Chapter 1:Dead or Alive :Sect.月崎浩司.3-1 いい動画?
この一週間、俺は実によく働いたと思う。
陽本さんを交えたミーティングを初めてやったあの日に、茉那は「とにかくレベルの高い動画を作りたい」と言った。
それは全く同意するし、今だってそう思っている。
じゃあ、どうして迷走するのか、というと、結局、陽本さんの発した質問がすべてだった。
「ねえ、結局『レベルの高い動画』って、どういうのがそうなの?」
俺はそう聞かれて、はっとした。
そういえば俺たちは、どんな動画を作りたいんだろう。
「ええとね、りさ姉が出てるようなの」
「私、それじゃわかんない」
その後、茉那はスマホでりさ姉ちゃんの昔の動画を陽本さんに見せたりしていた。
だけど、陽本さんは、「うん、りささんの動画がすごいのは、わかった。けど、どうしたらそういうのが作れるのかな」と言った。
その後も茉那は一生懸命いろんなことを言っていたけど、結局、あの日は何も決まらないままだった。
今思うと、茉那の持つイメージが、俺や陽本さんと共有できなかったのが、その原因になってたんだろう。
俺はあの日帰ってから、例のタンスの部屋でりさ姉の衣装をいくつか取り出し、並べてみた。
「うーん……」
いろんな衣装がある。
学校の制服っぽいものや、水着っぽいもの、やたらとレースがついたものや、きらきら光る糸みたいなものがたくさん縫い込まれたもの。
姉ちゃんのイメージカラーは黄色っぽいオレンジだったから、服の色はほとんどそれだった。
けど、眺めてみても、ぜんぜん『レベルの高い動画』のイメージはわかなかった。
『レベルの高い、いい動画かあ……』
腕を組んで天井を見上げると、突然ふすまが開いた。
「こら、浩司」
「つ、つき姉ちゃん!」
「まーた、りさ姉ちゃんの衣装なんか引っ張り出して。いい加減にしないと、バレたら殺されるわよ」
「や、だって……」
俺はいいわけのしようがなくて黙ってしまう。
「最近こそこそ茉那ちゃんとなんかやってるよね。なにやってるの?」
「ええと……」
俺はつき姉ちゃんに「実は……」と事情を話した。
話し終わると、つき姉ちゃんは感心したみたいにへぇ、といった。
「あんたたちそんなことやってたの。おもしろーい」
「うん。だけど、どんなのが『いい動画』なのか、よくわからないんだ」
「ふーん。『いい動画』ねー。私はそれ、ちょっと違うと思うな」
「え?」
「『いい動画』じゃなくて、『かわいい動画』だと思うよ。
だって、お姉ちゃんはアイドルだったんだもん」
あっ。
「そうか……!」
そうか、そうだったんだ。
ていうか、考えてみれば当たり前だ。
つまり、茉那や陽本さんが一番『かわいく』見える動画を撮ればいい、ってことだ。
「じゃあ、つき姉ちゃん、茉那たちをかわいくするには、どうすればいいの?」
「さあねー。それは私が考えることじゃなくない? あんたがやることでしょ?」
つき姉ちゃんは妙にニヤニヤしている。
「な、なんだよ」
「べっつにー。せーしゅんっていいよねー、ってこと」
「なんだよー!」
つき姉ちゃんはあはははは、と笑いながら出て行った。
なんだよもう、妙な勘ぐりはやめてほしいぜ。
それはともかく。
俺は結局、あの日は徹夜して、あるものを書き上げた。
(続く)