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第一六五話 杖の完成?

 ピーチの杖を新調するにあたり、全くの新しい杖を作成するのではなく、元々ピーチの持っている杖を改良する形で生まれ変わらせる方向に話を持っていっていたナガレ。


 それにピーチは、私のためにそこまで、と瞳を潤々させて感動してくれた。

 彼女の杖は師匠からの贈り物であり、大切にしたいという想いもあったようだ。勿論最初は新しい杖を手に入れても今の杖も大事に保管しておこうと考えていたようだが、やはり長年連れ添った杖には愛着もあり、だからこそナガレの気持ちがより嬉しかったのだろう。


 そんなわけで、さっきまでの少し申し訳無さそうにしていた表情を一変させ、今度はすっかりうきうきとした明るい顔でピーチはメルルの後に付いて行く。


 それにナガレも倣った。場所は以前ピーチとメルルが模擬戦を行った地下である。

 階段を降りると変わらずの余裕のあるスペースが地下に広がっていたのだが――そこに一人見覚えのある男性が鎮座していた。


「いや~来たみたいだね~領主様のお屋敷であってぶりかな?」


 相変わらずの人の良さそうな笑顔をみせて立っていたのは、ここハンマの街に於いての冒険者ギルドの長、ハイル・ミシュバーンであった。眼鏡の奥に見える瞳は相変わらず糸のように細く、魔術師然としたローブを身に纏っている。

 

「なんだギルド長じゃんか。なんでこんなところに突っ立てるんだ? サボりか?」

「ちょ! フレム流石にギルド長にそれは失礼でしょ!」

「そうだよフレムっち、ギルド長だって男なんだからメルルちゃんみたいな色気ムンムンな子がやってるお店ならついつい目の保養にくるのもわからなくもないしね~」

「いや、カイルも中々失礼じゃないそれ?」


 フレムにしろカイルにしろすっかり見慣れたギルド長に対し全く敬意を感じさせない発言を行った。

 

 そして何故かメルルが胸元を隠し始める。


「ちょ! 見てないからね! 私はそんな、違うから!」

「あ、でもいいわけするところはちょっと怪しいかも」

「え? そ、そうなんですかギルド長?」


 思いがけず白い目で見られることになったギルド長は、うぐぐ、と何故かたじろぎ二の句が告げずにいた。するとナガレが助け舟を出そうと口を開く。


「皆さん、あまりギルド長を責めては可哀想ですよ。それに男であれば多少の下心は仕方のないものです」

「ナガレくん! それフォローになってないから!」

「そっか仕方ないのね……でも、それはやっぱりな、ナガレも一緒なの?」

「ふふっ、さてどうでしょうか」


 ピーチが何故か頬を赤らめながら尋ね、ナガレは意味深な笑みをこぼした。しかしその所作一つとっても優雅でまるでいやらしさを感じさせない。


「で、でもナガレ様なら許せる気がします」

「当然だ! 先生なら例え女風呂を覗いたとしても罪にはならないぜ!」

「え~羨ましいなナガレっち~」

「いえ、流石に覗きはまずいと思いますけどね」

「いやいや、話が変な方向にいってませんか? それとここに私を呼んだのはメルルですからね! 決して下心があってきたわけではありませんよ!」


 ギルド長の弁解を聞き、え? メルルが? とピーチが反問した。


「……そうだった。すっかり忘れてた」

「いや、そんな大事なこと忘れないでもらいたいのですが……」


 ギルド長がやれやれといった表情で口にする。とりあえず彼としては何故か植え付けられたむっつりスケベ的な誤解を解きたい様子である。


「でもなんでギルド長が?」

「……ハイルの錬金術は私より優秀。だから呼んだ」

「ピーチの杖を新しくする上で錬金術は必須らしいですからね」

「へ~仮にもギルド長なのに頼んだぐらいで来てくれるんだね」

「だから暇なんだろ。普段なにしてるかも判らねぇし」

「もう、本当に失礼よフレム」


 ローザがフレムを咎める。どうやらフレムの中ではギルド長は普段仕事もせず暇しているイメージがあるようだ。


「でも、何か私の杖のためにご足労頂いたなんて申し訳ないです」


 ピーチが頭を下げつつ言った。流石に彼女は、わざわざギルドの長に来てもらっていることに恐縮しているようである。


「なに、皆にはかなりの世話になっているしね。それにメルルから話を持ちかけられるとね、魔法に関してはどちらかというと私のほうが頭が上がらないし」

「頭が上がらないってあんた一応はギルド長だろ?」

「ははっ、確かに私はハンマの冒険者ギルドを任されてはいるけど、メルルはそもそも冒険者ではないしね。そして魔術師ギルドでは格はメルルの方が私なんかより遥かに上なんだよ」

「あ! そうか! つまりギルド長は魔術師ギルドにも所属されているというわけね」

「うんうん。まあ魔法の使い手なら大抵は魔術師ギルドだけに所属するか、冒険者ギルドと魔術師ギルド両方に登録するかだからね」

「あれれ~? それだとピーチも魔術師ギルドに所属してるんじゃないの~?」

「そ、そういえば確かにそうだったわ……あまり顔出してないしすっかり忘れてたけど――」


 あはは、とローザが苦笑した。偉大なる魔法使いを目指していたのにギルドに所属していたことすら忘れるなどピーチぐらいなものだろう。


「ふ~ん、でも魔術師ギルドって何するんだ? なんか眼鏡を掛けたガリ勉達が引きこもってガリガリしてるイメージしかないけど」

「ふ、フレムっちのイメージも極端だよね~」

「いやいや、でもあながち間違ってもいないですよ。魔術師の中には三度の飯より研究が好きというのも多いですからね。私もギルド長という職務につきながらも研究も続けてますし」

「それなのにこっちの姉ちゃんより下なのか?」

「う!? 中々はっきり言いますね。ですがそのとおりです。メルルは魔術師だけではなく魔導師達からも一目置かれてますしね。とくに魔導具に関してはメルルの名で登録されたのが多数ありますから」

「え! 魔導具って登録があるの!?」

「……ピーチ本当に魔術師なの?」


 まさかそんなことまで知らないとは……とメルルも別な意味で驚きなようである。


「鍛冶師のスチールがナガレ式を商人ギルドに登録したように、魔導具にも登録が必要ですからね。基本的に魔導具は魔術師ギルドが認定し商人ギルドが許可して初めて商品として販売が可能となります。だから非認定も無許可で取引された魔導具も発覚すれば没収されますし、勿論作成した魔導具師も処罰されます。使いようによっては破壊活動に利用できるような強力な物も多いですからね」

「確かに強力な魔導具であれば過激な活動を行うような人物の手に渡ると大変なことにもなりかねないですからね」

「……魔導具師はそれを見極める洞察力も必要とされる」


 どうやらそういう意味でもメルルはかなり優秀なようだ。


「あ、でもそれだと私の杖は大丈夫なの?」

「大丈夫ですよ。冒険者は仕事柄魔導具の購入に制限はありませんので。勿論攻撃性の高い魔導具を大量に欲しいなどとあった場合は協議が必要な場合もありますが、ピーチの場合そもそも杖ですし何の問題もありませんよ」

「……それって魔術師が聞くほうがおかしくないか?」

「フレム、しっ!」


 フレムの脇腹を肘で突きながらローザが言った。しかし確かにピーチは魔術師だったにもかかわらず魔術師ギルドに関しては大分疎そうだ。


「……それじゃあ始める。すでに材料と構築式は出来上がっている。ピーチ、杖預かっていいか?」

「あ、うん! はいこれ――」


 手を差し伸べたメルルにピーチが杖を渡す。するとメルルとギルド長が地下室の中央に足を進め、そして瞑目した。


 よく見るとピーチの杖と杖の改良の為に用意された素材を中心に複雑な模様が描かれた魔法陣が刻まれている。


「――開け魔導第一門の扉、我の名のもとに求むは加護、付与せし魔吸――魔導増幅、強化――」

「――我は求める、解体せしは魔杖――合成せよマナカイト、魔核、マジシル――術式を取り込み、想いはそのままに――新たなる魔杖を我が手の中に――」


 そしてふたりが同時に術式を刻み、詠唱し、それに呼応するように魔法陣が青白く発光し、ふたりの周囲に幾何学模様の無数の印が現れては消えていく。


 ピーチの愛用していた杖は、一旦溶解するようにドロドロになり、取り込む素材も同じようにその姿を変えた。

 

 スチールのような鍛冶師が武器をつくり上げるのとは全く異なる、幻想的な光景がそこにはあった。杖と素材が合成され、少しずつ杖の形に整形されながら、メルルの付与した術式が刻まれていき――そして最後に眩いばかりの光にナガレ以外は目を開け続けることが困難となる。


 しかしそれから段々と光が収束していき――遂に……。


「め、メルル、これで、か、完成したの。私の新しい杖……」


 ピーチが期待に満ちた双眸でメルルに尋ねる。だが――メルルは伏し目がちに、そして首を横に振り。


「ごめん、失敗した」

「えぇええぇえええええええぇえ!?」


 素っ頓狂な声を上げるピーチ。ここに来てまさかの失敗とは――愕然としてまるで時が止まったかのよう体勢で固まるピーチであったが。


「……な~んちゃって」

「……へ?」

「――ぷっ、くくっ、いやいや駄目ですよ、そんなからかっては」

「え? え? つまり?」

「ピーチ、杖は完成してるようですよ。良かったですね」


 そう言ってナガレが視線を向けた先にピーチも注目するが――確かにそこには一本の杖が横たわっていた……。

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