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第一八三話 マサルとナガレ

「マサル様は流石なの!」

「にゃ~本当にゃ~マサル様のおかげで孤児院はまた豊かになるにゃ~」

「ああ、別に大したことじゃないさ。それに、今日はお前たちも随分と役立ってくれた」

「そ、それじゃあ、マサル様、か、帰ったらいい子いい子してくれるなの?」

「あ、ずるいにゃ! 私だって少しは……」

「大丈夫だ、ふたりともちゃんと後で撫で撫でしてやるし、夜は添い寝だってしてやる」


 マサルの回答に、少女ふたりは大いに喜んだ。その姿は微笑ましくもあるが――だがマサルはどこか腑に落ちない表情で、

「ところで……ナガレって誰だ?」

と問いかける。しかし少女ふたりは小首を傾げるだけだ。ということはふたりにも見に覚えのない人物であり、街にやってきたばかりの冒険者といったところかとマサルは判断する。


 リッツに武器磨きをさせ報酬を支払うという事は、依頼人ではなくギルドに登録している冒険者である可能性が高いからだ。しかしもし街に元々いる冒険者ならば、リッツにお金など絶対に支払う筈がない(・・・・・・)


 そうなると――マサルとしては一度ぐらい顔を合わせて置く必要があるかもしれないと、そう考えた。


(まあ、冒険者ごとき大したことじゃないだろうけどな――)


 そう黙考しつつ、ペルシアとキューティーに腕組みされたまま、マサルは大事な娘達の待つ孤児院へと足を進めた。


 そして――すっかり豪邸に生まれ変わった孤児院にたどり着いたマサルであったが、そこで見たこともないような者達の姿を発見する。


 そして同時に子供達も孤児院の外に出ていた。少女たちはマサルを認めるとその表情をぱ~っと明るくさせ、マサルの傍まで駆け寄ってくる。


「おかえりなさいませマサル様~!」

「私達、マサル様のお帰りを首を長くして待っていたんですよ」

「寂しくて、私マサル様に捨てられたんじゃないかって心配に、ぐすん」


 マサルを出迎え、口々にそんないじらしいセリフを口にする少女たちに笑顔を振りまき、頭を撫でながら、しかしマサルは見ず知らずの来訪者に目を向けつつ、少女達に尋ねた。


「ところでこの者たちは?」

「あ、そうなんです! さっきも来ていて捕まったあのマリアのことを色々聞いていた方々なのですが――」

「また戻ってきて今度はマサル様とお話がしたいって」

「あの方は、マサル様のお知り合いの方ですか?」


 逆に質問をされるマサルだが、そうか、ありがとう、とだけ口にし、目の前の客人に身体を向けた。


「この俺に何かようなのかな? 正直俺はお前たちのようなものに見覚えがないのだが?」

「という事は貴方がマサルね! やっと姿を確認できたわ。見覚えがないのは当然よ、初めて会うんだから!」

「そうか、ならなぜ初対面のお前たちが孤児院まで? 一体何のようだ?」

「あんた! この孤児院で院長していたマリアに何かしたでしょ!」

 

 マサルに向けて随分とご立腹の様子で声を発してきたのはそこそこ上等そうなドレスに包まれた女だ。尤もマサルが孤児院の少女たちに与えた高級ドレスに比べればあまりに粗末なものであるが。


「ふむ、何かも何も、あの淫猥で悪辣な強欲売女は、この俺の娘達に食事も与えず、とても人が住めないような劣悪な環境で彼女たちを苦しめ続けていたからな。しかもあの女は奴隷商人に与し未来ある天使のようなこの子供達を売り飛ばそうなどと考えていた。故に、この俺が天罰を与え冒険者ギルドに突き出してやったまで。それに何か問題があるとでも?」

「全くないなの! マサル様は立派な御方なの」

「そうにゃ、もしマサル様がいなければ、今頃私たちは薄汚い貴族にでも売り飛ばされ、哀れな慰みものになっていたことにゃ」

『そうよそうよ! マサル様は私達の救世主なのよ!』


「ちょ、本当に貴方達そろいもそろって、本当のマリアのことも忘れてしまったの!」

「ふむ、おかしなことをいう女だ。マリアが性悪な薄汚い下女であることぐらい、この街のものなら誰もが知っていることだろう」

「だから! それはあんたが魔法か何かでマリアもその子たちも、街の人全部洗脳してしまったからそう思い込まされているのでしょ? もうあんたの本性は判ってるんだから、いい加減白状なさい!」


 その言葉に、マサルはやれやれと頭を振る。


「全く貴様は、見た目もどこの貧乏貴族だ? と思わんばかりの貧相な女かと思えば、どうやらおつむのほうもお粗末なようだな」

「は、はぁ?」

「今のお言葉、流石に失礼が過ぎますぞ」

「私も聞き捨てなりませんね」


 マサルが呆れ果てながらも目の前の失礼な女に至極丁重な対応を見えると、なぜかその横にふたり、ただ図体がでかいだけのウドの大木のような騎士と、平たい胸の女剣士が前に出て険のある声で睨めつけてきた。


「ふっ、これでも俺は丁重に対応しているつもりなんだけどな」

「あれで丁重って……」

「どう考えても舐めてるだろあいつ」

「え~い! 黙るなの!」

「先程から聞いていれば神よりも天上におられるマサル様にむかって、お前たち無礼がすぎるにゃ! 控えおろうにゃ!」

「全くなの! 頭が高いなの!」


 前に躍り出て威圧を込めて言い放つふたりに、ルルーシが額に手を添えてため息をついた。


「ペルシアにキューティー……貴方達までこんなわけのわからないやつに……」

「お嬢様気をしっかり」

「ルルーシ様、こんなものはただの茶番です」

「なんなのなの! 本当にさっきから失礼な連中なの!」

「にゃ! こいつらマサル様に向かって全く敬う様子もないにゃ!」

「ふっ、仕方がないさ。世の中には相手との格の違いというのがわからない連中が実に多い。地べたを這いつくばる害虫は、遥か雲の上の存在になど気付こうともしない。いや、そもそもその価値が判らないのだ」

「なるほどなの! つまりこいつらは地べたを這いまわる害虫ということなの!」

「流石マサル様にゃ、例えが的確で素晴らしいにゃ!」

「よしてくれ、この程度別に俺じゃなくても推察出来ることさ」

 

 そのやり取りに、ふぅ、と一人の少年が嘆息し、そして前に出て、全く随分と独りよがりな方ですね貴方は、と口にしながらマサルの正面に立つ。


 その少年はマサルと同じように黒髪で黒瞳、そしてなぜか道着という出で立ちの少年であった。


「うん? なんだ貴様は?」

「ま、マサル様! あの方はナガレという名の男なのです!」

「わ、私たちに色目を使ってきた妖しい男なのです!」


 周囲の少女たちの声に、ピクリとマサルの眉が跳ね上がる。


「ふむ、なるほど貴様がナガレか。はは~ん、なるほどな」


 値踏みするようにナガレをみやり、何かを悟ったようにマサルが述べる。


「あまりジロジロ見られるのは気持ちのいいものではありませんね」

「これは失礼、それで貴様もこの俺が彼女たちを洗脳しているとでも思っているのか?」

「洗脳かどうかはともかく、街の人々の様子が変化したのは貴方の所為によるものだと思ってますよ」


 その回答に、あっはっは! とマサルは高笑いを決める。


「全く語るに落ちるとはまさにこのことだな」

「は? 何言ってるのよあんた! 大体ナガレが出てきた以上、あんたの化けの皮なんて剥がれたも同然なんだからね!」

「そうだ! 大体先生を差し置いて神以上だなんてお前の方こそ身の程わきまえやがれ!」

「先生? ははっ、お山の大将もここまでくると滑稽だな。本当に愚かなことだ。まあいい、先ずはお前のいう洗脳というあまりに奇天烈で滑稽な推理とも言えない稚拙な妄想を打破してやろう。おいペルシア、俺との出会いを聞かせてやれ」

「はいにゃ! マサル様との出会いはまさに劇的! 神の巡り合わせとしか思えない運命的なものでしたにゃ。マサル様は偶然にも私があのLV4500万という伝説の伝説竜ジュエルドラゴンに襲われ、今にも食べられちゃいそうなところへ颯爽と駆けつけてくれたにゃ! そしてなんと一撃で! しかもただ息を一つ吐いただけであのジュエルドラゴンを退治してしまったにゃ!」


 ペルシアはまるで自分のことのように誇らしげに胸を張り、鼻を鳴らし連中に言い放つ。

 それを認め、よく言えたな、とマサルが頭を撫でると、途端にマタタビを嗅いだ猫のようにふにゃ~と腰砕けになった。


「何をいいたいのかわからないわよ。だからそれもあんたが洗脳したから出来たことでしょ?」


 桃色の髪をした女が顔を顰めて言ってくる。胸が馬鹿みたいにデカく中々可愛らしい女だが、脳の栄養も全てその胸に詰まってしまったのか、あまりに知恵の足りない馬鹿丸出しの意見であった。


「これだから愚鈍な人間は嫌になる。今の話を聞いて何も思わなかったのか? いいか? この俺はペルシアが偶然ジュエルドラゴンに襲われている現場に出くわし、それを助けたのだ。お前達の言うようにこの俺が洗脳したとして、一体どのタイミングでそのような洗脳を施したというのか? まさかジュエルドラゴンが出そうな場所に、しかもタイミングよくペルシアがやってくるかもしれないと思って、ずっと張っていたとでも言うつもりか?」

「そんな馬鹿な話があるはずがないなの。マサル様はそこまで暇なはずがないなの!」

「え? で、でも……」


 マサルとキューティーの反論にあい、桃色の巨乳は言葉をなくしてしまう。

 当然だろう、マサルの理論は完璧だ。一ミリだって隙はない。ただおっぱいがでかいだけしか取り柄のない女が論破など出来るはずがないのだ。


 みたところ杖を持っている辺り魔法には自信がある(・・・・・)のかもしれないが、マサルという神の如き頭脳を持ち神智を越えし天才に頭で勝てるはずもない。


「では、洗脳ではなくもっと別な力だとしたらいかがですか? 例えばそのジュエルドラゴンのことですら貴方の予定調和の一つでしかないとしたならば?」


 するとナガレと言う少年が前にでてわけのわからないことを宣いだした。マサルはあきれてため息しか出てこないが、しかしここで一つの結論が、彼の天才的な頭脳から導き出される。


「……なるほど全ては逆か」

「え? 逆というとなんなのかにゃ?」

「凄いなの! マサル様はこの短時間の間に、相手の矛盾撞着に気がついたなの!」

「おいおいいくらなんでもはしゃぎ過ぎだぞ。こんなもの小学生の作文を読み解くより簡単な命題だ」


 やれやれといった様子で肩を竦めるマサルであったが、改めてナガレに顔を向けそして人差し指をつきつける。


「お前のトリック、この俺が見破った!」

『マサル様、素敵~~~~~~!』


 マサルがはっきりと断言すると、ナガレという調子にのった偽物の勇者の取り巻き達があっけにとられた顔を見せた。あまりに見事なマサルの所作に感嘆しているのだろう。


「さて? 私の何を見破ったというのでしょうか?」

 

 しかしナガレという少年は、この期に及んでまだ平然とそんな愚かなことを述べてくる。

 まさに馬鹿につける薬は無いなと思わず嘲笑的な笑みをマサルはこぼしてしまった。


 そしてマサルは遂にその人智を超えた奇跡の頭脳を持って導き出した解を、威風堂々とした佇まいで言い放つ。


「この俺にははっきりと判った事がふたつある! その一つ! お前は、転生者、もしくは召喚されてこの世界にやってきた人間だろう!」

「違いますね」

「あっはっは! そうだろそうだろ! この俺の完璧な頭脳による究極の推理の前では全てが、て、は!? 違うだと!?」


 違うのだった――

違いました(´・ω・`)

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