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第一七六話 マサルと冒険者ギルド

「いや~~~~やめて~~~~!」

「げはははははっ! 大人しくしろよ! お前ら受付嬢は所詮俺達冒険者に食わせてもらってるだけの存在なんだからな~~~~!」


 案内されて冒険者ギルドに着くと、カウンターではゴリラやマントヒヒみたいな様相の男たちに囲まれた受付嬢が悲鳴をあげていた。


「なんだここは? これで本当に冒険者ギルドなのか?」

「にゃ……冒険者ギルドは荒くれ連中のたまり場でもあるあるにゃ。だからこんなことはわりとしょっちゅうにゃ」

「でも、でもでも許せないなの! か弱い女性を襲うなんて最低なの!」


 憤慨するキューティーの頭を撫でながらそうだな、と口にするマサル。そして頬を染めるキューティーを他所にマサルはカウンターまで近づいていき――


「邪魔だ!」

「ぎゃひん!」

 

 熱り立つ男の股間を蹴り上げる。ぐちゃ! と何かの潰れる音がして、男はその場に蹲った。更に受付嬢を囲んでいる冒険者達を回し蹴りで吹き飛ばす。


「え? あ、あれ?」

「仕事の話で来たんだが、ふむそのままじゃあんまりだな。これを着るといい」


 そう言ってビリビリに破かれ半裸の状態であった受付嬢にマサルはマントを被せてやった。


「あ、ありがとうございます――」


 すると上目遣いにマサルを認め、ぽっと頬を染める受付嬢である。


「むむむっ! 本当にマサル様は油断ならないなの!」

「にゃ! 仕方ないとはいえマサル様が行く先々でライバルが増えるにゃ!」


 受付嬢を見ながらなぜか闘志を燃やすふたりの気持ちがよく判らないマサルであるが。


「ところで今も言ったように俺は仕事の話できたんだ――」

「ちょっと待ちな! てめぇ誰に断って俺達の憧れのルイダさんに声を掛けてやがんだ!」


 改めて受付嬢に要件を告げようとすると、後ろで見ていた冒険者が怒鳴り声を上げ邪魔してくる。

 それに少々不機嫌になりながらも振り返るマサルであるが、冒険者達はルイダに声を掛けたマサルに憤慨している様子であった。


「さて? 俺に何か問題があったとでも?」

「あるに決まってるだろ!」

「ルイダさんはな! 俺達のマドンナなんだよ!」

「そうだ! 俺達だって普段指一本触れることが許されないような絶対的存在なんだよ!」

「それを見たこともないような新参者が親しげに声をかけるなんて許されると思っているのか!」


 ギャーギャー喚き散らす冒険者に、やれやれ、とマサルは後頭部を擦り。


「ふむ、ルイダさんだったかな?」

「そんな! 私のことはどうかルイダとお呼びください!」


 その様子に更に冒険者達の怒りが深まるが、改めてマサルはルイダと呼び。


「この冒険者ギルドでは猿を大量に飼っているのか? さっきからキーキーキーキーうるさいんだが?」

「な! 猿だと!」

「ふざけるなこら! ぶっ殺すぞ!」


 すると冒険者達の怒りはマックスに達したようで今にもマサルに跳びかかってそうな雰囲気だが、そんな中ペルシアとキューティーはぷくくっと笑い、受付嬢のルイダも、猿、ふふっ、と笑いを堪えていた。


「なんだお前たちは? 猿のくせに人語を喋るなんて生意気が過ぎるだろ? お前たちが口にしていいのはキーキーだけだぞ? ほら鳴いてみろキーキーとな」

『もう許せねぇ! ぶっ殺してやる!』


 全員の声が揃いそれぞれが得物を腰から抜き始め、一触即発の空気がその場に充満するが――


「やめんかこのバカタレ共が! この御方を誰と心得る!」


 すると厳しい声がギルド中にこだまし、二階に続く階段から逞しい壮年の男性が下りてきた。


 そして、かと思えばマサルの前まで駆けより、低頭平身で彼を迎える。


「誠に申し訳ございませんマサル様~~~~! この私の教育が行き届いていないばかりにこのような不敬な真似を、どうか、どうか怒りをお鎮めくだされ~~~~!」


 その様子に、やれやれと溜め息を吐きながらも抜こうとした鉾を収めるマサルである。


「そ、そんなギルドマスター(・・・・・・・)が、あんなやつに頭を下げるなんて……」

「一体どうなってやがる?」

「え~~~~い、まだわからんのかこの愚か者どもが! この御方はな! あのジュエルドラゴンをたった一人で打ち倒した御方であるぞ! つまりこの街を、いや、この世界を救った救世主とも言えるまさに神に等しい御方なのだ! 判ったらさっさと控えおろう! 頭が高い! 控えるのだ!」


 ギルドマスターの宣言に、周囲の冒険者が驚愕し、はは~~~~っ! と平伏してみせた。

 どうやら自分たちがどれだけの失礼を行ったのか、ようやく彼らにも理解出来たようである。


「ふむ、ジュエルドラゴンのことがもう知れ渡っているとはな」

「当然にゃ。マサル様の偉業はそれぐらいのことにゃ、ギルドマスターの耳に真っ先に届くなんて当然にゃ」

「ご、ごめんなさい、私はそ、そんなことも露知らず、マサル様に大変な失礼を……」


 すると受付嬢のルイダがプルプルとその身を震わせながら、他の冒険者やギルドマスターに倣って床に膝をつけようとするが。


「まて、ルイダはそんなことはしなくていい。何せ今日から俺の専属受付嬢になってもらう女なのだからな」

「ええ! 私が専属受付嬢に!?」

「なんだ迷惑なのか?」

「め、滅相もございません! 凄く、う、嬉しいです……」

 

 両手を頬に添え潤んだ瞳をマサルに向けるルイダであったが、それを見ていたペルシアとキューティーの視線が嫉妬に燃えていた。


「本当に油断ならないにゃ!」

「絶対負けないなの!」

「あらあら、でも私には大人の魅力というものがあるわよ? お子様の貴方達よりきっと私の方が――」


 そんな三人の間にバチバチと火花が散るが、マサルはそんなことにも気がつくことなくギルドマスターの傍で仁王立ちとなる。


「ところでギルドマスターよ、今の俺の気持ちが判るか?」

「も、もちろんでございます! そのお怒り当然のことと思います。勿論! マサル様に失礼を働いた冒険者達は即刻打首に!」

「この愚か者がぁああぁあぁあああぁあぁあ!」

「ひぃぃいいぃいぃぃいいぃぃいぃいい!」


 マサルが喝を鳴らすと、ギルドマスターが恐れ慄き股間からは生暖かいものがジョロジョロと溢れてくる。


「この俺が怒っているのは貴様にだギルドマスター! そんなことも判らんのか!」

「え? わ、私にですか?」


 目を白黒させ一体自分が何をしたのかと考えるギルドマスターであるが。


「ふん、ギルドマスターと持ち上げられ、その為に随分と助長しているようだな。ギルドマスターなどという地位にしがみつき、ふんぞり返ってばかりいて下の者の気持ちも考えず怠惰な暮らしを続けているからそうなるのだ」

「み、耳が痛いお言葉です」

「……まあいい教えてやろ。貴様はこのふたりがどこで暮らしていたか知っているか?」

「え~と確か孤児院に預けられているのは知っておりますが……」

「ほう、そこまでは知っているのだな」

「それは勿論ギルドマスターとしてそれぐらいは――」

「黙れこの愚か者がーーーーーー!」

「ひぃいぃいいいぃいい! 何が、一体何故それほどまでにお怒りなのですか! ど、どうかお怒りをお鎮め下され~~~~!」


 ペコペコと頭を下げ許しを請うギルドマスターの姿に、ほかの冒険者達もその身を震わせ、同時にとんでもない男を敵に回してしまったと悟ることとなる。


「貴様が偉そうに知っているなどと宣ったその孤児院が、院長などと名乗る下品な女の手でいいように利用されていたことに、貴様は全く気がついていなかった! この俺が駆け付けなければ、この子たちは、いや、孤児院の子供達全員が奴隷として売り飛ばされる事となったのだぞ!」

「な、なんですとぉおぉおぉぉおぉおお!」


 驚愕するギルドマスター。するとペルシアとキューティーのふたりが前に出て、額を床に擦り付けるギルドマスターを蔑みながら後を引き継ぐ。


「ギルドマスター、貴方の杜撰な管理がこの結果を生んだのですにゃ」

「そうなの! マサル様が救ってくれなければ、私たちは全員露頭に迷っていたのなの! そうなっていたら全責任はお前が負うことになっていたなの! でもマサル様のおかげで助かったなの! もっと感謝するなの!」

「へへぇ~~~~~~! 申し訳ございません! おいお前たち何をぼーっとしている! 今すぐ孤児院のその狼藉者達をひっ捕らえてこい!」


 ギルドマスターに命じられ、へい! と一部の冒険者が駆けていった。

 そしてギルドマスターが何度も頭を床に擦り付けてマサルに向けて頭を下げ続けた。

 しかしマサルの目は厳しいままであり。


「ふん、お前の謝罪からは全く誠意を感じないな。どうやら貴様はギルドマスターとしてはあまりに自覚が足りなすぎるようだ。こうなっては仕方ない、ルイダ、すぐにでもギルドマスターの資格剥奪の手続きを」

「はい、承知いたしましたマサル様」

「ちょっとお待ちを~~~~! どうか、どうかそれだけは! この通り! この通りでございます! なんでも、なんでも致しますからどうか、どうかご慈悲を……」


 ボロボロと涙ながらに訴えるギルドマスターの姿に、周囲の冒険者が、ざわざわ、ざわざわ、とざわめきだす。


 それぐらい今のギルドマスターの姿は惨めで哀れなものであった。


「ふん、なんでもか、ならば、ほれ」

 

 するとマサルが脚を突き出し、革の靴をギルドマスターの前に向けてみせる。マサルはそれ以上は何も言わない。ギルドマスターであればそれぐらい察してみろと言わんばかりだ。


「は、はい! やります! やらせて頂きます! この革靴は、ギルドマスターのこの舌で、はい! べ~ろべろ~、べ~ろべろべろべろべろ、ああこんなところにまで汚れが! この舌でどんな汚れも、べろべろべろべろべろべろべろべろべろべろべろべろ、ぺろぺ~ろ――べ~ろ、べろべ~ろ。ぺろぺろぺ~ろ、べろべろべ~ろべろべろべろぺろべろべ――」

「やめろ鬱陶しい!」

「ふぎぃ~~!」


 マサルがギルドマスターの顔面を蹴りつけると、彼は野良犬のような情けない悲鳴を上げた。鼻血をぼたぼたと垂らしながら、それでも、どうかどうか、と自分の身分を剥奪しないように乞うその姿はあまりに滑稽で無様であり、思わずマサルも薄笑いを浮かべてしまう。


「全く、無様なのもここまでいくと才能だな。お前を見ていると、わざわざ俺の手を煩わすのも面倒になる。わかったわかっった、貴様はその椅子にしがみついて蚊ほどしかない小さく矮小な権限を誇示し続けるがいい」

「はは~~~~! ありがたき幸せ!」

「マサル様は慈愛ぶかいにゃ」

「本当なの。こんなゴキブリ踏み潰せばいいだけの話なのに、それをせず情けをかける、まさに神なの!」

「はい、ギルドマスターなど所詮名前だけのお飾りにすぎない豚野郎なのに、そんな家畜にも劣る薄汚れた中年のおっさんにこのご慈悲、素晴らしすぎですわ!」


「おいおい、俺は別にこれといったことなんてしてないんだぞ?」


 マサルは心からそう思うも、三人の彼女達は謙遜を、と信じてくれない。


「と、ところでマサル様」

「うん? なんだ貴様まだいたのか。全くこれだけの失態を晒しておきながら、よくこの俺様に話しかけられたものだな」

「はっ! 勿論失礼なことはこの上なく判っているつもりですが、しかしどうしてもギルドマスターとしてお願いしたいことがありまして」

「お願いだと? 貴様がこの俺にお願い出来る立場だと思っているのか!」

「ひっ! も、勿論この私にそのような権限は本来ありませんが、この街のいや、世界のため! どうか、どうかマサル様には冒険者として登録してもらいたく――」

「冒険者としてだと? ふむ、なるほど、しかしそれでこの俺に一体どのような利があるというのだ?」

「そ、それは、その……」

「言っておくが、この俺はこれから孤児院を立て直すという大事な役目がある。そんな中、冒険者などというくだらない案件にかまっている時間などないのだぞ?」

「も、勿論それは重々承知でございます! ですからせめて登録だけでも、勿論メインはご自分の仕事優先で構いませんので、どうか手の空いた時に暇つぶし程度に依頼を請けていただけると……」


 ふむ、とマサルは腕を組み、そしてギルドマスターを見下ろし試すように言った。


「それで、俺が断ると言ったらどうするのだ?」

「……マサル様はジュエルドラゴンを保持しておりますね?」

「うむ、何せジュエルドラゴンを倒したのはこの俺だからな。正直持っていても邪魔くさいがアイテムボックスに放りこんでいる」

(((((ジュエルドラゴンが邪魔くさいってどんだけだよ)))))


 多くの冒険者が心のなかで突っ込んだが、後に続いてギルドマスターが発言をする。


「そのジュエルドラゴンはどうされるおつもりで?」

「勿論売却するつもりだが? なんだ、まさか冒険者でなければ買い取らないとでも言うつもりか?」


 ギロリと睨みつけマサルが告げるが、滅相もない! とギルドマスターが返し。


「ですが、残念ながらジュエルドラゴンほどの素材を現状買い取れる予算はこのギルドにも、それどころか商人ギルドですらありません。ジュエルドラゴンはそれほどまでに希少な竜ということです。なので、そのままでは宝の持ち腐れ、ですが! 冒険者登録さえして頂ければ素材は買い取れなくても討伐料として十分な謝礼をお支払いすることが可能です。ですので、どうか――」

「貴様ーーーー! 言うに事欠いてマサル様にそのような下劣な条件をつきつけるとは何事かにゃーーーー!」

「もう許してはおけないなの! 私の魔法で即刻その首を刎ねてやるなの!」

「これはギルドマスターといえど、神にも等しい、いえ! 既に神以上の存在であられるマサル様に対する不敬! 即刻切腹なさいギルドマスター!」

「ひ、ひぃいいぃいぃいい!」


 憤慨し怒鳴り散らすペルシア、キューティー、ルイダの姿に、ギルドマスターが大の方を漏らし涙した。


「まあ待て三人とも。正直今のは俺もこの男を毛虫の毛一本ほどは見なおしたぞ」

「え? ど、どういうことですかにゃ?」

「うむ、もしこの男が何も考えずただ金や物で釣ろうとしたのであれば、俺はすぐにでもこの男をバラバラに引き裂いてやっただろ」


 ひっ! とギルドマスターが短い悲鳴を上げる。その目にはありありとマサルを畏怖する感情が滲んでいた。


「だがな、こいつはそうではない。この神以上の権限を有す俺に、取り引きを持ちかけたのだ。つまりこいつにも鳥より少しまさる程度の知能はあったということだ。俺はそれが素直に嬉しい。ギルドマスターたるもの、例え絶望的な状況においても決して退かず立ち向かう姿勢を見せることも必要だからな」

「な、なるほどにゃ!」

「そこまで深い考えがおありとは凄いなの!」

「流石はマサル様ですね!」

「ふむ、こんなことは人心掌握術のほんの基礎でしかないのだがな。とはいえ今のでお前に対しての評価は少しだけ上がったぞ。ギルドマスターとして本当に極小で毛ほどもない権限を保ち、その椅子にしがみつく程度の事はこの俺が許してやろう」

「は、ははぁああぁああ! ありがたき幸せ! そ、それで冒険者への登録は?」

「ふむ、仕方ないな登録してやろう。だが、討伐報酬はいくらだ?」

「え? そ、それはもう、存分に……」

「いくらだ」


 鋭い炯眼をもって睨めつけるその姿に、ギルドマスターは恐れ多いという体勢を保ちつつ答えた。


「に、二〇〇〇万ジェリーほどで……」

「まさか貴様、その程度でこの俺が納得すると思っているわけではないだろうな?」

「ひっ! で、ですがその、正直言うとギルドから払える金額はそれが限界であり」

「本当かルイダ?」

「とんでもありません! ギルドで支払える金額以外にもギルドマスターの保有する個人資産と土地を売却した金額を考えれば、二億ジェリーは支払える筈です」

「な!?」

「はは、全くこのギルドには優秀な受付嬢がついているものだ。ならば二億ジェリーだ! それで勘弁してやろう!」

「そ、そんな……」

「何か不満があるのか?」


 ギロリと睨みつけ問いただす。するとブルブルと震え首を左右に何度も振り。


「も、勿論不満などございません! すぐにでもご用意させて頂きます!」

「当然なの」

「ギルドマスターでいられることが本来奇跡にゃ」

「全くです。本当であれば一〇〇〇回切腹してもまだ足りないぐらいなのですから」

「おいおいその辺にしておいてやれ。みろ悔しくてべそをかいているじゃないか。一応はこれでもこのギルドのマスターという最低限の権限を持った男なのだからな」


 そしてマサルは冒険者ギルドに登録を終え、ギルドマスターから二億ジェリーを受け取り冒険者ギルドを出た――

 


明日の朝に第一七七話を投稿します。そして第一七八話からナガレ登場です!

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