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レベル0で最強の合気道家、いざ、異世界へ参る!  作者: 空地 大乃
第五章 ナガレとサトル編

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第一六二話 ナガレVSザン

「ナガレ先生!」

「おおあんたか! なんていいタイミングで来てくれるんだよおい!」


 その姿にブルーとワキヤークが歓喜の声を上げた。何せふたりともに彼のことはよく知っている。そう今やハンマの街で知らぬもの無し。魔物の大群から、変異種の群れから、そして地球人の血を引くも悪に堕ちた魔物使いインキから人々を救いし合気道家ナガレ カミナギの姿がそこにあったのだ。


「当然だ! 先生のタイミングの良さは世界一だぜ!」

「う~ん世界一の使い方がよくわからないのと、実際はもう少し前には来てたんだけどね」

「ナガレ様は空気を読んで出るタイミングを敢えて遅らせたのですよ。ナガレ様のお心はまさに神のごとく慈愛に満ちております」

「いや、でも別にあれ見てる必要なかったわよね……ワキヤークも話長いし」


 フレムは相変わらずのナガレの持ち上げぶり、カイルは苦笑しながら実際のところを口にし、ローザは祈りを捧げるポーズでもはやナガレを神格化している有り様だ。

 そしてピーチに関してはワキヤークの姿に呆れ顔を見せている。どうやらこの様子を見るに、ワキヤークが切られた頃にはすでにナガレ達はこの場にいたと考えるべきだろう。


 そうであれば切られた筈のワキヤークが無傷であるのも得心が行くというものだ。ナガレの合気であればそれぐらい容易いからである。


 いや、そうでなくてもナガレであればもっと早くから彼らに干渉していた可能性も高いか。例えばブルーが捕まった後、イボージに殴られそうになった時、彼のこけ方は何か見えない力によって引き起こされたかのようなありえないものであった。あれがナガレの合気によって引き起こされたものと考えるなら俄然納得がいく。

 

 どちらにしても――突然の彼らの参入にザンは怪訝な顔で一行を振り返った。


「てめぇら、一体どこから入り込みやがった?」

「普通に入り口からですが?」


 ナガレはまるでちょっとそこまで散歩にでも来たかのような口調で答えて見せた。全体的に余裕で満ちており、一体それに何の問題があるのか? といった様相ですらある。


「……ここに来るまでには他の連中も見張ってた筈なんだがな」

「見張りってあの雑魚どものことか?」

「正直肩慣らしにもならなかったんですけど?」

「あは、フレムっちもピーチも容赦無いからね~切られたり殴られたりで見事に地面に転がってるよ~」

「悪い行いをすれば必ず報いを受けるのですよ」


 フレムもピーチも得意満面といった様子で言葉を返した。カイルもにこにこと相変わらずの人を喰ったような笑顔をザンへと向ける。尤もそのカイルの弓も盗賊退治には十分に役立った。


 ザンの言うように途中確かに二〇人を超える盗賊が一行の前に立ちはだかった。しかしナガレの出るまでもなくフレムの双剣、ピーチの杖、カイルの弓の前では敵ではなかったのである。


 尤も途中恐れをなして助けを求めて逃げ出したものもいたが、そういった取りこぼしはナガレの合気であっさりと撃退された。


 彼らが通った後にはまるで迷わないようにこぼしておくパンくずの如く盗賊共が転がっている。きっと帰り道を知る上で良い道標となってくれるだろう。ナガレの合気にやられた賊などは壁に矢印形で埋め込まれるという安心設計である。

 

 なおローザに関しては途中あまり出番はなかったが、ワキヤークとブルーの治療を後でお願いする事となるだろう。


「……チッ、使えねぇ連中だな。まあいい――くくっ、よく見りゃいい女も混じってるじゃね~か。これは逆に俺にとって幸運だったな」

「ふむ、果たして本当にそうでしょうか?」


 にやにやと薄汚れた笑みを浮かべながら、値踏みするようにピーチとローザを見ているザンの視線から守るようにナガレが前に出た。


 チッ、と長剣を携えた男は舌打ちする。


「なんだ? まさかお前みたいな餓鬼が俺の相手するってのか?」

「そうですね。ここは一つお相手致しましょう」

「おお! 先生自ら!」

「そういえば久しぶりかも――ナガレが闘うのを見るのは」

「ナガレ様が出れば間違いありませんね」

「う~ん確かにナガレっちならね~」


 四人の声援を受けるナガレに、面白くなさそうな顔を見せるザン。顔を顰め、地面にツバを吐き捨てた。


「なんでかは知らねぇが、随分と信頼されているんだな。だが、俺に掛かればお前は丸裸も同然だぜ――」


 言って鋭い視線をナガレにぶつけるザンであった。どうやら鑑定を試みているようだが――


「ん? ははっ、なんだ餓鬼、レベル0だと? おいおいそんなんで――て、は、はぁ!?」


 レベル0――随分と久しぶりに感じられる響きだが、この世界においてナガレのレベルは0と判定される。それは過去にマリーンの鑑定眼鏡によってなされた結果でも明らかであった。


 ただ、受付嬢がつける眼鏡は鑑定といってもレベルしか表示されない。一方ザンが使うような鑑定はレベルだけではなくステータスやアビリティ、スキルの類も表示される。


 そして――ザンはナガレを鑑定した途端素っ頓狂な声を上げ、その後何度もナガレの姿を確認し、結果訝しげな表情を見せその首を傾げた。


「――チッ! やっぱりこの鑑定調子が悪いぜ。全くレベル0だってのにふざけやがって、これじゃあ逆転のスキルも使えやしねぇ……」


 ぶつぶつと文句を述べるザンに、どうかされましたか? とナガレが尋ねるが、ふんっ、と鼻を鳴らしザンはその手に握られた長剣を構えた。


「まあいいさ。鑑定の調子が悪くても、お前みたいな餓鬼に俺が負けるわけがないからな。例え逆転がなくてもこの俺の剣と剣術に掛かればお前ら全員をたたっ斬るぐらい容易い。だが安心しな、女だけは活かしておいてやるよ」

「なるほど随分な自信ですね。その手に持った武器がオーパーツ(迷宮遺物)だからでしょうか? しかし正直貴方にはその武器を使いこなせるようには思えませんけどね」


 絶対の自信に満ち溢れているザンへ、ナガレがいつもと全く同じ様相で言葉を返す。

 するとザンの眉がピクリと跳ねた。


「なんだ? そうか、お前も鑑定持ちか。ふん、だがな、それが判ったところで――どうしようもないぜ!」

 

 肉薄――地面を蹴ったかと思えば、その瞬間にはナガレの目の前にザンの姿があった。

 そして、一の太刀、二の太刀、とナガレの身に剣戟を重ねていく。

 

 だが、ナガレ独特なゆったりとした動きによって、捉えた! と確信したであろうザンの連撃が次々とすり抜けていく。


「くそ、避けるのだけは得意なようだな。だが、だったらこれだ! 【燕二連】!」


 それは、ザンがここぞという時に使用する必殺の剣術スキル。燕返しというスキルがある。これは振っている途中で刃の軌道を変え、一振りの内に二の太刀までを相手に浴びせる技だ。


 そして燕二連はこれを連続で二回行う。これにより燕の軌道は倍変化し相手を翻弄するわけだが――ザンは更に超越した離れ業をやってのけた。


 何せザンは一本の剣でほぼ同時に左右から燕返しを繰り出してみせたのだ。そしてこれにより、間合いにさえ入ってしまえばどんなに避けるのに長けた相手であっても決して逃れることの出来ない必殺の一撃へと昇華する。


 左右から迫る獰猛な燕に容赦なし。これはザンの人間離れした身体能力があってこそ可能としたまさに必殺の剣。


 だが――所詮人間離れ程度ではナガレにかすり傷ひとつ負わせることすら叶わない。それが現実なのである。


 な!? とザンの表情が歪む。彼にも感じ取れたことだろう。己の剣戟がナガレを捉えたその瞬間、まるで鋼が急にスライム状の何かにでも変化したかのような違和感。それほどに手応えがなく、そしてまるで剣がナガレの手に吸い込まれたような軌道に変化し、かと思えばナガレの腕が大きく回転し――その瞬間にはザンの身は天井に突き刺さり、間髪入れずバウンドし地面に落下、そこから今度は何万回と回転しながら天井に穴を開け突き進み、そして最後には再び地面に落下しすり鉢状の大穴をあけ、ようやく動きを止めた。

 当然だが、その意識は天井に投げ出された瞬間にはとっくに失っているわけだが――


「ふむ、流石はオーパーツですね。この程度なら十分に耐えられるようです。中々素晴らしい」


 そしてナガレは気絶しているザンの手に握られた剣を見ながら興味深げにそんなことを言った。

 

「……ま、予想はしてたけどナガレに掛かれば赤子の手を捻るより簡単だったようね」

「うぉおぉおおぉお! 凄いぜ先生! 俺は今猛烈に感動している! 一生ついていきます!」

「う~んでもこれでも生きてるんだから凄いよね~勿論それが出来るナガレっちがって意味だけど」

「ナガレ様の慈悲深さ――素晴らしいです」


 こうして四人の賞賛の声を浴びナガレの戦いは終わり、再活動を始めた盗賊団赤蜘蛛は、彼らの介入によりあっさりと壊滅させられたのだった――

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