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第一三五話 晩餐会

「え、え~、その皆様ありがとうございます、じゃなくて、え~此度の活躍見事であった。ここにいる皆の協力なければきっと今頃街は今頃大変なことになっていたことで、である! 私からはこうやって皆を労うことしかできないけれ、出来ないが、大いに楽しんでいってね、欲しい!」

 

 宴も始まり男の格好(・・・・)をしたエルガが挨拶を行った。その口調にしてもエルガは大分意識してるようで、そのせいか少々ぎこちない。

 その近くでは騎士団長のヒネーテや執事と思わしき老齢の男性がヒヤヒヤした様子で見守っている。

 流石にこういった場に女装姿で出させるわけにも行かなかったのだろう。しかし流石に元がいいだけに本来の姿もかなり凛々しい。招待された中には女性客も多いが、彼女たちはほぼ全員見惚れてしまっている。


「うふん、男としても女としても美しいだなんてちょっとやけちゃうわねん」

「あらリーダー、私だってやろうと思えば女の姿でも結構イケてると思うわよん」

「あらカマオってば。それは私への挑戦とみていいのかしらん? ららら~」

「ダンショク、こんなところで急に歌うな。それにしてもいいわねんあの姿。女装なんてせずそのままでいてくれたら俺が狙っちゃうのに」

「モーホ、私の親友に手を出したら許しませんよ。それとそのことは秘密なのですから、あまり大きな声では言わないようにしてくださいね」


 聖なる男姫の面々もどうやら領主のことはよく知っているようだ。勿論それだけにニューハからはしっかり口止めされているようである。


 そしてエルガの開宴の挨拶も終わったところで、本格的に宴が開始された。

 それぞれが思い思いの場所へ移動していく。


「ね、ねえフレム。きょ、今日の私どうかな?」

「うん? どうってなんだよ。そもそもなんで俺にくっついて来てんだよ」

「べ、別にそんなんじゃないんだからね! た、たまたま向かう先が同じなだけよ!」

「同じ? ああ、なんだお前もこの肉狙ってたのか。美味そうだもんな」

「い、いやそうじゃなくて……」


 クリスティーナは恨めしそうな目でフレムをみやる。この女性に対する鈍感さだけはある意味ナガレに近いと言えなくもないだろう。


「なんだ食べないのかよ?」

「……わ、私はあんまり肉とかは食べないのよ!」

「あん? なんだそれ? ふむ、もぐもぐ――ウメェ! 凄いウメェぞこれ! いいから食ってみろって」


 そう言ってフレムはソテーされた肉をフォークに刺し、クリスティーナの前に持っていく。

 え? とクリスティーナが目を丸くさせるが。


「なんだ、やっぱいらないのか?」

「……し、仕方ないわね! た、食べてあげますわよ!」


 クリスティーナはどこか恥ずかしそうな様相で、口を開けた。完全にあ~ん、の状態でフレムの差し出したソレを口に含んだ。

 もぐもぐとしっかり味わうその表情はどことなく嬉しそうである。


「どうだ? ウメェだろ?」

「そ、そうね、な、中々だわ」


 そんなふたりの様子を見ながらカイルが笑顔を見せる。


「う~ん、フレムっちも中々やるね~」

「でも何かいい感じよねあのふたり」


 ローザがニコニコしながらそんな事を言った。この様子を見るにローザにとってフレムは本当に付き合いの長い幼なじみという程度でしか無いのだろう。


「う~ん、意外なところで意外なふたりがいい感じよね……」

「あ、ぴ、ピーチさん、こっちの料理も美味しいですよ」

「え? あ、本当、これも、あれも、う~ん目移りしちゃう~」


 ピーチはヘルーパと一緒にいた。ナガレに料理を取ってくると告げ、テーブルに並ぶ料理を吟味している。ちなみにナガレの料理も取ってくると言っていたがそれはナガレがやんわりと遠慮した。これに関してはフレムも一緒である。


 そしてナガレはナガレで端から順に料理を皿に少量ずつ盛っていく。

 そしてふと盛り上がっているふたりの様子に目を向けるが――ピーチはお皿数枚を持ってそれぞれの皿一杯に料理を盛っていた。


「ピーチは美味しそうに食べますね」


 そしてテーブルから離れてすぐに料理に手をつけ始めるピーチにナガレが声を掛ける。

 すると彼女は恥ずかしそうに赤面した。


「お、お腹すいちゃって」

「そうですか。でもそんなにお皿を持っていては食べにくくありませんか?」

「え? あ、確かに立ちっぱなしだから食べにくいかも……」

「それに折角綺麗なドレスなのですから、手に持つのは一枚の方が美しさが引き立ちますよ」

「え、う、美しい?」

「はい。勿論いつもピーチは可愛らしいですが、ドレスを着ているととても華やかに映りますし、それなのに勿体無いですよ。料理はたくさんありますし、なくなったら皿を交換してまた摘めばいいですしね」

「そ、そうね……これを食べたら一枚にしておくわ。べ、別に逃げないものね!」


 ナガレは、はい、と笑顔で答えた後、更に料理は少しずつにしておいた方がより美味しく頂けますよ、とも付け加えた。


 実は皿を一度に何枚も取る行為も、皿一杯に料理を盛る行為もこういった場ではあまりそぐわない。

 ただ、それをそのまま伝えてはピーチが恥ずかしい思いをしてしまうだろうとナガレはそれとなく教えてあげた形だ。

 

 そして同時にナガレはある程度存在感を強め、挨拶を交わしてくる参加者とも会話する。

 何せ今回の件でのナガレの活躍ぶりはハンマの街ではかなり知れ渡っている。


 なのでナガレを確認さえできれば、話を聞いてみたいと考える者も少なくないのだ。

 そしてこのおかげで少なくともピーチが恥ずかしい思いをする心配はなくなる。

 

 そしてピーチがナガレの示唆したとおりに行動したのを認めてから、ナガレは再び自分の存在感をある程度薄め最後に話していた身なりのいい貴婦人に丁重に挨拶しその場を離れた。


 ナガレに声をかけてくる中にはやはり女性も多い。この短い間でなんとかお近づきになろうと迫ってくる者もいたが、そこは華麗にそれでいて決して失礼のないように躱してみせた。


「流石ナガレ。なんか、凄い人気ね……」


 少しだけ沈んだ声でピーチが言った。女性からも声を掛けられていたのを目にした為だろう。


「う~ん、ですがピーチの方が注目されていると思いますけどね」

「え~、私なんて」

「あの、鉱山の依頼で活躍されたというピーチ様ですよね?」

「へ?」

「いやお美しい。そのドレスもお似合いで」

「え、いや、あの――」


 しかしピーチが否定の言葉を口にした直後、次から次へとピーチの周りに男たちが群がってきた。

 それもその筈、少し幼さの残るところもあるとはいえ、ピーチもかなりの美少女である。更にその活躍ぶりもナガレに負けず劣らず広まっている。


 ナガレが存在感を元に戻せば、当然その分ピーチが目立つのである。尤もだからこそナガレはピーチが恥をかかないように気を利かせたわけだが。


(これもいい経験ですよピーチ)


 そんなことを思いながらナガレもある程度話しかけてくる人と交流しながらも会場を見て回る。ナガレやピーチだけではなく、やはり招待された冒険者達の内、主要なメンバーは人気だ。


 ただフレムに関して言えば何故かクリスティーナが彼に声掛けようとする女性を時折威嚇していたりする。そしてクリスティーナ自身他の男など歯牙にもかけないといった様子だ。

 尤もフレムはその様子に全く気づくことなく美味しそうに肉料理を頬張っている。


 そして、やはりというかマリーンやエルフ達も男性陣に囲まれていた。


「おおバットウ、お前も来ていたのかよ~」

「て、お前! なんでお前まで来ているんだよ!」

「なんでってそりゃお前、俺は蜘蛛殺しの異名まで手に入れたほどだからな。う~ん、あれそういえばバットウは結局変異種は何体倒せたんだっけ?」

「だから0体だよ! いつまで言い続けるつもりだテメェは!」


 ふと見ると、ワキヤークの姿も見えた。彼のことはナガレもしっかり把握している。勿論後からピーチにも話を聞いているが。


 そんな彼はバットウの横でこれみよがしに周囲の人々に自分の活躍を語っている。

 バットウはなんとも面白くなさそうな面持ちだ。


「マリーンは相変わらず男性から人気ね」

「え? あ、エア先輩! お久しぶりです」


 ふとみるとマリーンが緑色の髪を背中まで伸ばした女性と挨拶を交わしていた。どうやら受付嬢の先輩らしい。

 とは言ってもエアは既に受付嬢は辞めてしまっているようだが。

 そんな彼女の年齢はマリーンより二歳ほど上で、マリーンに負けず劣らずの美しい淑女である。


「それでどうなの? そろそろいい人見つかった?」

「そ、そんな、私はまだ結婚なんて」

「嫌だ、そんなこと言っていたらすぐ婚期を逃すわよ。私は結婚してよかったと思ってるわ。あの人って――」


 マリーンの先輩の話は旦那との惚気話に変わっていった。話をしながら時折ワキヤークに目を向けている彼女は、何を隠そう彼の妻だ。


 どうやらワキヤークは女運も相当に高いらしい――

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