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Chapter 1:Dead or Alive :Sect.星住茉那.1-1 運の悪い日? 

話は、三ヶ月くらい……いや、もちょっと前かも。

ともかく、それくらい前。


あの日は最初、あたしにとってあまりいい日じゃなかった。


「元気出してよ、茉那(まな)

「むぅ~、りぃ……」

息も絶え絶えに返事をすると、隣にいる親友の陽本(ようもと)紗来(さら)があたしの肩を軽くなでた。

うん。紗来の気持ちはとってもありがたいし、悪いと思うけど、残念。

元気なんてぜんぜん出てこない。学校の帰りで疲れちゃってることもあるけど。


それに、肩に掛けた重たい鞄が一歩歩くごとにぐらぐら揺れて、邪魔。

よりいっそうテンションが下がる。


「もぉ、絶対神様はあたしのことがキライなんだ」

「まあ、確かに、今日の茉那はちょっと運が悪かったかなあ」

「今日あった悪いことってなんだっけ……えーと」

あたしは起きたときからのことをざっと振り返ってみた。

「朝目覚まし鳴らなかったでしょ、

 今日に限ってお姉ちゃん起こしてくんないでしょ、

 当然遅刻したでしょ、

 一番(いっちゃん)怖いセンセにお説教くらったでしょ、

 お弁当忘れてきたでしょ、

 しかもお財布もなかったでしょ、

 パン買おうとお金借りたら即落としたでしょ、

 結局お昼は食べらんなかったでしょ、

 そんでお昼から体育だったでしょ、

 ふらふらで参加してたらまた怒られたでしょ、

 それでがんばったら倒れちゃったでしょ、

 保健室でウィダーインゼリーもらってなんとか復活したでしょ」

「保健室でゼリーもらったのは悪いことじゃなくない?」

「あ、そっか」

でも途中で、指折り数えるのをやめたくらいには多いよね。

「こうして並べてみたらホント、最初っから決められてたみたいだよね。

 バタバタバタッとひどい目に遭っちゃってさぁ。

 やっぱり神様、あたしのことキライなんだ。ううう」

あたしはがっくりうなだれる。

「もー。しょうがないなあ。

 じゃ、とっておきの話は、また今度にしちゃおっかな?」


えっ。とっておきの話。なにそれ。


ぱっと顔を上げて、紗来の顔を見た。

紗来はいたずらっぽい顔で、あたしを見ている。

「ふふっ」

やっぱり反応したと言いたげに、紗来は軽く笑った。

あれ? もしかしてあたし、釣られた?

「あのね……。

 今日、月崎君がね、ずーっと茉那のこと探してたよ」

「月崎って浩司のこと? えー、どこがとっておきなのよぅ」

すっごい期待して、損しちゃった。

あ、ちなみに浩司は、月崎浩司って名前のあたしの幼なじみ。

隣に住んでて、赤ちゃんのときからのつきあい。

とりま「とっておきの話」なんて、スペシャルなキーワードに絡んでくるようなヤツじゃないということは断言できる。

「とっておきだよー。

 ちょっとだけ聞いたけど、たしかに期待していいかも、って感じの話だった」

「え-? なに? 教えてよ」

「うーん。浩司君に口止めされちゃったから」

「ちぇー。うーん、なんだろ?」


あたしはじっと考えてみた。

誕生日はずいぶん先だから、そういう話じゃないだろうし。


とするとぉ……あ!


「もしかして、りさ姉が帰ってくる、とか!?」

「りさ姉?」

「うん。浩司んちの一番上のお姉さんでね。

 アイドルやってるの。あたしの憧れの人なんだー。え、ちがう?」

「そういう話じゃなかったかなー?」

「えー、じゃあ、ナニ??」

「っていうか、浩司君、アイドルさんの弟なの? なんていう人?」

「えっとねー。

 月崎りさって名前なんだけど、芸名はね、月崎愛里紗、っていうの」

「え、知ってる。すごいね。あのロイドルでしょ?」

「うん。でも、昔はホントに自分でやってたんだよ」


そういえば、と昔のことを思い出す。


りさ姉がアイドルになったのは、あたしが幼稚園の頃だった。

なんとかってグループの一人だったと思う。

りさ姉は中学生だったかな。今のあたしと同じくらい。


りさ姉のおうち、つまり浩司の家とあたしの家は昔っから家族ぐるみのおつきあいがあって。

りさ姉と、ちょっと年下のうちのお姉ちゃんは、あたしのママと一緒にうちの台所でご飯を作っていた。


当時はなんの疑問も感じてなかったけど、よく考えるとおかしな話で。


後で聞いたら、当時浩司んちはちょっとビンボーで、あたしの家でみんなのご飯の面倒を見ていた、らしい。

あたしのママは全然気にしてなかったって言うか、むしろ喜んでたんだけど、今思うと浩司んちの小母さんは、ちょっと気にしてたかなと思う。

そしてたぶん、りさ姉もやっぱり気にしてたんじゃないかな。

アイドルになったあと、あたしに「これまでのお礼に、ウチにご飯たべにきてね」って言ってくれたことがあったし、今もお姉ちゃんが忙しいときは、あたしが浩司んちにお世話になることもあるし。


りさ姉は、何年か前にお嫁に行ってしまって、今はお隣にはいない。

けど、りさ姉は今でもあたしの中では尊敬する人ナンバーツーくらいで、それくらいあたしにとって憧れの人なんだ。


「ふーん、アイドルかあ……。私にはそんな知り合いいないなー。ちょっと羨ましいかも」

「じゃ、今度りさ姉が帰ってきたら紹介する! ダンス、すっごい上手いんだよ!」

「へえ。アイドルダンスかぁ。おもしろそうね」

「うん!」

あ、紗来との分かれ道だ。紗来はこのまま駅に行くんだよね。

「じゃ、また明日ね!」

「うん。また明日」


紗来はにっこりと笑って、小さく手を振った。

あたしも大きく手を振ってから、家に向かって駆け出した。


浩司の用事って、なんなんだろ? 先に帰ってるかな、あいつ。


(続く)

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