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第一三七話 ナガレ交渉の場に立つ

「まさかこんなにすぐに謁見の機会を与えてくださるとは、本当にありがとうございます」

「うむ! すまぬのじゃ!」

「ほんま悪いな~」


 ナガレが先ず感謝の意を伝え、それにエルフのふたりが続く。するとすっかり女性の姿に変貌を遂げていたエルガがにっこりと微笑んだ。


「何を申されますか。私を颯爽と助けてくれたナガレ様から申し出とあれば断る理由がございませんわ」


 頬をほんのりと朱色に染めながら、エルガが言った。所作といい言葉遣いといい、今はすっかり麗しい女性と化している。


 あの後、ギルド長がすぐにエルガに謁見の申し出に走ってくれたのだが、その後の答えはすぐにでも会ってくれるというものであった。

 

 その為、ナガレはエルマールとエルシャスと共にエルガの私室に赴いた。

 ただ流石に全員で押しかけるわけにもいかないので、他のメンバーとは一旦別れた形だ。


「それにしてもこれがほんまさっき挨拶していた領主様と同一人物かいな?」

「全くじゃ。どうみても綺麗な女性なのじゃ。まあ妾ほどではないがのう」

 

 エルシャスはエルガの姿に随分と驚いている様子。エルマールに関してはなぜか張りあうようにしてるが悲しいかな今の姿ではただの愛らしい幼女である。


「全く、せめて今日は男の姿を保って欲しいとお願いしていたというのに……」

「まあ、良いではありませんか。それにナガレ様のお知り合いであれば口は固いかと思われますし」

「……そもそもなんでニューハ。お前がここにいるのだ――」


 エルガの横に立つヒネーテがなんとも言えない微妙な顔でそう言った。

 それに、ウフフ、と笑って返すニューハである。どうやらこのふたりは知り合いのようだが。


「私が同席してもらうようお願いしたのですよ。ナガレ様も快く承諾してくれましたし」

「こちらも無理を言っておりますので断る理由もありませんでしたので。それにレイオン卿とニューハは普段から仲良くされているとも聞き及んでおりましたから」

「そうですよヒネーテ。それにニューハはナガレ様に私を助けてくれるようお願いしてくれたと聞いておりますし、この姿でお礼も言っておきたかったのです。ありがとうニューハ」

「いいのですよ。親友として当然のことです」


 ふたりのやりとりにヒネーテは眉を顰め、

「だから何故にその姿でなければいけないのか」

と不満を漏らした。


「あら、とてもお綺麗ではありませんか。いつもながらやはり今の姿のほうが素敵ですわ」

「ほらヒネーテ、ニューハだってこう言っているじゃない。あ、ナガレ様! 先程はあのような格好を見せてしまいましたが、本来の私はこの姿ですので! どうか、どうかそこはご理解頂けると嬉しく思います」

「判りました。ですがどちらの御姿も素敵ですよ」


 まあ、とエルガが両頬に手を添え感嘆する。


「ニューハお前のせいだぞ! お前のせいでエルガ様は!」

「ヒネーテ何を言っているのですか。これは私の意志ですよ。第一そんなこと言って貴方などニューハに一度告白しているではないですか」

「ぐむぅ! そ、それは」

「ふふっ、私あそこまで情熱的な愛の告白を受けたのは初めてでしたので、危なく心を奪われそうになりましたわ」


 ニューハがなんとも魅惑的な笑みを浮かべヒネーテへと告げた。こうして見ている分にはエルガにしろニューハにしろ確かに女性にしか思えない。


「へ~そうなんや。なんやあんた厳つい顔してるわりに中々やるやん」

 

 そんなふたりを眺めながら、エルシャスが誂うような笑みを浮かべそう告げると、ヒネーテが悶絶した。


「ぐぉおおぉぉお! 違うのだ! あれは、あれは! ぐぉぉぉおぉおお!」


「ところでエルガ様、そろそろ本題に、ナガレやエルフのお二人も森の件で――」

「お待ち下さい! その前にナガレ様、先程からそのレイオン卿というのは少々堅苦しくかんじますので、どうかエルガとお名前でお呼びください」

「それではエルガ様で――」

「嫌ですわ! エルガと、どうかそうお呼びください」

「いやいやエルガ様、流石にそれは領主様を呼び捨てにと言うのも――」

「ハイル、私はナガレ様に申しているのです。それに私が良いと言っているのですよ」

「いや、しかし――」

「言ってくれないのでしたらもうこれ以上お話することはありませんわ」


 するとぷいっとエルガがそっぽをむいてしまった。それに思わず苦笑いのギルド長である。


「……判りました。それではエルガ、どうかこれでご機嫌を直していただけませんか?」

「勿論ですわナガレ様!」

「ははっ、それであれば私の事もナガレで宜しいですよ」


 まあ! と驚き身体をくねくねさせて喜ぶエルガである。


「ほんま、あんさんはおっそろしい男やで」

「うむ、ナガレは天然のたらしであるな」


 酷い言われようだな、とナガレが苦笑した。


「ところでエルガ様にお話とは一体どのようなことで?」


 すると初老の男がエルガに代わって切り出した。彼はヒネーテとは反対側に立つ男で青みがった白髪をきっちりと纏め、片眼鏡を着用している。その格好は執事然としたもので先ほどの宴の挨拶の際にもエルガの隣に立っていた。


「ピエール殿もこう言っていることですし、ナガレもおふたりもそろそろ本題に……」


 執事であるピエールの発言に乗っかる形でギルド長が三人を促した。そして改めて全員が着席し話を切り出す。


「なるほど、あの森の権利についてですか……」


 一通りナガレ達の話を耳にし、エルガは悩ましげな仕草で頷いた。

 女性としてみるならかなりの色っぽさである。


「そうなのじゃ。妾はナガレの話に感服したのじゃ。だから是非とも森の周囲で畑作をしたいのじゃ」


 エルマールの話に、なるほど、とエルガが頷く。


「それでしたら私の方も特に禁じる理由はございませんわ。生前お父様も森はエルフ達の自由にするよう取り決めておりますし、そこは好きにされても――」

「お待ち下さいエルガ様!」


 するとピエールが声を上げエルガの行為を制した。


「この案件そのような簡単に決めるべき内容ではありませんぞ。どうかお考えなおしを」

「え? いえ、ですがピエール、ナガレは街を救った英雄であり私の命の恩人でございますよ。その御方の頼みとあれば」

「お待ち下さいエルガ。この件に関してはもし私のことを気にされているのであれば、それは考慮なさらなくて結構です。ピエール様の言われる通り、この件はお互いしっかりと線引を決めておいた方が宜しいですしね」

 

 ほう、とピエールの眼鏡の奥の瞳が光る。


「なるほど、流石はこの街を救われた英雄というだけありますな。物事の道理というのものをしっかりと弁えているようだ」


 そしてピエールはエルガに顔を向け言った。


「この交渉、是非とも私にお任せ頂けませんか?」

「え? でも……」

「エルガ様、私もここはピエールに任せるのがいいと思いますぞ。何せ彼はこの領地の執務に先々代から先代、そして今に至るまで関わってきました。きっと良い結果をもたらしてくれることでしょう」

「……ナガレはそれでも構いませんか?」

「はい、私は大丈夫ですよ」


 こうして話は決まり、ナガレ達と執事のピエールとの間で交渉が開始された。

 

 そこで先ずピエール側はエルフの森にしても周囲の土地にしても今回の取り決めでしっかり借地とすることを提示してきた。

 

「森に関しては先代の意向もございますので特別に借料は無しで、しかし周囲の土地に関しては畑として使用されるならばその広さに応じて借料を徴収させて頂きます」

「は? なんでやねん! うちらが苦労して畑を作るのにお金をとるやなんておかしいやろ!」

「そうなのじゃ~横暴なのじゃ!」

「いえ、これがエルフ側の借地とするなら特におかしな話ではありませんよ」


 ピエールの提案に文句を言うふたりだが、そこにナガレが口を挟む。


「な、ナガレ、お主はどっちの味方なのじゃ!」

「エルマール。これはあくまで交渉の場。感情だけで話を進めるわけにはいきません」

「ふむ、流石に判っておられる。ではここから先は借料についての話に――」

「ですが、私としてはこの地に関しては借地としてではなくエルフ側の所有権を認めてほしく思います」


 しかし話をまとめようとしたピエールにナガレが切り返した。それに目を丸くさせるピエールなのである。

 

「なんや、やっぱうちらのことを考えてくれとるのやな! 流石ナガレや!」


 そしてエルシャスがナガレを称賛した。しかしピエールは不満そうに眉を顰める。


「所有権と言われ、そう安々どうぞとはいとは言えませんな。そちらも当然それはわかってると思いますが……そうなると当然タダで明け渡すというわけにはいきませんぞ。しかしあれだけの広い土地であるし、そちらにそれを買い取るだけの資金はお有りですか?」


「へ? し、資金、困ったのじゃナガレよ。妾達は正直……」

「ええ、判ってますよ。残念ながらエルフ側には土地を買い取るだけの資金はございません」

「……ナガレ殿、流石にそれでは話になりませんぞ」


 ピエールはどこか冷めた表情でナガレを見た。見込み違いだったかといった残念そうな表情ですらある。


 しかしナガレはピエールに向けてニコリと微笑みそして答えた。


「ですが、我々は代わりとなるものの用意がございます。我々が畑で育てようとしているものはこれまでの作物とは全く異なるものであり、エルフにとっても特産物となりえるものです。しかし森に暮らすエルフだけでは余剰分が出てまいりますので、それに関しては商人との取引も当然考えておりますが――所有を認めて頂けるならその優先権を附与致しますが如何でしょうか?」


 ナガレの提案にピエールは目を丸くさせた。まさかこのような話を持ってくるとは思いもしなかったのであろう。だが――


「そう申されても、それが何か判らなければ判断のしようがありませんぞ」

「確かにそうですね。では今からそれをお見せしても宜しかったでしょうか?」

「まあ、それは楽しみですわ。私も是非みてみたいです」

「そうですね。エルガ様もこう申してますし、ナガレそれはすぐに準備出来るものなのですか?」


 ナガレはギルド長の話に、はい、と頷き、そして預けてあった魔法の袋を受け取りそこから味噌や米などを取り出してみせた――

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