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余話② どうやら異世界へ来てしまったようだ

 タケトとホコリを覆っていた光は収束し、はっきりとした視界の中に映るは黒ローブを身に纏った怪しい集団であった。


 しかも完全に周囲を取り囲まれているような状態。更に言えば黒ローブの他に奇妙な様相をした連中も紛れていた。

 それは見るからに人ではなく、これがハロウィンの日などであればちょっとした仮装パーティーにでも紛れてしまったかと思いそうなものだが、しかしそれは否、あまりに時期が違いすぎる。


 更に周囲の風景もどこかおかしい。何せ直前までは人気のない空き地にいた筈なのに、今は明らかに建物の中だ。しかも近代的なコンクリ作りではなく、どこか古臭い、そう中世感のある石造りの壁と柱に囲まれた場所にふたりは立っていたのである。

 

「おお! 成功したぞ!」

「流石は魔人のエリート中のエリート、悪鬼族のシュテン様の教えだけある!」

「ふふっ、これで異世界人の奴隷が手に入ったぞ!」


「…………」

 

 不思議な事に、黒ローブを着ているのは恐らく人間と思われるが、にしても彼らの言葉はタケトの知識にあるものとは明らかに異なっていた。

 だが、にも関わらずその言葉の意味がすっと頭の中に入ってくる。

 

 まるで自動翻訳ソフトが頭のなかにインストールされた気分である。

 そして、それはホコリに関しても同じようである。彼女も不思議そうな顔を見せているが、明らかに連中の言葉は理解できている。


「おい? どうした? 陣の中にはこちらの言葉が理解できる術式も組み込んであるのだぞ?」

「いくら頭の悪い異世界人とは言えこっちの言っている言葉は理解できるだろ? まさか口が聞けぬわけではあるまい?」


「……ああ、まあ理解している」

「いい意味で気持ち悪いけど私にも理解できますご主人様」


 とりあえずタケトは少しでも状況を把握しようと黒ローブの連中に応じる。

 それに倣うようにホコリも発言。ただ、あまり機嫌は良さそうではない。

 突然こんなわけのわからない状況に見舞われればわからなくもないが。


「ふむ、それにしてもまさかふたりも召喚されるとはな」

「しかしこれは僥倖。もし力あるものならばふたりいれば十分に利用できる」

「ま、力なくても女の方はいくらでも使いみちはあるがな」

「男が使い物にならなかったらどうするんだ?」

「だとしても中々男受け(・・・)しそうな顔をしている。それはそれで使いみちがあるだろうさ」


 中々勝手なことを言っているな、と思うが口には出さない。ただこれまでの会話の時点でろくでもない連中だというのは理解が出来た。


「なあ、ここはどこなんだ?」


 とは言え、やはり情報が足りないので更に質問を重ねる。 

 みたところ、一応タケトは何かに利用するためにこの連中に呼ばれたようなのでいきなり手荒い真似をしてくることはないだろうと判断した。

 

 それに関しては良かったと考える。何せいきなり荒っぽい真似をしてくる連中であったなら流石に全滅させるほかない。

 さっきまで相対していたモヒカンとは明らかに異なった思想を持っていそうな連中だ。そんな奴らに手加減(・・・)出来る保証はない為、とりあえず対話に持っていけるならそれに越したことはない。


「ふん、生意気なやつだ」

「仕方ないさ。まだ自分の立場を理解できていないんだ」

「ま、その辺は後々きっちりと教えてやるとして、ここはサウズ大陸にあるとある山の中だ。それ以上は今お前らが知る必要はない」

「サウズ大陸? ふむ、俺はどうも地理には詳しくないんだけどな。ホコリは知ってるか?」

「……いい意味で小学生以下ですが。そんな大陸少なくとも地球にはありませんよ」

「う、うるせぇ! そんなの普通は知らないんだから仕方ないだろ! 日本大陸しか知らねぇよ!」

「……日本は大陸ではありませんよ。いい意味でよく高校に入れましたね」

「ひど!」

「いい意味で大陸というのはユーラシア大陸やアフリカ大陸などです。それぐらいわかりますよね?」

「……ユーラシア?」

「……いい意味でもういいです」

 

 ホコリは色々諦めたように話を切った。その眼は冷たく、確実にタケトを蔑んでいる。


「な、なんだよその顔! ユーラシア大陸なんて授業でもやらなかったぞ!」

「確実にやってます。いい意味でいつも授業中寝てるからです」

 

 むぐぅ、とぐうの音も出ないタケトである。


「お、お前らいい加減にしろ! 無駄話ばかりしやがって! とにかくお前らは俺達の奴隷だ! これからはしっかりと働いてもらうからな!」


 黒ローブの発言に、は? とタケトが怪訝な顔で連中を振り返った。


「奴隷? なんで?」

「ふん、頭の悪いお前らにもわかるように説明してやる。ありがたく思えよ。いいか? お前たちの足元にある魔法陣には召喚する術式の他に隷属化の術式も組み込んである。だから召喚された時点でお前たちの奴隷化も完了してるというわけだ」


 黒ローブの男の話を聞きタケトは顎に指を添え一考する。

 そして遂に一つの結論に達した。


「ホコリ、薄々感づいてはいたけど、これもしかして俺たち異世界とやらに召喚されたということじゃないのか?」

「いや、だからそう言ったよな?」

「……なるほど。いい意味でご主人様の大好きなラノベやWEB小説、影でこそこそプレイしてるエッチなゲームの世界に来てしまったということですね」

「いや! エッチなゲームは関係なくね? それ以前になんでお前がそれ知ってるんだよ!」

「いい意味で私はご主人様のメイドなので」

「メイドの範疇明らかに超えてるだろそれ!」

「いいかげんにしろ! お前ら自分の立場わかってるのか!」


 いよいよ黒ローブの男が切れた。どうやらかなり苛ついてる模様である。


「とにかく、お前らは奴隷なんだ。判ったら大人しく――」

「逆らったらどうなるんだ?」


 タケトが割りこむように問いかける。すると一瞬眉を顰めるも、男はニヤリと口角を吊り上げた。


「もし逆らえば死ぬほどの激痛がお前たちを襲う。絶対に逆らいたくないと思うほどのな。痛い思いは嫌だろ?」

「激痛? それ以外になにかないのか?」

「馬鹿かお前達は。死ぬほどの激痛だぞ? それだけあれば奴隷に言うことを効かせるなど」

「あっそ、だったらもういいか」

「ぐふぇ!」


 タケトの回し蹴りが命中し黒ローブの男が横に吹き飛び、ドガッ! と鈍い音を奏で壁にめり込んだ。

 一応相手の実力を探るための様子見の一撃だったのだがあっさりと倒せてしまったようだ。


「な! 何考えてるんだお前らは! 奴隷の術式が刻まれているのだぞ! こんなことして激痛がお前たちを、お前たち、を?」


 仲間がぶっ飛ばされたことで黒ローブがふたりにむけて怒声を上げる。

 だが、タケトの様子に全く変化がないことを知りその顔が歪んだ。


「な、何故だ? 立っていられないほどの激痛の筈なのに……」

「これが? こんなの毎日の修行に比べたら全然大したことないけどな」

「しゅ、ば、馬鹿な! 熟練の冒険者でものたうち回る程の痛みだぞ! それなのに――くっ! だがそっちの女は別だろ! おい女その馬鹿を止めろ!」

「いい意味で嫌です。死ね」

「ふぁ!? だからお前自分の立場――て! なんでお前まで平気な顔して立ってるんだぞ!」

「いい意味でこんなのはメイドの仕事に比べたらなんてことはありません」

「どんだけ軽いんだよ! なんだよメイドの仕事以下って!」

 

 黒ローブは憤慨し文句を言うが、ホコリにとってはその程度なのだから仕方ない。


「おいおいメイドを舐めたらだめだぜ? ホコリの命道流はメイド界では最も厳しいことで有名だからな」

「いい意味でメイド舐めるな」


 ふたりの返しに、くっ! と悔しそうに黒ローブの男が唇を歪める。


「とはいえ、このピリピリした感覚はウザいしな。上手くいくか判らないけど、四神流奥義――青龍眼!」


 青龍の型からの奥義をタケトが発動。その瞬間彼の双眸が大きく見開かれた。

 な? なんだ? と黒ローブ達がたじろぐ中、タケトは全員を値踏みするようにみやり。


「おおホコリすげーぞ! 俺の青龍眼が異世界仕様にパワーアップしてるようだ! こいつらのステータスとかいうのが筒抜けだぜ!」

「いい意味で鑑定というものですか」


 ホコリがあっさりと受け入れる。ちなみに本来四神流の奥義たる青龍眼は、眼に気を集中させることで相手の些細な動きすら見逃すことなくあらゆる技を見破るというものである。


 しかし異世界にきたことで相手のステータスさえも見破れるようになったようだ。

 しかもそれだけではなく――


「おっと見つけたぜ、そこの杖持ち! テメェだな俺達に奴隷の魔法を掛けたのは!」


 タケトが黒ローブの一人を指さしそう告げる。すると瞬時にタケトは魔法について理解した。


「よっし! これで俺も隷属の魔法ゲット出来たぜ!」

「は? は!? お前何言ってるんだ!」


 黒ローブたちはタケトの言っている意味が全く理解できていない様子。

 しかしそれも仕方ないか。だがそれが青龍眼のもう一つの効果。青龍眼で見た技を完全に模倣する。


 それが発動したのだ。青龍眼は技を使用している相手が特定できている状態で相手の技をみたり直接受ける事で模倣できるようになる。

 つまり青龍眼でふたりを奴隷化した相手を特定したことで条件はクリアーされたわけだ。


「隷属化、解除だ!」


 そしてタケトは、自身に掛けられた術式を覚えたばかりの魔法で解除した。

 これにより鬱陶しかったピリピリした感触が完全に消え去った。


「ば、馬鹿な――首の術式が、そ、そんな、本当に魔法を覚えたというのか? 覚えられる人間が稀と言われる隷属の魔法を……」


 相手は随分と狼狽しているが、タケトは構わずホコリをみやる。すると首筋に何やら妙な模様ができていた。これが連中のいう奴隷化の術式なのだろう。


「いい意味でご主人様、早く解除してください」

「え~どうしようかな~このままでも面白そうなんだけどな~」

「いい意味でぶっ飛ばしますよ。あとエッチな本の隠し場所バラしますよ」

「ごめんなさいすぐに解除します」


 タケトは急いでホコリの術式も解除した。そして改めて黒ローブの連中を見据える。


「く、くそ! 流石異世界人だな。どうやら妙な技を使いこなすようだが、しかし! こっちには大量のオーガとオーガブロスが控えているんだ! 例え奴隷化が失敗しようがなんとでもなる!」


 隷属化が解除されたことで随分と狼狽えていた黒ローブ達だが、改めて周囲の魔物たちを確認しその顔に自信を取り戻させた。


 彼らのいうオーガやオーガブロスは全部で一〇体。屈強な身体の魔物で頭から角が生えてたりと日本の鬼に近い様相だ。

 オーガとオーガブロスの違いは肌の色と角の数で、オーガは緑に近く角は一本。ブロスは赤に近く角が二本だ。

 

 そして武器はどちらも共通して金棒とこれでトラのパンツを穿いていれば完璧だなとタケトは思った。

 しかし残念ながらオーガ達の穿いているものは腰蓑のようなものだ。

 

 とはいえ少なくともパワーなら黒ローブよりもはるかに優れている。

 そんな連中が黒ローブの号令とともに一斉に襲いかかってきた。


 更に黒ローブ達もそれぞれが詠唱し魔法を行使しようとしてくる。

 中々にやっかいな状況ではあるが――タケトの顔はどこか嬉しそうであった。


「異世界の魔物の強さとやらを試させてもらうぜ!」

「いい意味で、私もいかせて頂きます」

 

 タケトは左に、ホコリは右に、左右に分かれまずはオーガやオーガブロスを相手していく。

 金棒をやたら振り回したり、タケトも使用する気に近い力を活用したりと中々こしゃくな攻撃をしてくる連中だ。


 だがタケトはそれらの攻撃を危なげもなく避け、手刀でスパスパと切り裂いていった。

 

「いい意味で青龍の型によるご主人様の青龍剣はどれだけ硬い金属でも切り裂きます」


 ホコリがそうタケトの技を評し、そしてオーガ達の懐に潜ると同時に箒を抜き構えをとった。

 そして箒の柄でオーガを突き上げ、ズザッ! と脚を引く。

 舞い上がったスカートは彼女の絶対領域を晒しそうになる。オーガやオーガブロスの視線がそこに釘付けになりそうになるが残念ながらこの魔物たちがそれを拝むことはなかった。


「――【命道流メイド箒戦術・箒嵐】!」


 括れた腰を畝らせ、艶やかな黒髪を靡かせながら振られた箒。その勢いにのって箒の毛が伸長し周囲の敵を巻き込んだ。

 たかが箒、されど箒、このようなか弱い女性が扱うにしてはあまりに重いその一撃で、人間より遥かに逞しい巨体を誇るオーガ達が次々と掃き飛ばされていく。


「いい意味で――お掃除完了」


 箒を空中で何度も回転させた後、鮮やかに戻し、そして周囲を掃き出す。

 ちなみに黒ローブはホコリが飛ばしたオーガ達に押しつぶされすっかり気を失っていた。


 そしてタケトを見やるホコリだが、そっちも似たような状況。つまり完全に全員のされていた。


「ホコリ~この黒ローブのおかげでなんか色々魔法覚えたぜ俺! これで俺も魔法使いだな!」

「いい意味でご主人様なら当然ですね。だってどうて――」

「うわああぁあぁああぁああぁああ! 畜生! なんでお前そういう事言うんだよ!」

「いい意味で事実ですから」

「なんで判るんだよ」

「違うのですか?」


 タケトの前まで近づいてきたホコリが、腰を屈め覗きこむような形で彼を見上げ問う。

 それに顔を赤くさせ、うぐっ! と喉を詰まらすタケトである。


「お、お前そういうところズルいぞ!」

「ズルい? いい意味で何故?」

「な、なんでっておま――」


「あ~ん? んだよこれ。この俺様が遊んでいる間に終わらせておけと言っておいたのによ。全く、これだから人間は使えないぜ」


 そして、ホコリの質問にタケトが口ごもっていると、突如何者かの声がふたりの耳に届いたのだった――

 

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