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第一七九話 ルルーシ達との邂逅

「貴方には一度ちゃんとお礼を言わなきゃいけないとって思ってたのよ」


 ナガレ達に気が付き、結局ルルーシ達三人は彼らの食事する席にまでお邪魔し一緒に食事を摂る事となった。


 そして改めて、あの時は本当にありがとう、と明るい声で微笑んでくる。

 以前会った時は、護衛であり友人でもあった女冒険者が残念な結果になったことで焦燥感に包まれていたが、今はそれも吹っ切れたのか溌剌(はつらつ)とした様子だ。


 それも別に空元気などといった内向きなものではなく、恐らく元の性格がこうなのだろう。

 派手さはないがそれでもかなり上質な絹地で仕立てられたドレスからいいところのお嬢様という雰囲気は感じさせるが、地はおてんばなお嬢様といったところか。カイルとは別ないみでノリも軽い。


「そ、それはわざわざ、といいたいところだけど、え~と確か私の記憶だと……」

「ぴ、ピーチの考えいてる事は私にも判ります。た、確かにあの時――」

 

 ルルーシの横に並ぶは屈強な騎士ともう一人、そしてピーチとローザはそのもう一人の凛とした女性を目にして顔を青くさせた。


「うん? なんだふたりともお化けでも見たような顔してよ?」

「う~ん確かになんか変だね~」


 そんなふたりを見ながらフレムとカイルが頭にクエスチョンマークを浮かべている。

 何せこのふたりに関してはその場に居合わせていないため、ルルーシ達と面識がない。


「はは~ん、なるほどね!」


 すると、ルルーシがピーチとローザの様子に何かを察し、そして意地悪な笑みをこぼした。


「ふたりは死んだはずのナリアがどうしてここにいるのかが疑問なんだろ?」


 そしてルルーシが問いかけると、ふたりが小刻みにコクコクと顎を上下させた。彼女が言うように、両隣に座る内セワスールに関しては問題ないが、もう片方の女性に関しては、デスクイーンキラーホーネット戦に於いて持病であった心臓病が悪化し倒れ、残念ながら息を引き取ったナリアという冒険者に瓜二つであったからだ。


 ちなみにその時、遠方にまで遺体を運ぶことに頭を悩ませていた彼女たちへ、ナガレは遺体を塩漬けにして運ぶ方法を提案し、それについても大分感謝されていたりもする。そしてその画期的な方法は今やナガレ式遺体安置法として重宝されているようだ。


「ふむ、それはな――ここにいるナリアが幽霊だからなのだーーーー!」

『キャーーーーーーーー!』


 ルルーシが脅かすように声を上げると、ピーチとローザが抱き合って悲鳴を上げブルブルと震えだした。

 ピーチはともかくとして、アンデッドを相手にすることもある聖魔導師のローザでも幽霊は怖いらしい。


 すると、それを聞いていた隣の彼女が、ふぅ、とため息を一つ吐き。


「ルルーシ様、お戯れはおやめ下さい」

「むっ! 全くナリヤ(・・・)は妹のナリアと同じで堅苦しいわね。少しは楽しませてくれてもいいでしょ」

「幽霊扱いされて楽しいわけありません」


 生真面目さの漂う声音で文句を述べる彼女は、自分自身をナリヤと名乗った。

 それに、なるほど、とナガレが頷き。


「つまり、貴方様はナリア様のお姉さまなのですね」

「へ? お、姉さま?」

「それは、つまり……」

「はい、ナリヤはあのナリアの双子の姉でございます」


 すると後を引き継ぐようにセワスールが説明した。筋骨隆々でいかにも歴戦の騎士といった様相の彼はルルーシの専属護衛機師を務めている。ただ黙っていると厳しい顔も、喋るとどことなく愛嬌のあるものに変化したりする辺り人となりの良さを感じさせた。


「双子の、あ、それでそっくりなのね!」

「そうなのですね、安心、あ、す、すみません」


 得心が言ったように発し元の元気を取り戻すピーチ。それはローザも一緒のようだが、思わず安心と言ってしまったことは失言と考えてしまったようだ。


 逝去したナリアを思ってのことなのだろう。


「なんだか良くわからないけどよ、そこの姉ちゃんは死人じゃなくて生きてたってことでいいんだな?」

「ちょっとフレム言いかた!」

 

 思わず叱咤するローザだが、別にいいわよ、とルルーシが答え。


「それに関しては事実だしね。でもね、幽霊というのもあながち間違ってないかもしれないんだけどね」


 その言葉に疑問の表情を見せるローザとルルーシ。そしてナリヤは、はあ、とため息一つ。

 そしてナガレはそんなナリヤに重なるナリアの姿も見たわけだが――


「ところでお嬢様、ナガレ様へのお礼は勿論ですが……」


 するとセワスールがルルーシに向けて耳打ちし、勿論判ってるわよ、と彼女が返した後、エルガへと顔を向け。


「ご挨拶が遅れましたが私、フロンウェスタ領当主ティア・フロンウェスタ・ローズマリー公爵が次女、ルルーシ・フロンウェスタ・ローズマリーと申します。以後お見知り置きを――」


 そう名乗ってから立ち上がり、ドレスの裾を摘みながら優雅に挨拶を済ませた。おてんばとはいえこのあたりは流石にしっかりしていそうだ。


「う、うむ、丁重な敬礼痛み入る。私は――」


 そして男姿のエルガも返礼し、改めて自分の身分を明かした。とはいえ、セワスールとルルーシのやり取り、そして最初にエルガがルルーシを見た時の様子から、全く知らない間柄でもなさそうだ。


 ただ、話を聞く分にはエルガも過去に招待された晩餐会の席で見かけた程度で、ルルーシにしてもやはり似たようなものな為、殆ど初対面と変わらないといったところだが。


「ところで、ルルーシ様もマサル殿の件で何か?」

「それよ! それなのよ! 全く、ジュエリーストーン卿に挨拶に言ったら先ずはマサルとかいうのに挨拶にいけ~とか、本当わけがわからないのよ!」


 すると憤慨した様子でルルーシが答え、それにエルガが目を丸くさせた。まさか自分と同じ要件で来ているとは思わなかった様子。


「我々もマサルという御方はご存じないので、一体どのような方なのか? と門番に伺ったのですが――」

「否応無しに抜剣され参ってしまいました。あまり事を荒立てくもないのでその場は退散させて頂きましたが」


 セワスールとナリヤの話にエルガとローズが苦笑した。どうやら状況的には彼らもエルガ達と似たようなものなようである。


「本当わけがわからないわよね! マサル様~とか本当気持ち悪いったらありゃしないわよ。マサルマサルって――」

「あんたら! さっきから聞いてればマサル様に向かって呼び捨てとは、一体どういう了見だ!」


 すると、突如横から割って入る荒い声が。全員が顔を向けると、怒りの形相で料理用のナイフを振り上げる太めの男の姿。


 宿で調理を任されている男なようだが、やはりマサルに対しての話しぶりに憤慨しているようで、今にも手に持ったナイフで襲いかかってきそうな顔つきだ。


「な、なんなのよ一体――」

「お前ら全員今すぐかっさばいて! マサル様への料理に――」

「これはこれは申し訳ありませんでした」


 すると、ナガレがすっと立ち上がり、そして恭しく怒り心頭の彼へと頭を下げ。


「これから気をつけますので、どうかそれで――」


 そう言って謝辞を述べると、突如彼の表情が柔らかくなり、そ、そうか……と料理人の男が口にし。


「とにかく、今後は気をつけてくれよ」


 そう言って厨房へと戻っていった。


「び、びっくりしました……」

「でも、ナガレってば一体何をしたの?」

「いえ、少々頭に血が昇りすぎていたようなので、血の巡りを良くさせ、落ち着いてもらいました」

「よ、よくわからないけど先生は凄いです!」

「よくわからないんだねフレムっち。いや、おいらもだけど」


 なんてことはないように述べるナガレだが、急に怒りだした料理人にもそれをあっさり収めたナガレにも一様に驚きを隠せない様子である。


「本当、貴方って一体何者なの?」

「私はただのしがない冒険者ですよ」

「……正直ただの冒険者にこれだけのことが出来るとは思いませんが――」


 ルルーシがポカーンとした様子でナガレに尋ね、その答えにナリヤも呆気にとられている。


「どちらにしても、今のところその名前はあまり口にしないほうがよさそうですな」


 そしてセワスールが警戒するようにそう述べ、とりあえず全員がそれに納得する。


「ところでルルーシ殿は、何故ジュエリーストーン卿のところへ?」

「ああ、別に大したことないわよ。いつもこの街に寄った時は挨拶してるし」

「お嬢様、素がでておりますぞ」

「別にいいでしょ。なんかそこまで畏まる雰囲気でもないし」

「ルルーシ様、初対面なのですからそれはちょっと……」

「何よもう、ナリヤも固いわね。ね? 別にいいでしょう?」

「へ? あ、うん私たちは別にいいけど、ね? ナガレ?」

「はい、むしろそれぐらいの方が私たちには親しみやすくていいと思いますし」

「お嬢様って感じじゃね~けどな」

「フレムっち流石に失礼だよ~こんなに可愛らしいのに~」

「はあ~全くフレムもカイルも……」


 相変わらずのフレムとカイルにローザは頭が痛そうだ。


「……ま、まさかフレムは、あ、ああ言う方がタイプですの!」

「そ、それは考えすぎだと思うけど……」


 そして何故かルルーシとフレムを交互に見ながら目付きを厳しくさせるクリスティーナであり、隣ではやれやれと言った様子でヘルーパが見ている。


「……あのセワスールという、お・か・た、ダンディーで素敵だわ、食べちゃいたい」

「むっ! お嬢様、何故か突然悪寒が!」

「え? 何風邪?」

「いえ、私の仲間のせいだと思います。ちゃんと言いつけておきますので」

「い、痛いわニューハ! ふ、踏まないで! あ、でもちょっと気持ち良いかも……」


 懲りないダンショクをぐりぐりと踏みにじるニューハである。


「……あははっ、あ、いや失礼。それにしても驚きましたわ、いや、驚いたな。ルルーシ殿がこれほどまでに親しみやすい御方だったとは」

「もうしわけありませんレイオン卿。お嬢様は少々おてんばなところがありまして」

「何よ、別にそこ謝るところじゃないでしょ」

「そのとおりですよ。私もそのぐらいの方が話しやすくてよいです、いや! よいのでな!」


 エルガが愉しそうに述べるが、するとルルーシが、う~ん、と短く唸り。


「私は逆に何かレイオン卿が余所余所しいというか、自分を曝け出してないというか、なんかそんな気がするのよね」

「え?」


 ルルーシの鋭い指摘に、一瞬言葉をなくすエルガであり、どこか心配そうに見ているニューハであるが。


「ローズマリー卿、レイオン様は長旅の疲れが出ておりまして――」


 そこですぐさまローズのフォローが入った。ルルーシが食事に同席してからは発言も控えめであったローズだが、双方に失礼のないようしっかり考慮できるところは流石ともいえるだろう。


「ふ~ん、ま、別にいいけどね」

「でも、え~とローズマリー様は」

「あ~もう私のことはルルーシでいいわよ。その方が落ち着くし」

「え? あ、それじゃあルルーシ様」

「様もいらないから」


 そう言われ戸惑うピーチがナガレを見やるが、構わないでしょう、と頷いたことで改めてルルーシをみやり。


「それでルルーシはよくこの街にくるの?」

「そうね。イストフェンスに向かうときは必ずここで休んでいくようにしているから」

「なるほど、ということは皆様も我々と行き先が一緒なのですね」


 ナガレがそう言うと、ルルーシが目を白黒させて、へ~、と口にし。


「そうなんだ偶然ね」

「もしかして皆様もイストフェンスの領主様に招待を受けたのですか?」


 ニューハが質問すると、ううん、とルルーシが首を振り。


「私はお姉ちゃんがイストフェンスに嫁いだから、それでよく遊びに言ってるのよ。あ、でもそういえば今度どこかの領主が呼ばれるみたいなことが手紙に書いていたけど、それがレイオン卿だったのね」

「それと、ジュエリーストーン卿もですね」

「へ~それなら私達が出発するのもそれに合わせようかしら」

「ですが、そうなるとやはりマサ、あの方のことが気になりますね」


 ナリヤが言う。するとエルガが、とりあえず、と口にし。


「私も明日、色々ローズと情報を集めてみようと思う。屋敷の方へは行けないが……なんとかしないといけませ、せねばいけないからな」

「そうなんだ……じゃあそっちはレイオン卿にまかせて、私たちは孤児院にいくってことでいいかな~」

「お嬢様は、いつもそれは欠かさないですな」


 ルルーシとセワスールの会話にピーチが、孤児院に行くの? と興味深そうに反応する。


「うん、マリアってお姉さんが運営してる孤児院でね。マリアは、ちょっとぽ~っとしてて頼りないところもあるけど、でも子供達のことをよく思っていてね。それに子供達もいい子ばかりで可愛いの! 凄く癒されるし、あ、そうだ! 良かったら皆も一緒にどう?」


 ルルーシがキラキラした目で訪ねてくる。どうやらルルーシは孤児院に寄るのを楽しみにしているようであり――


「そうですね……私は同行するのも悪く無いと思いますが、どう致しますかピーチ?」

「勿論! それなら行こ! 私も興味あるし!」

「先生がいくなら当然俺達も、な?」

「おいらに異存はないよ~」

「そうですね、孤児院ということであれば、何かお手伝い出来ることがあればいいのですが」

「孤児院、し、仕方ないですわね! 私も一緒にいきますわ!」

「お姉さまが行くなら!」

「あら、だったら私も一緒に……」

「貴方は駄目です。私と一緒にエルガ様と同行」

「そ、そんな~~」


 と、言うわけで付いて行きたいのを咎められ悲しそうにしているダンショクを他所に、翌日ナガレ達はルルーシに同行し、孤児院へと向かうことになるのだった――

だれ?と思われてる方もいらっしゃるかもですが、このルルーシ一行は第三章のスイートビーの蜜採取の依頼の時に登場したキャラクターです。

こちらでは久しぶりですが今度発売される2巻でも登場してたりします(^^ゞ

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