第十二話 エルフの薬師
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結局その後は、近隣の住人の証言もあってか、ナガレとピーチには正当防衛が認められ、彼らに暴行を働こうとし、剰え、街なかで剣を抜き、殺人さえも行いかけたということで、ゴッフォを含めた十二人の冒険者は衛兵達の詰め所まで連行される形なった。
彼らの職が冒険者という事もあり、事情を聴き終えたあとはギルドに報告となるようだ。
恐らくはこの件が問題となり、全員の資格は剥奪となるであろうとの事。
そして、勿論罪人としても王国の法に則って処罰される事となるだろう。
「全く酷い目にあったわ」
結果的に、詰め所で衛兵や衛兵長からの詰問に合うことになり、ふたりはかなりの時間を浪費してしまった。
本来ならとっくにマジックポーションを手に入れて、今晩泊まる宿でも探している頃であっただろう。
「それで、どうしますか?」
「う~ん、今の時間が午後の4時だったから、まだ間に合うわね。とりあえずポーション取りに行って……あ、報酬に関してはその後でも大丈夫?」
「えぇ問題無いですよ」
ナガレはそう伝え、ピーチと薬師の店に向かう。
ちなみにこの世界では、魔道具の種類としてしっかり時計が存在する。
腕時計などはないが、懐中時計のようなものであれば携帯ようとしても販売されている。
尤も、これらはそれなりに値の張るものではあるようだが、それでも置き時計程度であれば庶民でも一家に一台ぐらいは置いてあるようだ。
「おじゃましま~す、エルミールいる~?」
ピーチと共に訪れた店は、東門の詰め所からピーチの足取りに合わせて大体二〇分程歩いた先にあった。
建物は、二階建ての石造りが多いこの街では珍しい木造家屋である。
その為か、見た目には普通の建物のはずが逆に目立っているような感覚に陥る。
そんな木造の店舗に、ピーチはまるで近所の友だちにでも会いに来たような軽い空気で声を発した。
このエルミールと呼ばれたのか店主なら、きっと普段からピーチと仲がいいのだろう。
「あ! ピーチさん」
そして、ナガレも店に足を踏み入れると、奥から一人の少女が姿を見せた。
金髪で、黄金の虹彩を湛える双眸を宿す、可憐な美少女である。
その娘には、ある種族特有の先の尖った長い耳が生えていた。
その為か、この娘がエルフ族であることをナガレは瞬時に理解する。
店に入りピーチが彼女に近くにいく。この娘も身長は低いほうだが、それでもピーチよりは数センチ程高いようである。
その代わり、緑色のチュニックの上からでも判る絶壁の胸。そこがピーチとの違いだろう。
「やっほ~エルミール。依頼こなしたからマジックポーション頂戴」
音符が混じってそうな声音で右手を差し出すピーチ。
もう片方の手にはギルドで受け取った引き換え用の板が掲げられている。
「わぁ、いつもありがとうございますピーチさん」
「いつも硬いわねエルミール。だいたいあなたの方が年も上なんだし呼び捨てでいいわよ」
「いえ、それでも大事なお客様ですから」
ピーチは遠慮なく思ったことを彼女に告げるが、エルフの彼女は接客というのをしっかりと意識してるようだ。
お客様を大事にするという考えは日本のサービス業に通じるものがあるだろう。
「それでは、これがマジックポーションです」
言ってエルミールが戸棚から青色の液体の入った小瓶をピーチに手渡した。
試験管ぐらいの大きさの瓶であり、口にはコルクで栓がしてある。
「これこれ、魔術師にはやっぱりこれが必須よね」
マジックポーションを受け取り嬉しそうに燥ぐピーチ。
魔力を回復する方法には、ピーチが持っているスキルの瞑想という手もあるが、ナガレが教えた方法を用いても、やはり多少は時間が掛かる。
マジックポーションは即効性があり、飲んですぐ効果があらわれるので、魔法を使用するものであれば常に一本は持ち歩いておきたい代物なのである。
ふたりのやりとりを眺めつつ、ナガレは店内を見回した。
やはり薬師の店というだけに、置いてあるのは透明な液体の入った瓶や、奇妙な生え方をした植物の収まった鉢植えなどが多い。
どんな効果があるのかの説明書きも一緒に添えられており、怪我の治療や止血剤、魔力回復薬だけではなく、筋力増強による一時的な攻撃力アップ。皮膚を鉄のように固くさせ防御力を上げるなどの薬も存在する。
この辺りは、やはり魔法という概念のある異世界ならではといったところだろう。
「あの、ところでピーチさん、その方は?」
ここでエルミールからの質問。
それに反応したピーチが首を巡らせ、あぁ、と一言。
「彼はナガレ。この魔草採取の依頼をこなしてる途中で出会ってね。色々あって冒険者ギルドを案内してあげてたの」
「ナガレです。宜しくお願いいたします」
「あ、はい、こちらこそ宜しくお願いいたします。それにしてもまだお若そうですね」
「一五ですから成人はしてますけどね」
ニコリと微笑みつつそう告げる。本来の年令を言っても混乱させるだけなのでナガレはこっちの世界では一五で通すことを既に決めている。
そして、この世界では齢一五ともなれば普通に独り立ちしてる年齢でもある。
勿論、ある程度年齢のいった大人達からは、若造と舐められる微妙な年頃でもあるが。
「まっ、一五と言ってもエルフの彼女からしたら赤子みたいなものだろうけどね。何せ彼女の年は――」
「わわわわわっ! ピーチさん年の話は~」
泣きそうな顔でピーチを制止するエルミール。
どうやら本当の年は知られたくないようだ。
尤も彼女の年齢が一〇〇歳を優に超えてることをナガレは瞬時に見抜いてはいるが。
この世界のエルフは寿命が永い。人間の十倍ぐらいである。
その為、恥ずかしがってはいるが、このエルフも人間で言えばピーチより少し上ぐらいである。
ナガレの紹介が終わった後は、またピーチとエルミールがふたりで雑談を始めたので、その間ナガレは店内の品を見て回る。
元の世界では決して手に入れることのできない面白い物が多く、中々見ていて飽きない。
そんな折、ドアが開き一人の男性が店内に脚を踏み入れた。
「あ、スチールさん。いらっしゃいませ」
するとエルミールが笑顔で彼に挨拶する。
「ん……」
それに短く唸るような感じに返しただけで、スチールと呼ばれた男は店内の品を眺め始めた。
ここの常連の客なのだろうとナガレは判断する。
そして同時に、この客がドワーフである事も理解した。
背は低く、恐らくピーチやエルミールより更に低い。
ずんぐりむっくりな体型で、上下一体になった麻製の服を着衣し腰のあたりに帯のようなものを巻きつけ締め上げている。
そして、服の上からでも判る鍛え上げられた筋肉は見事なもので、腕も脚もエルミールの身体より太いほどだ。
角ばった顔をしていて、もじゃもじゃした髪の色と髭の色は茶色、年齢的には中年以上老年以下といった見た目だが、ドワーフは若い内から老け顔に見られやすい面相なので、実際の年齢はドワーフの中では若い方なのだろう。
年齢を重ねるとドワーフは髪と髭の色がグレーに近くなっていくからだ。
茶色いうちはまだまだ若い証拠である。
尤も、このドワーフも人間の三倍は長生きできる種族である。
若いと言っても人の若者よりは遥かに年は上だ。
そんなドワーフが、店内の薬を見て回る姿は――なんとも奇妙な光景でもある。
そもそもドワーフは職人気質の種族で、暇さえあれば工房で鉄を打ってるような者が多い。
ドワーフに鍛冶師が多いのもその為である。
「たまに見るわね、あのスチールってドワーフ」
「えぇ、最近はよく店に来てくれるんです。仕事柄火傷が多いと言って、傷に効く薬を買っていってくれるんですよ」
そういって微笑むエルミール。へぇ、と興味あるのかないのかといった空返事をするピーチ。
そしてナガレは、ドワーフの身を一瞥するが――特に火傷のような痕は見られない。
確かにドワーフは仕事柄火を多く使う。が、その逞しい肌とすっかり固くなった皮膚は多少の熱など物ともしないほどであり、ある程度手慣れたドワーフなら火傷に悩まされることはそうはないはずだ。
そして、ドワーフは棚を物色するようにしながらも、合間にエルミールに視線を送っている。
そしてそんな事を暫く続けた後、店にあった塗り薬を手にエルミールの下へ向かい。
「……頼む」
そう一言だけ告げた。男のドワーフは偏屈で無愛想な場合が多いというので特に不自然ではないのだが、このドワーフの場合はそれともまた違う何かを感じる。
「いつもありがとうございます。でも、薬の消費が激しいんですね。大変なお仕事だとは思いますが怪我には気をつけてくださいね?」
「……も、問題、ない。この薬はよく効く。助かってる」
ぷいっと顔を背けつつ照れくさそうにそんな事を言った。
そして金額を支払い、彼女のありがとうございます、という言葉を背に受けながら店を出て行った。
「なんか変わった男ね」
「スチールさん腕は確かで、最近この街で鍛冶屋を営み始めたばかりみたいですが、人気が出てきてるみたいですよ」
へ~そうなんだ、とピーチが腕を後ろに回しながら言う。
「ピーチは知らなかったのですか?」
「だって私魔法がメインだし。杖なんかは魔道具の店で買うしね。鍛冶師については詳しくないわよ」
「でもナガレさんはお世話になることもあるのでは? 冒険者を始められるのですよね?」
「はい、ですが私はこれが正装ですし、武器は使用しないので個人的に行くことはないかもですね」
え? とエルミールが目を丸くさせる。
「武器を使用しない……という事はピーチさんと同じく魔法で? ごめんなさい、その、体つきが結構、り、立派でしたのでてっきり」
何故か頬を染めて恥ずかしそうに言うエルミール。
「いえ、私は魔法は使いませんよ。文字通り素手で戦っています」
「ナガレ変わってるのよ。なんか舞踏を使って戦ってるみたいで」
「まぁ、舞踏を? それはまた、珍しいですね」
相変わらずの勘違いだが、ナガレは気にすることなく、えぇ、と返し微笑んだ。
その後は軽く言葉を交わし、そろそろ、と辞去した。
時刻も既に夕刻、外も空は茜色に染まり上がっていた。
そろそろ今晩の宿を探したほうがいいだろうとの判断である――
本日もう1話更新できるといいのですが……
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