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第一三六話 彼女が参加出来ない理由

「ふふっ、ナガレはやっぱり人気ね」


 ナガレが晩餐会の参加者と交流しつつ会場を歩いて回っているとゲイに声を掛けられた。

 一応ナガレはある程度気配を抑えているが、こういった場で誰とも交流をしないのは逆に失礼に当たるため、その辺はうまく調節していた。

 その為、勘が鋭いゲイのような冒険者には当然ナガレの存在ははっきり認識されている。


「そうでもありませんよ。ただこういった場で聞けるお話には興味深いものも多いですね」


 ゲイに身体を向けそう答える。社交辞令で言っているわけではなく、実際ナガレはいろいろな人の話を聞けるのをしっかり楽しんでいるし参考にしている。


「そうね、こういった場では楽しむことが何より大事よ。あたしもしっかりナガレちゃんのタキシード姿で楽しませてもらっているわん」

「それはありがとうございます。ですが、ゲイもよくお似合いですよ」


 普段は自らの筋肉や尻を魅せつけるような露出度の高い格好でいることが多いゲイであるが、流石に彼もこういった場所では見た目にも気を遣うようだ。ナガレと同じように正装でしっかりキメてきている。


「うふん、ありがとう。本当上手いわねナガレは。でもねん、今この場ではあたしを見てくれる人はいないわん。今宵の主役はあたしじゃなくてあの子達ですもの」


 そう言ってゲイがちらりと聖なる男姫のメンバーに目を向けた。確かにゲイの言うとおり他のメンバーは他の客人と上手く打ち解けているようでもある。

 特にニューハの人気は絶大だ。しかしカマオやモーホも人気――ただニューハに集まっているのは主に男性なのに対して、カマオやモーホは女性が近づいてきている様子。

 ただ嫌がっている様子は感じさせず意外にも社交的に接している。


 更に意外なことにダンショクに関しては子供たちに人気であった。この宴には子連れの客人も多い。社交場へのデビューのつもりで連れて来ているのも多いのかも知れない。

 

 そんな子供たちからすれば、他のメンバーと違いしっかり女物のヒラヒラしたドレスを来たダンショクの事が珍しいのだろう。


 尤もよく親がダンショクに近づくのを許したなと思うところでもあるが、そこは鉱山での活躍ぶりが利いているのかもしれない。


 ただ、男の子を見るダンショクの目が、時折獲物を狙う獣のソレに近いところが気になるところでもある。

 尤もニューハがしっかり目を光らせているようなので間違いが起きることはないであろうが。


 そして、そのニューハに関しては、きっと誰もが実は性別が男性だと気がついていないことだろう。

 中には随分と自己をアピールしているものなどもおり、必死に後日の約束を取り付けようと考えているものも多いようだ。

 本当の性別を知ったらどうなるのか、と言ったところだが、ニューハはニューハで上手く誘いを躱しているようである。


 どちらにせよ――確かにゲイ以外は結構な人気である。

 しかし何故ゲイだけぽつんと一人取り残されているような状態になっているか――だが、これに関しては想像に難くない。

 何せゲイは今回の件ではインキに操られていた側だ。場合によっては彼の手で仲間たちが傷つき、下手すれば命さえ失っていた可能性があるのだ。


 そしてその話もやはりある程度は知れ渡っている。尤もナガレやビッチェの報告を受けギルド長も大事にすることは避けてくれたが、それでもやはり敵側に操られていたというのは広まってしまっておりどうしても心証は悪くなってしまう。


 その結果ゲイだけが一人取り残されているような形になってるわけである。


「そうですか、では私でよければお話に付き合いますよ」


 ゲイをみやりナガレがそう言った。余計なことは言わない。ゲイの気持ちもある程度は察することが出来る。

 もし何も知らない人がみたならリーダーを一人放っておく仲間たちを薄情とも捉えるかもしれないが、彼にとってはこれが正解なのだろう。

 恐らくリーダーであるゲイが彼らに自分に構わず楽しんできてねと伝えたはずだ。


 そして他のメンバーだって理解しているはずだろう。下手な哀れみなどゲイを侮辱している事に他ならないと。


 だからこそナガレも余計なことは言わないし、同情や哀れみもかけない。今の誘いは純粋に気兼ねなく話すことの出来る友人としての言葉だ。


「うふっ、ありがとうね。それにしても自然にくるわねん。本当ナガレってばイケメンだわ。見た目にはまだまだ子供って感じなのに、話すとあたしなんかよりずっと大人っぽいように感じるし不思議な人ね貴方は」


 お礼をいいつつ、どこか軽やかになった面立ちでゲイが述べ、ナガレをそう評した。

 尤もナガレの実年齢で言えばゲイの判断は間違いではない。


「でも、おかげさまで壁の花にはならずにすんだわん。そうだ! 折角だからこのままふたりで朝までしっぽりと――」

「それは遠慮させてもらいます」


 パンっと手を叩き、思いついた事を口にするゲイであったが、それに関してはきっぱり断りを入れるナガレである。

 

「おやナガレ、こちらにおられましたか」


 すると今度は横から聞き覚えのある声。ナガレとゲイが声のした方へ顔を向けるとそこにはギルド長がいた。


「あらん、やっぱりギルド長も来ていたのねん」

「ええ、これでもこの辺りのギルドの代表ですからね。適当に見えるかもしれませんが」


 自虐的なことをいいつつも、ギルド長のハイルが笑みを浮かべた。

 しかしこうは言っているがハイルもハンマの街を守るために貢献した人物の一人である。

 何せ彼はたった一人で変異種や魔物の大群から南門を守ったのである。


「でも皆さんは勿論、ナガレには本当に感謝してます。街を救ってくれたことも勿論ですが、晩餐会に参加して頂けたおかげで随分と盛り上がりました」

「全く食えないわね。どうせこの晩餐会に貴族の参加を薦めたのも貴方なんでしょ?」

「え? いやいや私はほんの少し助言しただけですよ。何せ当初エルガ卿は今回の件で活躍した冒険者や騎士達だけを招待するつもりだったようで、ですがそれではやはり少し寂しい気もしますし、貴族の皆々様も街を救った英雄とは顔合わせしておきたいと思っていたでしょうから」

「ふむ、なるほど。そこで貴族と冒険者の間で交流が深まれば、ギルドの利益にも繋がると――」


 ナガレもゲイに乗っかるように察したことを口にする。

 するとハイルは、

「おふたりともあまり虐めないでください」

と顔を引き攣らせた。

 その表情を認め、ナガレとゲイが意地悪な笑みを浮かべる。


「ですが、それもギルド長の立派な仕事ですからね。冒険者の生活はギルド長の手にも掛かっているわけですし、そういうことであれば仕方ないと思いますよ」

「ああ流石ナガレ! いや本当、年に似合わずしっかりしてる」

 

 途端にハイルが笑顔を見せ、ナガレを褒めだした。節操がないようにも見えるが、これぐらいしたたかでなければギルド長など務まらないのだろう。


「それにしても残念なのはビッチェとメルルだね。ふたりも参加してくれたらなお良かったんだけど――」


 確かに彼女達も街を守るために活躍したふたりである。

 だがハイルの言うようにその姿は見えない。

 ただ、ビッチェに関して言えばそれも当然と言えるか。何せ彼女は既にハンマの街から離れている。


 しかしメルルはなぜかといったところだが――


「ビッチェに関しては仕方ないのですが。でもせめてメルルだけでも参加してもらえれば更に華やかになったと思うのですがね。でも断られてしまってね。彼女は冒険者として登録してるわけでもないし、あまり無理は言えないですから」

「ふむ、ですが寧ろそれは正解だったかもしれないですね」

「あら? ナガレにしては珍しい意見ね」


 ゲイは怪訝そうにそう述べるが、ナガレは、

「ええ、まあ」

と、口にし。


「勿論私も男ですから彼女のドレス姿には興味がありますが、ビッチェとは違いメルルは気配の調整は出来ませんからね。こういった場で魔法を使うのは芳しくありませんし、そうなると下手すれば殆どの男性が彼女の下へ群がってしまうことになりかねません」

「はは、流石だね。実際彼女もそれで一度酷い目にあったようでね。彼女は魔術師ギルドには所属していて、そのギルド主催の食事会に呼ばれた時、君の言うように男たちが次々と寄ってきて大変だったそうだよ。しかもその為に女性陣からは妬まれそれも色々と大変だったらしくてね。それからはこういった会には参加しないようにしているらしい」


 苦笑交じりにハイルが言った。ともすれば只の嫌味にも聞こえかねない内容だが、彼女の場合はそれも納得ができる。


「それにしても贅沢な悩みね。今のあたしだと考えられないわ」

「何を言ってるんだ。ゲイ、君もそろそろ他の客人の相手をしてきてもらいたいところなんだけどね」

「あら嫌だ。あたしに相手して欲しい方なんていないと思うわよ」

「そんなことはないさ。例えばあそこにいる貴婦人達は随分とゲイに興味があるみたいだしね」

「……女性なのね」

「これも大事なことだよ。それに君のパーティーのメンバーだって今日ばかりは性別に関係なく交流を深めているじゃないか。それだって誰の為かと考えれば――」

「……ふぅ、判ったわよ。仕方ないわね。じゃあナガレ、折角誘ってくれて悪いけどちょっと行ってくるわね」

 

 手をひらひらさせ動き始めたゲイ、はい、と笑顔で見送る。

 そしてゲイは貴婦人の中に見事に溶けこんだ。冗談交じりの会話で意外と楽しませている。


 恐らくこれも事前にハイルが貴婦人達に紹介していた為にスムーズに進んだことだと思われる。

  

 そしてナガレはゲイを含めた聖なる男姫のメンバーが女性に受ける理由もよく理解している。とくにその多くか既に夫人であることからもわかりやすかった。


 つまり彼らがこういった女性と接することは、女性からしても男性からしても安心なのである。そしてこれはナガレのいた世界とも通じるものがあった。


「ところでギルド長。不躾ではあるのですが一つお願いを聞いていただいても宜しいでしょうか?」


 ゲイが一旦その場を去った後、ナガレはハイルに向けてそう切り出した。


「お願い? いやいや嬉しいね。君から私にお願いがあるなんて、頼られてこんな嬉しい相手はいないよ。それで何かな? 私に出来ることならばいくらでも協力するよ」

「そうですか、ではお言葉に甘えて――」


 ナガレはそう言った後、今度日を改めてでも、ナガレも交えてエルマールにエルガとの謁見の機会を設けて欲しい旨を伝えるのだった――

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