第一二八話 完璧な勇者④
本日二度目の更新です
「折角こうやって僕達の為に宴を開いてくれたというのに、お呼び立てするような真似をしてしまいもうしわけありません」
「構わんさ。勇者の称号を持つそなたに話があると言われては、我とて従うほかあるまい」
アケチは陛下に、出来ればあまり人目につかないところで話がしたいと伝え、宴の席を離れ皇帝の私室へと赴いていた。
謁見室ではなく皇帝自ら私室に招くなど本来は中々ありえない。とはいえそれでもやはり何人かの近衛騎士と宰相は同室しているが。
「それで話というのは何かな?」
「それは陛下が一番よくわかっているのでは?」
お互い笑顔で言葉を交わしていたが、アケチの反問にピクリと陛下の眉が上がる。そしてニヤリと不気味な笑みを浮かべた。
「その様子だと、気がついたようだな」
「えぇ、以前貰い受けた指輪の効果が隷属化に変わっていたことにね」
はははっ、と愉快そうに笑う皇帝。同席したサメジが怪訝そうに眉を顰めた。しかし彼とて自分の装備しているアイテムの効果ぐらいはわかる。
確かにアケチの言うようにその効果に隷属、しかも呪いの状態異常が付いていた。この指輪はこのままであるなら呪いの影響で外すことが出来ないであろう。
「と、いうことは上手いこといったようだな」
「随分と嬉しそうですね。上手いことというとクラスメートの何人かに渡していた首飾りのことですか?」
「ああ、流石完璧な勇者だな。それももう確認済みか。だが、もう遅いぞ? 全く苦労させてくれる。お前の持つ光の碧眼はどんなに高度な隠蔽を施しても全て見破るからな。だが、流石にこの魔導具についてまでは見破ることは出来なかっただろう」
「ふむ、見破るというと、この指輪――このままだと以前視たとおり全ての属性に対して少しの耐性がつく、まあそれなりに役立つものですが……」
瞼を閉じ一拍置いてアケチは更に続けた。
「ある特定の、つまり今回の場合はナノカなどに贈与されていた首飾りが装着されることで、それに連動した魔導具の効果が全く別な物に変化するということが見破れなかったといいたいわけですね?」
その言葉で皇帝と宰相、近衛騎士の顔色が変わる。まさかここまで看破されるとは思っていなかったのだろう。
だが、それでもまだ皇帝の顔には余裕があった。アケチにもサメジの指にも、例の指輪が嵌められたままだったからだろう。
「やはり勇者、頭はそれなりに切れるか。だが、それでももう遅い。既に効果は発動した。一番厄介なお前や、シシオ、カラス、サメジの四人が我が手中に収まったのだ。他の連中も同じように――」
「一応言っておきますが、僕にこんな呪い通用しませんよ」
言ってアケチが手より光魔法を発動し、光輝く矢が皇帝の右頬を掠った。一文字に切れた頬から鮮血が滴る。
それに皇帝の顔が青ざめた。近衛騎士が直ぐさま剣を抜こうとするがソレよりはるかに早くアケチが剣を抜き、近衛兵全員の武器を弾き飛ばした。
「ば、馬鹿な!? 何故! 何故だ!? 隷属の効果は発動したはずだ! それなのになぜ我を傷つけることができる!」
この口ぶりから察するに隷属化したあとの主は皇帝に設定されていたのだろう。
一度隷属化すれば強制力が掛かり、主には例えかすり傷であろうと負わせることが出来ない。それに主となるものが望めば護衛の騎士に歯向かうことも不可能な筈なのである。
「簡単な話です。僕は祝福持ちですからね。このアビリティはあらゆる状態異常を防いでくれますから、当然隷属化なんて僕に効くわけありません」
「な!? 祝福だと! 馬鹿な! そんなものは――」
「いくら鑑定しても出てこなかったですか? 僕の持ってる光の碧眼ほどではなくても、隠蔽を看破できるスキルの【見破る】持ちも何人か用意してたようですが無駄ですよ。僕の隠蔽は絶対に見破れませんので」
アケチの言葉に皇帝が絶句する。
しかしアケチは嘘くさい笑顔を浮かべたまま、さて、と口にするが。
「おっとそこまでだ。なるほどどうやら流石勇者だけにか理知に優れてそうだが油断したな。お前の仲間、少しでも動いたら胴体と首が離ればなれになるぞ」
「エルガイル! 良くやった!」
アケチが一顧するといつの間にかサメジの喉元に刃をあてる騎士団長の姿。何かあった時のためにこの部屋で身を潜めていたのだろう。
透明化出来る魔導具を持っていただけある。
「こ、今度こそどうしようもないだろう? 確かにお前には隷属化は効かないかもしれないが、他の仲間は別だ。もし言うことを聞かなければ仲間の命は――」
「それにしてもがっかりですね」
皇帝の言葉を遮りアケチがそんなことを言った。これには思わず皇帝もエルガイルも目を丸くさせるが。
「僕達を従えさせる為にとった方法が、ショウジンと一緒とは――彼も無謀にも僕を奴隷化しようと行動に移してきましたが、あんなのと同レベルとは皇帝の名が泣きますよ?」
「だ、黙れ! 貴様立場をわかって!」
「別にいいですよ切っても。ただ、一応僕はクラスの中で一番サメジを評価してますから、そう簡単に死ぬほど馬鹿ではありませんよ」
「……ふん、強がりをいい、な!?」
エルガイルが絶句した。なぜなら彼の腕に捕らえられていたはずのサメジの身が一瞬にして液状化し、崩れ去ってしまったからだ。
「彼お得意の水人形ですよ。ふふ、最初から彼はこの部屋にはいませんよ。魔法系の彼は後方支援が得意ですからね。部屋の外でいつでも魔法が使えるよう待機してますよ。まあこの調子なら必要なさそうですが」
「ぐぅ、だ、だが無駄だ! さあ大人しく部屋にまいれサメジよ! そして我に協力するのだ!」
皇帝が外にも聞こえるぐらいに声を張り上げ、サメジを呼んだ。しかし沈黙、扉の向こう側からは全く反応がない。
「ば、馬鹿な一体これは――」
「ああ、忘れてました。これお返ししますよ」
ワナワナと震える皇帝の足元に、アケチは首飾りを数個放り投げた。
それは全てアケチの手で回収されたものだ。
「これは、魔導変化を起こすための――ば、馬鹿な一度身に付ければ決して外せない筈なのに……」
「それも残念ながら僕には外せます。あ、ついでに呪いの効果も消し去っておいたので、もうその手は使えませんよ。残念でしたね。確かにその手ならクラスの誰か一人でも受け取り首にかけてくれれば連動して僕達の指輪が変化する。しかもこういった宴に参加するとなれば、陛下から賜った指輪をつけないわけにはいかない。中々面白いですが隷属という考え方は安易すぎましたね」
そこまで話を聞いたところで、エルガイルの剣がアケチにと向けられる。
「陛下! この男は危険です! このまま野放しにしていては我々のほうが足を掬われかねません! 作戦が失敗した以上、この男は今すぐにでもこの場で殺しておくべきです!」
「む、むぅ、しかし――」
皇帝が逡巡する。しかしエルガイルの表情は殺意に満ちていた。恐らく処分を受ける覚悟で皇帝が何を言おうがアケチに切りかかってくるであろう。
「……ふむ、しかし貴方に僕がやれますかね?」
だがしかし、アケチは特に意に介す様子もなくどこか小馬鹿にするような口調でそう言い放った。
「馬鹿め、少しいい功績を残したからとのぼせ上がりすぎだ。既に報告は聞いているが貴様のレベルは現在120程度。確かにその若さで大したものだが、帝国最強の騎士と言われている私のレベルは250を超えている。いくらステータスに優れている異世界人とはいえ、倍以上の差があってはどうしようもあるまい。それに実戦経験が貴様らとでは違いが過ぎる」
「そうですか、ではお好きな攻撃をどうぞ」
「……調子づきおって! 後悔するなよ!」
「ま、待てエルガイル!」
「喰らえ! ファイナルクロス!」
叫び上げ、そして肉薄しその手に握られた騎士の剣を十字に振った。ただの斬りではない。闘気を爆発させ、威力を極限まで高めた斬撃である。
だが、しかし――その結果驚愕したのは攻撃を行ったエルガイルの方であった。
「ば、馬鹿な、攻撃は確実に当てた。それなのに――無傷だと?」
「はい。ああいい忘れてましたが、僕には一切の物理攻撃は効きません。それと魔法も僕に当たる前に全て消え去ります。つまり言うなれば僕は無敵ってことだね」
「……は? ぐぇ!?」
怪訝な顔を見せるエルガイルであったが、その直後、彼の鳩尾にアケチの拳がめり込んでいた。重厚な鎧に見を包まれていたにも関わらず、鎧が砕けその内側に光を纏った拳が入ったのである。
「それとこれもいい忘れてましたが、報告にある僕のレベルは全くのデタラメです。実際はそれより遥かに上だと思ってくれていいですよ――て、気を失ったか。騎士の団長といってもこの程度とはやはりこの世の家畜たちを導くために生まれた僕には誰も敵わないようだね」
そしてアケチが皇帝達を振り返る。全員の肩がビクリと震えた。
「くっ、我をどうするつもりだ?」
「さあ、どうしたらいいと思います?」
「……こ、殺すのか?」
皇帝の問いかけにアケチは愉快そうに笑った。それに狼狽する皇帝。一体彼が何を考えているのか掴めないといったところだろう。
「いやいやすみません。ちょっとツボに入ってしまってね。それにしても殺すって……そんなことしてどうなるんですか? 陛下にはむしろこれからもしっかり僕のために働いてもらわないとね」
「……ふざけるな。貴様ら異世界人なんかに利用されるぐらいなら我は――」
「はい、まず僕の目を見て。そして――忠誠を誓え」
アケチが皇帝と宰相に目を向けながらそう告げる。すると、ふたりとも口を噤み、そして目つきが変わった。
直前までの憎々しさの滲みでた目ではない。意識をどこかにおいてきたかのような、そんな虚ろな目であった――
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