第一七〇話 水浴びする健康的な肢体達
第二巻の発売まで一ヶ月を切りました!
なのでここでサ~ビス♪サ~ビス♪
ハンマの街を出発してから二日が過ぎた。道中それ相応に魔物に出くわすことはあったが、このメンバーは全員優秀である。
当初は街の守りを強化し騎士や兵士の能力も底上げする必要が有るため、護衛は冒険者だけでという話でもあったのだが、やはり納得がいかなかったのか若干名の騎士も旅に同行している。
ただ自信ありげに口にするだけあってローズ率いる騎士たちは若いながらも腕も立つ。
故に少なくともナガレが自ら先頭に立って戦うような場面は少なかった。
道程は最初の二日は途中の町などに立ち寄り休むことが出来た。ただエルガが領主として治めるグリンウッド領はある程度融通が利くが、もうまもなくグリンウッド領を越え、目的地であるイストフェンス領との間にあるマウントストム領に入る事となる。
この領地は宝石鉱山に恵まれた場所で、その為険しい山々に囲まれた土地柄であるにも関わらず商人の往来も多い。
予定では三日目と四日目に関してはその宝石鉱山に囲まれた領内で尤も栄えている街であるジュエリーに逗留する予定となっている。理由は今回東の辺境伯に招待されているのはエルガだけではなく、ジュエリーに屋敷を構えるマウントストムの領主、オパール・ザ・マウントストム・ジュエリーストーン伯爵もだからである。
その為、どの道同じ道程で向かうこととなるわけであるし、それであればジュエリーの街にてオパール卿と合流しイストフェンス領まで同道しようという話になっているわけである。
ただ、この二日目だけはどうしても野宿という選択を取らざるを得ない。途中にある村や宿場は規模が小さく、流石に他の領主の治める村などでこれだけの人数を泊めてくれとも言えないからだ。
この道程においてはエルガの乗る馬車が一台、そしてナガレ達の乗る馬車が一台、馬車は箱形で鉄板で補強されたそれなりに頑強な作り。
車体は四人乗りで御者台には御者の他もう一人が同席出来るようになっており、御者の隣には必ず一人護衛の冒険者が警戒のため付くことになっている。
護衛隊の構成は一番前に冒険者の乗る馬車。その後ろに護衛対象であるエルガの乗る馬車であり、聖なる男姫のふたりはその馬車に乗りあわせている。ローズとその配下である三人の騎士たちは馬車とは別に騎乗し、馬車の左右に並んで走っていた。
そしてその後ろにはもう一台の護衛用の馬車が付き、そこには鋼の狼牙団の魔術士がふたりと残りの冒険者。そして最後尾には荷を積んだ馬車がついてきているが、これにも荷を守るための冒険者が御者台と荷台にひとりずつ乗っている。
この人数での移動では大きな街でも無い限り野宿とも致し方無いと言えるだろう。
ただ、流石に領主も一緒ということもあり、野営する場所は魔物に関しては危険が少なく、近くに泉のある場所を選ぶようだ。
正直野営で泉となると――過去に盗賊に襲われていた時のことが想起されるが、流石に騎士が同道しているこの状況で襲ってくるような盗賊はそうはいないだろう。
「う~~~~ん! やっぱり馬車での長旅は疲れるわね~」
ピーチが大きく伸びをして一息つき、そしてすっかり固くなった肩をほぐし始める。
途中暗くなってから村や宿場で休息を取ったりもしたが、基本太陽が昇ると同時に出発とわりと忙しない。全体的にみれば魔物を倒していた時間を考慮しても馬車での移動時間の方が長いので、どうしても疲れが溜まってしまう。
「出てくる魔物も大したことないですし護衛と言っても歯ごたえがないですよね先生」
「それはむしろありがたい事だとは思いますよ。やはり主目的はエルガ卿の護衛ですからね。危険が少ないに越したことはありません」
「確かにナガレっちの言うとおりだよね~これで凶暴な魔物になんて出てこられて何かあったら大変だし」
「でも、ナガレ様がいらっしゃればどんな魔物でも怖くはなさそうですけどね」
「う~ん確かにナガレが一人いるだけで安心感が違うわよね。一家に一ナガレって感じよ」
「馬鹿言うな! 先生は一台しかないんだぞ!」
妙にフレムが失礼な気もしないでもないが、とりあえずナガレは周囲を合気で探ってみる。とりあえずはまだ夜まで時間もあるとあって、大した魔物は出てきてないようだ。
「でもフレムの言うとおりここまでは私達の魔法の出番もなくて少々拍子抜けですわね」
すると後衛の馬車から降りたクリスティーナがやってきて、肩を竦めつつ言った。雷帝を目指す女魔導師の思考は若干フレムに近そうでもある。
「わ、私はお姉さまのお役に立てて光栄です」
そしてその背後からはひょこっとヘルーパが顔を見せ嬉しそうに言った。
「あ、確かにヘルーパの支援魔法のおかげで私の杖の威力も普段より上がったしね! 本当魔物がばんばん吹っ飛んでいくから気持よかったわよ!」
「は、はい! お姉さまの杖での戦いぶりは見ていてとても清々しいですし憧れます!」
「ちょっと! ヘルーパにあまり変なこと教えないで頂けないかしら? 貴方みたいな脳筋になってしまっては目も当てられませんわ!」
「誰が脳筋よ!」
杖と両端で纏めた髪をぶんぶん振り回してピーチが文句を言った。
しかし嬉々として杖を振り回し支援魔法の効果に感動し、立ちふさがる魔物たちをぶん殴りぶっ飛ばすその姿は傍から見れば脳筋以外の何物でもないだろ。
「……なあ、さっきからあいつら大したことないとか言ってるけどよ……」
「ああ、普通にB2級でも苦戦するスパイクジェットアルマジロとか出てきてたよな……」
「あの女、可愛い顔して棘つきだして転がってくるあの魔物を杖で打ち返してたんだぜ」
「それでよく魔術師とか言えたもんだよな――」
「ナガレ~なんか私失礼なこと言われてる気がするよ~」
ピーチのことを囁き合う冒険者達。それを耳にしたのかピーチが眉を落としナガレに訴えた。
「大丈夫ですよ。あれはピーチのことを凄いと褒めているのですから」
「え? そうなの? なんだそうか~えへへ~」
「フレム、あの子っていつもあんなにポジティブなのかしら?」
「ああ、先輩は図太いからな」
「う~んふたりとも毒舌だね~」
カイルはそう言うがフレムには全く悪気はなさそうである。ローザはやれやれといった表情を見せてるし、ヘルーパに関しては熱い視線をピーチに送っているが。
「しゃんらんら~ん、さあ怪我した子がいれば私の回復魔法にお任せよ~ん」
「いえ結構です!」
「お、俺ほらこの通りピンピンしてるし!」
「あら? 貴方ここ擦りむいてるじゃない」
「え? あ、いやこんなの舐めとけば」
「あらん、だったら私が舐めてあげるわん」
「ぎゃあああああっぁああぁああぁ!」
ダンショクに関しては早速男漁りに入っていた。勿論漁ると言っても彼曰く救済である。しかしその巨大な口で舐めるのではなくチューチュー吸われた彼は顔を土色にさせて気絶した。
その悍ましい光景に身震いし、意地でも怪我は出来ない! と決意を露わにする冒険者♂達である。つまりダンショクがいることである意味気を引き締めることに繋がるので意外にも彼の存在は役立っているとも言える。
「皆様お疲れ様です」
「うむ、み、皆の衆、ご、ご苦労であった!」
ニューハとエルガのふたりが一行の前に立ち労いの言葉を掛けた。
その隣には何故か機嫌の悪そうなローズの姿もある。
「本日は、こ、この森で一晩を明かす事となる。疲れているのに宿も頼れず申し訳ないが、どうか宜しく頼みま、頼む!」
「ふん! 我々騎士は夜営に慣れているから全く問題はないがな。レイオン卿がわざわざこう申されているのだ、気を引き締めろよ!」
「……ローズ、お前はまた――」
「あ、いえ違いますよ! これは気が緩まないように敢えてですね!」
呆れたような目を向けるエルガに弁解するローズ。それにニューハも苦笑気味だ。
そしてその後は各自役割を決め夜営用のテントを張る者や食料の調達をすすめる者、料理の準備を行うものとに別れる。
「先生! 俺がばっちり美味しい獲物を仕留めてきますからね!」
「じゃあおいらも調達してくるよ~こういう時ぐらい役に立てないとね」
「ふ、フレム、私も付き合ってもいいわよ」
「うん? お前狩りなんて出来るのかよ?」
「ば、馬鹿にしないで貰えるかしら? 雷はこういう時には凄く役に立つのですわ!」
クリスティーナの言うように、彼女の魔法があれば川に電撃を打ち込み魚を捕るなんてことも可能である。
そしてテントに関してはナガレも協力して組み上げ、焚き火の準備をし、狩りに向かった冒険者達の調達してきた食材を利用して調理に取り掛かる。
これにはナガレも協力した。
「ナガレ様は料理もお上手ですのね」
「うふふふん、料理をする色男ってす・て・き」
「せ、先生の操は俺が守ります!」
ダンショクの熱い眼差しから守るようにフレムが間に入った。尤もフレムの助けなどなくてもナガレの操は合気があれば鉄壁である。
(ナガレ様素敵……)
「ふん、護衛としては大して役に立っていないようだが、誰でも一つぐらい取り柄があるものだな!」
ぽ~っとした様子でナガレを見つめるエルガであったが、その隣で相変わらず余計なことを口にするローズをエルガが睨めつけ、流石に彼女も口を閉ざし他の騎士達に警護についての話に向かった。
ちなみにピーチは調理を手伝いつつ、ナガレの作る料理をみながら終始涎を垂らしていた。
「う~んナガレの料理は最高! ナガレいいお嫁さんになれるわね!」
「それは喜んでいいのでしょうかね」
「あ、確かにお嫁さんだと私は夫という、ことに、う、う~ん」
ナガレの料理に舌鼓を打ち妙なことを口走るピーチは自分の発言に対して何故か懊悩した。
そしてフレム達も旨い旨いと料理を平らげ、フレムに関しては涙さえ流していた。
こうして夕食も食べ終えた一行であったが――
「皆様、この近くには泉がありますし、寝る前に一つ水浴びでも如何でしょう」
ニューハがそう誘いを掛けてきた。勿論水浴びは女性と男性で交互にということになり、ニューハとダンショクに関しては更に別でという話ではあるが。
「ちょっと待て! なぜお前たちが先なのだ! ここはやはりレイオン卿が先に入るべきだろう!」
「いいのです、いいのだローズ。私は最後でいい」
「いや、しかし……」
「長旅で疲れているであろう、護衛のみなさ、皆のおかげで、私は楽をさせてもらっている。ゆっくりと身体をやすめてくださ、くれ!」
結局エルガは考えを変えず、とりあえずは女性陣(騎士以外)から水浴びに向かうこととなった。
「いつかみたいに覗かないでよ! ま、まあナガレだったら……」
「フレム! 駄目ですからね!」
「俺がそんなことするか!」
フレムが叫ぶ。しかし彼は確かに以前不可抗力とはいえ前科があるのだが。
「はわわ、お姉さまと、み、みずあ、はわ!」
「ふ、フレムに、覗かれ、い、嫌だ! 最低よフレム!」
「だからまだ何もしてないだろ!」
「まだってことは覗く気なのね! 最低ですわ!」
「だからなんでそうなるんだよ!」
顔真っ赤にさせて怒るクリスティーナにたじたじのフレム。
「先生……俺そんなに信用ないのですかね――」
そして女性陣が水浴びに向かった後、肩を落としてナガレにそんな愚痴をこぼすフレムであった。
はぁはぁ、と無数の荒い息がその藪の中に満ちていた。目の前に広がるは澄んだ泉、大分闇は濃くなってきているものの、月明かりに照らされるはなんとも魅力的な肢体達。
それを覗く目、目、目、勿論それがいけない事だというのは判っている。覗きなんてしちゃいけないことだろ――しかしそれでも誘われ湧き上がる情欲に抗うこと叶わず、ついついこうやって闇に潜み、いけないこととわかりつつもその姿を覗いてしまう。
それもそう、彼らが魅力的だからいけないのだ。
「あ、ナガレあんなに逞しい、あの胸板に、あ、て! 何やってんのよ私達~~~~!」
ピーチが叫ぶと一緒にきていたクリスティーナもハッ! とした顔を見せた。
するとダンショクが、指を立てシーっと警告する。
「いやだもう、バレたらどうするのよこんなチャンスそんなにないのよ~」
「だ、だからってこれは何か違うような……」
(ふ、フレムもやっぱりいい身体してるわね――)
そんなわけで、女性陣の水浴びはとっくに終わり、今は男性陣の水浴びタイムである。
そして交代で女性陣が戻っている途中、そこにこそこそと移動しているダンショクを見つけ、ピーチとクリスティーナが注意したのだが――何故かミイラ取りがミイラになってしまって今に至る。
「う~ん、カイルちゃんは線が細いけどやっぱり狐耳の優男ってそそるものがあるわよねん」
「ふ、フレムだって悪く無いですわ。褐色の肌が健康的ですし、あ! 先生の背中流しますって!」
ついつい羨ましいですわ! などと呟いてしまうクリスティーナでもあるが――
「……あれ? ナガレどこいったのかしら?」
ふと、ピーチが気がつく。いつの間にかその視界からナガレが消えていることに。そして――
「え~と、何をされているのですか皆さん?」
あっさり見つかってしまうのだった――
と、言うわけで今回は貴重なナガレ達の水浴びシーンでした!
ご、ごめんなさいごめんなさい!ブックマーク外さないで!(汗)




