第一三九話 私がリーダー!?
第一三八話のピエールが資料を見る部分を少し加筆しました。
「えーーーー! エルガ様の護衛!?」
ナガレが戻り、ピーチに事情を説明するとかなり驚かれてしまった。
畑作をするための話し合いがなぜそうなったのかといったところであろう。
「う~ん、まさかそんな話になるなんて……でもナガレの活躍を考えれば当然なのかな」
顎に指を添え、真剣な顔で考えてる様子。
「そこで一応一旦私預かりでピーチに相談しようと思いまして」
「へ? 私に相談?」
「ええ、ピーチに黙って決めるわけにもいきませんからね。一応正式には冒険者ギルドを通すことになると思いますが、請けますか?」
「う、請けるわよ! わざわざ領主様から指名頂いたのに断ったら流石に悪いじゃない!」
「それを聞いて安心しました」
すると、ピーチの返事を耳にしていたエルガが皆の前に姿を見せる。勿論今の姿は本来の性別通りの男装である。
「断られたらどうしようかと思いましたわ」
「エルガ様!」
「え? あ、ああどうしようかと思ったぞ」
つい素(?)が出てしまいそうになるエルガをヒネーテが咎めた。
やはりエルガは男の口調が慣れない様子である。
「全くこの調子で本当に私がついていかなくて大丈夫なのか……」
「え? 一緒ではないのですか?」
ぶつぶつと不満を垂れるヒネーテにピーチが尋ねる。確かに雰囲気的にはついてきてもおかしくなさそうだが。
「ヒネーテはこの領地を守る騎士団ですか、だからな。それに魔物の襲撃があった後ですか、だからな。流石にこの地を離れさせるわけにはいかないのです、いかないのだよ」
なんとも男としての振る舞いが窮屈そうなエルガであるが、確かに今回の件をきっかけにグリンウッド騎士団もよりいっそう気を引き締める必要があると思い知らされたようであり、その為にも防衛も含めて一から見直す必要があるとヒネーテは言う。そんな状況ゆえ団長である彼が同行するわけにもいかないというわけだ。
「本来なら私が行かないにしても何人か騎士を護衛につけるつもりであったのだがな……」
ため息混じりに尻目でギルド長をみやるヒネーテである。
一方ギルド長はニコニコ顔でご機嫌な様子である。
「いやいやエルガ様の護衛を冒険者ギルドで引き受けることになるとは光栄の極みです。しかしこのナガレは私も一目おくほどの冒険者です。まあ今さらあえていう必要もないでしょうが」
ギルド長がどこか得意気にナガレを評した。ナガレがハンマの街に登録していることが随分と誇らしそうでもある。
尤もこれだけ活躍しているナガレである。ギルド長の気持ちもよくわかるというものだろう。
「先生!」
すると、横で聞いていたフレムが真剣な顔で声を上げた。
終始横についていたクリスティーナがびっくりしている。
「俺達も! 俺達もその護衛任務に同行させていただけないでしょうか?」
フレムの願いに、ローザとカイルも一瞬目を丸くさせたが、異を唱えるつもりはないようだ。
むしろふたりともそれが可能なら護衛任務に参加したいといった様子が感じられる。
「……ふむ、なんとなくフレムであればそう言ってくるのではと思ってましたが」
「え? 先生それじゃ!」
「そうですね。ピーチはどう思いますか?」
「え? あ、私はナガレがいいなら――」
「そこはピーチの意志を聞きたいですね」
「え~!? あ、いや、私はいいけど、でも何で私の意見を聞いてくるの?」
ピーチは不思議そうに首を傾げナガレに訊いてくる。護衛の件といいわざわざ自分に確認しなくても――といった様相だ。
「それは当然ですよ。私とピーチはふたりだけとはいえパーティーを組んでいて、リーダーはピーチなのですから」
「え? あ、そうなんだ。な~んだ私がリーダーだったらそれは仕方ないわね、って、えええぇええええええぇえぇええ!?」
ピーチが素っ頓狂な声を上げ周囲の視線がピーチ達に向けられた。
それに声を上げたピーチ自身が気恥ずかしそうに頬を染め俯く。
そして改めてナガレをみやり、ど? どういうこと? と尋ねた。
「言葉通りですよ。マリーンからリーダーが誰かを確認し忘れていたと言われたので、ピーチでお願いしますと告げておいたのです」
ナガレがにこりと微笑みながらなんてことはないように言った。
それにピーチは再度驚き。
「な、なんで私! リーダーはナガレの方がぴったりじゃない!」
「いえいえ、それは買い被り過ぎですよ。私はとてもそのような器ではありませんから」
――え~~~~、と全員がそんな馬鹿なって目でナガレを見た。
ただナガレとてただピーチに押し付けているわけではない。もしナガレがリーダーという立場を引き受けてしまうと、いざという時ナガレに頼ってしまい自分で決断ができなくなってしまう。
現に今もピーチはナガレの判断に任せてしまっている節が認められた。しかしそれではピーチの成長につながらない。
だからこそナガレは自分ではなくあくまでリーダーはピーチとしたのである。
「そういうわけですので、リーダーとしてピーチ、宜しくおねがいしますよ」
「うぅ、ナガレを差し置いてリーダーだなんて緊張するよ~」
「大丈夫だよ、ほらうちだってフレムがリーダーできてるぐらいなんだから」
「そうですよピーチ。フレムで出来るのだからピーチなら出来ますよ!」
「いや、それどういう意味だよ!」
「言葉通りの意味じゃないの?」
ムッとした顔でふたりに向けて声を上げるフレムだが、クリスティーナから半眼でツッコミを受け、ぐう、と唸る。
「いやはや、しかしフレムのパーティーも依頼を請けてくれるならこちらも探す手間が省けて助かるよ」
ギルド長がそう言って笑い声を上げた。ナガレとピーチが護衛を請けるのは確定済みだが、流石にふたりだけというわけにもいかないのでまだ何人か募集をかけるつもりだったのだろう。
「それにしてもナガレが請けてくれてたすかりまし、助かったぞ! 断られたらどうしようかと思いましたわ、思ったのだぞ!」
「……それにしても本当やりにくそうね……」
ピーチに向けられた、判る? といったエルガの目は男ではなく女のソレであった。
「エルフの森についてお話を聞いて頂けましたし、結果的にエルフ達にとって良い形でお話を進められそうですからね。無下にするようなことはいたしませんよ」
実際ナガレとしてはピーチが快諾することは想定内であった。
「そう言って頂けると嬉しいが、オークの件では不便を掛けているので、それが気がかりではあったので、あったのだ」
「なんやそんなこと気にせんでええで。あいつら今ではうちらの一員やしな」
「うむ、森の中でも十分のびのびと暮らしているのじゃ~~~~!」
余計な心配は不要、とエルフのふたりがエルガに返す。交渉も問題なく進みそうなので至極機嫌がいい。
ただエルガの言うとおり今オークは森から出ないようエルガやギルドから伝えられている。
理由は件の襲撃の件が関係していた。あの時市街で襲撃してきたのはエルフの森でナガレが見抜いたイベリッコと同じく、痩せたオーク達であった。
尤もそれはエルフの森に移住を決めたオーク達とは別の者であったわけだが、それでもハンマの一部の人々には襲撃してきたのが痩せたオークであると擦り込まれてしまっている。
その為、森のオークが見られてしまうと余計なトラブルを引き起こす可能性がある為、落ち着くまではエルフの森から出ないでおいてもらいたいと頼まれた形なのである。
「ただ、耕作や畑仕事にはオーク達の手助けも必要となりますので考慮していただきたいところですね」
「はい。それまでには畑仕事はせめて問題がないよう手を打とうと思いますの、思ってるから安心してくれ!」
それであればよかったです、とナガレ。
「ところで護衛はいつからになりますか?」
そしてピーチがギルド長とエルガを交互にみやりながら尋ねた。たしかにそこはしっかり確認しておかなければいけないところだ。
「はい、一〇日後には出発する予定ですわ、なのだ!」
「一〇日後ね――それだと色々と準備しておかないとね」
「そうですね。それにその間にピーチの新しい装備が出来上がるかもしれませんので、確認しておいたほうがいいでしょうね」
「あ!? 確かに! 鉱山の件とか色々あってうっかりしてたわね……」
「俺達も色々と準備が必要だな」
「そうですね。念のためマジックポーションも購入しておきたいし」
「おいらもそろそろ弓を変えようかな~」
それぞれが思い思いのことを口にする中、クリスティーナも一人、一〇日後……一〇日後、と繰り返し呟いていた。
「さて、少々仕事の話が多くなってしまいましたが、折角の晩餐会です。話はこの辺りにして改めて食事を楽しみませんか?」
そしてある程度話が纏まったところで、ナガレが切り出し、皆もそれに同意し――全員でその日の晩餐会を楽しんだのだった。