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Chapter 1:Dead or Alive :Sect.星住茉那.1-4 そうは問屋が卸さない

とは、言ったものの。

現実はそれほど甘くなかった。


「再生数、あがんないね」

あたしがニコニコ動画の画面を見ながら言うと、浩司はがっくりとうなだれた。


動画の横にある、「再生数 108」の字。

これはいままで見てくれた人の人数、らしい。

正確には、再生された回数らしいけど、あたしには違いがよくわかんない。


ともかく、あたしと浩司で、この一週間欠かさずチェックしてる。

けど、一気に増えたのは最初の三日くらいで、ここ数日は一日3とか4とかずつしか増えていかない。

コメントなんか、数えるほどしかついてない。


今思い出すと、撮影当日はテンションが高かったから、気づかなかったけど。


今見ると、動画に映ってるあたしはなんだか不細工で、メガネをつけたサルみたいに見える。

ダンスも上手ければいいんだけど、明らかにリズムがおかしいし。

ってか、これ、音楽と合ってないんじゃないかな。


それにりさ姉のロイドルだけど、踊ってるのはあたしだから、あたしの動きとはあってる。

あってるんだけど、なんていうか。

たまに骨が外れたみたいになってて気持ち悪い。


今見てると、よくこんなのアップしたよね、あたしたち、って思うレベル。


「月崎愛里紗のロイドルって人気あるから、モデルと一緒に踊ったらたぶん伸びると思ったんだけどなあ……

 正直、甘かったと認めざるを得ない」


なんだか芝居がかったもの言いだなぁ、浩司のやつ。

でも、あたしも反省しなくちゃ、と思った。


「ねえ、やっぱ、その考え方がダメなんじゃないかな」

「だな。やっぱり伸びる動画って、『ちゃんとしてる』んだよ」

「うん」

あたしもうなずく。


いくつか人気動画って言われるやつをみてみたけど、中途半端さがないっていうか。

ジーパンにTシャツみたいな衣装で撮られていても、動きですごい魅せたり。

かわいい衣装で踊っていても、衣装がかわいいんじゃなくて、踊ってる人がかわいく見えるって感じで、あたしとは全然違う。


「だって、この画面みたら、ロイドルだけ浮いてるもんな。

 茉那とあってるのは動きだけで、実写の方は妙に赤っぽいのに、ロイドルはなんだか白っぽい。

 違和感しかないよな、これ」


あたしは全力で首を縦に振る。

それ、あたしも思ってた。画面がなんか変だ、って。

そっか、色がおかしかったんだ。あたしがサルに見えるのって。


「たとえばさ、公式の月崎愛里紗動画だとこんなのがあるんだよな」


浩司が再生した動画は、たぶんりさ姉が高校生くらいの頃かな、と思えた。

どっかの暗いライブハウスで、つぶれそうなのをりさ姉がもり立てようとがんばるけど、うまくいかなくてつぶれちゃう、みたいなドラマ仕立てのPVだった。


「へえー。こんなのあったっけ。これ、何年前のやつ?」

「つい最近」

「えっ!? じゃあこれ、ロイドルなの!?」


あたしは思わず動画を戻して最初から見直した。


信じらんない。

アップの時はまつげの陰まで見えるし、唇とかリアルにグロスだと思う。

歌声は完璧にりさ姉@高校時代だし、なにより、薄暗いライブハウスに入った時の影のかかり方とかCGには全然見えない。


「うえぇ。プロってすごいんだね……」

「まあ、ここまでのことは俺たちにはできないけどさ。

 こないだのはちょっと、雑すぎたかな、と思う」

「そうだねー」


それにしても。

あたしは今まで見てきた動画のどれがロイドルで、どれがロイドルじゃないのかわかんなくなってきた。

ふと思い立ち、あたしは自分のマイリストから、参考に、と思って集めてた動画の一つを出した。


「ねえ、浩司。もしかして、コレもロイドルなの?」

「んー?』

浩司はその動画をみて、「いや、コレは多分違うと思う。ホントの動画かな」といった。

「えー、なんでわかるの?」

「ロイドルはたいてい、最後のところにPowered by なんちゃら、みたいなロゴが出てくるんだよ。

 さっきの月崎愛里紗のPVでもでてきてたろ?」


そうだっけ? あんまし覚えてないけど。そうなんだろうな。


「コレは多分、地下アイドルかなんかの自主制作PVかな。

 でもこれ、上手いな。へー、こうやるんだ」

浩司はその動画を何度も繰り返して再生し始めた。


でも、そっかー。

ロイドルと一緒に踊るのって難しいんだ。

単に踊ったときの動きを合わせても、しょっぱい動画になっちゃうってことなのね。

色味が変わっちゃうって言うのかな。


ん? まてよー。

「あ! いいこと思いついた!」

あたしが叫ぶと、浩司は驚いたのか一瞬びくっとして、あたしを見ながら「え、なに?」と言った。

「逆転の発想だよ!

 あたしのところにロイドル貼り付けたらダメなら、ロイドルが踊ってるところにあたしを貼り付ければいいじゃん」

「って、それ、お前だけ抜き出してはりつけるってこと? 却下」

「なんでよー!」

「ロイドル貼り付けるのとは訳が違うんだよ。

 動画切り抜くのって大変なんだぞ」

「ちぇー。いいアイデアだと思ったのに。

 あ、じゃあ、あたしのロイドル作ってあたしが二人踊るのは!?」

「バカ! ロイドルなんて簡単に作れるわけないだろ!」

「バカだとーぅ!? あんたこそさっきからだめ出しばっかじゃん!

 浩司のほーがバカでしょ!」

「あ、いや、ごめん。

 けど、ホントにロイドル作るのって大変なんだよ。

 今回はたまたまロイドルウェアが手に入ったけど、ホントはすんごい高いんだぜ。

 第一、お前が画面の中にたくさんいる動画ってどう思うよ」


あたしが、画面の中にたくさん……。


「そんなのキモい」

「だったら、作っても意味ねーじゃん」

「ぐぬぬ……」


うーん、あたし一人で踊る方がマシかもしんない。んだけど、どーもぴんとこない。


「そーだなー。

 ロイドルやめて、りさ姉連れてくるとかができればなー」

「えー、そんなのやだよ!

 あたしのほうが絶対下手じゃん!」


そんな公開処刑みたいなマネしたくないよ……って。


「ん?」


んんん?

あれ、もしかして?


「あっ!」

「な、なんだよ。え、りさ姉連れてくるのか?」

「ちがうよ! でも……」


うん。そうだ。その手があった!


「くふふっ♪ 奥の手、みっけ!」

(続く)

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