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doze-mew.  作者: ゆる
9/9

adhesive tape

adhesive tape=絆創膏

 深々と。


 雪というのは音もなく静かに降り積もっていくものだと言う話が一般的なようである。


 けれど。


 よく聞いてみてほしい。


 微かに、そう微かに、 雪というのは着地した瞬間、音をその耳に届け、耳はその音を拾う。


 静かな場所だからわかる事であり、緑深いと小さなスターダストも混じり、結晶が形作られて落ちてくる。


 それはその一帯の水と空気が綺麗だという事なのでは、と思う。



 白猫が居なくなった事に気が付いたのはその冬。


 喧嘩の激しさを物語る、血の付いた白と、黒まだらの毛が近くの道路に一杯に広がっていた。 


 その翌朝ちらちら可愛くおちてきた細雪は初雪で、一面薄く白い情景が広がり、前日に簡単に掃かれて僅かに残った毛の上へ積もった雪は、じくじくした傷を歪にしか隠し切れてない絆創膏の様だと思った。 



   ―――――――――――



 外を出歩くと睫毛すらも凍る。


 山道のアスファルトは、凍結すると車でも通行が危ないのに、自転車では尚更。


 ブレーキは効かない。


 おなじ小学校からの持ち上がりで、わたしがずっと密かに想っていた美政(はるまさ)君も、先週その餌食になってしまった。


 文武両道というのか、勉強もスポーツも出来て、スラッと背が高くて、女の子に人気で、優しくて、その男の子との事をほかのクラスメートにひやかされる事もあったけど、結局好きですとは言えなかった。


 バスケ部のその彼は、事故の骨折で当分部活動はお休みだって、母から伝え聞いた。 


 何故母から聞いたのかっていうと、狭い地区内、大人も子どもも「ああ、〇〇さんとこの‥」で話が通るからで。


 だれに告白したとか、誰と誰が好きあっててとか、割と大人達には筒抜けなのだ。


 そんな恥ずかしいことになるんなら、言わない方がまし。


 事故の後には彼女が居るという噂も学年中に回って、彼を諦めるきっかけになった。



    ――――――――――――



 真白猫は死んじゃったのか、けんかに負けて縄張りを別の所に移したのか。


 気になってもあまり変わりなく過ぎる三学期は、予想外にダッシュで春に向かって逃げていったんだと、コートを脱いで登校出来る時になってから感じることができた。


 トラ猫も寒いからか、中学校の渡り廊下にその姿は見かけない。 


‥‥‥

 「どうも、おじゃまします。」

 「はーい、どうぞ。」



 母とこの家へ上がらせてもらったのは、引き取られた猫の様子を見たかったのもあるし、絵というもので生活している人に興味が出たということもあった。


 今回同行したのは、私たち親子とあと二人。



 「おじゃまします。」



 母親である女性に頭を押さえられて弱々しくお辞儀したのは、件の仔猫事件の、市街地から越してきていたという男の子。


 居間で奥さんにお茶とオレンジジュースでもてなしていただいた時、ドアの隙間からジュースに興味をもって駆けよってきた一匹の猫がいた。



    ―――――――――――



 「これっいけないよ、クルミ?」



と、奥さんは一言猫に対して人差し指を柔らかく立て、クルミと呼ばれた猫はガラスのローテーブルにかけていた前足を下ろした。



 「すごーい‥‥。」

 「このクルミがね、今回預かった猫ですよ。」



 へえー、と感嘆の声を上げる親たち。


 ちらっと、右隣に座る少年の様子を伺ってみたが、長い睫毛から覗く大きな黒目はいったい何を思っているのか、わたしには感じ取れなかった。



 「まさと、猫ちゃんに何か言うことは?」

 「‥‥‥‥ごめんなさい‥」



 少年の家は転勤家庭。


 ちょうど核家族化ということばがテレビや社会の教科書にも躍っていた時。


 一人っ子のこの少年が物心ついた頃から側にあったのはテレビゲーム。



 「こっちに引っ越してから、やっとゲームから離れてくれると思ってたんですが、、」



   ―――――――――――



 引っ越して小学校に上がり、男の子の友達ができて、猫事件を起こすまでは、自然に囲まれての所謂田舎生活を楽しみ、朗らかな明るさも少年から垣間見られていた。



「あのあと、主人が一方的に怒鳴ってしまってから、学校から一人で帰って、また部屋でゲームばかりするようになってしまって。」



 少年は何か手癖をするでもなく、猫を見もせず、ひたすらガラステーブルを見つめている。



「ああ、こんにちは、どうもよくいらっしゃいました。」



 中年男性の声に、わたしが少年から目を外し、客間の入り口を見上げた時には、お坊さんの様な禿頭の男性が分厚い黒渕眼鏡をして軽いお辞儀をしながら後ろ手でドアを閉めた所だった。




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