閑話 其の三 クラス召喚②
本日三度目の更新です。
第二章はこれで終了です。
閑話②での予定通り本編第三章は16時頃更新できたらと思います。
「で、でも舞、さんは凄いね……」
一旦それぞれの部屋に戻る途中で相沢 愛華が声を掛けてきた。
お下げ髪を肩まで垂らし、眼鏡を掛けた素朴な雰囲気の女の子である。
文学少女という雰囲気が似合うが決して見目が悪いわけではない。
「別に大した事はないわ。それに、私どうしても帰らないといけないし……」
舞は伏し目がちにそう応える。
「……そうだよね。でも舞、さんは凄いよね。私と同じ年なのに、CMとかにも出ていてドラマまで……」
「……それは、うん、でも私なんかより愛華ちゃんのほうが可愛らしいと思うよ」
そ、そんな私なんて! と、わたわたしだす愛華。
その姿に、小動物みたい、と、ちょっと考えてしまう舞である。
「ところでさ、思ったんだけど一人足りないよね」
舞が何となしに言ったその言葉に、愛華は一瞬表情を暗くさせる。
「……うん、サトル君がいないからね」
「――サトル、サトル、ね……誰だったかな?」
「……そうだよね。舞さんが覚えてるわけないよね」
顎に指を添え考える仕草を見せる舞を窺うようにしながら、愛華が呟くように言った。
「愛華ちゃん、別に私の事は舞でいいよ」
「え? でも……」
舞は芸能人然とした一〇〇%の微笑みを湛えて愛華に言った。
それに戸惑う愛華であったが、その時――
「ちょっと愛華。さっきの約束忘れた? ごめんなさい舞ちゃん、ちょっと彼女と相談があって」
え? と愛華。
彼女を呼び止めたのはクラスの女子だ。
「ね? 忘れてないよね?」
「……あ、うんそうだね。ごめんね舞、さん。それじゃあまた後で――」
そういってクラスの女子と歩いて行く愛華に、あ、うん、とだけ返し手を振る舞であった。
◇◆◇
「なぁ、俺達で舞のことやっちまわね?」
謁見室から割り振られた部屋に戻る道すがら、空飛 鴉がそんな事を言い出した。
すると並んで歩いていた陸 獅王がニヤリと唇を歪め、いいなそれ、と同調し。
「現役アイドルとやれるチャンスなんて中々ねぇしな……流石に向こうじゃ無理だがこっちの世界なら――」
「…………」
「おい海島、何黙ってクールぶってんだよ。お前だってアイドルとやるのに興味あんだろ?」
「別に俺はお前たち程がっついてはいないさ。女なら別にあいつじゃなくても他にいるだろ。それに――」
「どうやら海島君は、少しは利口みたいだね」
そんな三人の会話に割り込んできたものがいた。
後ろを振り返り、陸が若干戦いてみせる。
「二年A組の陸海空、問題の多い君たちならそんな事を考えそうだと思ったよ」
声を掛けたのは、クラス委員長でもあり、皆からの信頼も厚い明智であった。
彼の言うように、この三人は素行も決して褒められたものじゃないし、色々と面倒事も起こしてきた。
しかしクラスの調和を保つため、そんな三人にも明智は積極的に接触していた。
今では彼ら問題児三人も明智には逆らえない。
「べ、別にいいだろ? ここは異世界だぜ? それにあの女ちょっと面倒くさいだろ? 今のうちに躾けておいたほうが」
「本当に頭が悪いな陸は、確かにここは異世界。僕達のいた世界とは概念も法も異なる。だけどね、皇帝の言うことが事実だった場合、いずれは地球に戻る事になるんだ。その時に新牧 舞に手を出していて上手く言い逃れることが出来るのかい?」
「そ、それは……」
「ただでさえ彼女は人気も出てきていてファンも多い現役アイドルなんだ。その子に手を出すような真似をしたら、さすがの僕でも面倒見切れないよ」
陸と空飛が途端に押し黙る。
「まぁ、明智の言うとおりだな。いくらここが異世界と言っても先の事はしっかり見据えていたほうがいいだろう」
「そうだね。海島君は他の二人に比べれば賢くて助かるよ」
海島が眼鏡を直し、他のふたりは短く唸ることしか出来ていない。
「それに、舞君にはサトルの件で随分と役に立って貰ってるだろう? 特に君たちが勝手にやったとはいえ、彼の妹を誘い出すのに一役買ってくれたのだから、少しは感謝しないとね」
明智はそこまで言った後に踵を返し。
「まぁ、君たちが性欲を持て余しているのは判っているから、それは近々なんとかするよ」
明智はそういいながら、ブラブラと手を振り去っていった――
こうしてそれぞれの思惑が絡み合う、サトルのいない二年A組の異世界での生活が今始まったのである。そしてそこから暫し時が流れ――
◇◆◇
「ギェギェ、ギェーーーー!」
サトルの使役した悪魔の書六五六位リトルデビル。
見た目はまさしく翅の生えた小さな悪魔といった様相のソレが放った火炎弾がゴブリン達に命中しその体を燃焼させていく。
「ふぅ、ゴブリン程度ならもう楽勝だな」
『ふむ、確かに我と契約したての頃よりは随分と扱いが上手くなったではないか』
「……いや、偉そうに言ってるけど、俺聞いてなかったからな。悪魔の書を扱うのに俺自身のレベルもそれなりに上げないといけないだなんて」
『それは当然であろう。いくら我と契約したとはいえ、元々何の称号も持たないお主は酷く脆弱な生き物である。我との契約で多少はましになったとはいえ、我が書の悪魔を使役するにはその順位に見合った魔力が必要となる』
悪魔の書の言う通り、契約したことでサトルのレベルは10まで向上したが、その程度では強力な上位悪魔は到底使役することが出来ない。
サトルは悪魔の書と契約したとはいえ、身体能力に関しては殆ど変化がないため、戦うにしても使役する悪魔頼みだ。
だが、順位の低い悪魔は当然能力もそこまで高くはない。
サトルの狙う復讐対象は、悪魔の書の話では異世界に来ると同時に何かしらの称号を得ており、強力なスキルや魔法を覚えている可能性も高い。
その為、ただ悪魔の書を手に入れるだけではなく、それを使いこなすためにレベル上げを行う必要があった。
悪魔の書と契約してからは暫くはあの洞窟でゴブリンや、ホーンラビットなどを相手にレベル上げに勤しんでいたサトルであったが、流石にそれでは限界がある。
そこで悪魔の書の提案もあり、近くの町の冒険者ギルドに登録し、依頼をこなす毎日である。
そうすることでレベルも上がり依頼料も手に入る。
勿論一番の目標は復讐であるサトルだが、復讐を遂行するにも毎日の生活は続けないといけない。
復讐の為にレベルを上げ、更に生活費を稼ぐには、冒険者という仕事がうってつけなのであった。
「おっとこれでまたレベルが上ったな。さて次が今回の目的のコボルトと……犬の顔をした魔物で、ゴブリンよりも上等な武器を使うんだったな」
『コボルトは弓も扱うからな。まぁ油断はしないことだ』
「寧ろ弓を使うなら慎重にいくさ。でもこれでラストならもうあまり温存する必要もないな――我は求め訴えたり、いでよ! 悪魔の書二七六位レッサーデーモン!」
サトルが悪魔の書に手を翳し念じると、書物が勝手にペラペラと捲れだし、指定した悪魔の封印されたページで止まり青白い光を発し中から赤熱色の肌を有した悪魔が姿を見せた。
そしてさらにサトルは序列五二七位のガーゴイル数体を呼び出し、レッサーデーモンの援護を命じる。
「さぁレッサーデーモン。コボルト共を片付けてこい!」
サトルが命じると頷き、そしてレッサーデーモンとガーゴイルがコボルトを殲滅に向かった。
その先はもはや悪魔たちの独壇場であった。中にはコボルトを纏めるコボルトリーダーの姿もあったようだが、問答無用でガーゴイルの爪で切り裂かれ、レッサーデーモンの火炎魔法によって焼きつくされていく。
「お! またレベルが上った。よしよしこの調子で更に強力な悪魔を使役し、奴らに復讐を――待ってろよクズども……」
二年A組のクラスメート全員の姿を思い浮かべ口角を吊り上げるサトル。
その姿は、既にどちらが悪魔かわからなくなるほどであった――




