第九話 報酬
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「くっ! なるほど、どうやらテメェはレベル0だけに実力はカスみたいなもんなんだろうが、その分頭は大分切れるみたいだな」
それはどうもありがとうございます、と敢えてナガレは余裕の表情で一揖した。
それが逆に腹ただしいようで、ゴッフォは顔を真赤にして声を張り上げる。
「だがなぁ! さっきも言ったようにその方法には欠点があるんだよ! 俺達は命がけで魔物を討伐してるんだ! そんな中、一々右耳だ左耳だを残して戦おうなんて考えてられるか!」
「そうだ、ゴッフォの言う通り! もしそれが左耳限定になったとして、うっかり相手の左耳を潰すこともあるだろ! それだと報酬はもらえないって話になるのか?」
「冗談じゃねぇぜ! なぁみんなもそう思うだろ?」
同意を求めるゴッフォ一行。すると陪観していた中から、そうだ、そうだ! という同意する声がカウンターに届いた。
「そう言われると、そういう事もあるか……」
「ならばやはり一番いいのは魔核でしょう」
え? とマリーンがナガレを見やる。
「ですから魔核です。基本的には倒した魔物から魔核を回収するわけですから、魔核を討伐部位としたほうが一番いいと思いますが」
「ば、馬鹿か! 魔核は俺達がギルドと取引するための材料なんだよ! そんなものを討伐部位にするって正気かてめぇ! 第一受付の負担が増えるじゃねぇか!」
「それは逆だと思いますよ。わざわざ討伐部位と魔核を分けて査定するよりはいっぺんにやってしまったほうが早いでしょうし、それに魔核はどこのギルドでも値段は固定なようですから、わざわざ嫌がる理由がわかりませんが」
「む、むぎぎぎ!」
いよいよ反撃する緒が見つからなくなったのか、ゴッフォは歯ぎしりするのが精一杯な様子だ。
それをピーチが、ざまーないわね、という目で眺めている。
「ナガレ君の意見凄く参考になったわ。ギルド全体に関係する問題だからそれがすぐに採用されるか判らないけど提案してみる」
「お役に立てたようで何よりです」
ここで一旦話が落ち着きを見せるが、そこに一人の職員がやってきてカウンターのマリーンに耳打ちした。
「え? そ、そう。それなら仕方ないわね……」
「何? どうかしたの?」
すぐさまピーチが食いつき問いかける。
するとマリーンが溜息混じりに答えた。
「ギルド長の決定で、今回に関してはピーチとナガレ君、それにゴッフォ達両方に報酬を支払う形をとるって事になったわ。結局どっちも討伐部位を持ってきたのは確かだしね。現在の制度に則るならそれが一番という判断よ」
「へっ、ほら見たことか。まぁテメェらはラッキーだったな、ちゃっかり報酬が貰えてよ」
「それはこっちのセリフよ!」
ピーチが今にも噛み付きそうな勢いで語気を荒げるが、ナガレが、まぁまぁ、と抑え。
「上が決定したのであれば従うしかないでしょう。それに私が新人なのは確か。先ほどは出すぎたことを申し上げてしまい申し訳ない」
ナガレはマリーンに身体を向け深く頭を下げた。
だがその態度をみたマリーンが慌てて手を振り。
「謝られることじゃないわよ。こっちのほうが感謝したいぐらいだし」
それを聞いていたゴッフォが、チッ――と目つき鋭く舌打ちする。
結局その後は、それぞれの担当受付けより報酬が支払われた。
グレイトゴブリンにしろゴブリンにしろ、人を襲う危険性の高い魔物は常時討伐対象となっており、倒して部位さえ持ってくれば報酬が支払われるのが基本である。
勿論依頼には、しっかり受注しなければ勝手に達成しても支払われないものもある。
特定の薬草や魔草採取などもその部類にあたる。
これらは際限なく採取されると採り尽くされてしまう可能性があるため、受注しなければ例え持ってきたとしても報酬は支払われない上、乱獲などあまり悪質なようだと処罰の対象となる。
こういった依頼は掲示板に張り出されており、その内容を確認して個人の力量に合わせて受注する形だ。
依頼書には誰でも可能というのもあるが、条件としてCランク以上やB3級以上、○○人以上のパーティ必須など条件が設定される場合もある。
報酬に関しても、完全な成功報酬の場合もあれば前金が出る場合など依頼内容によって様々だ。
「はい、これが内訳で、ゴブリン一体に付き一〇〇ジェリー、それが三〇〇体分で三〇〇〇〇ジェリーね、で、グレイトゴブリンが……二〇万ジェリー、魔核は買い取りでゴブリン一体に付き一〇ジェリーの三〇〇体で三〇〇〇ジェリー、グレイトゴブリンは七〇〇〇ジェリーだから合計で二十四万ジェリーね。ちょっと今度奢りなさいよ」
マリーンがピーチに報酬を支払いつつそんな事を言う。
「ま、今度ね」
そしてピーチもほくほく顔で用意された貨幣をしまっていく。
するとマリーンに、ちゃんとナガレ君にも分け前を渡すのよ、と念を押された。
「わ、判ってるわよ。後でねナガレ」
「えぇ、大丈夫ですよ」
そう笑いかけながらもナガレはピーチが手にした貨幣に目を向ける。
この大陸では、かつて商業を伝えたとされる神が大陸中の商人によって崇拝されている。
その為、その商いの神が生み出したという貨幣単位であるジェリーはここサウズ大陸の共通単位として使用されていた。
そして貨幣に関しては革製の貨幣が流通しており、貨幣価値によって若干の違いはあるが、見た目にはナガレのいた世界のキャッシュカードとほぼ同サイズ。
それに金額が刻印されている形だ。
銀や金などは、この世界でも貴金属として希少なものという認識なため通常は貨幣としては使用されない。
「それにしてもやっぱりゴブリンの魔核は価値低いわね。グレイトゴブリンさえ七〇〇〇とか……」
「まぁ仕方ないわね。魔力保有量が低いからどうしても価値が低くなるのよ」
「おいマリーンちゃん、この俺様が稼いだ金で今度俺様が奢ってやるよ。早速今夜とかどうだい?」
ピーチとマリーンが話を続けていると横からゴッフォが割り込み、マリーンに誘いの言葉を掛ける。
だが彼女はどこか辟易とした顔で、
「悪いけどお断り。冒険者の男とは付き合わない主義だから」
と返した。
勿論これは建前で、ゴッフォと行くのが嫌なのは雰囲気からナガレにも察することが出来た。
もっといえば、マリーンは普段からしつこいゴッフォに迷惑してる様子でもある。
「ちっ、連れねぇなぁ。でもまたそこがいいぜ。でもまぁ仕方ねぇ。それに俺達も今日は色々と予定があるしなぁ」
ゴッフォが目つき鋭くナガレたちを一瞥するが、取り敢えず無視を決め込む。
「ふん! じゃあいくとするかな。じゃあなレベル0のルーキーさん」
ナガレにそれを言い残し、何が楽しいのか、ギャハハ、と下品な笑い声を上げながらゴッフォ達はギルドをあとにする。
「ねぇナガレ君、その、私からこんな事いうのもなんだけどあのゴッフォには気をつけてね」
何かあるのですか? と一応ナガレはマリーンに尋ね返す。
「あいつ悪いうわさが絶えなくてね。気に入らない冒険者がいると、影で躾けという名目でかなりの無茶をしてるようなのよ。ギルドも命に関わることじゃないかぎり冒険者間のいざこざにはノータッチなんだけど、あいつのやり方はそれでも度を超えてるというか……だから」
そこまで述べ、不安そうにナガレを覗き見る。
今日初めてあったばかりなのにも関わらず、随分と気にかけてもらっているようだ。
尤も、その主な理由はさっきまでのちょっとした揉め事に起因しているのだろうが。
「心配してくれてありがとうございます。そうですね、折角こうやって知り合えたマリーンさんに心配かけないよう気をつけます」
ナガレが表情柔らかくそう返すと、どこかモジモジしながら、マリーンでいいわ、と口にし。
「え?」
「あ、いやだから、マリーンさんとかピーチの紹介だし、だから私の事はマリーンでいいわ」
そのやり取りをどこか面白くなさそうに眺めてるピーチ。
しかしそんな様子に気にすることなく、
「そうですか、判りました、ではこれから宜しくマリーン」
と返し微笑む。
「あ~! もう何よ! 私の事無視して!」
「いや、別に無視していたつもりはないのですけどね」
「うるさ~い! もうとにかくこれで報告は終わりね」
「……いや、ピーチ魔草採取の件はいいのですか?」
ナガレの言葉に、あ!? と思い出したようにピーチが声を上げた。
「……全くあんたは肝心なところが抜けてるわよね――」
そんなピーチを眺めながら、マリーンが呆れたように口にした――




