たった一つ望む者
お前は俺のモノなんだ…誰にも渡しはしない。
君は・・・ボクの花嫁になるんだよ・・・
逃げることなんて、許されるわけない・・・だろ?
分かってるよね?
この世界で一体誰が一番えらいかって・・・
ねぇ、君は賢い人だから・・・
自分にとって不利だってわかってたら戦いなんて挑まないよね?
ねぇ、ボクのサラティア。
魔王城の一室。
日中でも薄暗く、そこにはただ一人の男性が机に向かって水晶を眺めている。
どかっと玉座らしきものに腰を下ろし、ただ一心に水晶を眺めている。
『そうだ・・・サラティア。お前の力はボクのものだ。誰にも渡しはしない』
もっと・・・もっとだ。
目を細めて水晶に映るモノを見つめ、口元を上げる男。
この男はこの魔王城の主。
青白い肌に長い黒髪、漆黒のローブを纏っている。
『あれを我が物にしたい・・・』
さぁ、闇に染まれ・・・。
彼が望んだモノは唯一つ。
世界でも唯一、光と闇が共存する場所、地上。
そこへ堕ちた天使。
天界の神に逆らい、天罰を受け、地上に降ろされた女天使。
そのものをちょうど地上に降りていた魔王が見つけ、ひと目で気に入ってしまったのだ。
欲望の渦巻く魔界に君臨する王を魅了したモノ。
必ず手に入れると画策をするうち、彼女がいまだ天界での力を持ち続けている事をひょんなことから知った。
ならば、天使の力・・・つまり光の力ではなく、それを憎悪や憎しみに変えればいい。
そうすれば自分と同じ、天界を追われ、闇に染まると考えた。
だから、彼女が力を使うたび、彼は喜んでそれを見守る。
今日の相手は天界から来た天兵。
だが、やはり今日もサラティアの勝利だったが。
『ふん、勇ましい事だ。だが、あのぐらいの力がなくてはボクの后は務まらないからねぇ』
まぁ、ボクとしてはありがたいんだけど。
しっかし、天から落ちて数百日。
未だ闇に染まる事がない。
このまま待っているだけだなんて事もそろそろ飽きてきたし・・・
強引にこのまま闇に染めてしまおうかな。
ふとそんな事を考え始める。
他の奴らに・・・いや、天界の奴らが兵を差し向けるのだって彼女を捕獲したいからだろうし、
ってことは追放されたのは天界の長に逆らったからなのかな?
今考えれば、彼女がどうして天界を追放されたのかぜんぜん知らなかったし・・・
大事な事かもしれない。
そう思ったボクはめったに使わないベルを鳴らした。
それは使い間を呼び出すためのもの。
コンコンコン。
『入れ』
「失礼いたします。お呼びですか、魔王様」
入ってきたのは魔道士の長、アル。
『至急、元天使、サラティア・マクリルのことを調べ報告せよ』
「・・・この者を・・・ですか?」
不思議そうな魔道士に目を細める。
『不満か・・・?』
「いっいぇ、かしこまりました。ではすぐに」
失礼いたします。
そう告げ、ドアがしまる音が聞こえた。
『そなたは我が物・・・誰にも渡しはしない。』
いくら天とてな。
そなたのためなら天界を滅ぼす事すら叶えよう。
あんな場所に未練などないし、欲しくもないが。
そなたが望むのであれば意のままに。
僕のほしい結果はすぐに報告としてきた。
彼女が堕天した理由、された理由。
”ボクの推察どおりだったってわけだね”
妻請いを拒んだ為。
神であるルーの求愛を断ったからだ。
”あいつは前からそういう奴だったからな。”
きっと怒り狂って追い出したのはいいけど、きっと色々考えてもう一度チャレンジしてみようと呼び戻そうとしたに違いない。
だが、もう遅い。
ボクが出会ってしまったのだから。
彼女はボクのもの。
ルー、君にはもったいないよ。
彼女はボクにこそふさわしいんだから。
「魔王様?」
いかがなさいました?
魔道士がまだ居た事にきづいて、ボクはそのまま返そうと声を掛けたんだ。
でもね、少し考えて面白い事に気づいた。
『魔道士、彼女の捕獲と天使達の動向を探る事。あと、全悪魔に通達を・・・』
天界と事を交えるかもしれないってね。
そう伝えてくれないかい?
冷ややかな視線を向け、彼にそう告げた。
「天界を滅ぼすおつもりで?」
『あぁ、そうさ。そろそろこっちも仕掛けないとね』
たまには運動がてら5大将も動かさないと身体が鈍ってしまうしね。
「では彼女の捕獲もその一端で?」
『あぁ、彼女が切り札となる。天使も彼女を狙ってるから、それより先に奪取せよ』
「かしこまりました」
では。
そそくさと出て行く魔道士を横目で捕らえながらも、水晶球に手をかざす。
『さぁ、ボクの愛するサラティア。そろそろ本気を出させてもらうよ。』
手から紫色の光を水晶に映る彼女に向かって放出する。
その光は水晶球から彼女の身体にまとわり憑き、やがて彼女の中に入り込む。
『君はボクのものだ。誰にも渡さないよ・・・そう・・・誰にも・・・ね』
たとえルーでも渡さない。
本当は天界と戦う気なんてないんだけど、正直言えばね。
でも、君をめぐっての戦いなら喜んで殺戮を繰り返そうかな。
天界よりも居心地のいい場所。
欲望とか、愛とか自分達で決められる世界を作りたかったから・・・
ルーに気兼ねなくね。
だから、自分だけの世界のためにルーに戦いを挑んで敗れてみせた。
勝っちゃったらボク、下りられないじゃない?
堕天じゃなくなっちゃうもの。
手加減してたんだからね。
本気を出したらどちらが勝つかなんて明白でしょう。
ルーもこの掛け、乗ってくるかわからないから、もう一つ策をめぐらせときますか・・・
『いるだろう?ドウラン・・・』
使い魔の一人、狼のドウラン。
紅い毛並みの狼で魔力は魔物の中では1・2を争うんじゃないかな?
「いる。また眺めていたのか・・・カイン。」
『あぁ、かわいいだろ?ボクの后候補さ』
「・・・それで。のろけたいわけじゃないのだろう?」
『あぁ、そうそう。どこでもいいから天使捕まえてきてさ、ルーに対する嫌がらせをしてきてくれないか?』
カインの言葉にドウランは主の言いたい事を悟り深く頷いた。
「殺してもいいのだろう?」
『そりゃもちろん。うまい天使ならやっちゃっていいよ。』
ボクの用事は一応の撹乱。
そして、ルーに対する警告。
それを受け取るかどうかはあいつしだい。
”平和ボケしてないといいけど・・・”
「…わかった。」
数匹の妖魔をつれて行ってこよう。
『頼んだよ。ドウラン』
闇に沈んでいくドウランの姿を尻目にボクは部屋を久しぶりに出た。
君に逢える日が楽しみだよ・・サラティア。
君に掛けた呪はボクにしか解けないからね、
他のどんな魔力や光に強いものでも解けないから・・
だから、ボクの腕の中に早く落ちておいで…
ボクだけの・・・堕天使として・・・
独白ですね。どうしてもこういう感じに聞こえるんですよ。
書き始めるとどんどん絵が動いてく感じで。
ドウランっていうのはまぁ、あるアニメのパクリです