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第一七八話 マサルって誰!

「ふ~やっと到着ねナガレ!」

「ええ、そうですね。お話によるとここで二日ほど留まるようですので、ある程度英気を養うことも可能でしょう」

「先生! 俺先生が快適に休めるよう努力します!」

「え~? フレムっちてばどうやって~?」

「え? あ~、そうだ! 俺、先生をマッサージします!」

「フレムにマッサージされてもナガレ様は嬉しくないと思うけど……」

「そうよ! それなら私がやるわ!」


 フレムの発言に何故かピーチがナガレへのマッサージ権を獲得しようとやっきになる。

 しかし、残念ながらナガレはやろうと思えば自分で自分の全身を余すことなくいくらでもマッサージできるので必要が無い。


 そして街門の前に到着し、一旦エルガも含め馬車から全員が降り、入場確認を行う。


「ふむ、グリンウッド領のエルガ伯爵ね……」

「うむ、此度は、あ~ジュエリーストーン卿との約束があり立ち寄らせて頂いたのだが――」


 相変わらず男口調が言いにくそうではあるが、エルガが説明し、荷物の確認も取ってもらう。


「……特に問題はないが、しかしお前たち、街に逗留するつもりなら、マサル様に失礼のないようにな」

「……マサル様?」

 

 ローズが訝しげに眉を顰め復唱する。すると衛兵の男が目を大きく見開いた後、言葉を返した。


「なんだお前たち、まさかマサル様を知らないとでも言うつもりではないだろうな!」

「マサル様はこの世に降臨した神をも凌ぐ至高の存在。それを知らぬなど! 不敬にあたるぞ!」


 衛兵ふたりのその様子にポカーンとなる一行であるが、エルガが、

「ふむ、その方は一体どのような御方なので、いや、なのだ!」

と口にすると衛兵の目付きが変わり、射抜くような瞳をエルガに向ける。不穏な空気があたりに満ち始め、衛兵も腰の剣に手をやろうとするが。


「レイオン卿、お忘れですか? あのマサル様ですよ」


 だが、そこへナガレが前に出てエルガにそう伝え、目配せする。

 妙な状況ではあるが、話を合わせておいたほうがいいと判断してのことで、それにローズや他の皆も察したようだ。


「う、うむそうであったな、確かにマサル殿にもしっかり挨拶せねば」

「……ふむ、わかればいいのだ。とにかくマサル様を怒らせるというはこの世界の終わりを意味することでもあるのだ。粗相のないよう頼んだぞ」


 ナガレの機転でとりあえず怪しまれるようなこともなく、一行は街門を抜け街中へと入っていく。


「いや、そもそもマサルって誰よ!」

「先生は、そのマサルというのをご存知なのですか?」


 するとピーチが何か気持ち悪いものでもみたかのようなしっくりしない顔で声を張り上げ、フレムがナガレへと問いかける。

 

「いえ、マサルなどという人物は存じ上げませんが……ただ――」

「ただ?」


 ピーチがじっとナガレの顔を見つめながら問いかける。

 だが、いえ、とナガレが口にし。


「とりあえず街の様子を確認しながらですかね。いずれはっきり判るかもしれませんが」

「う~んナガレっちてば意味深なこと言っちゃって~」

「ですが、あの衛兵の方の様子は正直怖かったです。何か盲信的というか……」


 ローザは聖魔法の使い手だけに神への信仰も厚い。尤もいまその信仰はナガレに大して大きく向けられている気もしないでもないが――とは言えその彼女だからこそ気がつくこともあったのだろう。


「どちらにしても今日はもう遅いですので、宿をとり動くのは明日からになりそうですね」


 ナガレの言うように、馬車はそのまま宿の前に止まり、大人数の為この街で一番大きな宿を取り休むこととなった。


 ただ、エルガに関してはローズと一緒に領主であるオパールの下へ赴くようである。


 そしてエルガは街の南側に位置する伯爵邸へとローズと共に向かったわけだが。


「何? ジュエリーストーン卿にお目通りだと?」

「うむ、この御方はグリンウッド領を治めし当主、エルガ・グリンウッド・レイオン伯爵である。此度はイストフェンス領までオパール・ザ・マウントストム・ジュエリーストーン卿と同道させていただく事となり、その挨拶に伺った――」


 護衛を務める騎士隊長であるローズが堂々と門番の男へ告げる。

 すると男は目を眇め、そしてその太い唇を蠢かせふたりに返した。


「お前たち、ここの主に挨拶する前に、当然マサル様への拝礼は済ましているのだろうな?」

「……は?」

「こ、ここでもマサル、か……」

 

 エルガが辟易した表情で述べると、門番の男が眉を怒らせ怒鳴り上げる。


「貴様! たかがグリンウッド程度の田舎領主がマサル様を呼び捨てにするとは何事か! 即刻この首を刎ねてくれる!」

 

 突如憤慨し、剣を抜くその豹変ぶりに、即座にローズが、レイオン様お下がりを! とその身を庇うように前に出て同じく剣の柄に手を掛けるが。


「いけませんローズ! ここは一旦退き、出直しましょう!」


 エルガが思わず素の口調で声を上げ、その手を取り駈け出した。

 おのれ~待て~! と追ってくる門番であったが、重装鎧で身を固めているせいか動きが遅い。

 

 正直ローズは全く納得の言っていない表情を見せていたが、エルガとしてはこれから行動を共にする領主の屋敷の前で面倒事を起こすのはマズいと考えたのだろう。


 ただ、自分の名前は告げてしまっていた為、それがどのように影響するか不安ではあるだろうが――とにかく一度宿に戻り、気持ちを落ち着けた後、ナガレ達と食堂に向かい相談するエルガである。


「ふむ、そこでもマサルですか」

「なんかきな臭いわね。そのマサルって奴一体何を企んでいるのかしら?」


 中々真剣な話し合いの場と化した食堂の一画だが、しかし相変わらずピーチはもぐもぐとリスのように頬を膨らませてしっかり食事を頬張っていた。


「……あなた、ぶれないですわね」

「な、何よ! 腹が減っては戦は出来ないって言うじゃない!」

「た、食べ物を頬張るお姉さまは素敵だと思います――」


 呆れるクリスティーナにピーチが随分と大きな骨付き肉を振り回しながら訴え、その横ではヘルーパが照れくさそうにしながらもピーチに熱い視線を送っている。そのせいかあまり緊張感がない。


「それにしても不愉快だ! 全く目的地まで同道するというからわざわざレイオン卿が出向いたというのに、よりによって領主のジュエリーストーン卿ではなく、マサルなどというわけのわからない者に挨拶せよなど!」

「ですが、本当に何者なのでしょうかねそのマサル殿というのは」


 怒りの言葉を吐き捨てるローズの横で、頬に手を当て、なんとも色っぽい所作で疑問の言葉を口にするニューハである。


「よくわからないけど、いい男なら、食べてもいいかしら?」


 ダンショクの発言に、ギロリと睨みつけるニューハであり、それにしゅんっと肩を落とすダンショクである。しかし懲りない男だ。


「こうなったら先生! 一丁この俺がそのマサルってのを締め上げて聞いてやりますよ!」

「フレム、事情も判らず強引な手に出るのは感心しませんよ」

「う、すみません……」

「ははっ、でもフレムっちらしいけどね~」

「それにしても、気になりますね。神よりも上だなんて、一体マサルというのは――」

「全く何がマサルよ! なんなのよマサルマサルって! 本当腹立つわね!」


 全員でマサルについて話し合っていると、別の席からもマサルに憤慨している声が響き渡った。

 それに一体誰だろうか? と全員が声の主に目を向けるが。


「あら、あ、いや、あれは、もしかしたらルルーシ殿ではないか?」


 するとエルガが記憶を探るようにしながらその人物について口にする。

 一行と同じようにマサルについて苛々が募ってそうなその人物は、美しい金髪を有し貴族然としたドレス姿の女性である。そしてその横では屈強な騎士が、まぁまぁ、と彼女を宥め、更にその隣ではもう一人、凛とした女性が座っているが――


「ルルーシ? あれ? 何か聞き覚えのあるような……」

「ピーチお忘れですか? 以前スイートビーの蜜を採取しに向かった時の――」


 そこまで話したところで、向こうの席の人物たちもナガレ達に気が付き、あ!? と勢い良く席を立ち。


「貴方達確かあの時のーーーー!?」


 そう指をさしながら声を張り上げるのだった――


このマサルを作ったのは誰だあぁっ!

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