第一三四話 勢揃い?
「お姉ちゃん。本当にこの人がそんなに強いの? なんかの間違いじゃなくて?」
「ブルー、失礼が過ぎるわよ。いい加減にしないとお姉ちゃん怒るよ!」
もう怒ってるじゃん……とこぼしつつ、姉には頭が上がらないのかその後すぐにナガレに頭を下げてきた。
「そんな謝られるようなことではないですよ。ふむ、しかし冒険者を目指しているのですね」
「うん! 将来絶対Sランク冒険者になってお姉ちゃんを認めさせるんだ!」
「これはまた大きく出たねブルーっち」
「え? ブルー、ち?」
「あ、気にしないで。これはカイルの癖というか、彼ちょっと軽くて」
「え~ローザ酷いなあ」
相変わらずノリの軽いカイルにローザが呆れ顔で補足する。
すると気のせいかブルーの顔が赤い。
「あ、あのナガレさんは僕の勘違いだったとして皆さんは?」
「私はナガレとパーティーを組んでいるピーチよ!」
「うん、それはすぐわかった。お姉ちゃんからピンク色の髪でやたらおっぱいの大きな女の子がいるって聞いていたからね」
ピーチが即座にマリーンにジト目を向けた。
「い、いや、他にもいろいろ言ってるのよ。ナガレと一緒に活躍してるとか――」
「ドジで子供っぽくて誂うと小動物みたいで面白いとかとも言ってたかな」
思い出したように言うブルーに、ピーチがぷんぷんと怒り、そして拗ねた。
それに、ごめんごめん、と謝るマリーンである。
そしてその後はフレム達がブルーに向けて改めて自己紹介をしていく。
「俺は先生の一番弟子のフレムだぜ! 先生への失礼は俺が許さないからよく覚えておけよ!」
「一番弟子って、だから先輩は私って言ってるじゃない」
「う! だ、だから男の中の一番弟子だ!」
「どちらにしても私は弟子として接しているわけではないのですけどね」
「え? じゃあ俺は先生にとってなんなんですか!?」
「そうですね。大切な仲間だと今は思ってますよ」
「せ、せんせ~~~~い!」
フレムが腕で目を拭いながら男泣きを見せた。仲間と言われたことがよっぽど嬉しいようだ。
しかしそれをみるブルーはどこか白けた様子であるが。
「おいらはカイルだよ。よろしくねブルーっち」
「あ、はいよろしく。き、狐耳って初めてみたかも……」
「私はローザです。宜しくねブルーくん」
ニコリと微笑み手を差し出すローザに、ブルーはゴシゴシと手をズボンで拭い頬を赤くしながら握り返した。
「こ、こちらこそよろしくお願いします!」
そして他の皆に見せるのと明らかに反応が違っていたりする。
その様子を面白そうに眺め、カイルがフレムに耳打ちする。
「これは意外なところでライバル登場だね?」
「は? 何いってんだお前?」
「え? いや、だってローザ?」
「ローザがどうしたんだよ?」
フレムが首を傾げカイルの表情が引き攣った。
「ねえフレムっち。もしかして本当にそっちの方面に目覚めたわけじゃないよね?」
「いや、だからさっきから何わけのわからねえこと言ってんだよ!」
本人は気づいていないようだがフレムの今後が色々と心配になるカイルである。
「妾はエルマールなのじゃ! お主がマリーンの弟じゃな! ふむ、じゃが畏まることないのじゃ。マリーンとナガレの知り合いなら妾の身内も同然なのじゃ!」
「え? あ、エルフ、初めて見た。それにしても小さいのに随分と偉そうだな」
「な!?」
「なはは、しゃ~ないな~今のエルマール様どうみても幼女やし、でもそこが可愛いのやけどな!」
「な、何をするのじゃ! 妾を持ち上げるな! すりすりするな~~~~!」
「あ~ん、エルマール様ほんまかわええ! このドレス姿も最高やで~。あ、うちはエルシャスやよろしくやで!」
「は、はあ……」
ブルーは残念なエルフを見るような目で生返事をみせる。エルフの長としての尊厳はすっかり台無しだ。のじゃロリ姿ではもともと皆無だが。
「ナガレさん、ピーチさん」
すると今度はエルミールが皆の前に姿を見せる。彼女もやはり緑系のドレスに身を包まれていた。しかも彼女のお手製らしい。どうやらエルミールは裁縫も得意としているようだ。
「な!? エルミールも来ておったのか!」
そして驚くエルマール。彼女は薬師のエルミールの実の母でもある。尤もエルミールとは幼い時に離れ離れになっている上、今のエルマールの姿もあって娘の方が気づいていないが。
「よ、よぉ」
そしてその横にはスチールの姿。どうやら無事エルミールと一緒にこれたようだ。このふたりもハンマの街防衛戦に於いて市街で起きた騒動を解決に導いた立役者として呼ばれていた。
それを知ったナガレとピーチがお互い仕事が終わってから来ることになるのだから一緒に来てはどうか? と気を利かせたのである。
おかげでスチールも随分と嬉しそうだ。彼女のドレス姿は彼にとってまさに眼福と言えるだろう。そんなスチールもこの場ではしっかり正装してきている。ドワーフ族は特徴的な体つきをしているので服がパンパンではあるが。
「あ! マールちゃんも来ていたのですね」
「う、うむ、ナガレに招待されてのう」
「そうなんですか~でもまだ子供なのですからお酒は駄目ですよ」
嬉しそうにエルマールに駆け寄り彼女の頭を撫で撫でするエルミールである。そしてその姿が琴線に触れたのか、やたらとハアハアしながら身悶えているエルシャスだ。
「うん? マールって?」
「あ、いやだからあれや! エルマール様やからマールや!」
「あ、なるほど」
ポンッと手を打つブルーだが、焦った顔でエルシャスがナガレに近づいてきた。
「なあ? あれまずいんちゃう? あのブルーっちゅう弟ちゃんがポロッというてもうたら名前をごまかしてるってばれるやん」
「その点なら大丈夫ですよ。例えブルーくんが本名で呼んでしまっても私の方でエルミールに届く声を調整しますから」
「……ナガレそんなこともできんの?」
「はい」
しれっと答えるナガレに、どこか呆れ顔なエルシャスである。
「ほんま、なんでもありやな」
「いえいえ私にだって出来ないことは多いですよ」
「……冗談はよせ。あんたに出来ないことなんてあったらこっちが教えて欲しいくらいだ」
「しっかし本当にこいつがそんなに強いのかね。見てないからいまいち信じがたいぜ」
「がっはっは! リーダーのロウがこう言ってるんだ。いい加減認めるしか無いだろう」
「あ、あの、ピーチさん、ご、ご無沙汰してます」
「あ! ヘルーパじゃない。へ~ドレスも似合ってるわね」
彼女に声を掛けられピーチが嬉しそうに返した。どうやら鋼の狼牙団もこの晩餐会に招待されたようだ。みたところロウはナガレに一目置いているようだが、バットウは相変わらずだ。
そしてヘルーパはピーチに好感を持ってるようで、再会出来て彼女も嬉しそうである。
「フ、フレム……」
「うん? おおアナルか。久しぶりだな」
「な!? あ、あんたまた!」
そして名前をクリスティーナと語っている金髪の彼女がフレムの傍により声を掛ける。しかしフレムは容赦なく彼女の本名を口にした。
おかげで一瞬にしてクリスティーナが不機嫌になる。
「うん? ああ悪い悪いえ~と……なんだっけ?」
「クリスティーナよ! もう!」
だが、どうやらフレムは彼女のもう一つの名をすっかり忘れていたようだ。それに文句を言うクリスティーナである。
「ちょ! フレム! あな、って何言ってるのよ!」
「そうだよフレムっち。流石に女の子にそれは失礼だよ~」
「うん? いやだってこいつの本当の名前……」
「きゃ~~~~! 駄目よそんなの! 絶対に言ったら駄目なんだからね!」
そして当然彼女の本名を知らないローザとカイルがフレムにそんなことを言う。ローザに関しては顔が真っ赤だ。
それにフレムが説明しょうとするが、クリスティーナが必死になって止めた。これ以上自分の本名が知れ渡るのは勘弁願いたいのだろう。
「……なんでお姉ちゃん耳を塞ぐの?」
「なんとなくよブルー」
何はともあれ鋼の狼牙団もやってきて随分と賑やかになってきたものである。そして当然だが彼らが招待されているということは――
「うふっ、ナガレのタキシード姿も、す・て・き」
「あら、フレムの赤いタキシードも素敵よ。すっごく情熱的で」
「俺はやっぱりナガレに一票だわ。凛々しくて、でもなんとなく子供のような可愛らしさも感じられて、もう! 火照ってきちゃうん!」
「ららら~マリーンにあんな可愛い弟ちゃんがいるなんて知らなかったわん。うふ~ん食べちゃいたい」
「……お世話になっているナガレ様の前であまりハメを外しては駄目ですよ。とくにダンショクは」
「う! ニューハってば時折リーダーより怖いわん」
そう、当然聖なる男姫も招待されているわけで――ナガレを中心に随分と個性的な面々が揃ったものである。