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第一六八話 旅の始まり

ヘルーパの年齢を17歳から16歳に変更してあります。

「全くなんだってんだあいつは!」


 ローズが領主と馬車の中に消えた後、フレムが憤慨し声を荒げた。


「信じられませんよ先生! 本当に身勝手で自信家で先生にまであんな失礼なことを! 全く先生にこんな無礼を働くなんてそんな奴がいるなんて俺は信じられませんよ!」

「いや、最初にあった時のあんたも似たようなものだった気もするけどね」


 ジト目のピーチに言われて、むぐぅ、とフレムがバツの悪そうな顔を見せた。


「もうそのことはいいっこなしですよ先輩」


 俺も反省してるんですから、とフレムが頭を掻いた。


「でも確かに激しかったよね~本当フレムっちとは違う凄さがあったよ~」

「確かにそうですね。その、ナガレ様は大丈夫ですか?」


 ローザが心配そうに尋ねる。突如剣で切りつけられたので気にしているのだろう。


「大丈夫ですよ。私もあの方に応じましたが、あちらも怪我を負わせようというつもりはなかったと思いますしね」

「……それにしたって先生に刃をむけるなんて――それに先生は、よ、良かったのですか?」


 フレムが確かめるような目つきでナガレに問う。するとナガレがフレムに顔を向け、

「良かったというと?」

と反問した。


「いえ、ですから、その。あの野郎先輩の、む、胸を、あ、あんな風にしちゃったんですよ!」


 顔を真っ赤にさせてフレムが言う。意外と初なところがあるようだが、彼の言っているのはローズがピーチの胸を鷲掴みにしたことなのだろう。


「――ふむ、あの野郎(・・)ですか。なるほど、フレムも見る目はまだまだなようですね」

「へ?」

「本当よね。第一そうだったら私も流石にただじゃ置かないわよ。杖で顎を砕いてやったわ!」

「え? え?」

「やはりピーチは気がついてましたか」

「うん、手とか見れば判るしね。それに肌とかなんとなくね」

「あ、ではやはりそうなのですね。ナガレ様も何も言われませんでしたし、もしかしたらそうなのかな? と思ったのですが」

「ちなみにおいらも判ったよ~フレムっちより見る目があるかもね~」

「……いや、一体なんの話なんですか?」


 フレムが首を傾げて疑問の言葉を投げかけた。驚いたことに彼はここまで聞いてもまだわかっていないようである。


「本当にフレムは相変わらずですわね」


 すると、フレムの背後からどことなく高飛車な声が投げつけられた。

 うん? とフレムが振り返ると、そこには鋼の狼牙団の雷使い、相変わらずの見事な縦ロール金髪なお嬢様が立っていた。


「おう! なんだアナ――」

「クリスティーナですわ!」

 

 まるでそうくると予想していたかのように見事にクリスティーナが言葉を被せた。

 それにフレムが、おお、そうだそうだ、と腕を組み。


「クリスティーナだったな。う~んそれにしてもなんでお前がここにいんだ?」

「それは勿論ここにいる以上、領主様の護衛ですわ」

「え? それじゃあクリスティーナちゃんも一緒なんだね~」

「……何この男? ちょっと馴れ馴れしくありません?」

「うん? ああ、カイルは女と見れば大体こんな感じだからな。見境ないけど気にすんなって」

「酷いよフレムっち!」

「……ま、まあフレムがそう言うなら――」

「何か反応違うな~どうしてだろうな~」

「もうカイルったら……」


 にやけ顔でふたりを眺めながら、からかい口調で話すカイルに、ローザは呆れ顔だ。


「あ、あの、お、お姉さま! ご無沙汰してます!」


 すると今度はピーチへと一人の少女が声を掛けた。翠色でマッシュルームのような髪型をした小柄な少女でピーチもその姿に、あれ、と思い出したように言葉を返した。


「確かヘルーパよね。貴方も護衛に参加していたんだ~」

「ひゃ、ひゃいお姉さま! 覚えていて頂けるなんて光栄です!」

「う、うん、それは覚えてるけど、その、お姉さまって何?」

「ご、ご迷惑ですか?」

「え? いや、別に迷惑ってことはないけど――」

 

 伸びた前髪の奥から瞳を潤わせ訊いてくるヘルーパに、若干戸惑いながらピーチが応じる。


「ヘルーパは前に一度貴方と一緒に戦ってから、ずっと貴方のことを話していたのですわ。貴方の勇姿に凄く感動したみたいなのですわ」


 すると横からクリスティーナがヘルーパについて補足する。

 

「え? あ、あこがれ、わ、私に!?」


 その事に随分とピーチは驚いていたが、確かによく見るとヘルーパは随分と熱のこもった視線をピーチに向けている。


「あ、あの私! お、お姉さまのお役に立てるよう頑張りますので! よ、よろしくお願いします!」

「え? あ、うん。こちらこそよろしくね。でも何か照れるわね――」

 

 頬を紅潮させ顎を掻くピーチである。まさか魔術師から憧れられることになるとは彼女も夢にも思っていなかったのだろう。


「ふむ、ですが支援魔法のヘルーパとピーチは相性が良いかもしれませんね」

「あ、相性が――」


 ナガレがポツリと口にした呟きにヘルーパが頬を染めた。尤もナガレの言っている意味とヘルーパの考えている意味には若干の齟齬が見受けられるが。


「ふ~ん、でもあれか? つまり護衛には鋼の狼牙団も参加してるってことなのか?」


 クリスティーナとヘルーパを交互にみやりフレムが確認するように口にするが、クリスティーナは、ううん、と首を横に振り。


「そういうわけじゃなくてね――」

「今回は鋼の狼牙団と聖なる男姫から魔法に長けたものだけが選別された形なのですよ」


 クリスティーナの後を引き継ぐように、痛み一つ感じられないロングの亜麻髪を湛えた綺麗な人物が会話に交じる。


 肌も白く水色のローブがよく似合う。スラリとした体型に男の目を引く整った顔立ち。男性であることがあまりに勿体無く感じられる聖なる男姫で唯一の女性らしさを兼ね添えた魔導師、ニューハの姿がそこにあった。


「うふん、私も一緒よん。回復なら任せてね、シャラランラ~ン」


 そしてその後ろにはフリル付きのドレス姿である、見た目には中年を過ぎた男性そのものの太めの聖魔導師ダンショクの姿もあり、周囲の冒険者の顔が青ざめ、嗚咽を漏らしている者もいる。


「うふっ、美しいって罪ね――」


 そう言ってウィンクを決めると、フレムとカイルも口元に手を持っていった。合気のあるナガレは平気だが、この格好は中々破壊力が高い。


「ふふっ、ナガレ様とご一緒出来るなんて至極光栄でございます。何卒宜しくお願いいたしますね」

「いえいえ、こちらこそこれだけの魔法の使い手が一緒だと心強いです」


 柔和な笑みを浮かべナガレが彼らを歓迎した。するとフレムが小首を傾げ疑問を述べる。


「でもなんで魔法使えるのだけが選ばれたんだ?」

「それは、今回の護衛の同行者は貴方やナガレみたいに戦闘に特化したものが殆どで、魔法系があまりいなかったのが理由ですわ。騎士も魔法は使えないですし。ですから私と男姫のニューハが攻撃魔法の担い手として、ヘルーパは当然補助役として、そして貴方のお仲間であるローザと男姫のダンショクが回復役として選ばれたのですわ」

「うふん、ローザちゃん、今回も男の子の治療は私にお任せよ」

「え? あ、はいそれではお願いします」

(勘弁してくれーーーーーー!)


 男たちの心の声が広がった気がするが、構わずクリスティーナが続けた。


「まあ、そうですわね。魔法に関して言えば私達五人(・・)に任せておいて欲しいですわ」

「おう! 期待してるぜアナ、じゃなかったクリスティーナだな!」


 半眼で睨めつけられ慌ててフレムが言い換えた。すると、あれ、あれ? とピーチが疑問の声を上げ。


「五人って六人じゃない?」

 

 そして自分を指差してピーチが訂正しようとするが。


「何を言ってますの? 私にヘルーパ、ニューハにダンショクとローザで五人であってますわよ?」

「……いや、私は?」

「はい?」

「いや、だから私、魔術師……」

「……貴方本気で言ってますの?」

「本気よ! 何その、こいつ何言ってるの? みたいな顔!」

「実際にそう思ってますから仕方ありませんわ」

「え~~~~」


 ピーチは眉を落として心底悲しそうな反応を示した。するとクリスティーナが眉を顰めた後、可哀想な物を見るような目をピーチに向けた。


「……あのね、どこの世界に杖で相手を殴打することを主とした魔術師がいると思ってますの?」

「だったら私はなんだって言うのよ!」

「そうですわね、敢えて言うなら狂杖士ですわね」

「狂杖士!?」

「そうですわ。いい加減あきらめるのですわ。貴方はもう魔術師には分類されておりませんのよ。そう! 貴方は狂ったように杖で殴る戦士でしかないのですから!」


 ビシっと指をさしてクリスティーナが見事に言い放った。

 するとピーチはそれ以上言葉を返すことが出来ず、肩を落としてトボトボとナガレの傍に寄ってくる。


「ナガレ~私魔術師じゃないのかな……?」

「そうですね……どちらかというと魔杖師といったところだと思いますが」

「……それ魔法使いじゃないの?」

「――広い意味で言えば魔法使いとも言えると思いますよ」


 一瞬の間を置いてナガレが答えると、そ、そうよね! とピーチが喜んだ。相当に広く見ての話だが中々単純なものである。


「わ、私は、つ、杖で殴るお姉さま、素敵だと思います――」


 そんなピーチの姿を眺めながらヘルーパがうっとりとした目で呟いた。

 そして一行がそんなやり取りをしていると、みんな、とマリーンがやってきて声をかけてきた。


「あ、マリーン来てくれたんだ!」

「うん、ちょっとだけ抜けさせてもらってね。あまり長くは無理だけど、これだけ、皆で食べてね」


 そう言ってマリーンがバスケットを差し出してくる。ピーチはそれを受け取り涎を溢れさせた。


「あ、ありがとう~う~ん何が入ってるのかな~えへへ~」

「……あのねピーチ、いきなり全部食べないでよね」


 マリーンが呆れ顔で言うが、その後ナガレに顔を向け笑みを浮かべる。


「ブルーの件も本当にありがとうねナガレ。今日早速向かってもらうつもりだから」

「そうですか。冒険者を目指すならきっと色々学べることもあると思いますよ」

「うん、無理をするのも防げるしね。あ、じゃあそろそろ戻らないと! みんな依頼しっかりね!」


 どうやら本当に少しの間だけ抜けてきたようで慌ただしくはあったが、マリーンは皆を激励し、そしてギルドへと戻っていった。

 

 するとエルガとローズの乗っていた馬車の扉が開き、ふたりが馬車を降りてくる。

 するとローズの表情はすっかり暗くなっていた。落ち込んでいるようでもある。


「ローズにはしっかり言いきかせましたの、言い聞かせたからな! 全く迷惑をおかけして、す、済まなかったな。ローズはその、あまり人の話を聞かないタイプで、な。腕はいいのです、いいのだが、騎士という仕事に誇りをもち過ぎていて冒険者を見下しているところもありま、あ、あるのだ。困ったもの、だ」


 そう言って男の姿のエルガが、ふぅ、と溜息をつく。更にエルガの説明によればローズはあのインキの襲撃の時には他の駐屯所での合同訓練に参加しており不在だったようだ。それでいてヒネーテも見栄を張るところがあり騎士団も活躍したというところを少々大げさに話してしまったので、その部分だけがローズの頭に残りあのような態度にでてしまったらしい。


「とにかくしっかり釘は刺したからな。どうかそれで――」

「いえいえ気にしておりませんよ。安心して下さい」


 ナガレが優しく言葉を返すとエルガがポッと頬を染めた。男の姿なので妙な感じでもあるが――


「それではレイオン様、そろそろご出発しなければお時間が――」


 すると御者から声がかかりエルガがハッとなり、そ、そうであるな、と口にし改めてナガレ達や他の護衛の冒険者に言葉をかけた後馬車に乗り込んだ。


 それに倣いナガレ達も用意された護衛用の馬車に乗り込む。

 

 こうしていよいよ領主を護衛しながらの旅が始まったのだった――

遂に出発出来ました!

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