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Chapter 1:Dead or Alive :Sect.月崎浩司.3-2 問題が山積み。

「これを見てくれ」


放課後。俺は昨日書き上げたノートを開いて机の上に置いた。


「なにこれ……漫画?」

「違う。絵コンテ、っていうんだ」

「絵コンテ?」

「うん。俺、昨日りさ姉ちゃんの昔のPVを見てたんだ。

 で、『いい動画』にはすごい共通点があることに気づいた」

「えっ、なになに。教えて!」


茉那は俺の話に食いついた。

陽本さんはあごに指を当てて、黙って俺の話を聞いている。


「いい動画は例外なく、『りさ姉ちゃんがかわいい』ってことだ」

茉那はあきれたような顔で、がくっと体を揺らした。

「何言ってんの。あったり前じゃん……」

「いや、当たり前じゃない。

 ちょっとうちにあった昔の写真を持ってきたんだけど、これ見て」

俺はりさ姉ちゃんが高校生の時の写真を出した。

「これ、どう思う?」

「どう思うって……」


茉那は一目見て絶句した。


それはスナップ写真の一枚だった。

どこかに家族で旅行に行ったときの写真で、つき姉ちゃんが撮った写真だ。

俺がりさ姉ちゃんを呼んで、振り返った瞬間のバストアップ写真だった。


りさ姉はたまたま瞬きをしかけていて半目状態、黒目が欠けていて白目の方が多い。ある種、危ない人みたいにも見える。

それに元来、りさ姉は小顔なんだけど、なぜか妙に頭が大きく見えていた。

体と顔のバランスが悪く、お世辞にもかわいいとはいえない。

「かわいくないだろ?」

「それはひきょーでしょ、こんな悪い例持ってきてかわいくないなんて」

「私、判ったかも」

陽本さんは難しい数学の問題が解けたときのような顔で、あごに当てていた指を離した。

「月崎君、撮るときの角度と、シャッターを切るタイミングのこと言ってる?」

「正解」

「え、何? ドユコト?」

「つまり、カメラを撮るときにも『かわいく見える角度』と『かわいく見える瞬間』があるんだよ。そして、当然その逆もある」

「ふむふむ」

「俺たちが作りたい『いい動画』って、ちゃんというと『茉那と陽本さんがかわいい動画』だと思うんだ。だって、りさ姉ちゃんのPVは基本、『りさ姉ちゃんが一番かわいく見える』ように考えて作られてるはずだろ?」

「うん」

「だったら、この写真みたいな撮り方しちゃだめだってこと。

 こんな撮り方にならないために、どんなカメラの動かし方をするか、設計図を作ってやらなきゃならないんだ。

 それがこの絵コンテ、ってやつ」

「なーるほど!」

 茉那はぽんと手のひらをたたいた。

「つまり、あたしたちはこの絵の通りにカメラが回ってくるから、そっちの方向にいっちばんかわいく見えるようにがんばるってこと?」

「そう。そうでないと、せっかくいいダンスができても、魅力が死んでしまう」

「そっかー。

 ダンスと歌をがんばるだけじゃだめなんだね。なるほどー」


なんとか説明できてほっとする。


何せ、俺も昨日初めて知ったことばかりだ。

カメラの撮り方に、そんな見方があるなんて知らなかったし、絵コンテの作り方もよくわからないから、完全にホームページの見よう見まねだ。

書き方があってるのかどうかすら判らない。


「あ、じゃあ。私も気づいたことあるんだけど、いいかな」

「ん?」

「ええとね。

 私、小学六年生の時にモダンバレエの公演に出してもらったことがあるの」

「あ、それ前に聞いたやつ?」

「うん。茉那には前に話したっけ。お化けメイクの話」

「お化けメイク?」

「ええ。

 私、初めて舞台メイクをしてもらったんだけど、ものすっごく濃いお化粧で。

 鏡で見るとお化けみたいに見えたんだけど。

 でも、後で舞台写真を見せてもらったら、なぜかいつもの私の五割増し、って感じになってて」


メイク。


そうか、そういうのも考えないといけないのか。

そういえばりさ姉ちゃんも専用のメイク道具とか持ってた気がする。

たしか、すごくきれいな箱だった。今もタンスの部屋にあったような。


「どうして? って先生に聞いたら、強いライトを当てるときのお化粧ってそうする方がよく見えるんだって」

「へぇー。そうなんだ」

「そうなのよ。

 だから、動画でもお化粧とか照明とか、あるんじゃない? と思って」

「それは……」


確かに、そうだ。

それはそうなんだけど。


「……そこまでは俺、手が回らないかもしれない」

「うーん。まあ、浩司、男だしねえ。化粧のことなんか詳しくないよね」


昨日一夜漬けでカメラのアングルやカット割りのことを勉強するだけでも精一杯だったのに、このうえ化粧のことや照明のことまで入ってくると、さすがにパンクしてしまいそうな気がする。


「まあ、二ヶ月あるし、何とかなるんじゃない?」

「いや……ほんとにそうか?」


茉那は気楽にそう言うが、これは明らかに手が足りないんじゃないだろうか。


「手が足りないのよね、明らかに」


一瞬、俺がしゃべったのかと思った。

陽本さんは難しい顔をして、手を組んでいる。

俺はうなずいた。


「茉那と陽本さんのほかに、動画の構成を考える人、カメラを回す人、メイクをする人、編集をする人、最低でもこれだけ必要。てか、まだ足りないかもしれない。いくつかは俺がやるとしても、少なくともメイクは俺にはできないし」

「そっかー。じゃあ、人を探してくるしか、だねー。あ、じゃあさ」

茉那が手を挙げた。俺と陽本さんは茉那の顔を見る。

「こないだ紗来、高等部の映研が映画撮ってるとか言ってなかった?」

「え? ええ。だって茉那も見たことあるでしょ?」

「うん。去年の学祭の時のやつだよね。

 だったら、高等部の映研に協力お願いしてみるとか、ダメ?」

「え、高等部のクラブに?」

「つき姉とか、知り合いいないかな。聞いてみたらどう?」


高等部のクラブか……敷居が高いけど、俺たちだけではどうしようもないし。


ともかく、つき姉に相談するか……。

(続く)

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