一般の募集もされていたが、来る奴来る奴半日も持たずに逃げ出すほど厳しくてな、それが逆に国の目に止まって罪人用の強制労働施設として認定されたぐらいだ」

「そ、そんなに、き、危険なのですか?」


 ヘルーパがおどおどした様子で問いかける。まるで自分が強制労働する側になったかのような怯え方だ。かなり想像力豊かな子なのかもしれない。


「勿論危険もあるが、あそこの鉱山長が情け無用の鬼と称されるぐらいの猛者でな。募集かけてやってきた鉱夫希望者も、気に入らないとすぐ骨の一、二本へし折ってたような厳しい奴さ。一般の鉱夫でさえそれだったからな。罪人専用となった今は更に容赦がないぞ。初日から間違いなく全身の骨がバキバキにされる。比喩じゃなくて本気でな」

「……それ、あのマサルじゃ一日持たず死んじまうじゃないか?」

 

 フレムが力を失ったあとの彼の姿を思い浮かべ言う。確かにシナリオメーカーの力に頼れなくなったマサルは貧弱そのものだ。


「大丈夫だ。国は罪人とはいえ死刑でない限り無駄に死ぬのを良しとしないからな。鉱山にも死者が出ないようそれなりの聖魔術師は控えている。尤もそれなりだからすぐに回復できるわけじゃないし、夜は痛みで眠れない日が続くと思うけどな」

「ほ、本当に過酷そうね……」

「まあな。ああでも、回復出来ると言っても男なら片金潰れるぐらいは覚悟したほうがいいだろうけどな」

「か、片金……」


 ローザが顔を真っ赤にさせながら呟いた。初だなねぇちゃん! と大口を空けて笑いながらドッグが言う。


「何せあの鉱山長は片金潰しという異名も持ってるからな。あいつ見た目は怖そうに見えないから、大体最初は舐められる。そんな舐めた野郎の片金を手に持ったハンマーでぶっ潰すのさ。あそこに送られた奴は初日に先ずこれをされる。いて~ぞ、あれは」


 その話に思わずフレムとカイルが前かがみになっていた。ナガレは平気そうだが。


「まあ、つまりだ。あいつはほぼ間違いなくここで一生働き詰めの毎日を送ることになるだろうってことだ。それでも宝石竜に差し出す分の補填分と考えるにはごく僅かでしか無いがな」


 つまりマサルはこれまでずっとまともに働いて来なかった分のツケをここで一気に返すはめになったということだ。


「仕方ないですね。ですが彼は努力が人一倍好きなようでしたし、ある意味本望かもしれませんね」

「な、ナガレってば、結構皮肉が効いてるわね」


 半眼でピーチが言う。勿論ここにいる全員、マサルが本気で努力が好きだなどと思っていないからだ。


「だがな、どっちかというとあいつの処分より正体の方が謎だぜ。転生者だっていうのは聞いたけどよ」

 

 マサルがどこから来たかなどについては昨日のうちにナガレから説明していた。元々この世界にはいなかった人間である故、隠しておくわけにもいかなかったからだ。ちなみにナガレに関してもその時の会話から、ルルーシ一行やクリスティーナ、ヘルーパ、そして孤児院の子供達にも正体は知られてしまっているが、他の世界から来たんだ、という確認程度の話に留まり深くは聞いてこなかった。


 正直ナガレの実力は他の世界に来たなどということが馬鹿らしくなるぐらいでたらめなものなので、異世界人であるなどという真実はどうでもよく思えてしまったとのこと。勿論ナガレを信頼しているため敢えて聞いてはこなかったというのもあるのかもしれないが。


 その為、ナガレが他の世界の住人であることは、マサルと対峙した際に周囲にいたものの胸に留まる程度で済んでいる。


「転生者って事以外に何か問題があるの?」


 ピーチがドッグへと尋ねる。すると、大ありだな、と応じ。


「大体転生者ってのは本来母体から産まれてくるもんだ。つまり転生者であっても産まれてきた記録は残ってるもんなのさ。だけどな、ナガレの説明だとあれは赤子として生まれたのではなく、成長した状態でやって来ているんだろ?」

「はい、それは間違いないですね」

「それがわかんねぇんだよ。成長した状態で来るのは特殊な召喚しか方法がないからな。それ以外で異世界に来る方法なんて知らないし、そんな話も俺は聞いたことがないぜ」


 一瞬全員の視線がナガレに向けられた。ギルド長は知らないが、何せその生き証人が目の前にいるのだ。尤もナガレの場合は転生ではなく自ら時空の扉をこじ開けてやってきたようなものなので、全く参考にはならないだろうが。


「それに関して言えば恐らくですが、マサルの身体に関しては後から形成されたものと思います」

「え? 後から?」


 ピーチが目をまん丸くさせて口にする。他の皆も、どういう意味なのか? とナガレから続く言葉に耳を立てた。


「後からというと一体どういう意味なんだ?」


 そして改めてギルド長から問われナガレが答える。


「はい、マサルが前の世界で命を失った――これに関しては間違いのない事実でしょう。そして死んだ後魂が肉体を離れその後の運命は神のみぞ知るところといったところ、ですがそういった魂の幾つかは全く異なる世界に引き寄せられてしまうことがあり、マサルもその一つになる筈だった。魂だけがこの世界にやってきて、そして何もなければ先ほどドッグ様の言われたように、誰かの母体に宿り赤子として先ず生を受ける――ですが、そこに一つ予期せぬことが起こった。つまりマサルの魂が移動してきた直後、マサルの魂を引き寄せる依代がその近くにあり、そこへ彼は引き寄せられ、そして前の世界にいた頃と同じ姿に形成された――」

「……それが真相ってか? ははっ、全く普段ならそんな与太話誰が信じるか! と怒鳴り散らすところなんだけどな」


 なんとも言えないといった笑みを浮かべつつ、だがな、と続け。


「だけどまあ、あいつの持っていた能力は確かに記録でも残ってないような厄介な代物だったしな。あの手の変わったスキルというのは異世界からやってきた連中が時折持つことがあるようなんだが、そういう意味では転生者であることは間違いなさそうだし、それに俺は正直あんたが嘘をつくとも思えないんだよな。初対面なのに不思議な事だが、妙に人を信じさせる何かがあんたにはある。まあ宝石竜と話し合い出来るような人物だしな。本当見た目はまだまだ青臭そうな餓鬼なのにな」


 腕を組み目を眇めながらドッグが言う。確かにナガレは見た目だけなら一五歳である。あくまで見た目だけならだが。


「とは言え、流石にその話を聞いて、はいそうですかってわけにもいかねぇから、念の為戸籍や近くで許可された召喚はなかったか。もしくは無許可の召喚がなかったかは調べさせてもらうよ。ギルド連盟へ報告書も上げるからかなり広範囲で調べることになると思う――が、どっちにしろあいつの運命は変わらないけどな」


 ギルドとしては罪人になったとはいえ一応身元は判明させておきたいといったところなのだろう。勿論それだけ調べて何も出なければナガレの話がそのまま採用されることになるであろうが。


「まあどっちにしても力がなくなったならあいつも何も出来ないだろ。後は思う存分働かせてやるさ」

 

 そこまで口にし豪快に笑い声を上げた後は、今回の報酬の話になるが――


「何せマサルにしろジュエルドラゴンにしろ急な話だったからな。計算にはちょっと時間が掛かりそうだ。だけどこっちもあんたらの現状は理解しているしな、出発までにはなんとか計算するよ。それと今後のことだが、領主様がナガレ、あんたには直接会っておきたいそうなんだ。聞くところによるとグリンウッドの領主様がジュエリーストーン卿とこれから会うんだろ? その時に同席するって形に落ち着くんじゃないかとは思うけどな」

「そうですか。それであれば私もその意向に従います」

「ああ、そうしてくれ。後は、おい! ルイダ! お前も挨拶しておきたいんだろ。俺の方はもう終わったからよ」


 ドッグに呼ばれ受付嬢のルイダがカウンターを挟んで対面する。その頬は妙に紅かった。


「あ、あの! この度は、マサルの件解決して頂きありがとう、ご、ございました! 本当に、あのままだったらきっと私あいつに――」


 そう言って何度も頭を下げるルイダに、気にしないでください、と相変わらずの良い笑顔で返すナガレであり――


「うぅ、またナガレ……」

「う~んナガレっちは相変わらずモテるねぇ。おいらも負けるぐらいだよ!」

「え? カイルってモテてたの?」

「酷いよローザ!」

「あの顔、ルイダって受付嬢も先生の凄さに感激して尊敬しているってわけだな! 流石先生だぜ!」

「尊敬って……フレムは本気でそれだけだと思ってますの?」

「うん? 他に何があるってんだよ?」

「あはっ、こ、これはクリスティーナも、く、苦労しそうですね」

「は!? な、何がよ! ちょっとヘルーパ! お、おかしな勘ぐりはやめないと、いくらヘルーパでも、ゆ、許しませんことよ!」

「お前らさっきから何の話をしてるんだ?」


 本気で判っていないフレムを見ながら苦笑するカイルとローザである。


 そしてそうこうしてる間に戻ってきたナガレに、結局どんな話だったのナガレ! と尋ねるピーチ。

 それに、

「何か食事に誘われたのですが、護衛の件もあるのでまた次の機会にと――」

と何のためらいもなく答えるナガレに肩を落とすピーチであった。


 尤もナガレは本当にただ食事を(皆で)一緒にするぐらいの感覚であるわけだが。


 何はともあれ話も終わり、冒険者ギルドを後にする一行であった――

今回戦った転生者、マサルのステータスと概要です。


ステータス

名前:マサル タダノ

年齢:25歳

性別:♂

称号:異世界からやってきた具現妄想家

レベル:1

生命力:5/5

魔力 :0/0

攻撃力:3

防御力:2

敏捷力:2

魔導力:0

魔抗力:0


アビリティ

思い込み


スキル

シナリオメーカー・演出効果


・思い込み

シナリオメーカーの効果を上げるアビリティ。


・シナリオメーカー

自分の妄想したシナリオを効果範囲内で具現化させる。効果範囲内にいる生物は彼の考えたシナリオの影響を受け、彼のシナリオに準じた言動を行うようになる。

ただしスキル保持者が想像及び到底思いつくことができないような事柄は具現化出来ない。


・演出効果

シナリオメーカーで行使するシナリオに演出を加える。演出は通常ではありえない(スキル保持者の力では本来不可能な)現象を起こす際に発動する。例でいえば相手が大げさに吹き飛ぶ、爆発する、壁が粉々に砕けるなど。また建物の形を変えたりもこの演出効果によって成される。これら演出によって起きた現象はシナリオメーカーの能力が失効されると全て元通りになる(あくまで演出なので)。


概要

地球では高校を中退し、家に引きこもり仕事もせずニートを続けていた男。親に三行半を突きつけられ家を追い出された後もとにかく働くのが嫌で最低限の日雇いのバイトしかしてこなかった。トラックに轢かれ死亡したことで魂が異世界に飛び、何故か用意されていた依代に入り込むことで肉体も再生された。その際に手に入れたシナリオメーカーの力でジュエリーの街とその周辺をを自分好みの物に作り変え、チートでハーレムな人生を満喫しようとしたが、本来罰せられる必要のない者まで自分の都合で悪人に仕立てあげたことでナガレを怒らせてしまい力を消失させられ更にナガレの合気によって(一時的に)星にされる。その後は流れ星としてギルドに落ち、さんざん好き勝手やらかしたお返しに冒険者達やギルド長からボコボコにされ、更にダンショクに回復の明目で美味しくいただかれた後地下牢にぶち込まれた。予定ではジュエルドラゴンを怒らせた罪も含めて一生鉱山で強制労働の運命が待っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ