第一三二話 商人ギルドで調査
ハンマの街に戻ったナガレ一行はその足で早速商人ギルドへと向かった。
商人ギルドはその名称どおり商業地区に存在する。位置で言えばハンマの街の南東側だ。冒険者ギルドとは違い大きな通り沿いに構えていた。
外観は中々に立派で冒険者ギルドは三階建てだが、商人ギルドは五階まである。職員の数も圧倒的に商人ギルドの方が多いようだ。
商人ギルドに赴いたのは勿論エルフの森での管理状況を把握するためだ。あの辺りもグリンウッド領の治める領地の中に入っている為、そのあたりを確認したかった。
商人ギルドでは土地や建物の所有者の情報などが保管されている。ナガレのいた世界でいうところの法務局のような業務もここが兼ねているのである。
なのでナガレ達はギルドに着くなり階段で三階に上がった。所有者関係の情報がここで開示して貰える。商人ギルドに登録していない場合、手数料として一件あたり二五〇ジェリー掛かってしまうがそれも仕方がないだろう。
「フレムどうしたのよ?」
「いや、なんか俺はこの商人ギルドってのは苦手なんだよな。むず痒くなっちまう」
「もう、恥ずかしいからしゃんとしててよね」
「ははっ、子供みたいだねフレムっち」
「う、うるせぇ!」
順番待ちしている間そんな会話がなされた。フレムは確かに全身を掻き毟り落ち着かない様子。商人ギルドも出店許可などを申請する一階などはそれなりの喧騒が耳に届いたが、三階は静寂が漂っている。調べに来ているものも職員との話が始まるまでは無言で待っていることも多い。
それに商人ギルドは職員も商人もやはり身なりはそれなりに立派であったり整っていたりと隙がない。尤も中には金糸銀糸をふんだんに使用した衣装に身を包み指には大きな宝石が嵌めこまれた成金という言葉がぴったり来そうな者もいたが、殆どの人々はシャンとしている。
この辺りは冒険者ギルドとの大きな違いだろう。建物にしても中は広めでゆったりとした造りだ。
だが、それが逆にフレムにとって落ち着かない要因となっているようである。
「おまたせ致しましたどうぞこちらへ」
順番がやってきてナガレ達はカウンターの席につくよう促された。流石に身なりも整っている上言葉遣いも丁重である。
「それで本日はどのような情報をご所望でしたでしょうか?」
流石に五人分の席を占領するわけにもいかないので今回は代表してナガレが座った。
すると眼鏡を掛けた職員が確認してくる。ナガレの居た世界と異なり事前に用紙に書いて提出する形ではないので口頭で伝える必要があるわけだ。
「はい、実はエルフの森に関することで伺いたいことがありまして」
「へ? エルフの森ですか?」
ナガレが切り出すと、今まで丁重だった職員の言葉遣いが乱れた。
「え~、と、言うと?」
「はい、実は――」
そしてナガレはエルフ達の手で今度農耕作業に勤しむ予定である事を伝え、森を含めた周辺の土地の権利関係がどうなっているのかを彼に尋ねた。
すると途端に職員は腕を組み唸りだし、しょ、少々調べて参りますので、と席を立った。
「なんか急に慌てだしたわね」
「そうだね~把握してないのかな?」
「そうですね。エルフ達もそのことをわざわざ調べにくることもないでしょうし、こういった質疑は初めてだったのでしょうね」
「それで慌ててるのか。しかしなっちゃいないですよね先生。わざわざ先生がこうして訪ねてきてるのだから、事前に準備ぐらいしておくのが当たり前ですよ!」
「いえ、流石にフレム、それは無茶ですよ」
「本当にフレムはナガレ様のことになると分別がつかなくなるんだから……」
相変わらずのフレムにローザも呆れ顔である。しかしフレムのナガレに対する言動にすっかり慣れた感もあるのも確かだ。
「おまたせ致しました。え~と確認はしてみたのですが――」
そうこうしているうちに職員が戻り、ナガレに説明を始める。が、やはり困り顔なのは変わらない。
「いかがでしたか?」
「はい、それが、なんとも情けないお話なのですが、わからないというのが答えでして――」
そして、申し訳なさげに回答を示す。それにナガレ以外は目を丸くさせた。
「判らないってどういうことだよ?」
「それが文字通りでして。一応調べた限りは確かにあの森は前任の領主様とエルフ族の間で、あの森はエルフの自由にしてよいという取り決めが授受されておりますが、エルフ側の管理範囲などについては詳しく定められていないのです」
「あの、それだと森の中だけがエルフ達の管轄ということになりませんか?」
職員の回答に対しローザが述べる。するとやはり職員は唸り声を上げ腕を組んでみせた。
「それがそうとも言い切れないのです。一応取り交わされたらしい文面は残っていたのですが、それによるとエルフの生活を脅かすことのないよう、エルフの森から半径二キロメートル圏内には人の手を加える事を禁ずとあります。一応緊急時の場合は双方協議の上で取り決めるという形にはなりますが、なので見方によってはその範囲内はエルフの自由にしていいという捉え方も出来ますが、ただもう一つ条件として人の出入り自体は自由を認めることともあります」
これに関してはエルフが生活を営む集落などに関してはエルフの長の許可無く勝手に立ち入ることは禁ずるともある。
しかしこれらはかなり大雑把なもので、権利関係がそこまではっきりしているものでもない。
ただこれを責める事もできないだろう。異世界はナガレのいた地球ほどしっかりとした登記が残っているわけではないのだ。
「これって結局どうしたらいいんだ?」
フレムが腕を組み不満そうに口にする。結局はっきりした答えが得られなかったからだろう。
「それは正直これ以上はこちらでも判りかねるという結果に……なのでどうしてもそこを知りたければ直接今の領主様にお話をお伺いして貰う他ないと思われます」
「へ? 領主に直接?」
「あはっ、それはまた大変な話だね~」
「りょ、領主様になど、私も一度もお会いしたことないのです――」
ローザは恐縮している。領主の顔を見たことがないのは他の皆も一緒のようだ。尤もあの護衛騎士の手で秘匿されている以上当然とも言えるが。
「いえ、それだけ判れば十分です。ありがとうございました」
他の皆がそれでいいの? といった目をナガレに向けてくる。しかしナガレは、問題無いです、と納得を示し二五〇ジェリーを支払い商人ギルドを後にした。
「ねえナガレ。もしかして領主様に会える手が何かあったりするの?」
「ええ、そうですね。私だけではなく皆様に可能性があると思いますよ」
「それは俺もということですか先生?」
「おいらもなのかな?」
「わ、私もですか?」
全員の質問を受け、勿論ですよ、と答えたナガレは、その為にもと一旦冒険者ギルドに向かった。
インキのこともあり暫く街も慌ただしかったのだが、今はすっかり落ち着きをとりもどしている。
なのであの話が来るとしたらそろそろかなとナガレも判断したのである。
「あ!? ナガレに皆も! 凄い、丁度良かったわ。もし顔を出してくれないようなら私からエルフの下に赴こうと思っていたのよ」
ギルドにつくなり、マリーンが声を上げて全員を出迎えてくれた。
どうやら何か大事な話がありそうである。
「ふむ、何かありましたかマリーン?」
そこでナガレはカウンター前まで向かい改めてマリーンに問いかける。
他の皆も一体なんだろう? とマリーンの話に耳を傾けた。
「うん、それがね。あのインキの件があって街もバタバタしていたけど、皆の協力もあって随分と落ち着きを取り戻してきたし、それで魔物群れから街を守ってくれた功労者を屋敷に招待したいから、特にナガレ達には是非参加してもらいたいって招待状が届いているのよ。一応明後日の日暮れからの予定なんだけど皆予定は大丈夫かしら?」
それはナガレ達からすれば願ったり叶ったりの申し出であった――
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