表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
167/565

第一三〇話 ナガレの膝

いよいよナガレ登場です!


「どっせぇぇえぇえええーーーーい!」


 ピーチの豪快な声が周囲に轟き、魔力によって棘付き鉄球に変化した杖が標的に向けて振り下ろされる。


「なんの! そうあたらへんで!」


 しかしそれを素早いサイドへの動きで似非関西弁の彼女が避け、そして手に持った棒をくるくると回転させた後、ピーチに向けて鋭い突きを繰り出した。


「なんの!」


 しかしピーチはピーチで杖を巧みに操り迫る棒に上手く噛ませ、そのまま絡め取ろうとするが相手の引きは早かった。

 

 トンッ、トンッ、と軽やかな足取りで棒使いの彼女が距離を取る。


「う~ん、やるやないかピーチ」

「エルシャスもね!」


 ピーチの元気いっぱいの返しにエルシャスの口もとが緩んだ。エルシャスはエルフの森の集落でエルマールの側近を務める戦士だ。


 この世界でも珍しい棒を巧みに操る戦法を得意としている。同じく、この世界ではあり得なかった杖を武器にして戦うスタイルを確立させつつあるピーチとは、棒術と杖術という違いはあれど、その戦いかたはお互い通ずるものがあるので、たまにこうして試合を行うことはそれぞれにとってとても刺激になる。


 そして――そんなふたりとは反対側の位置で、フレムを含めた三人が別のエルフと戦いを演じていた。


「いくぜ! 目切り!」

「甘いのじゃ!」

 

 フレムの目切りが見事に空を切り、その隙に、のじゃロリエルフのグレイヴが迫る。

 フレムの体勢は空振りしたことで完全に崩れてしまっているのでこのままでは間違いなく攻撃が命中する。

 

「セイクレッドシールド!」


 しかしそこへローザの聖魔法が割り込んだ。創りだされた聖なる盾は相手の攻撃をガードする。


「仲間に救われたのぉ」


 するとのじゃロリエルフがどこか小馬鹿にしたような顔をフレムに向けた。

 むぐぐっ! とフレムが悔しそうに唸る。


 見た目が幼女のエルフに小馬鹿にされるのはやはり癇に障るようだ。とはいえ、彼女はエルフ族唯一の戦闘民族が暮らすこの集落で長を務めるほどの猛者だ。

 

 今は事情があって見た目こそのじゃロリだが、その実力は相当なものなのである。


「ほっ! なのじゃ!」


 そしてのじゃロリはローザの作った盾を逆に利用し、その小さな脚で蹴り上げローザへ肉薄した。


「へ? きゃぁああ!」


 そしてのじゃロリの振るったグレイブで軽々と吹き飛ばされる。ローザは聖魔導を開ける魔導師だが魔法系に特化した称号を持つものは肉体的には弱いことが多い。


 当然戦闘民族たる彼女の動きについていける筈がないのである。


「さっすがエルマール様やな! 愛らしいだけじゃのうて、戦闘もお手の物や!」


 そんなのじゃロリ――戦闘民族エルフの長たるエルマールを横目に見ていたエルシャスが彼女を称える。するとそこへ伸長した杖が迫った。


「おわっと! なんやこんなことまで出来るようになったんかい!?」

「ふふ~ん、私だって日々進化してるのよ!」


 得意気に言い放ち、更にピーチは連続で杖を伸ばしていく。勿論これは魔力操作による効果で、実際に杖が伸びているわけではなく、その為伸びた先から伸長した部分が消え、再度伸ばすを繰り返している形だ。


「うわっと!」


 ピーチの放った一撃がエルシャスの棒の上から命中し、彼女の細身が土の上を滑り後方に数メートル程流される。


 エルシャスは咄嗟に棒を滑りこませた形で直撃は避けたが、動きがそこで一旦途切れてしまった。

 それを見逃さなかったピーチは、大地を蹴り、魔力強化を施した状態で一気に距離を詰めようとする。


「うちも本気ださなあかんな!」


 するとエルシャスが声を張り上げ、かと思えばバク転をし同時にその身に風を纏った。

 正確に言えば風の精霊を纏ったとも言える。エルフである彼女は精霊を自らと一体化させる精霊同体のアビリティを会得していた。

 

 これにより彼女の棒術は只の棒術ではなく精霊式棒術に昇華する。魔術師とは思えない勢いで大地を刳りながら肉薄するピーチであったが、エルシャスは彼女の頭に手を置き、ふわりと軽やかな所作で桃色髪を支点にその背後に降り立った。


「隙ありや!」


 疾突――風の精霊を纏わせた高速の突きがピーチの背中にヒットする。キャッ! と可愛らしい悲鳴を上げるピーチであったが、咄嗟に背中に杖を回して直撃を避けていた。


 以前に比べるとピーチの反応はかなり良くなっている。しかも背中に受けた衝撃を利用して素早く反転した。


 続けて疾突(連)――つまり風の精霊の力を纏った状態での怒涛の突きの連打がその身に迫るも、ピーチは魔力で大盾を形成させ全てを受け止めて後ろに飛び跳ねた。


 同時に大盾は解除され――するとピーチの杖の先端に鋭く魔力が注ぎ込まれ集束されていく。


「ヘヴィーショット!」


 一方フレムパーティーとエルマールの間では、カイルの放った重い一撃がのじゃロリの背中に着弾しようとしていた。


 しかしエルマールは地面を蹴り、のじゃっ! と跳躍する。

 それによってヘヴィーショットの一撃は外れたが、しめた、とフレムもエルマールの後を追った。


「空中じゃ逃げ道がないぜ! 重ね目切り!」


 飛び込んだフレムが双剣を振るい、勝利を確信する。重ね目切りは今のフレムの最大の威力を誇る業だ。先生であるナガレの一挙手一投足に注目し、そしてその動きを研究し編み出した業である。


「甘いのじゃ!」


 だがしかし――エルマールは跳躍したその身を更にふわりと浮き上がらせフレムの一撃を躱した。

 な!? と驚愕するフレムの背中を取りナガレ式グレイヴを叩きつけ、フレムは蟇のようにベシャ! と地面に叩きつけられた。


「妾はエルフの長ぞ。例え精霊同体が使えなくなっていても、精霊を操るぐらいできるのじゃ!」

「え?」


 そして今度は一気にカイルの目の前に到達し横薙ぎに振るわれたグレイヴであっさりその身がふっ飛ばされる。


「どっせぇええぇえぇえい!」


 それとほぼ同時に隣ではピーチの魔杖爆砲が発動、エルシャスに向けて極太の桃色光線が突き進む。着弾し、轟音が辺りに響き渡るが――


「やった!?」

 

 ピーチが拳を握りその表情が輝くが、直後その横の藪がガサガサガサッ! と揺れ動き、かと思えばピーチの真横からエルシャスが飛び出し気炎を上げ風纏いの棒を打つ。

 な!? と目を見開いたピーチは杖の防御も間に合わず空中を舞って地面に落下した。


「そこまで! この勝負、エルシャスとエルマールの勝ちですね」


 そして――その二組の戦いを見続けていたナガレが声を上げた。彼は今回審判に徹していた形である。


「うぅ、勝てたと思ったのに……」

「先生! 俺は自分が情けないです! 先生の教えを受けておきながら結局一発もまともにあてれなかったですし!」

「う~ん、しかもこっちは三人だしね……」

「エルマール様は流石に強いのです~」

 

 模擬戦が終わり、全員がナガレの正面に集まってしょんぼりしながらそう言った。


「ですが、みなさんかなり腕は上がってると思いますよ。ピーチも私の目から見てエルシャスと互角に近い戦いを見せてました」

「せやな。正直最後のはまともに受けてたらうちのほうが負けてたと思うし、魔力で強化した時の動きはうちが精霊を纏っているときとほぼ一緒や。パワーなら間違いなくピーチの方が上やな」

「そうですね。エルシャスの言うとおり魔力の操作が上達している分、一撃一撃の威力も上がっています。魔杖爆砲に関してもまさに一撃必殺といえますが――しかしその分使いどころはしっかり考えるべきですね。それにピーチの魔杖爆砲は確かに威力が高いですが、もっと焦点を絞ったほうがいいでしょう。あれだけの大きさのものになるとどうしても一瞬視界が塞がってしまいますからね」

「あ! そうか……それで横から――」


 ピーチが先ほどの戦いを思い出すようにしながら隣のエルシャスを見やった。


「せ、先生! 俺は、俺はどうでしたか?」

「フレムは以前のように自分本位な戦い方ではなく、仲間を信頼しての戦い方になってきている点はいいですね。ですが今後は先の先を見極めた戦い方を心得た方がいいですね。それと相手の実力を勝手に決めつけるのはよくありません。先程もそれでエルマールが精霊魔法を使用できる可能性を失念してましたしね」


 むぐぅ……とフレムが顔を歪め後頭部を掻いた。最初に褒めてもらえたことは嬉しいのだろうが、その後に続く改善点に歯痒い思いをしているのだろう。

 

「それと、ローザは相手を守りたいという気持ちが強すぎて自分のことを蔑ろにしてしまうところがあります。しかしローザはパーティーでは重要な回復魔法の使い手です。ローザが戦闘不能に陥ると間違いなく後に響いていきます。勿論相手を助けたいという気持ちもわかりますが自分のことも大事にするようにしてください。先程もフレムを助けたいという思いから前に出過ぎてましたが、ローザは身体能力では圧倒的に劣りますから仲間に守ってもらうということもしっかり考えながら行動した方がいいでしょう」

「は、はい! 流石ナガレ様です――私の欠点もあっさり看破されるなんて……」

「当たり前だ! 何せ俺の先生だからな!」

「フレムっち、抑えて抑えて」


 何故か立ち上がり目をキラキラさせて熱く語るフレムに、カイルが宥めるように言った。

 ナガレのこととなると周りが見えなくなるのは相変わらずである。


「カイルは逆に前に出過ぎないところがありますね。勿論弓使いですからそれも正しいのですが、戦いになると安全圏に身を置こう置こうとするばかり無難な攻撃になりがちです。しかしそれは攻撃のパターンが一辺倒になりやすく、相手からすれば次の手が読みやすいということにも繋がります。時には思い切って踏み込む勇気も必要でしょう」

「うむ、それは妾も感じたのじゃ」


 実際に三人と手合わせしたエルマールもナガレの話に同意した。カイルはばつが悪そうに頬を掻く。


「後はピーチの話に戻りますが、魔力による肉体強化はしっかりどの程度持続するか考えた方がいいですね。体力面でもそうですが当然ですが途中で魔力を消費すればその時間は短くなります。杖を伸ばすイメージで使用していたあの業も、一撃ごとに伸ばした部分を消しているのでその分魔力を消費します。そうなると当然早めに息切れしてしまい、先ほどのようにエルシャスの不意の一撃に反応しきれなくなってしまいます」

「う~ん色々課題は多いわね。でもナガレのおかげで凄く成長してるなって実感できるし! 大魔導師も夢じゃないかも!」

「……ピーチ、あれどうみても大魔導師目指してるもんの戦い方ちゃうと思うんやけど――」

「え? なんでよ?」


 エルシャスが半眼で突っ込んだ。しかしピーチからしてみれば魔力を利用してる以上、魔導師の範囲内と思っているのだろう。称号はとっくに別なものに切り替わってるのだが。


「でもエルマールはやっぱり強いよねぇ。ここの長だけあるよね。おいらたち三人がかりでも全然勝てる気がしなかったし」

「いえカイル。確かにエルマールは強いですが今のエルマールは私と戦った時よりかなり力が落ちてます。ですから本来全く勝てないということはないのですよ。単純な能力(ステータス)で言えばエルマールは現状エルシャスぐらいですしね」

「う~ん、でもうちもエルマール様には試合では全く勝てへんのや。抱きついたり頬を擦り擦りしたりするときは上手くいくんやけどな」

「……あの時のお前は目が怖いのじゃ――」


 げんなりした顔でエルマールが返す。あいかわらずエルシャスはのじゃロリエルフに目がないようだ。


「そこは経験の差ですね。あとは戦いの勘が非常に優れています。先程の戦いも、フレムの目切りであれば一撃でも当てることが出来れば勝機はあったでしょうが、それはエルマール自身がよく判っているので決して攻撃を当てさせることはなかったですしね。ただ能力的には決して勝てない相手ではないのだということを覚えておいてください」

「むぅ、なんだかのう。そうはっきりと言われると妾もショックが大きいのじゃ」

「……ところでナガレ、ずっと気になってたんだけど」


 愚痴るように口にするのじゃロリエルフを見ながらピーチが口を開く。


「……なんでナガレの膝の上にエルマールがずっと居座ってるのよ!」

「ナガレの膝の上はとても心地よいのじゃ。妾にもたまには癒やしが必要なのじゃ」


 そう言ってエルマールがこてんっとナガレの身体に背中を預けた。ちなみに今のナガレの姿勢は全く乱れのない正座状態。姿勢が美しく凄く様になっており、その膝の上にチョコンと座るエルマールがまた妙に心くすぐられるアクセントになっている。


「く~~~~! 俺だって先生の膝の上なんてまだ座らせてもらったことないのに!」

「フレム当たり前です。今後もないと思ってください」


 ナガレは笑顔を見せつつもきっぱりと言い切った。フレムが肩を落として落ち込み、その姿に苦笑いのカイルとローザである。


「な、ナガレ、私は? 私は乗ってもいいかな?」


(何故皆さん私の膝の上に乗りたがるのでしょうか……?)

 

 壱を知り満を知るナガレでもこういったことには相変わらず鈍感である。

 

 こうして試合形式の訓練も終わり、一行は集落へと戻るのであった。

いつの間にか総合PVが1000万PVを超えていました。皆様本当にありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ