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番外編 ハンマの街の受付嬢

レベル0で最強の合気道家、いざ、異世界へ参る!の書籍版は各書店で発売中です。

書籍版発売記念ということで番外編を公開!

こちらは元々書籍の書き下ろし短編として考えていた話の一つです。

「はい、それじゃあこれがホーンラビット三匹分の討伐報酬、そして魔核と素材の買取金額がこっちね――」 


 言ってマリーンは魔物を狩ってきた冒険者に明細と金額分の貨幣を提示する。

 それに納得するかどうかは各個人の判断に委ねられている。


 とはいえ討伐報酬にしろ魔核や素材の買い取り金にしろ、特別な理由がない限りはどの街の冒険者ギルドでも一緒だ。

 だからこの時点で文句を言う冒険者は先ずいない。ただ――


「ねえ? どうするの?」


 少々イライラとした口調でマリーンはその男に確認する。

 彼女がイライラしてるのは、その冒険者がわざと考えるふりをしてマリーンの肢体をチラチラと覗き見ているからだ。 

 特に胸のあたりに視線が集中しているのがよく判る。


 彼女はこの仕事についてから長い。だからこそ洞察力には長けている。

 尤もスケベ心から敢えてマリーンの下へやってくる冒険者は少なくないので、慣れっこといえば慣れっこだが。


「おいテメエ! さっさと決めろよ、後が支てんだよ!」


 すると背後から野太い男の声。それに、あん? と喧嘩腰に振り返る冒険者。睨みつけるように相手をみやるが――首にぶら下がったタグを見て顔色が変わった。


「へ、へへっ、C2級とは失礼致しやした。あ、報酬はこれで! それじゃあ!」


 そう言って報酬だけを乱雑に懐へしまい入れ、その男はそそくさとその場を後にした。

 典型的な弱者に強く強者に媚びるタイプである。

 とは言っても、あの男はCランクの4級程度の冒険者でしかなかったわけだが。


「全くマリーンもあんなのばかり相手してたら大変だな。おっとそれで俺はこの依頼を達成したからな。商人の護衛任務だ。全く! けっこう大変だったんだぜ。道中凶悪な魔物に襲われてよ。しかしこの俺様の――」


 得々と武勇伝(本人からしてみればそうなのだろう)のようなものを語り出すその男にも辟易するマリーンである。


 そもそもいかにも壮絶な大冒険でもこなしてきたかのような大仰な口ぶりだが、この男のこなした依頼は村から街まで半日もかからない程度の道程の護衛任務である。


 依頼人は行商人で、馬車などは持たず徒歩で村と街を渡り歩いて商売を行っているような身の上。

 そしてそういった商人はそれほど危険な道は基本避けて通る(・・・・・)。 


 ただ、ゴブリンなどの魔物は神出鬼没で、わりとどこでも出没して商人などを襲う為、腕っ節に自身のない商人は、比較的危険の少ない街道の敷設された道でも護衛に一人ぐらい冒険者を雇ったりする。


 今回もそれに該当し、つまり実際はよほどのことがない限り危険度は低いのである。


「まあそんなわけで俺は依頼者の身を守るために現れた凶悪な魔物を千切っては投げ、千切っては投げ……」

「はい、それじゃあ護衛の報酬とゴブリン二体(・・)分の討伐分に魔核の買い取り金額はこれね」


 しかしそんな男の話など聞いていられないと、マリーンはにべもなく業務を完了させた。

 散々嘯いていたにも拘らず、かなりしょっぱい戦績に周囲の冒険者からクスクスと嘲笑の響き。

 それを耳にし、その男は報酬を受け取りばつが悪そうに去っていった。


「マリーンさんお疲れ様です」


 夕刻の最も忙しい時間帯を乗り切り、ようやくギルド内が落ち着いてきたところで、マリーンが休憩室に入った。


 するとマリーンより一足早く休憩に入っていた後輩の受付嬢が挨拶してくる。

 それに、お疲れ、と返し、今日の仕事などについて談笑するが。


「でもマリーンさんはやっぱり人気ですね。特にこの時間は、なんか皆マリーンさん狙いって感じだし」

「そんなの別に嬉しくないわよ。本当一体何のために冒険者になったのやらって感じね。最近は特に冒険者の質が悪いし」

「あ~それ判るかも。ランクもちょっと甘いというか、この間もゴッフォの奴がBランクに昇格してたみたいだし」


 すると後から入ってきたもう一人の職員が話に加わってきた。

 彼女は受付に入る事もあるが、どちらかというと事務的な仕事がメインである。故に冒険者の情報には詳しい。


 そんな彼女の発言に、あぁ、とマリーンが頷いた。


「あれは確かに謎ね。でも確かに最近になって妙に討伐数が増えていたのよね。それがあって昇格試験を受けれたってところだけど」

「ちょっと試験官が甘いところあるみたいだしね。最近Cランクの人数も増えすぎてて、少しでも仕事をこなせそうな冒険者はBランクに上げていこうって意見もあったみたいでその影響かも」

「う~ん、でもゴッフォ、というかあいつと良く一緒にいる冒険者達もだけど、討伐部位だけ持ってくる事も多くなってますよね」


 後輩の受付嬢が不思議そうに口にする。確かに普通なら魔物を倒した場合、討伐部位とは別に魔核や素材も持ち込むことが殆どだ。


「確かに変わっているけど、でも討伐部位さえ持ってくれば成果として判定されるしね」


 マリーンが肩を竦め言うと、確かにそうですね、と後輩も微苦笑を浮かべた。


「どちらにしても――もう少し骨のある冒険者が出てきてくれないかしらね」


 ため息をつくようにこぼし、そしてマリーンは立ち上がり、

「さて、じゃあ後もう少しで今日の業務も終わるし、頑張りますか」

と、そう言って仕事に戻る。後輩もそれに倣い受付カウンターへと戻った。


「あ、マリーン!」


 すると、サイドアップにした桃色の髪をパタパタと揺らしながら、マリーンとも仲がいいCランク冒険者ピーチが駆け寄ってくる。


「あらピーチ、今戻ったんだ。何? 今日も魔草採取の依頼?」

「う、そ、そうだけどよく判ったわね」


 ギクッとした表情で身動ぐピーチの姿に、どこかほっとするマリーンであった。


 ピーチは半年ほど前ギルドへ登録に来た魔術師で、その時に対応したのがきっかけでよく話すようになり仲良くなった。

 マリーンに比べると年下で見た目には可愛らしいピーチの事をマリーンは妹のように思っていたりもする。


「……それにしても相変わらずデカイわね」

「え? 何が?」

「いや、こっちの話よ」


 ただ、どことなくあどけなさの残る顔立ちをしたピーチだが、ローブの上からでも判るたわわに実った果実は成熟したソレでもある。


 マリーンもスタイルには結構自信があるのだが、胸の大きさに関してはいえば完敗なのであった。


(別に私が小さいんじゃなくてピーチが大きすぎるだけなんだから!)


 そんな事を思いつつも、ピーチの依頼完了の処理を行う。

 どうやら魔草採取の依頼のついでに何匹かホーンラビットも狩ってきたようだ。その分も報酬として加算していく。


 魔草採取はハンマの街で薬店を営むエルミールという女の子(と言っても相手はエルフの為、年齢的にはマリーンより遥かに上なのだろうが)からの依頼で、依頼料とは別にマジックポーションが報酬として貰える為、魔術系を扱う冒険者にも人気がある。


 それを最近はピーチがよくこなしている形だ。

 魔草はハンマの街からそれほど離れていない西の森に群生しており、それほど強力な魔物もいない為、あまりランクの高くない冒険者でも依頼をこなすのは難しくない。


「はい、じゃあ依頼料と魔核の買い取りと、まあ諸々の合計金額がこれね。あと引き換え板」

「ちょ! なんか扱いがおざなりじゃない!?」


 ブーブーと文句を垂れるピーチだが、これもじゃれ合いみたいなものである。

 それだけお互い気心がしれてるというわけだ。


「……でもピーチ。何か最近西の森のゴブリンが増え始めてるとも耳にするのよね。こういう時って、その、女は狙われやすいから、ちょっとは気をつけるようにしてね。何せ貴方魔術師なのにソロなんだから」


 マリーンが警告するようにピーチに告げる。ゴブリンは少数であればそれほど心配はないのだが、徒党を組まれてやってくるとかなり厄介な存在だ。


 特に魔術師は詠唱の関係上、盾役がいなければ数で攻められると一気に不利になる。

 魔法が行使できなければその能力は一般人と変わらないか下手すればそれ以下だからだ。

 ゴブリンに狙われた女の末路などはあまりに悲惨で、マリーンとしてはピーチには絶対そんな目にはあって欲しくない。


「もう、マリーンは心配性ね。大丈夫よゴブリンぐらい。第一私は将来大魔導師になる存在なんだからね!」


 ドヤ顔でそんな事を言うピーチにマリーンは呆れ顔で返す。


「大魔導師は結構だけど使える魔法は増えたのかしら?」

「う、そ、それはこれからどんどん増えていく予定よ!」


 予定ね~と目を細めるマリーンに、何よ何よ! と両サイドの桃色髪を揺らすピーチ。それがなんとも可愛らしいが本音ではピーチの成長を望んで期待もしてるマリーンである。

 

 ただピーチはやはりまだまだ幼く、ソロでは色々限界があるのではないか? とマリーンは感じ始めている。誰かピーチの力を引き出してくれるような、そんな存在がいればいいのにとついつい考えてしまうマリーンでもあるが。


(でも最近の冒険者の質を考えるとね……)


 勿論上を見ればそれ相応の実力者が揃っているギルドではあるが、そういった冒険者は当然それ相応に忙しくそれにランクが違いすぎると中々一緒に行動というのも難しいものがある。


 ピーチと同程度のランクで彼女の刺激になりそうな冒険者がいてくれればいいのだが――そもそも冒険者は女性もいるとはいえ断然男性の方が多い。


 正直ピーチを欲望丸出しの目でみるような輩もいるので、下手な冒険者と組ませるのは心配というのもある。


「……清廉潔白で腕利きの新人さん――そんなのいるわけないわよね……」

「へ? 何それ?」


 思わず口に出てしまったマリーンに、不思議そうに問い返すピーチである。


「あ、うん、なんでもないわ、こっちの話よ」


 そしてマリーンはピーチにそうごまかした。その後はピーチもギルドを後にし、その日の仕事も全て終えマリーンは帰路についた。


 その道々――


(……ふぅ、全く――)


 思わずマリーンは嘆息する。そして後ろを振り返り、

「隠れてないで出てきたら?」

と誰何した。


「へ、へへ、なんだ気がついていたのか。へへ、や、やっぱマリーンは、お、俺の事が好きなんだな? だから俺がどこにいても、わ、わかっちまうんだ、えへっ――」


 現れたのは鳥の巣のようなもさっとした髪をした男だった。

 妙な口調で喋り、マリーンの肢体を舐めるように見てくる。思わず怖気が走りそうになるような、うす気味の悪い男だった。


 しかし特徴的な髪型だけにマリーンもこの男のことは知っている。ギルドに登録している冒険者の一人だ。

 

 しつこいといえばゴッフォもそうだが、まさかこんな帰り道をつけてくるような真似をするとは、やはり冒険者にはろくなのがいないと頭が痛くなってくる。


「さ、さあマリーン、一緒にいこう。お、俺が、し、幸せに、し、してやるから」

「お断りよ。こんな場所まで来てちょっと常識足りないんじゃないの?」


 こういう輩にははっきり言ってやった方がいいと、マリーンがきつい口調と蔑んだ瞳で言い放つ。


 すると予想通り男は逆上した。


「お、俺が、こ、こんなに思ってるのに! こ、こうなったら、力づくで、わ、判らせてやる!」


 男が腰の剣を抜いた。当然これは街中では決して許されない行為であり、この時点でマリーンに反撃されても文句は言えない。


 風切音が二度、男の耳に響き、かと思えば絶叫が街中にこだました。


 ふんっ、と鼻を鳴らし、マリーンが男の両膝を見やる。投擲されたナイフが見事に男の両膝を貫いていた。


「これに懲りたら二度と受付嬢を狙うなんて馬鹿な真似はしないことね。まあ、それ以前にもう冒険者としてお終いでしょうけど」


 結局男は駆けつけた衛兵に捕らえられ詰め所まで連行された。マリーンもその場で理由を説明したが、男が剣を抜いていたことや目撃者の証言もあり男の罪はあっさりと立証された。


 しかしそれでもマリーンも一緒に詰め所に趣き事情聴取されることとなったので、帰りが少し遅くなってしまった。


(本当ろくなことをしてくれないわね)


 心のなかで愚痴りながらマリーンは改めて帰路につく。

 最近の冒険者は粗暴なものも多く、質の良い冒険者は本当に少ない。

 

 マリーンも狙われることは少なくないが、護身術として覚えたナイフの腕はかなりのものである。Cランク程度の冒険者なら返り討ちにできるぐらいの腕は有しているのだ。


 ただ、こういう事が続くとやはりマリーンの冒険者に対する評価は低くなる。


 マリーンが冒険者とは付き合わない、相手をしないと公言しているのもこういった事の影響が大きいだろう。


「ただいま~」

「あ、おかえりおねえちゃん!」


 マリーンが部屋に戻るとマリーンと同じ色の青い髪を短く刈り揃えた少年が出迎えた。

 

「ブルー遅くなってごめんね。すぐ夕食作っちゃうから」


 マリーンは部屋用のゆったりとした服に着替えた後、台所に立ち夕食の準備を始めた。

 マリーンは弟のブルーと一緒に街の南西側に位置する集合住宅で暮らしている。


 決して広い部屋とは言えないがギルドのツテで家賃は相場よりかなり安い。こういったところはギルドの受付嬢をしていてよかったなと思えるところである。


「やあ! やあ!」

「ちょっとブルー。部屋の中で剣を振るのはやめなさいってば」


 料理の支度をしていると、ブルーが木剣を握りしめ素振りを始めた。それをやれやれといった顔で見やり注意する。


「だって、もう暗くなってきたし外で素振りしてたら衛兵さんに怒られちゃうし」


 大体の街では陽が落ち始めると子供だけで外を出歩くのは禁止される。勿論安全の為だ。


「だからって部屋の中でまで素振りすることないでしょ?」

「だって頑張らないと一流の冒険者になんてなれないじゃないか!」

「だってじゃないの。とにかくやめなさい。料理を作ってる最中なんだから」


 ちぇっと文句をいうブルーに、反抗期かしら? と不安になるマリーンである。


(それにしてもなんで男の子って冒険者に憧れてしまうのかしら……)


 そんなことを思いつつも夕食が出来上がり、テーブルの上に並べブルーと食事を摂る。


 美味しそうにモリモリ食べるブルーを微笑ましく思うが――


「ねえブルー? 本当に冒険者を目指す気なの?」

「本気さ! それにもうすぐ僕も一四だし。そうすれば手伝いも可能だしね!」


 冒険者ギルドに登録できるのはこの世界で成人として認められる一五歳からだ。しかしその前に冒険者を目指す子供に冒険者とはどんなものかを体験してもらうため、一四歳から冒険者の手伝いとして付き従うことも可能となる。


 尤もあまり危険な任務は不可能だが、それで自分が冒険者に向いているか否かをある程度見極めることも可能というわけだ。

 

「……やっぱりお姉ちゃんはあまりお勧めしないかな。危険だし、ブルーに務まると思わないもの」

「またその話? 僕はもう決めたんだ! 絶対に諦めないからね!」


 結局マリーンの話でブルーは拗ねてしまった。ここ最近はずっとこの調子だ。

 ふたりは姉弟としてみればかなり仲が良い方と言えるのだが、こと冒険者になりたいとうブルーの夢には賛同出来ないマリーンの姿があった。


 既に他界しているがマリーンの両親は商人だった。残念ながらマリーンは弟を育てる為に少しでも早くお金を稼ぐ必要があったのでギルドの受付嬢という道を選んだが、その為かブルーには商人の道を歩んでもらいたいとも考えていた。


 しかし世の中思い通りにはいかないものである。マリーンがいくら説得しても弟の気持ちは変わらなかった。


 冒険者は危険な仕事だ。上を見れば確かに華やかな活躍を見せる冒険者も多いが、その裏では毎日何人もの冒険者が命を失ったり、二度と動くことの出来ないほどの大怪我を負ってしまったりすることも少なくない。


 正直ブルーがそんな危険な世界でやっていけるとはマリーンにはとても思えないのだ。ブルーは背も小さく魔法の素質もない。それに筋肉もそんなに付いていない。

 自主練を何年も続けているが体型が変わらない辺り、きっと筋肉が付きにくい体なのだろう。


 更に剣の腕前も決して誉められたものではない。これではとても冒険者としてやっていくのは難しいだろう。


 ただ、マリーンがこの話をすればするほどブルーは意固地になってしまっている気がする。 

 とにかく今はもうこのことには触れないほうがいいか……そう考えなおした。


 ついでに言えば一四歳になった時点で弟が言うように誰かの手伝いとしてついてもらい、自分が冒険者に向いていないということを知らしめるぐらいは必要かもしれないとも考えている。


 ただ――そうなると一体誰にという話もある。出来ればマリーンの弟であることを判った上で冷静に判断してくれる冒険者がいいのだが――正直そんな出来た冒険者マリーンの記憶にはない。


 マリーンの弟であることを最初から隠しておくという手もあるが、ブルーが話してしまうかもしれないし、どこかでバレると厄介なことに繋がる可能性もある。


 ただでさえさっきのような男が出てくるほどだ。


(本当世の中ままならないわね……)


 最近の冒険者のことや弟の将来のことなどマリーンには頭を悩ます事案も多い。

 

 そして結局これといった考えも纏まらず次の日はやってきた。


「マリーン、今日もこの依頼請けていくわね」


 朝からピーチがやってきて例の魔草採取の依頼書を持ってきた。

 天真爛漫なピーチの姿を見てると自分の悩みが馬鹿らしく思えてくる。

 しかし彼女のおかげでマリーンもどこか明るい気持ちになれる。ピーチにはそんな不思議な魅力があった。


「はい、じゃあこれ受注ね。でも気をつけてよね。昨日も言ったけどゴブリンが増えてるとも聞くし、危ないと思ったら無理せず引き返してくるのよ」

「嫌だ大丈夫よ。マリーンは心配症ね。それにゴブリンぐらいなんとかなるわよ。だって私、未来の大魔導師を目指してるんだからね!」


 そう言って胸を張るピーチ。ぷるんっと大きなそれが上下に揺れ、後ろの冒険者の目が釘付けになる。

 

 そんなスケベ連中を目で威嚇した後、油断は禁物だからね、といってピーチを見送った。


 確かにピーチでもゴブリン数体ぐらいならなんとかなるかもしれないが――ただ何故かその日は妙な胸騒ぎがするマリーンであった。


「なあ聞いたか? 結構な数のゴブリンが何か森に現れ始めてるって」

「ああ、いくらゴブリンとはいえ数が増えると厄介なんだよな。俺、今日はあの森に近づくのやめとくわ」

「でもおかしいよな。あの森のゴブリンってしょっちゅうゴッフォ達が狩っているらしいのに、増えてくってなあ……」


 ゴッフォのパーティーを中心に組まれたグループがある。彼らの言うように確かにその連中の手で随分とゴブリンが討伐されており、それなのに増えているというのはおかしな話にも思えるが――しかしマリーンはそれよりもピーチの身の方が気になっていた。


 妙に運がいいところもあるので心配はいらないと思うが――それでもマリーンはその日はどこか仕事をしていても上の空だった。

 それでもミスなく仕事をこなしているのはさすがと言えるかもしれないが。


 そして――時間が経ち夕方近くになって、マリーンの心配が杞憂であったことが判った。

 何せピーチはいつもどおりギルドに戻ってきて、更に途中で見事にコケたのである。


 さっきまでの心配が馬鹿みたいだなと思わずマリーンは吹き出してしまった。それにピーチがムッとした顔を見せたが――その後ろに見知らぬ少年が立っていた。


 その少年は自分のことをナガレと名乗り――

 


この後マリーンはナガレの活躍に度肝を抜かされることとなるのです。

次の話よりナガレの話がいよいよスタート!




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