第十一話 レベル0の実力
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「私があんたらの奴隷ってふざけたこと言ってんじゃないわよ!」
「ふん! 冗談なんて言ってないぜ。俺達の稼ぎ口をここまで荒らしてくれたんだ。それ相応の詫びってのが必要だろうよ。ピーチ、てめぇは餓鬼っぽいしチビだが、体つきは中々だ、良いもんも持ってるしな。だから俺達の奴隷にして毎日たっぷり可愛がってやるぜ」
舌なめずりをし、滴る涎。その醜悪さにピーチが両肩を小刻みに震わせた。
「……先程から勝手に話を進めてますが、私達がその条件を飲むと本気で思っているのですか?」
「はん! テメェこそ馬鹿か! 状況をみてみろ! この人数相手にレベル0のテメェが何出来るってんだ! 別に構わないぜ。どうしても嫌だっていうならまぁ殺しこそしないが、それなりに傷めつけてテメェに冒険者の礼儀ってもんを教えてやるよ!」
ナガレはやれやれと嘆息し、周囲の連中を見やる。
それぞれの腰に武器こそ携えているが、どうやら抜く気はないらしい。
ただ、パキッパキ、と拳を鳴らして威嚇するように一様にふたりを睨めつけてきている。
「この状況では仕方ありませんね」
「ちょ! ナガレ!」
「はん、そういうことだ。テメェは利口だぜ、その素直さに免じて取り敢えずそのピーチって雌とギルドで受け取った報酬を置いてけば、残りの金はあとでも勘弁して――」
「何を勘違いしているのですか? しかたがないので少し相手をしてあげましょう、とそういう意味ですよ」
ゴッフォの言葉を全て聞くことなく、ナガレが余裕の表情で言葉を重ねた。
ナガレ――とピーチが安心したように表情を緩める。
「よっし! じゃあ私もやるわ! 私の魔法で――」
「いえ、ピーチは見ているだけで良いです。それに貴方は攻撃系は主に炎の魔法しか使えないですよね? 街なかでそれはマズイでしょう」
確かに下手にこんなところで炎を行使する魔法を放っては、建物などに燃え移ってしまう可能性もある。
悪いのは向こうとはいえ放火の罪に問われてはあまりに馬鹿らしいだろう。
「てめぇ……レベル0の分際でこの人数相手になんとかなると本気で思ってるのか?」
「逆に、この程度の人数ならどうとでもなると思ってますけどね」
そういいつつナガレは改めて相手の動向を探る。
人数は十二人、但しゴッフォ含む三人は最初の攻撃には加わらない。
つまり挟撃してくるのは九人、ただこの路地は狭いため一度に攻撃を仕掛けてくるのは精々四人だ。
横幅の狭いこの状況なら、ナガレ一人ならゴブリン相手にした時に使用した空蝉・乱でも問題はないが今はピーチもいる。
彼女には、薄汚れたならず者達の指一本とて触れさせるわけにはいかないなとナガレは考える。
かといって、グレイトゴブリン相手に使用した地流天突は発動する条件が限られる。
(ならば、ここはあれでさっさと片付けますか――)
そう思いつつナガレはピーチの小さな身体を自分の元へ手繰り寄せた。
「え? ちょ! ナガレ突然にゃ、にゃに!」
「申し訳ありませんが、出来るだけ密着していて下さい」
袴の裾に抱きしめるような形で押し付けられ、ピーチの顔は真っ赤、別の意味で倒れてしまいそうなほどであるのだが。
「てめぇ! こうなった以上ただで帰れると思うなよ! 野郎どもやっちまえ!」
ナガレが瞬時に攻撃の案を練り終えたその時、ゴッフォの叫声を合図に、ナガレの見立て通り九人の冒険者が襲いかかる。
そしてナガレとの距離を一歩、二歩と詰めてきたその時――彼の手が動いた。
「あん? なんだあのトロくせぇ動きは」
遠目から見ていたゴッフォには、きっとナガレの動きが滑稽に映っていたかもしれない。
そしてそれはふたりに襲いかかる冒険者達も同じ、ただ連中にはゴッフォが見ているものとは違う明白な差があった。
(な、なんだこれ? 俺達の動きが、遅くな――)
多くの冒険者共がそう思い込む。自分の動きが遅くなったと――だがそれは違う、彼らの動きは決して遅くなどなっていない。
ただ、ナガレの速すぎる故に逆にゆったりとしたものに感じられるその所作が、視覚と脳の処理との間に齟齬を生み、自分たちの動きすら同時に遅くなってしまったかのように錯覚させたのだ。
さらに言えば、この時点で既に連中はナガレの術中にハマってしまっている。
ナガレはその独特な超高速な動きで、奴らが動いた瞬間に同時に導かれる大気の流れを完全に掌握してしまっていた。
そしてそれを独特な円を描くような手の動きで受け流し、螺旋状に循環させ、その威力を上げていく。
静かなる大気はナガレの所作により風に昇華し、さらに強風とかし、最後には嵐となった。
神薙流合気柔術はナガレぐらいまで極めると、相手の攻撃だけではなく、万物さえも受け流し何万、何百万と力を増幅させ武器と化す。
神薙流奥義――【旋風落】、対象の動き、攻撃、その一挙手一投足によって生み出される僅かな力の流れを掴み、嵐なる旋風を巻き起こす事によって相手に叩きつける。
この技の特徴は単体相手ではなく、複数の敵を同時に巻き込める事、そしてその有効範囲が広いこと。
故に――ナガレの奥義が炸裂したその瞬間、爆発的な風が広がると同時に一気に上昇し、迫り来る荒くれ冒険者達を空中高く巻き上げた。
そして連中は、ナガレの起こした風力と風圧に抗うことも出来ず、その勢いのまま地面へと叩きつけられる。
勿論――ナガレも殺しこそしていないが、それなりの痛みを伴いし一撃であり、全身骨折ぐらいは覚悟する必要があるだろう。
「ば、馬鹿な! なんだこりゃ! 相手は、相手はレベル0だぞ! それなのに! それなのにこんな!」
「あなた方の敗因は――」
顔を強張らせながら、信じられないといった様相で声を荒げるゴッフォに、ナガレが諭すように述べ。
「レベル0という数値だけに惑わされ、相手の本質を見抜けなかったことです。レベル0が最弱などという勝手な思い込みが生んだ結果ですよ」
そういってナガレは風の勢いに驚き、目を瞑り必死にナガレの裾にしがみついてたピーチを優しくどかせ、ゆったりとした足取りで残りの三人に向かって近づいていく。
「くっ、な、何をわけのわかんねぇことを! レベル0はレベル0なんだよ!」
ゴッフォが怒りに任せて叫びあげた。
だがそれはナガレに対しての怒りというよりはやり場のない怒りをぶつけているだけのようでもある。
彼の頭では、レベル0という結果が出ておきながらここまでの実力を秘めるナガレが理解できないのだ。
だがそれも致し方無いだろう。ナガレがレベル0なのは神薙流を極めた彼の普段の有り様が唯一無二のレベルにまで達しているからである。
ナガレは戦闘時一瞬の見切りを発する時を除いて、普段はその力を極限まで押さえ込んでいる。
しかもそれを意識することなくまるで息をするかのように自然に行っているのだ。
勿論ここまでに達することが出来たのは、長年の血の滲むような鍛錬に次ぐ鍛錬の積み重ねによる結果だが、その為、受付嬢が鑑定眼鏡を使用してもナガレのレベルは0と表記されたのである。
「畜生、認めねぇ! 俺は認めねぇぞ! 俺はBランク冒険者のゴッフォ様だ! テメェみたいな冒険者になったばかりのDランク野郎に――舐められて溜まるかぁーーーー!」
あ! という他のふたりの驚きの声。
そしてゴッフォは、腰に吊るしていた湾曲した剣を振り上げ、近づいてきたナガレに斬りかかった。
街なかでの抜剣は厳しく禁止されており、その行為は処罰の対象となる。
ましてや、明確な殺意の篭った攻撃など以ての外だ。
だが、ナガレの心はひどく落ち着いていた。降り注ぐ剣戟を見ても慌てもしない。いつもどおり、普段通り、川のせせらぎのような済んだ精神で――ゴッフォの刃に手を添え、その瞬間にはナガレよりはるかに大きなはずのゴッフォの身体は何百回と回転し、最後には頭から地面に叩きつけられていた。
「まだやりますか?」
足下でピクピクと痙攣し、完全に意識を失っているゴッフォを他所に、ナガレが残りのふたりに問いかける。
だが、ヒッ! と身じろぎする彼らの表情からは完全に戦意が消えてしまっていた。
そして――
「おい! お前たち一体何を! て、な、なんだこれは!」
駆けつけた衛兵が、その状況に驚き声を上げた。
どうやら多くの住民は、厄介事を恐れ直接助けに来るようなことはしなかったようだが、街の衛兵に知らせに行ってくれた者はいたようだ。
そして、漸く落ち着きを取り戻したピーチと共に、ナガレはこれまでの経緯を衛兵に話してきかせるのだった――
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