Chapter 1:Dead or Alive :Sect.星住茉奈.4-2 捜し物は何ですか?
「茉那、遅いよー」
駅まで全速力で走ってきたあたしは、まだ弾む息がとまらなかった。
声をかけてくれた紗来の顔も見れずに「ごめん!」とだけ声を絞りきる。
くぅー。
自転車にしておけば良かった。
これからみんなで歩くとしても、その辺においとけばいいんだし。
それにしても油断してた。ぐぬぬ。
学校の時間より三十分も遅いから、余裕だと思ってたんだけど。
つか、浩司もあたしのこと誘ってくれればいいじゃん!
まだ暴れている息の下で、ちらりと浩司を見ると、浩司はなんか様子がおかしい。
っていうか。
あれ、いっぱいいっぱいの時の顔だ。
あんな顔みたの、かなり久しぶりかも。
大丈夫かな、とちょっとだけ心配になる。
「おーそーいー。向日葵、待ちくたびれるかと思ったー」
遠堂先輩の思いっきり不満そうな声。
ごめんなさい、と言おうとして顔を上げた瞬間、思わず息をのんだ。
遠堂先輩のかっこ、すごい。
こういうのなんていうんだっけ、えーと。
「ご、ゴスロリ?」
「ちーがーうー。甘ロリ。ぜんっぜん違うし!
そーれーよーりー、ゆーことあるんじゃないの?」
「ご、ごめんなさい」
あたしは頭を下げる。
うう。遠堂先輩にだけはこういう弱みつかまれたくなかった……。
ただでさえ主導権握られちゃっててなんかアレなのに。
「ええと、これからどこに行くの?」
紗来が誰ともなしに言うと、浩司が「とりあえず電車に乗って、国領にいこう」と言った。
「え、国領? なんで?」
「あそこなんてったっけ、大きな駅ビルがあったろ?」
「あー、なんかあるね」
ジョナサンとかマックの入ってるビル。
「あの辺にはいろいろとスポットがあるから、ぴったりな風景もあると思うんだ。
西調布の駅前は何にもないし」
ふーん。そういうもんなのか。
まあ、あたしはよくわかんないし、ついて行けばいいや。
「やめといた方がいいと思うけど」
低くて小さい声が後ろから聞こえた。
思わず振り向くと、桑田先輩がいた。
え、私の聞き違いかな。
やめといた方がいいって聞こえたんだけど……。
* *
駅ビルのマックで、無言の昼食。
みんな結構疲れちゃったみたい。
遠堂先輩は見るからに機嫌が悪いし、紗来は気を遣ってるのか、一生懸命遠堂先輩や桑田先輩に話しかけてる。
あたしも一応、紗来と一緒におもしろい話をしようと頑張ってるケド。
てゆーか、さすがにあたしも疲れてきた。
だって、午前中をつぶして、結局何の成果も得られないって言うか、ぴんとくる景色が全然なかった、みたい。
桑田先輩が何度か写真撮って、その画像を浩司と二人で確認したりしていたけど、どれもいまいち。
「ねー、何がダメなのかな」
「なんか、通学路、って感じじゃないというか……」
浩司がつらそうに答えた。
「よく、テレビドラマとかで通学路に使われる映像あるわよね。
あの、どこかの川の土手。ああいうかんじ?」
紗来が助け船を出すかのように聞くと、浩司は首を振る。
「いや、小さい子供が普通に、仲よさそうに歩いててもおかしくないところがいいんだ」
「うーん」
あたしはコーラのストローをくわえたまま、腕を組んで天井を見た。
ふと、今朝の桑田先輩の独り言を思い出した。
やめとけとかそんなこと言ってなかったっけ。
「ねえ、桑田先輩」
桑田先輩はほんの少し、あたしの方を見た。
「今朝、やめとけとか言ってませんでした?
あれって、なんでなんですか?」
紗来と浩司がびっくりした顔であたしを見た。え、なんで驚くの?
「別に」
桑田先輩は無表情で答えた。てか元から髪の毛で表情読めないけど。
あれぇ、じゃあ、やっぱあたしの空耳だったのかな。
「ごめんなさい。あたしの勘違いでした」
うーん、おっかしーな。
聞こえた気がしたんだけど。
まあ、それはともかく。
このままこの周辺うろうろするのはきびしーし。
あたしはまたちょっと、考えてみる。
浩司が撮りたいのは、通学路でかつ、子供が仲良く歩いてる場所、なんだよね。
子供がいっぱいいる場所、っていうと、公園とか?
でもいわゆる、児童公園的なのはみなかった気がするし。
たしか、多摩川の方に行けばあったかなあ。
昔、浩司と一緒によく遊んだっけ。
でも多摩川の土手とか、結構車通って危ないし、小さい子がいるイメージはないかなあ。
あ、でも。
さっき通りかかった場所に、小学校があった。
幼稚園もいっしょになってるとこ。
ああいうののそばって、子供いっぱいいるよね。
ああ。そうじゃん。幼稚園じゃん。
お姉ちゃんがあたしのこと、夕方迎えに来てくれてた。
ああいうのを撮ったらいいんじゃないのかな。
あたしはストローをくっと噛んだ。
思いつきだけど、これ、言ってみようかな。
「あのね、あたし、考えたんだけど」
みんながあたしの顔を見た。桑田先輩以外。
「浩司、ちっちゃい子が仲良く歩いてるとことりたいんだよね。
なら、保育園とか幼稚園のそばなんじゃないかなー、って思うんだけど、どう?
夕方なら、お迎えに来た小学生とかもいるよ」
浩司の顔がはっとした。紗来はうんうん、とうなずいてる。
「そうねー。向日葵もそう思う。
とゆーか、たしか駅から学校の途中に、保育園だか幼稚園だかそんなのなかった?」
「ありますね。あそこ、ちょっと早めに通りかかると、結構子供がいますよ」
紗来が珍しく、少し興奮気味。
「西調布周辺の方が、俺もいいと思う」
桑田先輩がぼそっと言った。
「この動画、みるのはうちの生徒なんだから。
通学路もうちの生徒が使う通学路の方がいい」
あたしはぽん、と手のひらを叩いた。なるほど!
「そっか。そんなふうに考えるんだ。
すごい! 桑田先輩、すごいね!」
桑田先輩は返事をしなかったけど、少しだけうつむいた。
「じゃ、午後は西調布に戻る?」
「そうだな。教室のシーンはどうせ学校を使うんだし。結局、それがベストなのかも」
「きまりー!」
ふう。
これで何とか、めどが立ちそうな予感。
なんかこれまでぼんやりしてたけど、なんか、イメージわかってきた気がする。
これで、午後はがんばれそー。
(続く)