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第一七一話 反省と罰

「ごめんなさい……」


 ナガレ達の目の前でピーチ、クリスティーナ、ダンショクの三人は平身低頭の体勢で謝罪してきた。理由は当然ナガレ達を覗いていたことがバレたからである。


「いや、別にそこまでされなくても大丈夫ですよ。見られて困るようなものでもありませんしね」


 すると、ナガレは笑顔であっさりと許してあげた。流石のナガレは女性に対して寛容である。


「でも俺達に散々覗くなと言っておいて、これはどうかと思うけどな」

「う、うぅ、本当馬鹿だったと思ってますわ」


 フレムが呆れたように言うと、クリスティーナが半べそをかいて後悔の言葉を述べる。

 それに、あ~あ~、とカイルが発し。


「フレムっち女の子に厳しすぎだよ~クリスティーナちゃんも反省してるのに泣かせちゃって」

「は!? いや、俺は別に――だ、大体よ、そもそもお前まで一緒になって何やってんだよ全く。そりゃ先生のあの逞しさと美しさと厳かさを兼ね添えた完璧かつ究極の肉体は、男の俺でも思わず惚れ惚れしてしまう程だしな。覗きたくなる気持ちもちょっとはわからないでもないけどな」

「うん、フレムっち、ちょっと気持ち悪い」

「は!?」

「確かに私もそこまで言われると少しフレムのことが心配になりますね」

「せ、先生まで!」

「ふふっ、冗談ですよ」


 フレムが慌てる姿を眺めながらナガレが冗談だと微笑んだ。


 その光景を眺めながらも、

「べ、別にナガレが見たかったわけではありませんわ――」

と一人ぶつぶつと呟くクリスティーナであった。


「全く貴方は――いい加減こういうことはやめなさいと言っておいた筈ですが?」


 ニューハが厳しい目付きでダンショクを咎めた。覗いていた三人の中でダンショクだけはニューハの前で平謝りのポーズである。


「ご、ごめんなさい。でもちょっと覗かせて貰っただけよ~食べちゃおうとは思ってないから」


 ダンショクがものすごく不吉なことを言った。カイルが思わず両肩を抱きしめ恐怖に震える。彼はダンショクに常にロックオンされているからだ。


「ふぅ、それでもよ。いつも言っているでしょう? 確かに私たちは身体は男で心は女。でもね、だからこそ私たちはきちんとした礼節を重んじ、矜持を保って行動しなければいけない。でも貴方は少し欲望に忠実すぎるわ。教会もそれで追い出されたのでしょう? とにかくいい加減自制を覚えてもらわないと」

「うぅ、それを言われると辛いのだけど……」


 どうやら聖なる男姫の間でも守らなければいけないルールがあるようだ。確かにそう言われてみればナガレもゲイから誘われたことはあっても無理やりどうにかしようなどといった様子は感じられなかったものだ。


 とは言え、ゲイにしろダンショクにしろ、もしもそのような行動に出たとしても、ナガレに指一本触れることすら叶わないであろうが。


「とにかく、今回は私の判断で貴方に罰を与えます」

「え? ば、罰って?」

「……これから護衛の任務が終わるまでの間、余程のことがない限りは貴方の男性への治療を禁止いたします!」


 ニューハが顔をきつく引き締め、ダンショクへの罰を宣言した。余程とつけたのはそれをしなければ命の危険があるなどといった重大な案件な場合は除くという意味なのだろう。

 

 すると、ガーーーーン! とこの世の終わりでもやってきたかのような絶望的な表情をダンショクが見せる。


「勿論その間は、男性への治療は基本的にはローザにお願いし既に承諾も受けています。ですから貴方はこれからは女性の為にその魔法を奮うように」

「そ、そんなご無体な! 怪我に苦悩する男たちへ天使の私が回復する、これは私にとっての喜びよ! 希望よ! 愛よ! それを、それを禁止にされるなんてこれから何を楽しみに生きていけばいいのよ、酷いわ、そんなの、お願いよそれだけは~~~~!」


 ダンショクがニューハのローブの裾を掴み縋り付いた。だがニューハの考えは変わらない。


「……いや、それ罰なのか?」

「う~んダンショクにとってはこれでもかというぐらいの罰みたいね……」


 その光景に、怪訝そうに眉を顰め告げるフレムと半眼でそれに答えるピーチである。

 しかしダンショクの必死さを見るにこれは相当堪える罰なのだろう。


「お、おい今の聞いたか?」

「あ、ああ、ダンショクが俺達を治療しないって」

「つまり! 俺達は解放されたんだな!」

「しかもこれで俺達の天使、ローザちゃんに回復してもらえる!」

『バンザ~イ! バンザ~イ!』

 

 だが、そんなダンショクの気持ちとは裏腹に、男の冒険者の顔が綻び、万歳三唱までしてみせる始末である。


 その様子にローザが顔を伏せ照れていた。天使と言われることが気恥ずかしかったのだろう。


「全く、覗きとか本当に冒険者は低劣な連中ですね。あんなことで本当に大丈夫なのでしょうか?」

「わ、私もご一緒したかったな……」

「へ? レイオン卿?」

「え? あ、いや! そのようなことを言っては駄目だぞ。うむ、良いではないか若いというのは素晴らしい」

「……はぁ」


 必死に取り繕うエルガに、ローズが生返事を返しつつ、何かを訝しむような目を見せた。


 それに咳払いで誤魔化すエルガだが。


「レイオン卿、そろそろ水浴びの方を。レイオン卿が最後でございます故」

「え? あ、そ、そうであるな。それではいくとするか」


 他の騎士がエルガに伝えに来た。エルガは男の(・・)騎士達にも先に水浴びを終わらせるよう伝えていたが、どうやらそれも終わったようだ。

 

 そしてエルガはローズを含めた護衛騎士を引き連れて泉に向かい、一人その身を清めるのだった。





「ふぅ、おかげで一息つきまし、ついたぞ!」

「そ、そうですか――」


 ローズは水浴びを終えた後のエルガの肢体を眺めながら、その両頬を赤く染めていた。

 

「ど、どうした?」

「あ、いえ、レイオン卿は凄く肌が白くて綺麗だなと思い、はっ!? こ、これは失礼いたしました!」


 しまったといった表情でローズが深々と頭を下げる。男性の(・・・)エルガに対して告げる言葉としては不適切で失礼に当たると考えたのかもしれない。

 

 だが、これは基本女性らしさを大事にするエルガとしては嬉しい褒め言葉である。


「……いや、いいのだ、ありがとう」

「そ、そんな勿体無いお言葉です!」


 ナガレ達に対して違い、自分に対してはひたすら低姿勢なローズの姿に苦笑するエルガであるが、ふと何かを思い出したのか口を開き。


「そういえばローズは水浴びはどうされたのだ?」

「え? あ、いや私は大丈夫ですよ」

「しかし、他の騎士は浴びたのだろう?」

「え、えぇまあ。ですが私は――」


 そう言いながらどこか照れくさそうな顔を見せるローズ。その様子にエルガは察し。


「ならば、今浴びていくと良い。明日からはまた苦労を掛けるしな。出来る内に済ませておいた方がいいです、いいだろう。見張りが必要ならば、冒険者に――」

「そ、そんな、私は大丈夫です!」

「私がこう言っているのだが?」


 エルガが表情を引き締め言うと、ローズは一つ頭を下げ。


「お心遣い痛み入ります。それではこのローズ、この身を清めてから戻ると致しましょう」

「うむ、わかりま、判った! ならば見張りを――」

「いえ、大丈夫です。私は仮にも隊長を任されし騎士、自分の身ぐらい自分で守れます」

「しかし――」

「大丈夫です。この辺りは大した魔物もいませんし。おい、お前たちはしっかりレイオン卿をお守りするんだぞ」


 こうして結局ローズは意思を変えず、他の護衛騎士にエルガを託し――一人泉にて水浴びに興じることとなるのだった……。

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