第一一二話 やってやるぜ!
「それで、あんた達本当に動かない気なの?」
結局、鋼の狼牙団が坑道の奥へと一足先に出発してしまった。
そんな中、未だに動こうとしない他の冒険者をみやりながらピーチが確認するように問う。
「当たり前だろ。今更動く気なんておきねえよ」
「全くだ。それにAランクの冒険者様だ。上手いことやるだろうさ」
「ま、失敗しても関係ねえけどな。あいつらがやるっていったんだから」
「例えやられても自業自得よね」
「本当にな。あれだけでかい口叩いておいて、失敗したらお笑い種だぜ」
鋼の狼牙団がいなくなり、彼らにも既に遠慮はない。
嘲るような言葉を吐き出し、愉快そうに大声で笑い出した。
「……確かに私もあいつらの態度には腹もたつけど、でも同じぐらいあんたらにも腹が立つわね」
「ああ、俺もそこは先輩に同意だぜ。あれだけ言われて悔しくないのかテメエらは? 言われっぱなしで何も出来ず、こんなところで陰口叩くしか出来ないだなんて情けねぇ」
「あん!? なんだとコラッ!」
「ざけんなよ! 大体テメェらだって同じだろうが!」
「この場に留まってる分際で偉そうな事を言っているんじゃないわよ!」
ピーチとフレムの発言に、すっかりやる気をなくしていた冒険者もこれは聞き捨てならないと激昂し、罵詈雑言を浴びせてくる。
だが、それに全く動じることなくふたりは彼らに言い返した。
「私達が残ったのはあんた達の意思を確認するためよ。言っておくけど、あんたらが行かないと言っても私達はこのまま向かうつもりだからね」
「そういうこった。俺らはお前らのような負け犬とは違うしな」
「な!? 負け犬だと!」
フレムの言葉に蹶然し、大柄な男が叫んだ。
「へえ~驚いた。この中にもまだそうやって怒るだけのプライド持ってるのがいたのね」
すると、いつの間にかフレムの横についていたカマオが、彼の肩に腕を乗せ、蔑むような目を文句を言っている冒険者に向ける。
「お、おい、な、馴れ馴れしすぎだろ!」
「ええ、いいじゃない。私とフレムの仲なんだし」
「いつから俺がそんな仲になったんだよ!」
ふたりの熱々(フレムからしたら溜まったものではないだろうが)なやりとりを他所に今度はニューハが彼らの前に立ち。
「今言われてたように私達は貴方がたがどう思っていようと、この先へ向かいます。ただ、一つだけ肝に銘じておいて下さいね。この依頼が失敗したなら、困るのは私達ではない、ハンマの街の多くの人々、それに毎日ここで汗水たらして働いてきた鉱夫たちです。くだらない意地の張り合いで、まともに依頼もこなすことが出来ないなんて、それこそ冒険者として恥ずべき事では? そんな事で皆さんはこれからも胸を張って冒険者を名乗れるのですか? その辺り、よくお考えになるといいと思いますよ」
ニューハはそこまで言うと、それでは向かいましょうか、と三人に告げる。
そして既に三方向に分かれた坑道前で控えている面々の下へ急ごうとするが――
「ま、待てよ」
「……そこまで言われてよ」
「何もしなかったら――確かに冒険者としてどうなのって話よね……」
呼び止められ彼らを振り返る四人。
すると、全く動こうとしなかった冒険者達が次々と立ち上がり――
「あの連中には腹も立つが」
「あんたらの言葉で目が覚めたぜ」
「こうなったら俺達の意地ってもんも見せつけてやんよ!」
「だから私達も、連れていってくれよ!」
こうして残りのメンバーも交え作戦を練り、鋼の狼牙団が向かわなかった方も含めて三つの部隊に分かれ、連中の後を追う一行であった――
◇◆◇
「……これで本当に良かったのかしら」
「ん? 何がだアナール」
「な!? ちょ! その名で呼ぶなって言ってるでしょう! 私はクリスティーナですわ! そんな名前知りませんわーーーー!」
ぽかぽかとゴーリキを杖で殴りながら、クリスティーナが抗議した。
それにやれやれといった表情を見せながら。
「めんどくさいんだよ。大体本名がアナール・クサインなのになんでクリスティーナなん、ギャァあぁああ!」
その瞬間、ゴーリキの身に稲妻が走った。
クリスティーナの雷術式魔法が放たれたからだ。
「次、私の名前をフルネームで呼んだら殺すわよ――」
「わ、判った判った! クリスティーナだなクリスティーナ!」
両手を振ってゴーリキが叫ぶ。
判ればいいわ、と腕を組むクリスティーナだが。
「で? これで良かったって何だよ?」
「うん? ああ、そうね。だから、本当に私達だけで動いて大丈夫なのかなって――」
若干心配そうに眉を寄せ、発せられた言葉にゴーリキが顔を顰めた。
「おいおい、雷帝を目指す魔導師様が随分と弱気だな。大体ここにくるまでも魔物が現れたが、全部瞬殺だったじゃねえか。バットウの言うようにここには大した魔物はいないんだろ? さっきの休憩室で大量に出てきたのが山だったんだよきっと」
言って肩を竦めるゴーリキ。
それにクリスティーナも顎を引き。
「確かにそうね……なんかあのナガレって言うのが言い残してたのがちょっと気になったのよね。でも気のせいよね」
「ナガレ? まあ言ってることにはなるほどと思えるのもあったが、所詮レベル0の言うことだろ。気にするだけ無駄だ」
「はいはい、私が馬鹿でしたよ。ほら、だったらさっさと行くわよ!」
ツンっと澄まして前を歩き出すクリスティーナに、全く、と短い息を吐き出しつつ、ゴーリキも先を急ぐ。
そして――それから暫く歩いたところで、ふたりは中々に広めの空洞に出た。
どうやらそこで行き止まりになってるようで、鉱夫が残していったツルハシや折れたスコップなどが散乱し、また鉱石の運搬用に使われているマインゲータの亡骸も点在している。
マインゲータは土色の表皮を有す太めなワニのような動物で、体長は四~五メートル程。
短い四本の脚で器用に歩き力も強いため、胴体の上に荷台を乗せてそこに鉱石を詰めて運ばせる。
運搬に持って来いだが、性格自体は温厚な為、襲われても積極的に戦うような事はない。
故に、被害にあったマインゲータの亡骸が存在しているのであろうが――
「なにこれ? 魔物なんて見当たらないじゃない」
「うむ、襲撃にあったような痕跡は残っているのだがな」
ふたりは不思議そうに首を傾げながら、更に奥へと進んでいく。
そして空洞の中心に差し掛かったその時だった。
突如、周囲の壁が盛り上がり、かと思えば多数の魔物がふたりを囲むように迫り来る。
「こいつ、イワクイか!?」
「え? い、イワクイ?」
ゴーリキが緊張した声を発すると、クリスティーナが若干慌てた表情を見せながら確認の言葉を口にする。
「文字通り岩を食う魔物だ。鉱石なんかも問答無用で喰らうからな。こんなのが現れたらそりゃ大慌てだろうさ」
「ふ~ん、なるほどね」
得心がいったように口にする。
イワクイはその名の通り、全身が岩で出来たような魔物だ。
岩を食うのも特徴だが、周囲の岩と同化する岩擬態というスキルも持ち合わせている。
ふたりが最初この魔物の存在に気が付かなかったのも、このスキルが使用されていたからだ。
このイワクイ見た目からして頑強そうであり、ゴーリキと変わらない程度の上背だが、ゴツゴツしている分より大きく感じられる。
しかしクリスティーナは表情を一変させて引き締めなおし――
「でも、それがどうしたってのよ!」
叫びあげ、そして詠唱を紡ぎ、杖に電撃を集約させた。
「チェーンライトニング!」
魔法を行使した瞬間、イワクイの身に稲妻が走る。
チェーンの名の示す通り、蒼い稲妻が連鎖するように次々とイワクイに襲いかかった。
だが――イワクイは全く意に介さず、ふたりに向けて攻撃を開始する。
迫るイワクイはその岩の拳で叩き潰そうと、少し離れた位置のイワクイは口から石の礫を大量に吐き出してきた。
「ちょ! なんで魔法が効かないのよ!」
「いいからとりあえず俺の傍で隠れとけ!」
声を張り上げ、ゴーリキが三方からくる攻撃を一身に受け止め、正面の攻撃は手持ちの大剣で払いのける。
「おいクリスティーナ。多分こいつらにお前の電撃は効かない。全身岩だからな。確か岩系や土系の魔物は電撃が効きにくい筈だろ? 耐性も強そうだしな」
「そ、そんな――」
愕然となるクリスティーナ。
自身の魔法に絶対の自信を持つ彼女だが、雷系統しか使えないことが仇となった。
「だ、だったらどうすれば――」
「んなの決まってるだろ? 物理的に叩くんだよ!」
そして近づいてくるイワクイをゴーリキが次々と切り伏せ、というよりは殆ど叩き壊しているといったところだが、大剣を振るい片付けていく。
頑強そうな岩の魔物すら物ともしないその力は見事なものだ。
「クリスティーナ、俺はあのうざったいのも叩いてくる。お前サンダーシールドが使えたろ? それでも礫ぐらいなら防げるだろうから何とかしのげ」
「え? ちょっと!?」
そしてゴーリキが飛び出し、仕切りに礫を飛ばしてくるイワクイを倒しに向かう。
クリスティーナは、魔法系の私を放っておくなんて! と文句を述べるが、とにかく言われた通りサンダーシールドを駆使し、電撃の盾で礫をしのぐ。
だが――その時、突如クリスティーナの後方の地面が盛り上がり、イワクイよりも遥かに巨大な岩山のような魔物が姿を見せるのだった。
アナール嬢は自分の名前が嫌で嫌で仕方ないようです。




