Chapter 1:Dead or Alive :Sect.星住茉那.1-3 宝物みつけた!
「り、りさ姉ちゃん!?」
ずざっと後ずさりする音といっしょに、浩司の声が聞こえた。
あたしはそっと、物陰から玄関をのぞく。見てわかるくらい、めっちゃ焦ってる。くふふっ♪
「姉ちゃん、なんで帰ってきてるの!?」
「えっ、なんで? なんでって……」
なんでだろ。
ていうか、そんなことまで考えてなかった。
えーい、なんでもいいや!
「あ、あんたのことが心配になって……」
「へ……? あっ! お前、茉那だな!?」
あー、バレちゃった。ちぇー。
「ばーれたかー」
あたしは声帯模写をやめて、玄関に出た。
「おかえり」
「ただいま……じゃねーよ! それはやめろって前から何度も言ってるだろー!」
「やだよー。てゆーか、あんた、りさ姉に怒られてもしょーがないことしたでしょ?」
「え? あ」
浩司はばつが悪そうに黙る。
「ま、あんたがりさ姉の部屋でなにしてたかしんないけど。
姉弟でもやっちゃいけないこと、あると思うよ?」
「ち、ちがうよ! 単に冬服探してたんだよ!
そのときに間違えて別のタンスあけちゃったんだ。そしたら……」
「そしたら?」
「あっ、そうだ! 俺、お前を探してたんだよ,その件で!」
「あん?」
何? なんでそれであたしを探すわけ?
* *
「ここ、りさ姉の部屋じゃん。勝手にはいっていいわけ?」
「元、だから、今はりさ姉ちゃんの部屋ってわけじゃない。
実際、俺の冬服のタンスとかここに置いてあるし」
ああ。そういえば、つき姉、そんなこと言ってたなあ。
「ちょっと、こいつを見てくれよ」
浩司は大きなチェストの引き出しの一つを引いた。
のぞき込んだあたしは、思わず「えっ!?」という声が出た。
引き出しの中には、きらびやかな服がぎっしりと入っていた。
明らかに、普通の服とは違う。
この服がなんだか、あたしは知っている。
「こ、これ、触っていいの?」
浩司はうなずいた。
あたしは衣装の一つを手にとって、広げてみる。
子どもの時の記憶が鮮明によみがえってきた。
どんな人よりもイケてた、テレビの中のりさ姉。
そのりさ姉は、この服を着ていた。
まちがいない。りさ姉の、アイドル時代の衣装だ。
「な、すげーだろ」
浩司の問いかけに、あたしは黙ってうなずいた。
確かに、コレはすごい。
りさ姉がアイドルやめた、って聞いて、もう三年が経つ。
まあ、りさ姉の仕事はほとんどロイドル? が引き継いだから、今でもテレビで「月崎愛里紗」を見ることはある。けどあたしの中ではもう、りさ姉はアイドルをやめているから、あのロイドルは同姓同名の別人だと思う。りさ姉とそっくりだけど、なにか、違う。
だって、現役の時のりさ姉は、本当にきらきらしていた。
あたしはそんなりさ姉にずっと憧れて追いかけていたけど、ロイドルのりさ姉はあたしにとっては追いかけたいと思えなかった。ロイドルの「月崎愛里紗」はダンスも歌もトークもすっごく上手だけど、あたしには輝いて見えない。
この衣装を着ていたりさ姉は、あんなに輝いていたのに。
いま目の前にある衣装は、着る人がいなくなって、まるで死んじゃったみたい。
あたしは手に取った衣装を、そっと自分の肩幅に合わせてみた。
りさ姉の肩幅って、こんなだったんだ。
あたしの肩幅とほとんど同じ。あたし、あのときのりさ姉と、ほんとに同い年なんだなぁ。
その実感がわいてくると同時に、なにか風のようなものがあたしの中を通り過ぎた。
りさ姉への憧れや大好きって気持ちを、風は吹き散らそうとする。。
ダメ。なにか、大切なものを見失っちゃう。
このままじゃ、ダメ。
「どうも、このチェスト、」と浩司が別の引き出しを開けた。あたしはそれで我に返った。
「りさ姉がアイドルの時に使ってた衣装とか小物とか、そういうものが入ってるっぽいんだ。
で、こんなのもあるんだぜ」
浩司は、一抱えほどある黒くて大きい板のようなものを取り出した。
あ、学校に置いてあるちょっと古いパソコンだ、あれ。
「なに? パソコン?」
「これ、すっごいものが中に入ってるんだ」
浩司は手早く電源を入れて、なにかアプリを使った。
画面に「ロイドルウェア ver1.8」とでてきて、ロゴの下で何かめまぐるしく文字が入れ替わっている。
ぱっと画面が切り替わったときには、中学生の時のりさ姉が映っていた。
「え、なにこれ」
「りさ姉のロイドルウェアだよ。りさ姉のロイドルは、コレを使って作ったんだ」
浩司の説明によると。
ロイドルというのは本人の写真とかから、コンピュータグラフィックスを使ってそっくりのCGを作る。
そんで、そのCGを動かしたり踊らせたりするんだって。
このアプリにはそういう機能が一通り付いてる……みたい。
「で、ここから本題」
「うん」
「その衣装と、このロイドルウェアを組み合わせて、踊ってみた動画をつくらないか?」
「へ? どゆこと?」
「このロイドルウェア、簡単なモーションキャプチャがついてて。お前のダンスを取り込むことができるんだよ」
「えーと、もっかい説明して」
「あー、要するに、
お前が踊ったダンスと全く同じダンスを、このロイドルに踊らせることができる、ってこと」
「マジで!?」
「うん。そんで、お前のダンス動画と、このロイドルのダンス動画を組み合わせて、
踊ってみた動画を作ったらおもしろいと思うんだ」
とくん、と心臓の音が聞こえた。
「茉那がそれ着て、りさ姉ちゃんみたいに踊るんだ。
それで、茉那と、中学生のりさ姉ちゃんが二人で踊るの。絶対すごいのができるぜ!」
とくん。
予感がした。
吹き散らされてしまいそうだった、りさ姉への思いが一つの方向にまとまっていく。
りさ姉はあたしの憧れだった。
でもこれまで、あたしはりさ姉を追いかけていたつもりで、ちっとも追えていなかったんだ。
けど、もしかしたら。
あたしも、りさ姉みたいに、なれるかも……しれない?
「うん! やる!」
浩司はにっと笑って、「そう来なくちゃ!」と言った。
(続く)