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第一八七話 ドラゴン襲来

「見事に星になったわねあいつ……」

「先生は流石です! だけど一発ぐらい殴りたかったかもしれません……」


 マサルがナガレの合気によって遥か空の彼方まで打ち上げられ、見えなくなってしまってからピーチが半眼で訴え、フレムは何かすっきりしないといった口調で述べる。


「でも、あれ死んじゃったの?」

「ふむ、あそこまで上空まで飛んでは生きてはいないでしょうな」

「ですが、あれの場合は自業自得でしょう」

「そうなのかもしれませんが、ですが大丈夫ですよ。しっかり生きてますし、彼にはこの後もしっかり自分のやったことの責任をとってもらう必要がありますから」

「え? でも流石にあれだけ飛ばされて無事だというのは無理がありそうですが……」

「確かに普通に考えればそうかもだけど、ナガレっちだからな」

「はい、ナガレ様でしたらそれぐらいは当然のように出来てしまいそうですね」

「何せ先生だからな」

「ナガレなら全く不思議ではないのよね」


 ナガレの言葉に半信半疑だった者たちも、フレムやピーチ、それにカイルとローザが当たり前のようにナガレなら問題ないと口にしたことで、きっとそうなのだろうと納得したようだ。


「でもナガレ? そうなるとあいつまたここに落ちてくるの?」

「いえ、子供達も流石にもう見ているのも嫌でしょうし、それにこれからのことを考えると正直邪魔ですからね。なので彼には後にしかるべきところで罰を受けてもらうとして――」


 そこまで話すと、ナガレはふと向きを変え、今の位置から北側の上空を眺め目付きを鋭くさせる。


「さて、どうやら来客のお出ましのようですね」

「え? 来客って――」

『グォオォォォォォオォオォオォオオォオオオ!』


 ピーチが怪訝な表情でナガレに尋ねたその直後、空を割るような咆哮が街中に響き渡った。

 あまりのことに、街全体に緊張が走り、次から次へと住居から人々が飛び出してきたり、窓を開けて上空を見上げたりといった状況に。


 そしてナガレの視線の先で、そのシルエットは段々とその姿をはっきりとさせていく。


「あ、あれってもしかして竜?」

「はいお嬢様、あれは確かに竜でございます」

「もしかしたら、この地に眠ると言われているジュエルドラゴンでしょうか?」


 その言葉に孤児院の子供達もざわめき始めた。


「でも、でも変にゃ! ジュエルドラゴンは、確かに私も襲われた記憶があるにゃ。でもそれはあのマサルって奴の想像だったんじゃないかにゃ?」

「……確かにマサルのシナリオメーカーの力があれば、実際には存在しない物もあたかもそこにいるように見せることが可能です。彼が倒したと豪語していた多くの魔物はほぼソレであることに間違いありませんが――ただジュエルドラゴンだけは恐らく事前に情報としてあったのでしょう。故にジュエルドラゴンそのものに彼の力が干渉してしまったのです」

「で、でもそれならマサルが倒した筈なの! 腹のたつ奴ではあったけどそれは聞いたなの!」

「にゃ、確かに倒していた記憶はあるにゃ」

「それはあくまで彼の描いた物語の中での話ですね。それを具現化するのが彼のスキルの力ではありますが、あくまでそう見せているだけなのです。故に先程のピーチとフレムも全く怪我を負っていなかった。あれはピーチとフレムが倒されたという演技を強制的にさせられていただけ、そしてそれはあのジュエルドラゴンにも言えることなのですよ」

「な、なんて傍迷惑な能力なのかしら……」

「あの野郎とんでもない置き土産残していってくれたもんだぜ……」

 

 近づいてくるジュエルドラゴンを認めながら、ピーチとフレムがうんざりだと言った表情で口にする。


 確かにこれはとんでもない置き土産といえるか。翼を広げ近づいていくるジュエルドラゴンはジュエリーの街の三分の一を覆える程に巨大であり、宝石のように綺麗な鱗と強靭な爪牙を備えた竜である。


 竜は魔物とは違い竜種という種族として扱われ、その点では魔獣と通じているものもある。しかしその能力は魔獣をも遥かに凌ぐとされており、とくにこの地方においてジュエルドラゴンは決して抗うことの出来ない圧倒的な存在としても崇められていたりする。


 そのジュエルドラゴンが近づいてきているのだから、当然街中が戦々恐々としているのも理解できるというものだ。中にはこの世の終わりじゃ~~~~! などと涙して叫びまわっているものまでいる。


「にゃ、レベル4500万のジュエルドラゴンが目覚めたなんて、本当に最悪にゃ……」

 

 そしてジュエルドラゴンを見上げながらペルシアがしゅんっと耳と尻尾を垂らした。

 確かにレベル4500万が真実なら途方も無い相手と言えるが――


「いえ、流石にレベル4500万というのはマサルの作った大げさな数値ですよ。実際のジュエルドラゴンのレベルは450ですね」

「え? そうなのナガレっち?」

「はい、それは間違いありません」

「な、な~んだ驚いて損しちゃったわね」

「確かにレベル450程度なら俺達でもなんとかなりそうだぜ!」


 ナガレの補足を聞き、その場に安堵の空気が立ち込める。

 子供達もどこか希望が出てきたような明るい表情に変化していくが。


「な、何を馬鹿なこと言ってますの! 450ですわよ450! 流石に皆さんどうかしすぎですわ! S級の冒険者が束になっても勝てる気がしない途方も無い数字ですのよ! あんなのが街にやってきたらすぐにでも壊滅させられますわ!」


 一人冷静、とも言えないかもしれないが、クリスティーナだけがその安心しきった怠慢ぶりに喝を入れた。


 4500万の後の450だけに、ついついこれは楽勝なのでは? といった錯覚が起きてしまっていた彼らの中で唯一クリスティーナだけが数字に惑わされずに現実を見ていたようである。


「あ!? ドラゴンが何か! 何かしようとしてますにゃ!」


 ペルシアが声を上げた。指で示されたジュエルドラゴンの口が大きく開かれ、綺羅びやかな光が外に漏れ出している。


「あ、あれは、も、もしかして炎のブレス?」


 不安を顔に貼り付けヘルーパが言った。ドラゴンといえば、その攻撃方法としてあらゆるものを溶かし滅する炎が有名である。


「いえ、ジュエルドラゴンは炎は吐きません。その代わりにジュエルブレスと言うスキルを持っており、宝石を大量にばら撒きます」

「ほ、宝石? 先生、それはむしろありがたい話ではありませんか?」

「それはとんでもない勘違いですぞ」

「え? セワスールは知ってるの?」

「聞いたことがあります。ジュエルドラゴンのジュエルブレスは万を超える宝石を超高速で吐き出すと。その威力は山や大地を蹂躙し荒れ地に変えてしまう程、そんなものを使用されてはこの街もただでは済まないでしょう」

「……これは参りましたね。そのブレスが今まさに放たれようとしています」


 セワスールの解説を聴き終え、ナリヤが緊張の声を発す。

 確かに既にジュエルドラゴンはブレスを吐く準備が整っている様子。まだ距離はそれなりに離れているが、それでも一度放たれたならその余波は街全体に及ぶことだろう。


「確かに何もしなければ街に壊滅的に被害が及ぶことは間違いないでしょうが――させません」

「え?」


 ナガレが決意の篭った声音で発すと、ピーチを含めた全員の視線がナガレに向けられた。

 すると彼の手がゆっくりとした動きで回転を始め、その動きに合わせるよう空気の流れも大きく変わった。

 合気陣が展開され、その中に滞留する大気も合気の手中に収められていく。

 


 その瞬間、ジュエルドラゴンの喉が大きく膨らみ、かと思えば大量の宝石が散弾の如く勢いで放出された。


 万を超す宝石の大群は、ドラゴンの超大な肺活量とあいまって、馬鹿げた加速で猛進する。

 螺旋状の回転と相まってその威力は絶大。一発一発が家屋の数十軒を余裕で破壊出来る威力を誇る。


 だが――ナガレの合気は、その脅威を全て受け止めた。ナガレの合気によって大気が上質な絹で出来たカーテンの如く様相に変化し、迫る宝石の弾丸を逃すことなく優しく包み込んだのである。


 そして受け止められた宝石はそのまま真上に跳ね返され、更にナガレの腕の動きに合わせて網の如く変化した大気に引っかかりその光景を一変させる。


「うわぁ、綺麗――」

「夜でもないのに、満天の星空を見ているみたいです……」


 ピーチが瞳をキラキラさせ、ローザもどこかうっとりとした表情で評した。


 ジュエルドラゴンの襲来に畏怖し怯えていた子供達も、そして街の住人たちも、一変した綺羅びやかな空の様子に感動し、その恐怖もすっかり消え去ってしまったようで、中には神じゃ! これぞ神の奇跡じゃ! と祈りを捧げる人まで現れ始めている。


「さて、ではこちらも話を(・・)つけますか」

「あ、先生どちらへ!」


 ナガレが空中へと飛び出し、それを目で追いながらフレムが叫びあげた。

 しかしフレムの疑問はすぐに解消されることとなる。

 ナガレが飛び出した位置には、一体何が起きているのかと首を捻るジュエルドラゴンの姿。まさか己の放ったブレスが全て受け止められるなど想像もしていなかったのだろう。


 そんなジュエルドラゴンの目の前でナガレが動きを止めた。

 それに、え!? と一様に驚きを見せる。

 何故ならナガレはジュエルドラゴンの目の前、つまり空中で完全に静止していたからだ。


「う、うそ、ナガレってば浮いてる……」

「うぉおぉぉぉぉおお! 流石先生だ! まさか空も飛べるなんて!」

「う~んナガレっちなら不思議じゃないと思えてしまうのが逆にすごいけどね」

「ナガレ様、まさに神様のようです……」


 まさに全員が驚きを隠せないといった様相。だがナガレの合気にかかればこれぐらいは造作も無いこと。しかもこれはジュエルドラゴンのブレスを防いだ合気の応用でしか無い。


 つまり足元の大気をナガレは脚の僅かな動きで受け流し、そして足元で循環させ空中で足場を作っているにすぎないのだ。

 そして当然だが更に応用すれば空を飛び回ることもナガレには可能である。


 そうナガレの合気はそのからくりが判ってしまえばそこまで凄いことをやっているわけではない。全て基礎からの応用にすぎないのである。


「で、でも彼、一体あんなところで何をしているの? あのままじゃ、食べられちゃうじゃない!」

「しかし、あの堂々たる佇まい、ジュエルドラゴンを前にしてあの風格はとてもあの年齢で滲み出るものではない……誠に凄まじい少年ですぞ」

「セワスール様のお気持ちも判ります。正直Aランク冒険者でも、いえSランクですらドラゴンを前にあれだけのことが出来る人物はいないでしょう」

「当然だぜ! 何せ先生だからな! そして見てろよ! 今すぐにでも先生が、ジュエルドラゴンをぶっ飛ばしてくれるからな!」


 フレムが想望の眼差しでナガレを見ている。だが、次のナガレの行動は予想外の形で彼らを驚かせた。


「グォ、グォグォグォ、グィルゥ、オグォ?」

『オゴッ!? グォルォ? グォグォグォグォン!』


 へ? とピーチの目が丸くなる。そしてそれは周囲の皆にして同様であった。

 それも当然であろう。何せナガレ、唐突に見ている者には意味不明な鳴き声のようなものでドラゴンと会話のようなものをし始めたのだ。


 だがその様子にいち早く気がついたものがいた。ピーチである。


「そ、そういえばナガレって突然ゴブリンの言葉を喋ったり、オークの言語を理解したりしていたのよね……」

「なんと! ではまさか、ナガレ殿は竜の言語すらも理解できているというのか!」


 多分、とピーチが答える。そしてフレムは再び感動し、先生凄すぎる凄すぎるぜ! と涙まで流し始めた。

 マサルは紛い物とはいえ五〇〇〇を超す言語を使いこなすと豪語していたが、ナガレはそれどころか、異世界のゴブリンからドラゴンに至るまでの言語を一言耳にしただけで理解できてしまうのだからやはり格が違った。


「でも一体何を話しているんだろうねナガレっち……」


 カイルがふとわいた疑問を口にし、そして当然それは一様に気になるところであったようだ。

 ただ、見ている限りドラゴンは何やら怒っているようで、唸り声を上げたりと最初はナガレを威嚇している様子も感じられた、のだが――


「グォン、グォグォグォ、ドラッ?」

『ドラッ? ドラドラドラドラドラ! ドラグッハ~』


「……あのドラゴン何か笑ってない?」


 そう、ピーチがまさに今述べたように、いつの間にかナガレの巧みな話術によってドラゴンに笑顔も見れるようになっていた。そう、談笑である、談笑なのである。いつの間にかナガレはドラゴンと談笑出来るまでに、すっかり打ち解けてしまっていたのであった――

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