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第一六三話 飴と鞭

「それでよぉ、ここのお宝の配分はどうする?」


 ナガレの手によってザンが倒され、そして盗賊団も全滅状態であることが判ると、ワキヤークがどこかそわそわしながらそんなことを確認してきた。

 

 どうやら取り敢えずの危機が去ったとみて、欲のほうが湧き上がって来たようである。

 なんとも判りやすい性格だな、とナガレ以外の面々が呆れ顔を見せた。


「ふぅ、少しは格好良いかもと思ったのに……本当さっきまでの感動を返してほしいよ」

「なんだお前、さっきのでそこまで感動してたのかよ」

「え? あ、いや、だからちょっとだってば!」


 ブルーが慌てて言い繕う。そんな彼をフレムはニヤニヤして眺めていた。


「ですが、フレムもその様子をみながら『男だぜおっさん!』と、泣きそうになっていたではありませんか」

「確かにね。そうとう心に響いていたみたいだし」

「そ、それは言わないでくださいよ先生! 先輩も!」


 慌てて、そしてどこか恥ずかしそうに声を上げるフレムの様子に、皆の笑い声が響いた。ブルーも、ぷっ、と吹き出している。


「ま! あれは俺も男見せたからな!」

「う~ん、自分でそれを言ってしまうところがワキっちらしいね」

「へ? わ、ワキ、っち?」

「ですが、ワキヤークさんのおかげでブルーくんが助かったのも事実ですしね」

「いや! ローザお姉ちゃん! それでも僕も結構活躍したんだよ!」


 ブルーはどうにもローザの前では格好つけたがるようである。好意を抱いている相手に情けない姿は見られたくないといったところなのだろう。


「ですが――ブルー、貴方はまだ冒険者ではありません。危険な行為は避けるように言っておいた筈です。今回の行動は決して褒められたものではありませんよ。その安易な考えで多くの人を心配させたのですから」


 ナガレが真剣な表情に切り替え叱責した。ブルーにとっては耳が痛い言葉だったようで眉を落とししゅんとした表情を見せる。


「ごめんなさい……この盗賊団の名前を聞いたらつい頭が熱くなってしまって――」

「まあ、判らないでもないけどね」

「だけどな、そんな一人で突っ走るような行為はとても褒められたものじゃないけどな」

「そうね、私も前はフレムに困らされたもの」

「う~んフレムっちも随分と無茶なことしてたもんね~」

「お、俺のことは今関係ないだろ……」


 バツが悪そうに頭を擦るフレムである。彼もかつてはブルーと似たようなものだったのだろう。

 とは言えブルーは肩を落とし反省している様子は感じられる。


「……まあ、この事はもういいでしょう。とにかく盗賊団の事はギルドに知らせねばいけませんしね」

「おう! 確かにそうだな! で、だ――」


 改めてワキヤークが指をもじもじさせながら言葉を濁す。大の男がもじもじしている姿は正直気持ち悪いが。


「確か盗賊が所持しているものは、倒した者、もしくは見つけたものが自由にして良いということになってましたね。ですのでここにあるものは貴方とブルーで好きにしていいと思いますよ」

「本当か!? あ、いや、でも流石に全部は悪く無いか、な? なんて」


 そう言いながらもにやけ顔は止められない様子のワキヤークである。やはりなんとも判りやすい男だ。


「そうですね……では、このザンという盗賊の持っていた剣は私が頂いても?」

「お? なんだそんなのでいいのかい?」

「ええ、これだけいただければ十分です」

「そうかそうか! いや! 勿論構わないぜ! そいつを倒したのはあんただしな!」

「私たちはどうしようか?」

「俺は別にいいぜ。それに見つけたのはおっさんだし先生だってこう言っているわけだしな」

「私も……それにこれまでもナガレ様のおかげで随分と報酬を頂いておりますので」

「おいらも皆に合わせるさ~」

「そうね、私もそれでいいわ」


 これにより、盗賊の隠していた戦利品の数々はワキヤークとブルーが手にする権利を得たわけだが――


「僕は、遠慮しておくよ」

「ん? おいおいいいのかよ?」

「うん。ここまでこれたのはおっさんの力みたいだし、それに僕は皆に迷惑を掛けてしまったから――それと、僕は稼ぐならちゃんと冒険者になって自分の力で稼ぎたい」


 ぐっと拳を握り決意を新たにするブルーに、ナガレは優しく微笑んだ。

 これもナガレからすればブルーに対する一種の試験のようなものであったが、彼は期待通りの答えを示してくれた。


「でもナガレっち、剣も扱うの?」

「いえ、私は武器を使用致しません」

「そうか! ナガレってばそれを売る気なのね!」

「確かにオーパーツであれば高値が付きそうですね」

「いえ、暫く持っているつもりですよ。なんとなく気になってしまいましてね」

「むむむっ! 先生に気にかけてもらえるとは、それほどの代物なのですか?」

 

 最後のフレムの質問に対しては笑みを浮かべ、さてどうでしょう? と濁す程度でナガレはその長剣を魔法の袋にしまった。


 ナガレが手に入れた長剣――それは【心撃の長剣】という名称の武器であった。

 オーパーツであるこの武器は、想いの強さによって性能が変化する武器である。

 

 こうして盗賊の残した戦利品はワキヤークが全て持ち帰る事が決まり、なんともほくほく顔の彼であった。そして運がいいことに戦利品の中には魔法のバッグも混じっていたため、ワキヤークはその場で全て回収することが出来た。

 この辺りは流石の強運の持ち主である。


「……でもナガレ、ブルーにはあまり怒らなかったね」

 

 パンくずのように地面に落ちた盗賊達を頼りに帰路につく一行であったが、その途中ピーチが若干不思議そうにそんな事を言ってきた。


 確かにブルーには十分な反省の色が見えたが、ナガレの言い方はそこまで厳しいものではなかったと思われる。


「そうですね、それは私の仕事でもありませんので」

 

 何かを思い浮かべるようにして口にされたナガレの返事に、え? と言葉を返すピーチであるが、結局それ以上は触れず一行はハンマの街へと戻っていった。






◇◆◇


「ブルー! 無事だったのね!」

「お、ねえちゃん」


 ギルドに戻ると、ブルーの姿を確認したマリーンが弾かれたように叫びあげた。

 そんな姉の姿を見ながら、どこか申し訳無さそうな顔を見せるブルーであるが――


「ブルー、本当に、心配かけて……」

「お姉ちゃん、ごめんなさい、僕、僕……」

「ブルー……」


 するとマリーンが、他のギルド職員に目で確認した後、カウンターを飛び出し弟の傍へと駆け寄って行く。

 ブルーもお姉ちゃん、と声に出しマリーンに向けて駈け出した。

 

 無事だった弟との感動の再会。周囲の冒険者もよかったな~よかったな~と涙ぐんでいる者までいる。


 そして、ブルーが両手を広げてマリーンの胸に今まさに飛び込もうとしたその時――


「この、馬鹿弟がーーーー!」


 マリーンの拳が彼の鳩尾にヒットした。ビンタなどといった生易しいものではない。本腰のグーパンが彼の体に見事にめり込んだのだ。


『え~~~~~~~~!』


 その場にいたほぼ全員の声がギルド内に響き渡った。だがマリーンの行為はこれだけではおわらない。


「皆に迷惑をかけてーーーー!」

「げぶぅ!」


 見事な膝蹴りが顎を捉えた! ブルーの身体がふわりと宙に浮く。


「少しはこれで、反省、しなさーーーーい!」


 そしてマリーンも跳躍し更に追い打ち、タイトなスカートから綺麗な美脚が惜しみなく飛びだし、空中二段回し蹴りからの回転踵落としを華麗に決めブルーの身はマットに沈んだ。


 あまりのことにあっけにとられるギルド職員アンド冒険者達である。尤も中にはマリーンの太腿が見えてラッキーと思っているものもいそうだが――


 何はともあれ――


「な、ナガレが言っていた意味はこれだったのね……」


 かなり手厳しいマリーンの躾に半眼で呟くピーチなのであった――

 

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