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Chapter 1:Dead or Alive :Sect.星住茉那.1-2 なにやってんの、あいつ?

玄関のドアを開けて鞄を放り込み、すぐに隣に走った。


浩司んちはちょっとっていうか、かなり古い昭和家屋で、玄関は引き戸になってる。

開けるときにがらがらがら、って鳴るアレ。

呼び鈴も、音がびっびーっていうような白いボタンのヤツ。

あたし、あのボタン、結構好きなんだ。


呼び鈴を押すと、すぐに「はーい」という声と、ぱたぱたと廊下の走ってくる音が聞こえる。

たぶん、つき姉だ。あたしはドア越しに、つき姉に呼びかけた。

「ねー、つき姉、浩司いるー?」

「茉那ちゃん? ちょっと待ってね」

引き戸のガラスの向こう側で、つき姉の影が鍵を開けるような仕草をした。

カチャン、と鍵の外れる音と同時に、あたしはガラガラと戸を開ける。

「こんにちはっ!」

「はい、こんにちは」

つき姉はゆったりと微笑んだ。

つき姉も帰ってきたばかりなのか、まだ制服のままだ。


つき姉はほんとの名前は紗津季(さつき)さん、って言って、あたしたちの通ってる学校の高等部三年生。

あたしは中等部だけど、制服は一緒。

けど、あたしは夏服で、つき姉はもう冬服を着てる。


うちのガッコ、夏服はセーラーだけど、冬はブレザーなんだよね。

あたしもそろそろブレザーだそうかなー。


「浩司、まだ帰ってきてないの。どうかした?」

「うん。なんか、あたしのこと学校で探してたみたいだから」

「茉那ちゃんを? どうして?」

「あたしも知らないの。つき姉、心当たりない?」

「うーん?」


つき姉は手を組んで首を傾げる。


「どうかな。今から晩ご飯の支度するんだけど、茉那ちゃんが手伝ってくれるなら思い出すかも?」

「えーっ!」

「ふふふ。さ、早く上がって上がって」

つき姉の中ではあたしが手伝うことは決定事項みたい。

でもま、いいんだけどね。



あたしはエプロンに手を通しながら「今日のメニューはナニー?」と聞いた。

「今日はねー、ドライカレーかな」

「やった! あたし大好き!」


あ。思わず言っちゃったけど、食べていってもいいのかな。

最近あんまし、ここでは食べてないんだけど……。


そう思ってつき姉を見たら、つき姉はふんわり笑って、「たくさん作るから、食べてってね」と言った。

あたしは力一杯うなずく。

「うん!」

「じゃ、そこの野菜をみじん切りにしてね。にんにく、しょうが、タマネギは先にお願い」

「はーい」

あたしは台所に立って、包丁を手に取った。

かごの中を見ると、にんじん、ショウガ、タマネギ、ニンニク、セロリ、ピーマンが入っている。

えーと、火を通す順だから、ショウガとニンニクからね。


「ねー、つき姉。思い出した?」

「んー? なにをー?」

つき姉は沸いたお湯に固形スープを入れて、ゆっくりかき混ぜている。

「ひどーい! さっき、あたしが手伝ったら思い出すってゆったじゃん!」

あたしは口をとがらせる。

「あー。そうかそうか。浩司のことねー。

 うーん? なんだろね。最近、浩司と話したことってなに?」

「最近? あんま話してないかも。

 てか、浩司のヤツ、学校ではよそよそしいんだよー。

 こないだなんか、あたしがせっかく挨拶したのに無視したんだよ?」

「あー。あの子、照れてんのよ。

 なんか女の子と話すとからかわれたりするんだって」

「そっかぁ。

 でも、無視はひどくない?

 挨拶くらい返しなさいよって思うよー」

「そうね、ちょっとひどいかも。あ、ニンニクとショウガちょうだい」

あたしはみじん切りにしたニンニクとショウガをお皿に入れて、つき姉に渡す。

つき姉は、それを温めたフライパンに放り込んだ。

ジャー、という音とともに、いい香りが立つ。

「まあいいんだけどー。みじん切り終わったよー」


さすがあたし。あの量のみじん切りくらいあっという間ね。

つき姉はしゃっしゃっと手際よくお玉を返している。

「ありがと、そこに分けておいといてー」

「はーい」

あたしは適当に、火を通す順にお皿に分けていく。

つぎは、トマトね。みじん切りをお皿に分けたあたしは、ホールトマトの缶詰を開けた。

「つき姉、今日はリンゴ入れる?」

「あ、今日はないかな。代わりに、レーズン買ってきたから」

「はーい」

つき姉は慣れた手つきで材料を次々炒めていく。


いいにおいだなー。カレーって、作ってる最中のにおいもご馳走だよね。


手持ちぶたさんになったあたしは、いすに座る。

「ねー、つき姉」

「んー?」

「りさ姉、次いつ帰ってくるの?」

「いつ、とは聞いてないけど、来月に一度帰ってくるとか言ってたよ」

「そっかー。決まったら教えてね」

「はいはい。ふふ、ホントにお姉ちゃんのこと、好きね」

「うん」

あたしはうなずく。だって、そうだもん。


「ああ、お姉ちゃんと言えば」

「ん?」

「昨日、あの子お姉ちゃんが使ってた部屋でなんかごそごそやってた気がする。

 何してたのかしら?」

「え? りさ姉の部屋に勝手に入ってたの? あやしー、何それ」

「まあ、お姉ちゃんの部屋って言っても、元だから。

 今は衣替え用のタンスが置いてあるし、勝手に入る、って感じではないんだけど。

 ホールトマトちょうだい」

あたしは開けた缶詰を渡した。

つき姉は一缶と半分をフライパンにあけて、さっき解いてたスープとレーズンを入れる。

「冬服でも探してたのかしらね」

「どーだろ」


あたしは腕を組んだ。

今日はあいつと会ってないからわかんない。

でも、まだ、中等部ではほとんど冬服いないんだけどな。

いちおー、衣替えは来週だし。


「ただいまー」

ガラガラという音とともに、浩司の声が聞こえた。

ヤツめ、帰ってきたなー。


「つき姉、あたし、もういい?」

「いいわよー。浩司締め上げておいでー。いつものアレで」

つき姉は悪人笑顔でウィンクした。


あ、アレね。

あたしもにっと笑って、台所を出た。


息を吸って、のどの調子を整える。

あたしの得意技、必殺声帯模写。声をりさ姉の声にして。

玄関から見えない位置から……。


「こらー! 浩司っ! あんた私の部屋でなにやってたのっ!?」

(続く)

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