表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/36

Chapter 1:Dead or Alive :Sect.陽本紗来.2-1 意外な申し出

「あら?」

ニコニコ動画を見ていた私は、ある動画にかすかな引っかかりを感じた。


夕食が終わって、宿題も済ませて。

寝る前に一時間だけ許された、動画を見る時間。


私はもっぱらダンス動画を見ていた。

それはダンス部に入っているからって、それだけの理由なんだけど。

「踊ってみた」とかでたまにすごいのもあって、参考にすることもある。


最近は『月崎愛里紗』タグの付いた動画を主に見ていた。

というのも、こないだ、同級生の月崎君が、ロイドルのモデルやってる人の弟だって聞いたので。

その中の一本。サムネイルの女の子が、友達に似ている気がした。


動画を再生して、画面に顔をちょっと近づける。

ショートのちょっと茶色味がかった髪、いつもかけてるメガネ、その奥にある大きい鳶色の瞳。

「……うん」

やっぱり。


たぶん、茉那だと思う。部活の友達の。


茉那は動画の中で、やたらとスパンコールの入った、いかにも「ステージ衣装」って感じの服を着て踊っていた。

隣には、『月崎愛里紗』のCGモデルが配置されていて、茉那と全く同じタイミングで踊っている。


「……ああ、そっか。そういうことね」

私の中で、こないだの月崎君の話と、この動画がつながった。


一週間ほど前、茉那がやたらと落ち込んでた日に、月崎君は茉那を探していた。

あまり詳しく理由は聞かなかったけれど、なにか茉那が喜ぶ話だ、というようなことだった気がする。

だから、見かけたら来るように伝えてくれ、と。


でも結局、私は放課後まで茉那と会わなかったし、部活が終わるまで忘れちゃってたから。

帰り道で伝えたんだけど。


たぶん、茉那の喜ぶもの、ってこの衣装だったんだな。

あのとき茉那は『月崎愛里紗』のファンだって言ってたし、隣で踊ってる月崎愛里紗の衣装が全く同じ。

たぶん、憧れの衣装を着れる、ってことだったんじゃないかな、と思う。


んー……でも。


こういうの、校則とかに引っかからないのかな。

バレたらめんどくさいことになりそう。


明日、茉那に言ってあげようかな。



翌朝。

改札を出た私は、駅の階段を降りる。


うちの学校はけっこう駅から離れていて、ゆっくり歩くと三十分。

私立だから一応スクールバスがあって、駅から無料のバスはでてる。


でも、私は通学路を歩くのが好きだった。

けっこう道が新しくて、並んでるおうちも割ときれいだし。


今日は晴れてるから、歩こうっと。


階段を降りて左に曲がった瞬間、突然誰かに脇腹をくすぐられた。

「きゃっ!?」

「おっはよー、紗来!」


後ろから声が聞こえた。茉那だ。


「もー、子どもっぽいことやめてよー」


私は振り返って、腰に手を当てた。


「おー。いつもの二番ポジション。さっすがー」

茉那はいたずらっぽく、にやりと笑う。

二番ポジション? って、ああ、そうか。

私、知らない間に足のポジション、二番にしてたのね。自然に出ちゃった。


私は足の位置をもどして、ぱっぱとスカート際を払う。

「やだ、もう。恥ずかしー」

「えー、キマってるのに。紗来ってホントに立ち姿キレイだよね。うらやましー」

「そ、そう?」

「うん!」


自分ではよくわかんないっていうか、バレエの先生には今でもたまに怒られるんだけど。

そう言われると、ちょっと嬉しいな。


「紗来は歩くの?」

「ええ。今日は晴れてるしね」

「じゃ、あたしもつきあおっかな」


那はそう言って私の隣に並んで歩き出した。

他愛もない世間話をしながら歩く。昨日の宿題の話とか、今日の部活の話とか。


あれ? でも。

なんか、茉那にしては来るのが早いような。いつも遅刻ギリギリなのに。

「そういえば、今日は早いのね。珍しい」

「う。あ、あたしだって、毎日遅刻ギリギリってわけじゃないよ」

「へえー?」

「ほ、ほんとだよっ?」

「うんうん」

私はうなずく。実際、今日は早くきてるもんね。

茉那だって、そういうこともあるか。


「んーとさ、紗来。聞いてほしい話があるんだ……けど」

「なに?」

「あー、ええとお」

なんだろう。何か、言いにくそうな感じ。いやな話なのかな。

「んとね、ニコニコ動画って知ってる? 知らないよね」


ん?

私は首を傾げた。もしかして、昨日見たあの動画の話かな。


「あのさ、ええとね。

 色んな動画を投稿できるサイトなんだけど。プロが作ってる、本物の動画はもちろん、素人が作ったおもしろ動画とかもいっぱい出てるの」


私は黙って話を聞く。


「スマートテレビで契約したら、テレビで見ることもできるんだけど。そこにはダンス動画とかもいっぱいあって、すっごく楽しいの。たとえば、すごい有名なバレエの一幕とか、逆に、ストリートのおにーさんたちが踊ってる様子を撮った動画とかそんなのもいっぱい、いーっぱいあって。その中にね、踊ってみた、っていうのがあって」

「もしかして、茉那が出てたやつの話?」

「おぉぉおいっ!? なんで知ってるのっ!?」


何でもなにも。


「だって、私、寝る前に毎日見てるし」

「じゃなくて! どうしてあたしが動画投稿したの、知ってるの!?」

「昨日、たまたま見たんだけど」

「なにそれミーヨ!」


あ、それ知ってる。確か『月崎愛里紗』のグループが出てた番組だ。小さい時にやってたやつ。


「なつかしー。小さい時見てたわ、その番組」

「えっ、そーなの!? あたしも毎週見てた!」

「うん。『月崎愛里紗』確か出てたよね。

 最近ずっと昔のPVとか見てたから、なんか、思い出したの。

 幼稚園とかに来てなかった?」

「そー! その人がりさ姉! あたしが着て踊ってた服の持ち主!」

「憧れの人なのよね」

「うん! で、そこで相談なんだけどッ! 紗来も、あたしと一緒に踊らない!?」

「えっ?」

「あの服を着て! あたしと一緒に踊ってッ!」


茉那は一気にまくし立てると、立ち止まって私に深々と頭を下げた。


「それって、あのビデオに、私も一緒に映る、ってこと?」


茉那は顔を上げて、すがるような目で私を見た。


「だ、ダメ?」

「うーん……」


私はあごに指を当てて、考えながら歩き始めた。茉那も私について歩き始める。


まさか、昨日の今日で私が誘われるなんて思わなかったな。

昨日見た時は、茉那を止めないと、と思ったんだけど。


というか、その気持ちはまだある。

私立だから、校則違反は退学になっちゃったりすることもあるし。


茉那のことが、ちょっと心配。


「あ、あのさ、すっごく楽しいんだよ! ほんとに! 掛け値なし!」

「そうねー……」


と、最後の角を曲がると、学校の方からベルが鳴るのが聞こえた。


「あ、大変! 予鈴鳴っちゃった。茉那、いそがなきゃ!」


そんなにゆっくり歩いてたんだ、私。


駆け出しながら私は、さっきの茉那の話を考えていた。

ちら、と後ろを見たら、茉那はちょっと泣き出しそうな顔をしていた。

(続く)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ