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第一八四話 続くマサルの迷推理

「え? 違う、なの?」

「最高神の知識すら凌駕するマサル様の推理が、は、外れたというにゃ?」


 ペルシアとキューティーが驚きに目を見張り、周囲の女の子達がざわめきだす。

 マサルも思わず戸惑いの表情を見せるが――すぐに、ふっ、と髪をかきあげ。


「何をわかりきった嘘を。第一お前のその髪と目とそれに和製の出で立ちは明らかに地球のものだろうが!」

「ええ、そういう意味で言われるなら確かに私は貴方と同じ地球人ですね」


 その答えに、ホラ見たことか、とマサルはドヤ顔で胸を張った。


「あの、マサル様――」

「うん? なんだ?」


 すると、一人の幼女が恐る恐ると言った様子でマサルに尋ねてくる。


「あの、今あの方がマサル様と同じだと言われたような……」

「た、確かに私も聞いたなの!」

「にゃ~私もそう聞こえたにゃ~」


 少女たちから疑問の声が上がると、マサルは彼女たちを振り返り、一つ頭を下げ述べた。


「すまない、お前たちには黙っていたが、確かにこの俺は他の世界からやってきた転生者だ」

「にゃ!? そ、そうだったにゃ……確かにマサル様は他の人とはどこか違うなと思っていたにゃ」

「本当に申し訳ない。騙す気などなかったのだがな」

「そんなことで謝ることないなの! マサル様は転生者でも私達の救世主で神よりも神々しい創造主であることに変わりはないなの!」

「あ、でも、どうして転生されたかは気になるかも……」

「そんな、流石にそこまで聞くのは恐れ多いのでは……」

「いや、構わないさ」

 

 少女たちに質問にマサルは包み隠さず答えていく。威風堂々とまさに王者の風格で。


「この俺は地球では生まれた時から神童だった。二歳児で母国語を完璧にマスターし東都大学の難問を次々と解き明かし、三歳の時には五〇〇〇以上の言語をパーフェクトに使いこなし、四歳でオリンピックの記録を全て塗り替えた。勿論小中高と一貫して成績はトップ、バーカーノ大学を主席で卒業し数多くの博士号を習得し、発表する論文は全てネクターに載りギネスも数多く塗り替え、アイルビーバック細胞を発見し遺伝子学に革命を起こし、ノーベル賞は毎年の用にノミネートされそして全て受賞してきた。料理の腕は神の舌を持つ男も唸らすほどで、アカデミー賞にも選ばれ、勿論仕事も超一流で世界の資産の九九.九パーセントはこの俺が稼ぎだしたほどで、俺がいなくなることは世界の損失であり、俺が地球からいなくなることで世界は一億回は破産すると言われたほどだ」

「な、何かよくわからないけど、マサル様が凄いというのは判ったなの!」

「やはりマサル様は元の世界でも神を超えた偉大な存在だったにゃ!」

「でも、それだけの貢献をしたマサル様がなぜ転生したのですか?」


 少女の一人が感じた疑問は当然のものだろう。だがマサルは憂いの篭った瞳で空を見上げ、愚かだった地球を憐れむように呟いた。


「出る杭は打たれる――世の中には愚かな人間というものが多い。いや俺以外の人間全てが愚かだと言えるだろう。それが消えることで起きる影響を察することも出来ず、ただ自分と違う存在を畏怖し、そして――平気で裏切る」


 悲しそうに呟くマサルから全てを察した少女達がまるで自分の事のように涙した。


「だが、どうやら神は違ったようだ」

「え? 神様にゃ?」


 そして続くマサルの言葉にペルシアが目を丸くさせ尋ねる。


「そうだ。俺は地球で愚かな連中の策略で肉体こそ失ったが、魂まではやつらでもどうしようもない。そしてこの俺の高貴な魂は神さえも魅了し、天界に呼ばれ、神と対峙した」

「な、なんとマサル様はやはり神様に認められていたなの! 神と対峙するなんて凄いことなの!」

「ねえナガレ、これいつまで続くの?」

「そうですね、とりあえず気が済むまでやらせてみましょう」


 愚かな連中はマサルのありがたい教義を聞いても退屈そうにしていた。その様子に、まさに釈迦に説法だな、と彼らを小馬鹿にする。


 するとナガレという男の周囲の連中が奴に言葉の意味を聞いていた。全く頭のわるい連中だ、と改めて連中の知性の足りなさに呆れ顔を見せる。あのナガレという男の説明を聞いた連中が、ぷっと吹き出しているのが癇に障ったが、愚かな者達にマサルのありがたい教義など理解出来るはずもないのだろう。


「神はこの俺に言った。この世界を救えと、だから――俺は神を殴ってやった。思いっきりな」

『ええぇえええぇえええええぇええ!』


 少女たちが一斉に驚く。その様子にマサルは逆に驚いた。なぜそんなことでそこまで仰天されることになるのかと。


「何だ、神を殴るぐらいどうということではないだろう?」

「いやいや凄いことにゃ!」

「そんな事出来るのはマサル様ぐらいなの!」

「そうか? だがな、あの神は俺にこう言ったのだ。孤児院など放っておいて世界を救えと。この程度の小事など、これからお前が成すべき大事の前では些細なことで構うべきではないとな。それが許せなくてついつい殴り、俺は勝手にやらせてもらうと言い捨てこの世界にやってきたわけだ」

「え? そ、それじゃあ……」

「マサル様は私達の為に、わざわざ神様を敵に回すような真似をしてまで――」

「凄いことにゃ! やはりマサル様は私達の救世主であり偉大なる師父にゃ!」


 少女たちが目をキラキラさせてマサルを崇めているが、よせよせこれぐらい人として当然のことさ、とマサルは優しい笑みを少女達にぶつけた。


「でもマサル様、そうなるとあの男は?」


 少女の一人がナガレに目を向けながら問う。するとマサルは、ふん、と鼻を鳴らして答えた。


「今の話が答えさ。そして俺がさっき語るに落ちたといったように、あいつ自身がこの孤児院を貶める為にやってきたことを吐露してしまっていたのだ」

「にゃ、にゃんと!」

「そ、それはつまりどういうことなの?」

「つまり、あの男はこの俺が殴った神が俺への嫌がらせの為によこした転生者ということだ」


 少女たちがざわめきはじめる。一方でナガレ達の視線が冷たいが、やはりあの連中の脳みそではマサルの科学に裏付けされて証明された完璧な解を理解することが出来ないようだ。


「まさか神がそんなことをするなんて驚きにゃ」

「やれやれ神とはいうが、あんなのは俺からしたら近所の野良犬とそう代わりはしない。きゃんきゃんとうるさいだけだしな。いや野良犬のほうがまだ可愛げあるかもしれない。何せあの神は神というわりに髪はないし心も狭い」

「か、神に向かってそこまで言えるのはマサル様ぐらいなの」

「そうか? こんなものは生まれたての赤ん坊にだって言えることだぞ?」

「マサル様のスケールの大きさには驚かされるばかりです。ですが、あの者は神に見初められたということはそれだけの力がお有りなのでは?」

「そ、そうにゃ! それだけの相手ではマサル様とはいえ流石にピンチ言えるかもしれないにゃ!」

「あっはっは、なるほどなるほど。確かにお前たちのその心配もわかる。だが何の問題もないさ。なぜならあいつは所詮はまがい物でしかないからな」

「ま、まがい物なの?」

「そうだ。例えばそうだな、お前達、あのナガレという男を見てひょっとすれば俺ほどではないにしても多少はかっこいいなどと思ったのではないか?」

「え?」

「そ、それは……」


 途端に少女たちが戸惑い始めるが、マサルは、よいよい、と彼女達の頭を撫でてやる。


「確かに空前絶後の美の化身すら超えた究極の偉丈夫たる俺に比べれば多少は落ちるものの、あれはそれなりに整った顔立ちをしているからな。だがな、騙されては駄目だぞ。何せあの男はあの容姿自体が偽物なのだからな」


『え!? 偽物!』


 少女たちが一様に一驚を喫した。その様子にマサルは、うん? と思案顔を見せる。


「おいおい、まさかお前たち気がついていなかったのか? こんなことちょっと考えれば判るだろ?」

「ま、マサル様、大変恐縮ではございますがにゃ。マサル様の慧眼は我ら凡人には計り知れず」

「そうなの、私達がマサル様のごとく神の領域に達するには一〇〇億年あっても足りないぐらいなの!」


 やれやれ大げさだな、と答えつつ、何故そのような結論に至ったのかを話して聴かせる。


「特に難しいことではないさ。あの男は神に頼まれただけでいやしくもこの俺を貶め、そしてこの孤児院を奪おうとした。奴が洗脳と言っていたのはつまりそういうことで俺が洗脳したものだと言いがかりをつけつつ、実は自分自身が皆を洗脳する為だったに他ならない。つまりあの男は俺が憎いのだ。それはつまり、この俺という光が羨ましいという気持ちの裏返しでもある。つまりこの俺がお前たちに永遠の温もりと輝きを与える光の化身なら、やつはまさに地べたを這いまわるしか能のない邪悪な影。それは生前も変わらないのだ」


 そこまで口にし、つまり、と更にマサルは言葉を紡げていく。


「奴はこの俺と同じ世界にいた時から負け組。この俺が生まれた時から神の如き才能を発揮していたのとは逆に、奴は生まれた時から負け組だったというわけだ。きっと学校もろくにいかず、自らを産んでくださった親の心も知らず、家の中で引きこもり、ろくに仕事もせずに自堕落で怠惰な生活を続けていたのだろう。しかしそんな奴を遂に親が見かねて家を追い出した。だが奴はそれを理由に自分をここまで養い食わせてもらった恩も忘れ、両親を憎むという愚かな責任転換に至り、それでも働かねば食って行けないからと仕事をするもやはり長続きせず、間取りが二畳半というこの世界にも中々ないようなおんぼろアパートで暮らし、最低限の日雇いの仕事を渋々続けながら、趣味といえばネットに接続し匿名掲示板で愚痴をこぼしたり成功者への妬みを書き込んだり、そして無料で読めるWeb小説などにハマり、異世界に転生したり転移した無職でニートの主人公が偶然にも手に入れた棚ボタチートで最強になってやれハーレムだやれ現代知識だを披露し流石ですご主人様! などと持て囃される安易な内容の小説に没頭し自分を重ね合わせ、俺もいつか転生してチーレムな世界を満喫するんだなどといった現実逃避をする、そんなただ時間を無体に浪費する意味のない人生を送り続けたに違いないのだ」

「それはなんて哀れな男にゃ」

「もっと現実を見るなの!」


 ナガレという男を指さしペルシアとキューティーが現実を突きつける。言われた男は一見平然としているが、図星をつかれ心を抉られ今にも泣きそうな心境だろう。


「だがあの男にも奇跡が起きてしまった。きっと歩きながらスマホに熱中していてトラックに轢かれたなどというくだらない理由なのだろうが、その結果やつは神の気まぐれてチートな力を手に入れこの世界にやってきたわけだ。だが、勿論そのような男が、本来あのような姿な筈がない。つまりあの男は神によってこの異世界に送られるときに容姿も変えてもらったのだ。そう奴という男は自分に自信が持てず、だから安易に神に頼り、与えられた偽物の入れ物と安易なチートをまさに棚ぼたで受け取っただけな、そんな哀れなピエロに過ぎないのだ」

「全くろくでもない男にゃ!」

「同じ転生者でもマサル様のように生前から才能に恵まれ、にも関わらず自身を戒めることを忘れず、努力に努力を重ねて神を超えた領域にまで達した御方とは大違いなの!」

「おいおい、それは些か褒め過ぎだと思うぞ? それにだ、あのような男を生み出してしまったのは実はこの俺にも責任があるのだ」

「何を言うにゃ!」

「天上より上の位に位置するマサル様に一体なんの責任があるというなの!」

「だからさ。この俺はあまりに高みに行き着きすぎたため、あのナガレという男のような底辺で哀れな人生の落伍者にまで目が回らなかった。もしこの俺が気づいてあげていれば、彼のような犠牲者を生まなくてすんだのに……」


 マサルは憂いの表情でナガレをみやる。その御心に、少女たちが一様に感動し涙した。


「マサル様は凄いなの……」

「あのような愚劣な輩にまでお手を差し伸べようなど、中々出来ることじゃないにゃ」

「ふっ、これぐらい当然のこと。世界を導く宿命を背負いし者ならそれぐらいは当然考えるものだ」


 そこまで述べ――だが、とマサルはその目付きを鋭くさせ語気を強めて言葉を放つ。


「それでも奴は、そうこの俺の慈悲深い気持ちをないがしろにした奴は、事もあろうにこの孤児院を奪おうとしている。それはつまり神を越えし存在のこの俺に対しての侮辱でもある、それはどうしても許しておけん!」

「ま、マサル様がお怒りになるのは当然の事にゃ」

「でも、なんで奴は孤児院なんて狙うなの?」

「なんだ知らないのか? いいか、あのような男は生前ラノベだアニメだなどといったサブカルチャーにはまり込んだ人種だ。だがそれ自体はいい。趣味は人の心を豊かにする。だが! 奴はそれにはまりすぎたばかりに、二次元の女かリアルにおいても三歳児~一四歳児程度までの女の子にしか興味が持てなくなってしまったのだ! 勿論頑張れば一九歳ぐらいまではギリギリいけるかな? みたいなところがあるのかもしれないが、ハーレムを築く上で奴にとって一番重要なのは幼女や少女! しかも処女限定――そう、つまり奴はそのような歪んだ性癖の持ち主であり、故にこの孤児院を狙いお前たちを手中に収めようとしているのだ!」

『キャ~~~~~~~~~!』

「き、キモイにゃ! 最低なクズ野郎ですにゃ!」

「私、全身に鳥肌が立ったなの!」


 マサルの見事な推理が爆発し、少女達の悲鳴が辺りに広がった。その目は先程よりも更に険しくなり、一様にナガレに侮蔑な視線を向けるのだった――

次の更新は日付の変わる0時頃に出来ればなと思います

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