Chapter 1:Dead or Alive :Sect.陽本紗来.2-4 ただいま迷走中。
なんとか、二人の喧嘩を止めなきゃ……そのためには、二人の気持ちをちゃんと両立させるアイデアが必要。
うーん……。
あ、そうだ。
こういうのはどうかしら。
「ねえ、提案」
手を挙げると、二人は私を見た。
「茉那は私が入ればいい、月崎君は人に評価してもらう機会があればいい、そうよね?」
茉那と月崎君は顔を見合わせる。
「そうだけど。紗来、動画アップするのはダメなんでしょ?」
「うん。できればそれは避けたいなって。だからね」
月崎君は、黙って私を見ている。
「二ヶ月先に学園祭があるでしょ? 有志企画扱いで上映してもらう、ってどう?」
「上映?」
月崎君も茉那も、きょとんとした顔をした。
「うん。高等部の映研とかが上映会やってるでしょ?
ああいう感じでやるの。よくない?」
茉那の目が、みるみる輝きはじめた。
一方の月崎君は、腕を組んで、天井を見上げている。
「それ、いーじゃん! あたしはそれでいいとおもう!」
「うーん……まあ、その辺が落としどころってことになるのか」
「何かっこつけてんの。素直にそれでいいっていえばいいじゃん」
「う、うるせーよ!」
月崎君、微妙に赤くなってる。図星なのね。かわいー。
彼はこほん、と咳払いして、顔を引き締めた。
「ともかく、それでいいとしてだ。
学園祭までは二ヶ月あるし、じっくり考えて煮詰めていきたいな」
「そだね。とりあえず、どの曲やるのか、ってところからじゃない?」
「いや、構成が決まってからだろ」
「え、構成って?」
「ユニットの構成だよ」
「あたしと紗来の二人じゃないの?」
「りさ姉ちゃんのロイドルを入れるか入れないかってのは?」
「あ、そっか。どっちでもいいもんね。
でも、入れるならダンスのキャプチャはあたしと紗来のどっちのをとるの?」
えーと。なんか詳しい話が始まっちゃったけど、私あんましわかってないかも。
聞いた方がよさげな気がする。
「えーと、ごめん。話が見えないんだけど、教えてもらっていいかな?」
「あ、ごめん」
月崎君は謝ると、これまでのだいたいの経緯を説明してくれた。
まず、ロイドル『月崎亜里砂』を画面に入れるかどうか。
入れるとすると、どっちのダンスを元にして踊らせるのか。
なるほどね。私か茉那の動きをまねさせることができるんだ。
けど、私と茉那のどっちかをコピーさせると、妙なことになりそうな気がする。
「うーん。私か茉那か、どっちか選んでってのも変じゃない?」
「だよね。画面の中に片っぽが二人いるような感じになりそう」
うん。茉那のいうとおりな感じになりそう。
「それに、私思うんだけど。
月崎君だけで撮影とロイドルのダンスを作るのと全部一人でやるのはしんどくない?」
「そーだなー……。それに編集もあるしな……」
「編集?」
「ビデオは撮ったらできあがり、って訳じゃないんだ。
音のタイミングに合わせて切り貼りしたりしないと。
まあこの辺は、一本作ってみてわかったんだけどな……」
そっか。
私と茉那がいいダンスができればオッケー、って単純なものじゃないのね。
「あと、あたし、りさ姉みたいに歌も歌いたい!」
「え」
踊りながら、歌!?
「って、それ、ハードすぎない?」
「なんで? りさ姉はやってたよ?」
「だって、リサさんはプロじゃない」
「そんなのやってみなくちゃわかんないじゃん?」
「そ、そう?」
絶対、腹筋がムリだと思うんだけど。
ていうか、これ、何にも決まってないって言ってもよくない?
二ヶ月ある、じゃなくて、二ヶ月しかない、って感じね。
うわぁ。ちょっと、大変かも。
(続く)